王書   作:につけ丸

3 / 102
003:あいつとの出会い

 唐突に意識が覚醒した。と同時に身体の感覚が蘇ってきた。

 そこで初めて自分が仰向けの状態になっている事に気付いた。次いで、最初に目に入ったのは、太陽。水平線に沈んでいく、赤い夕陽だった。

 

 ここ……何処だ……? 記憶がひどく曖昧だ。

 過去の記憶が思い出せない……何故か船に乗っていて、空を眺めていた気がする。その後がまるでノイズが掛かったように不透明だ。

 そのままボーッと記憶を辿ってたどって、やっと思い出した。

 そうか、海に投げだされたのか……。あれは死んだと思った。出来る事はしたつもりだった、あとは運次第。こればっかりはどうしようもなかった。

 

 もう一度夕陽を見る。

 祐一はそれをどこか他人事のように楽しめた。これほど美しいものがあるだろうか? 空も海も大地も染め上げてしまうほどの力強さ、色彩の鮮烈さ。いつもそこにあったはずの景色だったというのに、間違いなく生まれて初めて見る迫力だった。

 

 しかしその鮮烈さが、祐一に一つの確信を与えた。

 

 ……ああ。死んだのか、俺。

 だからこそ、たかが夕陽をあんなにも美しく思えたのだろう。ではここは天国か? 地獄がこんなにも美しいはずはあるまい。

 それに気分も良い。死後の苦痛もなければ鬼もいない。このあんまり快適とは言い難い砂の上なんかに寝かされていなければもっと良かったのに。天国なんだからベッドくらいあっても贅沢じゃないだろう? 可能であればクレームをつけたい。

 そこでふと気づいた。

 

 ん? ……砂? 

 天国に砂? 一つ違和感に気づけば次から次へとおかしさがこみ上げてきた。

 そしてそれを待っていたかのように、頭部から始まり全身に激痛が駆け回った。

 

「俺、死んでねーじゃん!」

 

 死後、激痛を天国まで持ち込めるなんてそんな道理があるわけない。くそったれ! とにかくこの激痛は現実で、天国じゃないとしたら──

 

「おお。気付いたか、少年よ」

 

 声がした。

 痛みが覚醒をうながし、痛みにうめいて悶え苦しみながらも祐一の頭は回転を始めた。

 

「ふふ、先刻まで半死半生であったが。壮健そうでなによりじゃ!」

 

 激痛でうめいているのに壮健もなにもないだろ! ツッコミたかったが余力はなかった。

 しかしその透き通るような声に……決して大きくない声量だというのに、痛みに悶える祐一にもはっきりと聞こえる不思議な響きだった。

 声のした方を向くと、さっき目にした夕陽が燃え移ったかのような輝きがあった。焚き火だ。

 

 その火を挟んだ向こう側に座る声の主は、祐一と同年代とおぼしき少年だった。

 

 背丈も面立ちも祐一と同じくらい。ただ不自然なまでの落ち着きと、超然とした雰囲気を感じて、遠近感が狂うような錯覚に祐一は陥った。

 初めは同年代だと思ったが……こいつ本当は何歳なんだ? 

 そもそも着ている者もまるで修行僧のように使い古された襤褸で、まるで宗教指導者のようだ。だというのに貧しさも苦しさも感じさせない涼やかな顔立ちのギャップが神聖さをかもしだす。

 そして何よりその造形はまるで作り物めいていた。男なのか女なのかすらはっきりしない───性別を超えた美しさ。傷一つつかない肌とビロードのような黒い髪。

 それに比べて自分の有様たるや……思わず自虐的になってしまうほど、一言で言えば少年は美しかった。

 

 揺らめく炎を挟んで少年と目があう。ふっと笑う。美しすぎる造形を、まるで線を引いたように『綺麗』に笑うその仕草───御仏が浮かべるようなアルカイックスマイルに視線が凍る。

 

