王書   作:につけ丸

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039:リラの瞳の女王

 ───ンモオオォォォォォォォォ!!! 

 ───らめええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! 

 ───美味ししゅぎるのおおぉぉ!!! 

 

 今彼らはやっとの思いで辿り着いた、文明の薫り漂う王国にて饗された美食に舌鼓を打っていた。

 仕立ての良い毛皮の上で車座に座り込み、飲み食いを繰り返す祐一達。

 メインは豚肉を大鍋で煮たもので香ばしい香りが漂い、疲れ切った祐一の空腹をこの上なく刺激した。

 その他にも麦のポリッジ、川魚のバター焼き、とろけたチーズの乗る白いパン、豆を使ったポタージュ、彩りのあるサラダ、リンゴ酒……等などまるで祭りで催される宴会にしかお目にかかれない豪勢な料理が並んでいる。

 それを無遠慮に貪り食う祐一達の、何と下品で風情を介さない事か。

 しかし一日も経っていないとは言え、いつ何時死ぬか判らない……それも出口の見えない袋小路に閉じ込められていたのだ。彼らが鯨飲馬食してしまうのも無理からぬ事なのかも知れなかった。

 

 ここは女王ニニアンが統べる──”王国”。

 

 アストラル界とも呼ばれる異界に迷い込み、やっとの思いで辿り着いた場所だった。

 

 ○◎●

 

 祐一達はヤマトタケルに案内され、地下より這い出てきた城壁をくぐり抜け、人々の喧騒が響く町へ入った。中は驚くい事に多くの"人々"でごった返していた。

 

「うおお……!」

「これは、驚いたねぇ……」

 

 まさかこんな魔境に人々が生活して居るとは思っていなかった祐一たちは感嘆の声を漏らした。

 

 目に入る誰も彼も現代では奇抜なスタイルだ。

 色とりどりのチュニックの様な上着に、その上に外套を着込み身なりの良い者もいる。下はゆったりとしたズボンを履き、くるぶし辺りで動きやすい様に紐で結っている。住民の殆どが金髪か赤毛などの明るい髪でみつあみにしたり装飾品を付けたりと思い思いの個性が現れている。

 誰もが引き締まった躰と荒々しい気配を隠そうとしない者ばかりで、蛮族と言っても過言ではないほど逞しく抜き身の刃の様な荒々しい雰囲気だ。

 それが商人や子供と言っても良い少年にまで及んでいるのだから、とんでも無い。

 誰もが右側の腰部にはベルトに吊り下げられた剣がありその気になれば今からでも戦が出来るほど。

 

 城壁をくぐる程、身なりの良い者達は増えて建物も大きく精緻になっていった。最初は日本にもある様な茅葺屋根の竪穴式住居に似た物が、漆喰が施され堂々とした威風の物に変遷して行った。

 まるで古代ヨーロッパの街並みじゃないか……! 寿は数年前に見た西洋の資料を思い起こし、ラグナを抱えながら好奇心に目を輝かせ歩く祐一。目に見える物全てが新鮮で仕方がなく立ち止まってはヤマトタケルや寿に、「これなに?」と尋ねては足を止めていた。

 

 

「おや、フェルグス様。王国で並ぶ者なしの英雄殿がこのようなあばら家へようこそ。此度はどのようなご用向で?」

 

 いくつかの城壁をくぐり抜けとある屋敷に辿り着いた。

 屋敷の主であろう人物は祐一達の来訪に気付き、こちらが声を掛けるより早く扉を開け、歩を進めていたヤマトタケルに声を掛けた。

 

 驚いた事に彼が話す言語は日本語であった。

 長い金髪を三編みに纏め背中に流した爽やかな青年だ。二十代後半の若々しくも渋みとが入り混じり、まさに脂の乗り始めた頃と言う風情だ。背丈は祐一より少し高いくらいか。

 だが寿の様に縦にも横にも長い身体では無く、ガッチリとした鍛え上げられた肉体だ。

 手は何か剣や槍の厳しい修練を続けているのか、遠目でも分かるほど変化し大きなタコが見え、手の皮が何度も破けては治りを繰り返し分厚い作りになっているのが良く見えた。

 

