「ゼェ、ァあああ───ッッッ!!!」
先手はやはり祐一からだった。
獲物に攻めかかる猛禽のごとき鋭さで、一気に肉薄し鉄剣を横一文字に薙ぎ払う。祐一の体躯は対峙するヤマトタケルより頭二つ分は低い。矮躯なのはそれだけで不利を呼ぶ。だがこの時ばかりは祐一に利した。
祐一は疾風迅雷の煌めきで以って、ヤマトタケルの足部へ向けて剣を揮ったのだ。瞬きの余裕すら与えない、まさに刹那にも及ぶ電光石火の攻め。
攻めろ攻めろ攻めろ!!! 剣を揮え!
息をつかせるな! 奴の首を切り落とせ───!
胸中で狂乱の猛りをあげる。
だがヤマトタケルもさるもの。祐一の斬撃に見事に対応して魅せた。華やかな微笑を貼りつけ天狗のようにヒョイッと地面からひとっ飛びし、祐一の鉄剣を安々とかわす。
逃がすか!
剣を持ち替え、ヤマトタケルが回避した上部へ剣閃が煌めく。大気が蹂躙され、耐えきれないというようにけたたましい悲鳴が轟く。
しかしこれでも、かの英雄神は回避してみせた。まるで見えない壁があるかのように空気を蹴り、空中でぐるり一回転と躱してみせたのだ。
デタラメな! まるで鼬や貂さながらの素早さ。次いで感じたのは焦げたような異臭だった。理由はすぐに分かった。ヤマトタケルが空を蹴った時、あまりの衝撃に大気が焼き焦げたのだ。
それを横目に見ながら天高く剣を振り上げた祐一の背筋に、氷柱を入れられたような悪寒が疾走った。
そこから先は完全に直感だった。
剣を頭上で水平にかまえ守りを固める。その動作が終了したと同時に、──鉄槌は振り降ろされた。
ガキンッ! と鉄と鉄とが打ち合う甲高い音が周囲に響き、ギシギシと骨が軋みをあげる音が全身から鳴りひびく。
鉄槌? 否、そうではない。これはヤマトタケルが振り降ろしただけの剣戟より他にない。あまりの膂力と威力にそう感じているに過ぎないのだ。
そして頭上を見ればヤマトタケルが鍔迫り合う剣を境に、逆立ちしている。どんなバランス感覚だ、吐き捨てたくなる衝動を抑え、振り払おうとする。
しかし、拮抗も一瞬。
しゃらん、と鈴の音がなるような玲瓏な音が耳朶を打ち、一体全体どんな風に重心を動かしているのかまるで検討もつかない神技で、逆立ちのまま己の刀剣と祐一との刀身とを滑らせていく。
ヤマトタケルの重心の動きに釣られるように祐一の体位が崩れ、横倒しになっていく。
これが狙いか! そう気付くより先にふたたび直感に突き動かされた。全身の力をふらりと抜いて、後ろへサッと倒れ込む。
ヒュン! と、ひとつの風切り音。
鼻先を掠めるように駆け抜けていったそれは、死神の鎌なんぞよりもはるかに鋭く強力な、英雄神のつま先だった。
なんとか避け切れた。祐一はバックステップで距離を取り、つかの間の安堵を覚え、仕切り直す。
一瞬の攻防。……だと言うのに祐一の額には、鼻梁には、頬には、しとどに汗が滴りおち、肺腑からは荒い息を吐き出していた。
ハァッ……ハァッ……───フゥッ!
気合を入れ直すように、呼気の乱れを律する。
冷静さを欠くな。胸から染みでて零れ落ちそうになる憎悪に蓋をし、清廉な戦意で以って鉄剣を握る。
己とあの英雄神との間にはどれだけの差があるのか検討が付かない……そんな一抹の不安がわだかまった。
奴は、仇だ。
殺す。絶対に。
胸裏に蟠るものに言い聞かせるように心中で呟き、腰を落として、剣を下段に構える。
祐一は確かに激しい闘争心で以っては戦う戦士だ。だがそれだけでなく、たとえ宿敵であっても友とし絆を育む……そんな度量を持った戦士であった。……しかしこの時ばかりは、この対峙するヤマトタケルとの戦いだけは───違う。
許せるものかよ……!