 祐一は自分に前置きした。これは劣等感じゃない、完全な違和感だ。人間がこんなに美しいはずがない。人をこんなに不安にさせる美しさなんてあるものか。

 人を狂気にいざなうほどの美しさ……。

 砂の上に横たわり、痛みにうめく滑稽な状況のまま祐一は確信する。

 

 ───この少年の姿を、終生忘れることはない、と。

 

「えと……。あー、君が俺を助けてくれたのか?」

 

 少年の人間味のない美貌に気圧されながらも、命の恩人かも知れないからと勇気を出して問い掛けてみる。

 少年は笑みを深め、鷹揚に頷き、

 

「うむ。海の上を漂流していたおぬしを拾った、と言う意味ならば、間違いは無いはずじゃ。……じゃがおぬしの巻き込まれた"災い"を引き起こしたのは我と我が半身が出会ってしまったが為。故に、我は罪滅ぼしをしただけじゃ……感謝する事もあるまいよ」

「罪滅ぼし? うーん……よく分からんけど、君が助けてくれたんだろ? なら、感謝するのは当たり前だ。だからありがとな! 助かったぜ!」

「ふふ、気持ちのいい奴じゃ。しかし先程も申したが、礼をされる事はしておらぬ。気にせずとも良い」

「? そっか。よく分からんけど。……なあ、君はこの土地の人だよな。あっ、でも日本語喋れるって事は違うのか? それとも、日本に居た事あったり?」

 

 船が転覆した瞬間、死を確信していた。だからだろう、九死に一生を得た事実にハイになっていた。そうして気付けば、不躾にも思った事を矢継ぎ早に質問してしまっていた。

 しまった、と言う顔をした祐一だったが、それでも少年の鷹揚な笑みは崩れなかった。

 

「はは、忙しないやつじゃのうおぬし。期待を裏切るようで心苦しいが、我はこの地の民では無い。いまの我は流浪の旅人よ」

「そうなのか……あ! じゃあさ、旅してるならここが何処かって、知ってるか? 俺、ここがどこか、全然検討もつかないんだよ。知ってたら教えてくれないか?」

「この地の名前か? すまぬが、いまこの土地が人の世で何と呼ばれているかは、我も知らぬ。……しかし、我が知っておる時代ではペルシア、と呼ばれていたはずじゃ」

「ペルシア……? って何処だ? なんか聞いた事あるけど、そんな国世界地図には載ってなかったぞ……ムムム……ま、いっか! どこに居ても外国なのは変わらんし。わはは」

 

 難題が降り掛かってきた時は、お得意の開き直りで乗り越えるのが祐一の流儀であった。

 和やかな会話はとんとんと弾んでいき、彼らの表情も同時にほぐれていった。それを表すように微笑む少年に向けて、祐一は満面の笑みを向けていた。

 いつの間にか、そこには最初にあった少年への一握りの恐怖と緊張感はどこにもなかった。

 

 良いやつじゃんコイツ。命の恩人みたいだし警戒してたのが馬鹿みたいだぜ……あ! そこで祐一は一番大事な事をやっていなかったと思い至り、少年に話し掛けた。

 

「そう言えばさ、自己紹介がまだだったよな! 俺は木下祐一! ちょっと漂流してこんなとこに居るけど、14歳の日本人さ! 君の名前は? 君も日本語話せるんだし、日本にいた事あんのか?」

「ふむ。我がこの言葉を覚えた時期か……ふふ、はるか遠い昔の事であった気がするが……うむ、覚えておらぬ。我が名前も……やはり覚えておらぬな」

「えっ……? 覚えて無いって、それ大丈夫なのかよ!? 記憶喪失だろそれ! じゃあ、家……どこに住んでたとか手掛かりは無いのか!?」

 

 軽い気持ちでニコニコ笑いながら訊いた祐一だったが、突然飛び出した少年の答えにあんぐり口を開き、すぐさま手掛かりはないのかよ!? と聞き返す。

 そんな祐一に、少年は頬笑みながら、

 