「エイル、貴方までフェルグスと呼ばないでください」

「これは失礼しました。どうしても嘗ての貴方の勇姿が目に焼き付いてしまって……ご不快であれば改めましょう」

「はぁ。お好きになさい……。呼び方一つで目くじらを立てるほど私は狭量ではないので」

 

 そうため息を吐き、ヤマトタケルは祐一達を見遣って再び口を開いた。

 

「こちらは先日行われた"予言の儀"の際にニニアン殿が訪れるであろう、と仰っていた旅の皆さんです」

「おっす、オラ祐一! よろしくな!」

「あ、どうもお初にお目にかかります、寿です」

 ──ルオ。

 

 元気のいい来客に金髪の青年は笑みを浮かべた。

 

「おお、彼らがそうなのですね。ニニアン様より一時の間、歓待をせよとお話は伺っております。粗食ではありますが我が妻が腕に縒りを掛け夕餉を作り終えた所です。どうぞ召し上がって下さい。ふふ、妻の料理が無駄にならずに済みました。フェルグス様も御一緒にどうでしょう?」

「ああ、すみませんエイル。申し訳ないのですが、私はこれより彼らについてニニアン殿よりお言葉を頂いて来ますので、心苦しいのですが辞退させて頂きます」

「おや、そうなのですか? 残念……ですね。ふむ……ですが、お言葉を頂いた後であれば構わないのでしょう? フェルグス様の為ならば喜んで饗させて頂きますよ」

「ありがとうございます、エイル。その時を楽しみにしていますよ。では、みなさん一時の間離れますが、私の事は気にせず楽しんで下さいね」

 

 そう言うと、ヤマトタケルの身体に紫電が迸り気付いた時にはもう影も形もなかった。閃電神速の領域へ至ったのだ。

 それを見て祐一は少し感心してしまった。彼がこんな戦いではない日常の一コマで権能を使うとは思ってもみなかったのだ。

 

 そもそも権能とは死力を尽くして戦い、友誼を交え託された物だと言う思いが強かった。故に権能は戦いに助力してくれる同盟者や窮地を脱する共に合力する戦友と言う見方が強かったのだ。

 ヤマトタケルがやった様に戦いでも無ければ窮地に陥った訳でも無い状況で権能を振るう、と言う意識がなかった。

 だからだろう、そんな事をしたヤマトタケルに呆れや拒絶より先に、「そんな手もあったのか!」と感心が勝ってしまった。

 よし、今度は俺も使ってみるか! 

 そう決意する祐一だったが、権能が戦いやある程度の緊張下でなければ行使出来ない事をまだ知らない。

 

「祐一くん、何やってるんだい? もうみんな中に入っちゃってるよ?」

「え! ちょ、ちょっと待ってくれよ!」

 

 寿に声を掛けられ思考に没頭していた祐一は、慌てて家の中に入っていった。

 

 ○◎●

 

 

 薄暗い空間に、かつん。かつん。と石畳の道を一つの足音が響く。

 この空間を照らす光は、蝋に焚かれたゆらゆら揺れる篝火以外に何一つない。だが、燃える篝火はいくつも並び等間隔で足音を奏でる者の影を十重二十重に映し出していた。影の人物は、線の細いそれでいて背丈の高い青年……ヤマトタケルであった。

 ここは王国の中心部のそのまた中心。王国の中心地にして、王国の女主人ニニアンが住まう王城であった。

 そしてヤマトタケルが向かっている場所こそ───謁見の間。王国の主たる者に拝謁が叶う唯一の場所であった。 

 篝火に照らされた薄暗い空間には、あらゆる土地から献上された金銀宝石刀剣武具、思わず目移りしてしまう翼ある馬、人頭、網代模様など施された素晴らしい調度品の数々。妖しげな空間に似合わない贅を凝らした金銀財宝が所狭しと並んでいた。

 

 奥には黄金に輝く玉座があり、その傍には影法師じみた老人が侍っている。老人は口を固く引き結び、寡黙さと謹厳さとをこれでもか、と言葉もなく示していた。

 

 そして最奥には黄金に輝く玉座に座る者がいた。

 おそらくあれがニニアン。その女性は王国を統べる者に相応しい威厳と風格を持っていた。だが常人が拝謁する誉れが叶えば、ニニアンと言う女性の妖しい気配に呑まれ目を逸しただろう。