絶対不変にしてマグマのように燃え滾る意志を胸に祐一はふたたび駆け出した。
"神殺し"としての肉体で、会得した心眼と激情剣で、英雄神に向け剣を揮う。
ヤマトタケルも変わらず柳のような微笑を顔に貼り付け、それに応えた。
下段から掬い上げるような、逆袈裟。まさに白い稲妻のごとき剣閃。
───だがヤマトタケルの余裕は崩れることはない。
己の肉体との間に黒刀を割り込ませ、ガキン! と甲高い音が響く。打ち合わされた剣が火花がまき散らし、辺りを白く照らし出す。
今度はヤマトタケルの番だった。一撃目は剣を横一文字に振る、薙ぎ払い。狙いは祐一の伸び上がった手首。
足を地面に叩きつけて踏み込み、体勢を崩すようにして後ろへ倒れ紙一重でかわす。
まだ終わらない。
ヤマトタケルはやにわに一歩踏み出し、体勢の崩れた祐一へ胴体を両断する剣を放った。
避けられねぇ。対峙する祐一には判っていた。どれだけヤマトタケルが嘲笑していようと、ただの道具を見るような目で見てこようと、そこに相対する戦士への侮りは一切ないことを。
手心も、慈悲すらなく、まるで祐一という鉄を鍛えあげるように苛烈で殺意に塗れた剣を揮ってくる。
口元を引き結び、仇敵を睨みつける。
鮮烈さと茫洋さとが同居した心眼の世界で、思いの外、凪いでいた思考はそう判断を下した。
だからこそ受けた。しかしヤマトタケルは苛烈だった。だが鉄剣で受けたはずの防御を突き抜け、黒刀が腹部を掻っ捌く───はずだった。
それは、一瞬の出来事だった。
四肢に力を込め、内息を整え、気を一気に練り上げる。
弾かれた鉄剣を翻し、伸びてきたヤマトタケルの腕に蛇がとぐろを巻くような動作でくるりと捻って絡めとる。次の瞬間、ヤマトタケルの手首は宙を舞っていた。
すっと、まるで湯豆腐を切るようにすっとたやすく鋼の肉体を切ってしまったのだ。
祐一が血肉とし、エイルが『神』をも斬れると断言した剣の妙技は、それを証明するように『神』を斬った。そう、斬ってしまったのだ!
エイル……! 万感の想いを抑えつけるように、歯をきつく食い縛る。でなければここが戦場であることも忘れ、ニヤけてしまいそうだったから。しかしその歓喜も、すぐに終わる。
「フフ……ハッハッハ!」
かの英雄神に確かな手傷を負わせた。だと言うのに……だと言うのに、ヤマトタケルは痛快そうに笑うだけ。哄笑が体勢を立て直した祐一の鼓膜をゆらし、不快さが波濤のように広がる。
大地に波紋が広がった。唐突な出来事。異様な現象……少なくとも祐一は地面に波打った事を幻視した。
何が起こった……?
つぶさに視線を走ら、すぐに見つけた。───異常の原因はやはりヤマトタケルだった。
背後に人型のナニカが現れ、ヤマトタケルに触れた。たったそれだけの事……だと言うのに、次の瞬間にはヤマトタケルの手首が元通りになっていた。
「ッハハハハハッ! なるほど、彼の教えは間違っていなかったようですね。あの拙い剣術をよくここまで昇華したものです! やはりエイルに任せたのは正解でした。……素晴らしい。ああ、素晴らしいですよ祐一殿!」
感極まったように声を震わせヤマトタケルは手を握っては開いて、今亡き臣へ向け慈しむような花の咲くような笑みを浮かべた。
一瞬で快復した手。あの英雄神に初めて手傷を負わったと言うのに無意味に終わってしまったのだ。
だが祐一にはそんな瑣末事……どうでもよかった。
あの言葉を聞いたとき。今、ヤマトタケルが放った言葉を聞いた時。そのとき、祐一の中で何かが───キレた。
灼熱する。
ふざけんな。ふざけんなふざけんな───ふざけるな!!!