「我の棲家、我の生地か。うむ……やはり覚えておらぬな。ここより東の地じゃったような気もするが……まあ、気にする事は無い。我が使命と最も重要な事実を知っている故な……。それを識っておれば、特に困る事も無いのじゃ」

「困る事も無いのじゃ……って、ふつう困るだろ! 名前も分かんないんだぞ。大問題だ!」

 

 何でもない様に語る少年に、祐一は盛大にツッコミを入れる。この眼の前の恩人は何処かズレてる。自分の事は棚に上げ祐一はそう確信した。

 

「ははは。なかなか良き性根を持った少年じゃの。初めて会った者でも、それほど慮れるのは良き事じゃ。その美徳は大事にせよ。おぬしの何よりの財産となろう」

 

 未だに眉根を寄せ、ジト目で見る祐一の視線を、少年は飄々とした態度で受け流し、

 

「ふふ、こちらを案じてくれるのは面映い事じゃが、本当に気にせずとも良い。先程も申したが我は困っておらぬ。それに背負う物も無いからの、この気楽な旅もなかなかに気に入っておる」

「うーん……そこまで言うならいいけどさ……。じゃあさ、使命とか重要な事って言ってたじゃないか。あれってなんなんだ? それさえわかってれば大丈夫って言ってたけど……君の記憶を取り戻す手掛りになるのか?」

「ふむ。当たらずとも遠からずと言う所かの? 我が使命は言えぬが、使命を果たす事となれば自ずと、我が名、我が生地もまた思い出すであろうな」

「そうなのか? ふぅん……。じゃあ、君はその使命を果たす為に旅をしているのか。……うん? それじゃあ君も"自分探しの旅"をしてるって事になるのか?」

 

 祐一は少年の話から、自分と同じ目的の旅をしているのでは? と、推測した。

 その言葉を聞いた少年は何がおかしいのか"堪らず"と言った風に呵々大笑し、大きく頷いた。

 

「ははは! 確かに少年、おぬしの言う通りじゃ。自分探しの旅! なるほど、言い得て妙じゃのう。我は今、自分探しの旅に出ておる!」

「ははっ、なら俺と一緒だな!」

 

 祐一はそこで素晴らしい名案を思いついたとばかりに膝を売って、

 

「なっ、良かったらさ! その使命ってやつ、俺にも手伝わせてくれよ。その使命が人に言えないくらい、君にとって重要な事なのは分かるけどさ、俺は君に助けられたんだ。なにか恩を返したいんだよ。ダメかな?」

「何と。我が旅に同道したいと申すか。律儀なやつじゃのう。じゃが……同時に無鉄砲でもある。ふむ、しかし、その純粋さは好ましくもある……」

 

 少年は己のおとがいに手を当てて、何か思案しているようだった。祐一は、断られたらどうしよっかなぁ……と考えながら、少年の審判を待った。正直先行き不透明も良いところだ。恩も返したいが、いざ異国で一人旅となると不安がいっぱいだったのだ。さっき出会ったばっかりのちょっと変なところはあるけれど、旅慣れた知り合いがいてくれるなら心強かった。

 思考が中断された。少年がおもむろに祐一へその類稀な美貌を向けたのだ。翡翠を思わせる翠玉の瞳で、まじまじと祐一を見据えて、

 

「ふむ……こうして良く見ると、見事な戦士の相を持っておるの……。それに我に"救われる運"もあるか」

 

 少年の顔がズイと近づき、その怖いほど整った顔が祐一の眼の前に現れた。恐ろしいほど整った容姿。彫りが深く、涼し気な目。

 人間味はないがなんとなく人種としては、アーリア人が一番近いだろう。そんな事を考える余裕もなく、祐一は少し赤面しつつ慌てて距離を取った。

 

「なっ、なんだよ?」

 

 朱に染まった顔を隠すように手で覆い、視線を揺らしならが問いかける。そんな祐一に少年はニヤリと意地の悪い、いたずらっ子の笑みと同種の表情を浮かべ、

 

「いやなに、おぬしが我の道連れに相応しいか、見極めていただけの事。ふふ……他意は無いぞ?」

 