 確かにこの女性は一目見れば凛とした非の打ち所がない見てくれに見惚れる事請け負いだ。

 紗々の如く流れる栗色の豪奢な髪は肩まで届き、男を狂わす艶かしい薫りを漂わせ、そのかんばせも紫紺の双眸と相まって怜悧な美貌を際立たせていた。

 その肢体は豹の様にしなやかで引き締まり隙が無い。だと言うのにゆったりとした豪奢な衣の上からでも見透せる形の良い美乳と程良くしっとりと肉の乗った腰のくびれ。玉座に座りながらも分かる……いや、より一層強調された、成熟しどの様な巨漢のソレであっても受け入れるであろう張りのある臀部。

 彼女が胸に縋り付きその肉厚の唇から甘やかな睦言を紡げば、いかなる禁欲的な男であっても情欲に呑まれ貪り食おうとするに違いない。

 だが顔以外の素肌は分厚い衣を身に纏い、見透かす事は出来ない。首には黄金の首環が、手には一切の肌を晒さない白い手袋とが肌を隠し彼女の聖性と禁欲さを表していた。

 

 玉座の前まで歩み寄ったヤマトタケルが片膝をつき、恭しく挨拶の言葉を述べる。

 

「先刻ぶりでは御座いますが、この度は再び拝謁の栄に浴し──」

「フェルグス、私を誂うのは辞めなさい。貴方と私の間にその様な礼は不要、と以前より申しているはずです」

 

 ピシャリとヤマトタケルの言葉を遮った王国の主。未だに頭を下げ自分の言葉にどこ吹く風で恭しい態度を続ける戦士を胡乱な視線で見遣った。

 

「それよりも異邦より現れた者達の事です。貴方が己の言葉を違えてまで干戈を交え、よくよく見極めたのですから、かの若き"神殺し"の気性は見抜いたも同然なのでしょう?」

 

 彼女の言葉にヤマトタケルは慇懃な態度を引っ込め、顔を上げは爽やかに微笑んだ。

 

「はは。貴方はいつも私の稚気を切り捨てなさる。事を急ぎ遊びがない物は、中々上手く行かないと相場が決まっていすよ?」

「フェルグス、私は貴方の打ち立てた偉業を讃え感謝もしますが、戯言に付き合う気は毛頭ありません。私が望むのは、我が愛しき戦士の復活のみ。それを最も近い道で脇目も振らず事を為す事こそ、綿々と受け継いできた我らが使命。それ以外に受け入れる物など一切有りはしません」

「つれない事を申しますな、『神祖』ニニアン殿」

 

 ───『神祖』

 今しがたヤマトタケルが言い放った言葉は、ニニアンと名乗る女性の正体を端的に表していた。

『神祖』とは嘗ては権勢を誇った地母神の成れの果てであり、神の座から追われた女神の落魄した姿であった。

 元々死と再生を司る地母神は不滅の存在であり、神としての死を迎えたとしても神祖と言う器を得て復活を遂げる例があるのだ。

 強大な地母神を貶め神祖に身を窶す方法は限られているが、無い訳ではない。「最強の鋼」の呼び声高い、かの英雄神に力を吸い取られる、不朽不滅の神具……その創造と引き換えに不死の命を捧げる等のケースがある。

 神祖は不死ではないが不滅である為、なに某かの理由で死に至ったとしても時が流れれば何れ転生し復活する定めであった。

 しかし如何に人知を超えた知恵と魔術を手繰る神祖とは言え、神よりもはるかに下位の存在である。その為、神々には……特に征服者であある『鋼』の神格には服従の意を示し恭しい態度で臨むものだが、ニニアンと言う神祖はその限りでは無い様だった。

 

 ニニアンの紫の双眸がヤマトタケルを捉え眇められた。彼はその糾弾する様な瞳に苦笑を漏らす。

 彼彼女が並んで立てば、好一対の男女であると誰もが柏手を打って褒め称えるだろう。しかし彼らの間にそんな艶めいた雰囲気は欠片もない。

 軽口で嘲弄しようとする悪戯っ子に生真面目な教師が糾そうとする風ですらあった。まあいつもの光景であるのだが。

 