なんで奴は笑っていやがる! ひたむきに剣に生きた戦士を! アイツに追い付きたいと願っていた戦士を! ──何故、エイルの気高い生き様を笑える!!?
挙げ句の果てに、殺すよう仕向けた野郎が何故───ッ!!?
赫怒の怒りが脳髄を駆け抜け、グツグツと煮えたぎる憎悪が遂に限界を越えた。ダムが決壊するように満腔から憎悪が噴き出す。
「テメェは、絶対に殺してやる───ッッッ!!!」
祐一の一切合切を灰に帰すような怒りを発露したと同時だった。それと呼応するように大粒の雨が吹き荒れ、波濤のごとき豪雨が世界を満たす。
咆哮とともに祐一は猛然と駆け出した。
殺意の奔流が渦巻き、烈火のごとき怒気が吹き荒れる。
かつて古代の戦場で猛威を奮った、命知らずのケルトの戦士如く!
ヤマトタケルは狂っている。……だが祐一もまた狂っていた。この戦場に正気なんてものはなく、血と痛みに酔った狂乱のみがあった。
大上段から一気呵成に振り下ろし、唐竹割りを放つ。祐一の比類なき怒気と相まって、常人では身が竦みそのまま剣戟の餌食となっただろう。しかしここにいるのは常人などではない。
『神』だ。それも武神の中でも最高位の───。
ヤマトタケルは当然のように黒刀で防ぎ、するりと受け流した。
それで諦める祐一ではない。
全力の一太刀が防がれた事になんの未練もないと言わんばかりに剣を引き、ふたたび剣を揮う。
一合、二合……十合……二十合……瞬きの間に数十合を斬り結び、未だ途切れる事なく剣戟は終わらない。
たとえ武の達人であっても最早まともに目では追いきれない程の圧倒的な速度。
音を置き去りにし残像と血飛沫のみが残る超高速戦闘だ。ヤマトタケルが飛び退れば、祐一が息もつかせぬとばかりに追い縋って喉元に剣を伸ばす。
火花が散り、刀身に伝う水滴が弾けて飛ぶ。
神速にも及ぶかと見まがう程の剣戟。剣の神と人類最高峰の戦士との殺し合いを、神の身でない誰が見切れると言うのか。
「クッ……」
血飛沫がふたたび舞う。出処は祐一からだった…………いや、出血しているのは祐一のみだった。
頬に、肩に、膝に致命的な傷はなくとも、浅く無数の刀傷が散見された。
如何に最高峰の戦士とは言え、やはり武においてヤマトタケルの方が一日の長があるのだ。そしてヤマトタケルもまた祐一と同じく心眼を修めている。
祐一が一手打てば読まれ避けられ何倍も返されるのに対し、ヤマトタケルが十手打てばおもしろいように術中にはまってしまう。
激情に囚われながらも祐一はかの英雄神に掌の上で遊ばれているような錯覚に陥っていた。
ヤマトタケルが祐一の目を見据え、愉しげに笑う。
「私は感動してますよ……祐一殿。貴方が私と打ち合える程に研鑽を重ね、ここまで昇華した事に」
そう嘯きながら隻眼で死角の多い右側から、強かな袈裟斬り。避け切れない。レプラコーンが修繕し頑丈なはずのブレザーが難なく斬り裂かれ、祐一の肉体にまで及ぶ。
……真紅の血が虚空を舞う。
さらに笑みを深め、愉快で、愉快で、堪らないと言う風に哄笑が響く。
「──ハハハハハハハハハハ!!! ですが愚か! 愚かですよ祐一殿! たったひとりの臣の為に片目を潰すとはッ!」
「───ッ!」
「その話を聞かされ、失笑しなかった私を褒めて貰いたいほどです!!!」
安い挑発だ。そんなことは判っていた。しかし祐一にあの誓いを穢され、それでも「見過ごす」なんて事は出来るはずもなかった。────理性が赤熱し、眼の前が真っ白に染まる。
「ヤマト、タケルッッッ!!! テメェェェエエッ!!!」
もはや止められなかった。いや、止まる事など頭の片隅にすらなかった。理性が消滅し、破壊衝動のみが祐一を動かした。一も二もなく守りを考えない全身全霊の一撃を揮う。
「フフ……───その程度で討てるとは思わないことです」
ヤマトタケルが足を一歩踏み出す。大地が波紋が広がった。
先刻起きた光景の焼き増し……ヤマトタケルの背後に人型のナニカが現れる。今度はハッキリ見えた
おそらくあれは大地の精。クー・フーリンやケルトの戦士たちに助力する地母神の系譜の者たちが、異邦の戦士とはいえ『鋼』であるヤマトタケルに力を貸しているのだ
直感と言うには情報が鮮明すぎる。これは幽世に揺蕩う知識を無意識に受け取っていたのだろう。ピリリと微かな頭痛が閃光のように駆け巡った。
くっ!思わず呻く……それは一瞬の隙。
───刹那、眼前に黒に輝く刃があった。
ガキンッ! 刃のうち合わさった音が響く。なんとか割り込ませる事に成功した……だが、そこまでだった。
「───ッ!」
なんという大力! 祐一が持つウルスラグナの権能が一つ『雄牛』にも劣らない強力無比な怪力。
対抗しようにも祐一は先刻『雄牛』を使用し、早くとも十時間、ともすれば丸一日は待たなければ再び使うことは出来ない!