 絶対、嘘だ。祐一は確信した。

 ちょっと不貞腐れながら、コイツこんな顔も出来たんだなと、最初の印象を覆しながら思った。

 

「で、どうだった? 俺は君の道行きについて行く事に合格できたかな?」

 

 ぶっきらぼうに訊く祐一の言葉に、少年は今度は一転して神妙な表情を作り、

 

「うむ。常であれば、試練の一つや二つ、くぐり抜けてこそ、我が道連れとなる栄誉を与えるはずであるが……おぬしは、どうやらそこそこの修羅場を生き抜いたようじゃ、それに我への恩返しをしたいとも言う。それを無下に返す、というのも我の好む振る舞いでは無い故な」

 

 そこで少年はまた、にやりと笑う。今度はからりとした透明な笑み。

 

「ふふ、何より気に入った! 我とおぬし、出会って数刻と経っておらぬが、中々に楽しい一時を過ごせた。そのおぬしと、この流浪の旅を同道するのも一興よ。我が一時の休息に、また変わった彩りを与えてくれそうじゃ」

「───よっしゃあ! じゃあ、一緒に旅して良いって事だな! ……ヘヘっ! 俺だって君と居るのが楽しい。日本……故郷からここまで来たけど、こんなに話したりしたのは久しぶりだ。今までの旅の中で一番楽しい! そう思う。君と旅をできるのが楽しみでしょうがないや!」

 

 笑い合う二人。ついさっき出会った二人。しかし、その様子は、永く友情を育み過ごした友人のようであった。馬が合うのだ、なんとなく。

 

 だが祐一はそこで一旦言葉を止め、一転して沈んだ口調で少年に問いかけた。

 

「なあ、俺が漂流した前の……俺が乗ってた船の事何だけど……。俺以外に、助かったやつは居なかったのか?」

 

 それは、祐一の意識が覚醒してからすぐに思い至った事ではあったが、答えを知る事が怖くて、今まで中々言い出せなかった事だった。

 短い間だったが、同じ船の上で笑い合っていた人々事を思い出す。

 迷惑も掛けてしまったが、楽しい一時だった、と。

 そして同時に思い出す───暴風によって煽られ、独楽の様に回っていた豪華客船の姿も。

 

「……うむ。我が気付いた時。その時には、おぬししかおらなんだ。おぬしが乗っていたであろう船の破片は散らばっておったが、人は……見つける事叶わなかった」

「そっか。そうだよな……」

 

 空を見上げた。

 何も遮るもののない荒野の空。

 ゆらゆらと揺れる炎が、夜空へ向けて長い手を伸ばしている。薪が燃えて、灰塵が火に照らされ星空に昇って行くのが見えた。

 

 正直な所、祐一には人の”死”と言うものをどう捉えれば良いか分からなかった。これまでの人生の中で”死”と言うものに触れた事が、あまり無い様にも思える。

 そもそも祐一の周りで、亡くなった人など、これまで皆無だった。

 

 だから、分からなかった。

 出会って、話して、笑い合った人達が死んだ、なんて言われても、受け止めきれなかったのだ。

 祐一はまだ14歳で、未熟な少年だった。

 

「小僧。おぬしは馬鹿じゃのう」

「えっ……? なんだよ、突然……」

「大方、己がそこに居れば何か変わったのではないかと、考えていたのであろう? ふん。人間のような矮小な身で在りながら"救えたかも知れない"などと傲慢な考えを持つものでは無い。それに、おぬしの様な只人に、何が出来たと言うのじゃ?」

「なんだよ、それ。確かに、そうだけどさ……」

「小僧。そのような傲慢な考えを持って良いのは、不死にして神聖なる存在か、鋼の英雄に連なる者達のみじゃ。……何より、過ぎてしまった事を未練がましく悩むでない。おぬしにそのような事は、似合わぬわ」