「それでフェルグス。あの忌まわしい"神殺し"は、我が王国の歯車と成り、利を齎す者足り得る者なのですか?」

「ふふ、その問いの答えは彼を王国へ招き入れ、私が貴方の前に立った事で示したと思っていたのですが?」

 

 何処か悪戯っぽい表情でニニアンの質問にヤマトタケルは答えた。ニニアンはそんな事は判っている、と言う風に頷き、

 

「ええ、そうでしょうとも。ですが、私は信じられない。如何に貴方があの"神殺し"を肯定しようと、騒乱と災いを呼び込む悪鬼羅刹の如き存在が、世界に寄り添い秩序を齎す我らの側に立つとは到底思えないのです」

「そうですね。彼は若く未だ純な心根を持っている。故に、我らの真実を知れば頑なに頷く事はなく、必ずや我々を敵視するでしょう。そして貴方の言う通り、騒乱の申し子たる彼は、己が望もうと望むまいと手を下そうと下すまいと、必ず嵐を呼び込み森羅万象は灰燼と化すでしょう」

「……フェルグス、ではなぜ彼を招き入れたのです? そこまで分かっていながら、それも我らにとって一刻が金にも等しいこの時期に"神殺し"と言う不和の種を呼び込むなど、やはり軽挙にも程があったのではないですか?」

「判っていますよニニアン殿。しかしそれは"何も手を施さなければ"と言う注釈が付きます。今ならまだ間に合います。彼は"神殺し"となり日が浅く不安定だ、そして未だ未熟な若人です。何物にでも染まりましょう。故に我らの手で道を示し、道を外れかけた彼を正道へと導くのです」

 

 ヤマトタケルは激情を孕みつつも曇りもない瞳で、淀みなくニニアンの詰問に答えた。しかしニニアンも気圧されることなく、冷たい言葉を返す。

 

「そう簡単に事が成ると? 愚かな。世の理を知り尽くした永生のフェルグスとあろう者の言葉とは思えませんね。確かにあの若き"神殺し"は、己が進む道も、己が何者かすらも気付いていない未熟者。しかしそれでも、類稀な意志を持って、神を殺し因果の王に逆らうと言う偉業を為した勝者にして災厄そのもの、と言う事に変わりはありません。そう上手く事が運ぶとは思えませんね」

「ええ、ええ、判っておりますとも。私もそう簡単に事が進むとは思っておりません。私も彼一人ならば、そうそうに諦めその首を撥ねたでしょう。……そう、彼のみであれば」

「あの"神殺し"のみ、ですか?」

「ええ、木下祐一と言う少年だけであれば、こちらに降り轡を並べる事は、人が夜空の星を掴むかの如く不可能な事でしょう。それは我らの決闘を遠視していた貴方も知るところでしょうが」

「ええ、かの"神殺し"は若さ故に融通が利かないきらいがあります。意志が強いと言えば聞こえは良いですが、あれでは失う物も多いでしょう」

「ふふ。故に私はおもしろい、と感ずるのですよ。王国と言う懐に入れてでも見る価値があると思えるほど、彼の行く末を見たくもある……」

 

 そこでニニアンは、目を眇め柳眉を逆立てて、低い声でヤマトタケルへ詰問した。

 

「……フェルグス。では貴方は、私情で我が王国を滅ぼす種を招き入れた、と?」

「ええ、まあ。しかしご安心を。彼が災いを振り撒くのであれば、我が比類無き武勇を持って、尽くを跳ね返し彼の命脈を断って御覧に入れましょう。我が言、信じるに値しませぬかな?」

「……良いでしょう。貴方が王国を救った事は事実。私はその功績を信じ貴方の行いに目を瞑るとしましょう。

 ですが、此度の"神殺し"来訪の儀は我ら王国の興亡にも関わる大事。判断を見誤り事を仕損じれば、慨嘆に暮れるのは私や貴方だけではないのですよ。その事、ゆめゆめ忘れてはなりません」

 

 フッと笑い、我が意を得たりと胸を張り頷くヤマトタケル。

 