さらに力が増す。ヤマトタケルの満腔から神力が横溢し、膂力が桁違いに跳ね上がった!
「
「う、わぁぁあああああああああああ!!!!??」
拮抗も束の間。尋常ではない膂力に祐一ははるか彼方へ吹き飛んでいった。
─────ドォンッ!
吹き飛ばされた祐一は、何処かもわからぬ峻嶮な山々の一つに突っ込んだ。もうもうと砂煙が舞う。
凄まじい衝撃だったというのにまだ意識はあるようで、ゆらりと砂煙の中で影が蠢き、がらがらと音を立てめり込んだ身体が抜け落ちていく。
落下し、祐一の受け身も取っていない身体が地面に叩きつけられた。
「クソっ……ヤマトタケルの野郎! 死ぬかと思ったぞっ!」
無傷と言うわけでもないが、動けないほどでもなかった祐一が地面を怒りのままに殴りつけ、悪態をついて立ち上がる。
あり得ないほど距離を飛んできたようで、地平線の先に佇んでいた峻厳な山々の一つに吹き飛ばされたらしい。
周りを見ればそこそこ拓けた場所にいるらしく、人が十人くらい居ても充分に走り回れる広い場所だった。
首を上げて景色を見回すと針金のように刺々しい山々が連なり、そのはるか先には蜃気楼にも思えるほど遠くに王国の城壁が見えた。
拡がった視界の端に今まで使っていた鉄剣が落ちていることに気が付く。
のろのろと……そちらの方向へ足を進める。
鉄剣は拓けた場所の端にあった。歩いて端までたどり着くと、ざり……と足元から聞こえ視線を寄越せば底の見えない穴が広がっていた。
穴ではない……ここは断崖絶壁になっているのだ。
拓けてはいるが、山の中腹あたりに位置する場所らしく、ここだけ少し広い空間が広がっているみたいだ。
端に立っていた祐一の足元が少し崩れて石ころが落ちていく。
足元を崩さないよう慎重にそろりと後ずさって、一息つく。後ろを振り返って見ても、草一本生えていない寂しげな土地が広がるばかりだった。
「ここどこだよ……」
見覚えすらない土地に飛ばされ、当然の言葉が口をついた。一言呟いて少し冷静になったからだろうか、違和感を額に感じた。
触れてみればぬるりとした感触を覚え、どうやら頭から出血しているらしいと当たりをつける。
いや、それだけではなく身体のあちこちに……特に叩きつけられたからだろう、背中を中心に痛みがあった。
しかし、それだけとも言えた。
数十Kmは吹き飛ばされたと言うのに骨折は一つもなく、戦い始めて最初に受けた、腹部の刺し傷も裂傷も治りかけていた。
頑丈すぎるだろ……。改めて新生した身体のデタラメ具合に呆れてしまう。
落ちていた鉄剣を拾ってみると、随分と軽くなっていた。訝しげに眉根を顰め、よくよく見ると中程からぽっきりと折れていた。
渋面を深くして、ふっと緩める。残った刀身を撫で「ありがとうな」……そう、エオの剣に言葉を掛けて、額に刀身を当てる。
───戦士よ、戦え!