「うっ、似合わないって……」

「まあ、逝った者達も、今ごろハラー山を目指しておるじゃろう。そして、いずれチンワトの橋にて審判が下る。それは最も神聖にして、物質世界の創造者である尊き存在が定めた法則じゃ。人の生き死も、我が勝利する事も、因果の王が定めた法則じゃ。それをおぬしが横から口を出すなど分不相応にも程があるじゃろう」

「よく分からんけど……、俺じゃ役者不足ってこと?」

「……まあ、身の程を知れと言う事じゃ。死者を偲ぶなとは言わぬが、それに囚われ過ぎても、おぬし自身の心を曇らせるだけじゃ」

「……うん。……ありがとな」

 

 少年の言葉は、祐一にはあまり理解出来なかった。だが、祐一はこの少年が自分を慮ってくれている、と言う事は容易に理解できた。

 昨日まで話して笑っていた人々が不幸な目にあった事に、そして自分だけ助かってしまった事に罪悪感を感じていた祐一だったが、この超然とした、しかし素晴らしい少年のお陰で少しは前を向けそうだ。そう思えた。

 

 だからこそ、こんな事を口走ってしまったのかも知れない。

 

「なあ、君は名前がないんだろう? ならさ、名前、決めないか? 俺たち二人、旅に出るんだ。このまま”君”って言い続けるのもおかしい気がするし……」

「我の名を……? また突然じゃのう。我は名が無くとも気にはせぬが……。おぬしが困ると言うのならそれも良いか。ふふ、まったく……只人相手にここまで我が面倒を見ねばならぬとは、仕様のない小僧じゃ! しかしそれも良かろう。ふむ、我が名か……そうじゃのう……」

 

 祐一を見ながら、ちょっと呆れたようにやれやれと、少年は零した。そして少年は、祐一を旅に連れて行こうか悩む時の様に、おとがいに手を当てて己の名を考え始めた。

 そうして、あまり間を置かずに少年は口を開いた。

 

「──()()()()()()

 

 少年は、静かに言葉を紡いだ。その言葉には不思議な力が籠もっているような、そんな錯覚を祐一は覚えた。

 

「パルヴェーズ。うむ、我が名はこれより”パルヴェーズ”と名乗ろう。小僧、我がわざわざおぬしの為に名前を誂えたのじゃ。この様な珍事、我が永い半生の中でもあり得なかった事じゃぞ? しかと、胸に刻むと良い」

「はは。なんだよそれ。……パルヴェーズ。パルヴェーズか……」

 

 祐一は今聞いた友の名を、忘れないように、慣らすように、口の中で転がした。よしっ、と祐一は一つ心を切り替え、少年……パルヴェーズへ向き直ると、

 

「改めて、よろしくな! パルヴェーズ! 君との旅がどんな旅になるかは、まだ分かんないけど、絶対楽しい旅になる! 断言するね!」

 

 祐一の言葉を受け、微笑むパルヴェーズ。

 そして、彼もまた、旅の相棒となる祐一へ言葉を返す。

 

「ふふ、我が行く末は未だ見えぬが、これまでの旅よりも賑やかになりそうじゃ。せいぜい、我が道連れにしたこと、後悔させてくれるなよ?」

「おう! 任せとけ!」

 

 祐一とパルヴェーズは手を差し出し、これからの相棒となる者と握手を交わした。

 

 と、そこで、

 

「あ、あれ……?」

 

 全身の活力を失ったかのように、祐一は倒れ、少年に凭れ掛かってしまった。

 身体に全く力が入らない。

 

「な、なんで?」

「まあ、漂流してすぐに助けられたとは言え、身体を休める事もなく居れば、疲労で倒れるのも当然じゃの。我もつい楽しくて失念しておった。すまぬな……」

 

 祐一は薄れゆく意識のなか、パルヴェーズが優しげな目を向け、癖っ毛の髪を撫でてくれているのを感じていた。

 

「今は休むが良い。火の番は我が務めよう。明日また語り合える事を楽しみにしておるぞ小僧」

 

 意識を閉じる最後、そんな声が聞こえた気がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告