「判っていますよ、ニニアン殿。……さて、話を戻しましょうか。若く頑迷なまでに意志の強い彼を、我らが陣営に引き込むか。その策を考えるのは中々骨の折れるものでした。なにせ私は本来『最源流の鋼』。然らばこの様な奸計は苦手でして」

「余り勿体ぶらない事ですフェルグス。私は短慮は控えるべきとは思っていますが、目に余るようであれば躊躇いなく拳と権を振るうでしょう。貴方の判断が聞き入れるに足り得ない事であればすぐに切って捨てるでしょう。故に私の裁定一つで、貴方の思惑が崩れる事を忘れてはなりません」

「ふふ……では、我が策を開陳しましょう。……と言っても簡単な物ですがね。

 今、彼の傍には仲間が居る。彼が何よりも守らねばならないと考えている臣下と、そして盟友が。私はそこに光明を見たのです」

「臣下と盟友……? ああ、あの小役人の風な男と猪の神獣ですか。私の見た所では、ただの凡夫と一つの道具です。アレらは、あの神殺しがそれほど入れ込む物なのですか?」

「ええ、彼はどうやら他の人間よりも抜きん出て愛情深い様に見えます。それも一度、懐に入れれば己の命を賭して守ろうとする程には。……おそらく貴方が、かの戦士へ向ける情念にも劣らないほどの物です」

「……その物言いは不快です。我が想いは至純にして無上、この身が何度砕け散ろうと那由多の時が流れようと不変。この想いを、あの様な不逞の輩と同じと思われるのは甚だ遺憾ですね」

「しかし、事実です。彼がどの様にして、あれほどねじ曲がった考えになったかは私の知る所ではありませんが、今この時は好都合。彼を王国の戦士団の中へ置き、住まわせ、月日が流れれば情も湧くでしょう。我々はただ待っていれば良い」

 

 滔々と語る彼の言葉に、ニニアンがムッと顔を顰め、眉間に皺がよる。

 

「待ちなさいフェルグス。あの"神殺し"が王国にそれほど長い間逗留するとは思えません。ある程度の時間が経てば、すぐさま現世に帰ろうと旅立つでしょう」

「なに。引き止める言葉などいくらでもありましょう。雑事はお任せあれ、ニニアン殿」

 

 そう自信満々に胸を張り言い放つヤマトタケル。その表情にはどうしようもない稚気が燻っていた。ニニアンはそんな彼の態度にため息をつきたい衝動を必死に抑え、王国の主として裁定を下す。

 

「……良いでしょう。些事は任せ、あの者にまつわる一切の事は貴方に一任します。

 では私はこれより招聘の儀への準備に戻ります。貴方が訪ねて来ようと応対はしない物と理解しておきなさい」

 

 ヤマトタケルがニニアンの言葉に不思議そうに顎を撫でさすり、問い掛ける。

 

「おや、彼にはお会いにならないので?」

「……如何に貴方が認めたとは言え、やはり"神殺し"。どれほど若く未熟で性根が純であろうと、彼の者が災厄を齎す恐るべき存在である事は事実であり、すぐ様追い出したいのが本心。故に、軽々にあの悪鬼羅刹の前に姿を晒す事は憚られますね。再度申し渡しますが、"神殺し"の件に関しては貴方に一任します。必要とあらばすぐ様あの首を取りなさい、よろしいですね?」

「ははは。なるほど、委細承知しました。全て貴方の御心のままに致しましょう。

 ──では私もこれにて失礼させて頂きます」

 

 その言葉を最後に、ヤマトタケルの体から紫電が迸り、一瞬で掻き消えた。

 

 

「……"神殺し"、ですか」

 

 その姿を見届け、一人呟く。その声色には隠しようもない恐れがあった。

 どれほど経っただろうか。すっくと立ち上がり歩き出したニニアン。今まで無言だった寡黙な老人が再び言葉もなく付き従う。

 

 王国を作り、王国を統べる女王ニニアン。彼女の数百年の生をささげる悲願こそ、とある《鋼》の英雄の復活である。

 そのためならば幾万の贄を捧げようと、この身を捧げようと、恐ろしい仇敵である神殺しでも懐に入れる事を厭わなかった。

 ニニアンの持つライラックの瞳には、理知的な光を宿しながらも狂い切った昏い光をも孕んでいた。

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