いつの日か聞いた、ムインの言葉が蘇った。
ああ、そうだな。勝つよ……絶対。
言葉もなく果てた友へ、誓いを樹てる。
握りしめた拳が白み、血が滲むほど歯を食い縛る。
────安息は束の間だった。
……コツ。コツ。
足音が聞こえた。
この堂々たる歩武はここ数カ月の間に何度も聞いていた。かつては兄とすら親愛の情を深めていた存在……だが今では討つべき仇に他ならない。
刀身から額を離し、顔を上げる。人影が少しずつ、露わになる。───やはり現れたのは『鋼』の英雄神。
その纏う衣には綻び一つなく、秀麗な美貌には汗すら浮かんでいない。
祐一とヤマトタケルの眼光が絡み合う。その闘志と殺意が不変であることを確かめ合うように。
ヤマトタケルが片頬を吊り上げ、傲岸に笑う。
「フフ……やはり貴方はそうでなくてはなりません。どれほど傷付こうと起ち上がり死地へ赴く……戦士はやはりそうでなくては」
「……なに言ってやがる?」
「ハハ。貴方は本当に似ている、と言っているのですよ。ええ、本当に。本当に───故に先の戦いでは開帳しなかった、我が秘奥をお見せしましょう」
ヤマトタケルの言葉の真意を考えることさえできなかった。当然だ。尋常ではない異質な光景が、祐一の意識を奪い去ったのだ。
空に、太陽が現れた。
言葉にすればたったそれだけの事。いつ現れたのかすら判らないほど忽然と、音も気配もなく、まるで最初から存在していたように太陽は姿を現した。
それは空の半分を覆い尽くす強大な紅。
───それと同時に世界に光が満ちた。
祐一は一瞬、ここが異界などではなく、数カ月前まで当たり前のように居た元の世界に舞い戻ったかのような錯覚に陥った。
しかしそれもすぐに霧散する。
何故なら祐一の知っている太陽はあれほど大きくはない。
何故なら祐一の知っている太陽はあれほど輝いてはいない。
何故なら祐一の知っている太陽はあれほど禍々しいはないのだから!
「──かけまくもかしこき吾が皇神のおおまえにかしこみもうさく…⋯剣に光なす神よ、恩寵を与え給え。遍照の神刀よ、赫々たる光輝を世に示せ」
言霊が放たれ呼応するように偽りの太陽がさらに輝く。同時に途方もない焦燥感が祐一を焼き、直感がざわめく。
黒い刀身が空に浮かぶ日輪のごとく煌き、ヤマトタケルが剣を揮った。もうその時には祐一は駆け出していた。
それも神速で、だ。
リスクを負ってでも、祐一は閃電神速の速さを得る『鳳』と言うカードをここで切った……切らざるを得なかった。
総毛立つような威に、この場から一刻も早く離れろ! と化身が叫んだのだから!
「───ッ!」
瞬間。───光が溢れた。
戦慄する。音も、気配も、何もなかった。ただ光が現れ、振り向いた時には、先刻まで祐一が居た山が消失していた。
どれだけの熱量と威力があればあんな事が為し得るのか……?
範囲はそれこそドバイ一つがくり抜かれ、その威力は空に浮かぶ巨大な太陽でさえ照らせないほど深い大穴が広がり言葉もなく語っていた。
……見えなかった。
なにも視えなかった。
欠片も観えなかった! ──神速の動きと視界を得ていたと言うのに!
つまり神速よりはるかに早い『光速』の領域。
これまでの比ではないプレッシャーが全身を穿き、祐一は前哨戦が終わったことを悟った。そう……今までの剣の戦いなどお遊びに過ぎなかったのだ。
来るぞ、日ノ本最大の英雄の武威が!
来るぞ、数多の神々を降した征服神の本気が!
来るぞ、最も鋭き剣の系譜『最源流の鋼』たる所以が──ッ!
「────さあ、第二幕と行きましょう!!!」