王書   作:につけ丸

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007:不思議なパゥワァー!

 明朝。それもまだ優しい光を放つ月が水平線に落ちたばかりで暁闇が広がる時刻。

 祐一とパルヴェーズもまたチャイハネを出てすぐに床についた為か、なんとなく目が覚めて早起きしていた。

 と言っても完全に意識が覚醒しているのは、パルヴェーズのみで、祐一は低血圧なのか、普段の数倍はその鋭い目がさらに凶悪になっていた。

 示し合わせたように、同時に部屋を出た二人。廊下に出たパルヴェーズは、祐一を見て目を逸した気がした。

 だが、それよりも……

 

「クソ眠いです。昼まで寝ていい?」

「アホな事言うておらんで、早う顔を洗って来ぬか」

 

 パルヴェーズは、くすりと、笑った。

 今日一日、最初の会話だった。

 

 ナマーズが終われば、叔父さん家族が用意してくれた、朝食をありがたくいただく事となった。

 チャイハネで食べた料理よりも薄味ではあったものの、チャイハネの店主には悪いが、こちらの方が数段、美味しく感じられた。

 洗ってもらったブレザーを手渡され、お礼を言う。

 

 ───あれ、昨日返してもらわなかったっけ? 

 

 ふと、そんな疑問が生まれたが、祐一はすぐに忘れてしまった。

 こちらも貸してもらった服を返す。

 洗濯してもらったブレザーはどこか輝いているようにも見えて、

 

「扱い粗くて、ゴメンな」

 

 と撫でながら零す。

 何だかんだこの一ヶ月、着続けていたこのブレザーをどうやら自分は随分気に入ってしまったみたいだ。

 祐一は返ってきた服にそんな事を思いながら袖を通した。

 そうして穏やかな時は過ぎ、祐一達は町を出た。

 叔父さんはもう一泊くらいして行きなよと、引き留めてくれたが、それは流石に申し訳ないと固辞して旅立つ事にした。

 叔父さんは残念そうな顔をしたが、直ぐに笑顔になってハグをしてくれた。頬に当たる豊かな髭がくすぐったかった。

 

 ○◎●

 

 てくてくと昨日に引き続いて当てどもない旅が始まった。

 どこに行く? と祐一が尋ねればパルヴェーズが、気の向くまま、風の囁きを聴きながら進めば良い、と嘯く。ふーん。いつも通りだなぁ。祐一がそう返し二人の行き先は決まった。

 町を出て数刻ほど経った頃。

 最初は街から伸びていたアスファルトの道を歩けたので比較的楽な道行きであったが、それもパルヴェーズが駆け出すまでの短い時間だけであった。

 パルヴェーズの駆けた先には必ず何処か怪我した動物か、困っている人が居た。

 その遭遇率は百発百中で、祐一も昨日から続くパルヴェーズの”人助け”に驚くやら呆れるやらで、けれどなんだかんだで付いて回った。

 

「お前、よく見つけられるよなぁ。声が聞こえる! って言われても、俺には全然聞こえないぞ」

「ふふ。我は最強にして遍く声を聴く者なれば、当然の事。それに我の目もまた大鷲の如く、遠方の地ですら見通せる。故に千里先すら見通す事など容易い事じゃ。間違える事など万に一つもない。まあ、おぬしは只人じゃ。そう嘆く事もあるまいよ」

 

 パルヴェーズは然も当然のごとく言っていたが、どこか誇らしげですらあった。

 

 てくてくと、歩いて行く。

 もう時刻はお昼に差し掛かる所。朝から昼まで二人は、その無尽蔵な体力を発揮しぶっ通しで歩き続けていた。

 この炎天下の中、快活に動き回る二人はそれだけで普通の人間と一線を画していた。

 流石に何時間も歩き回り、暇を持て余し始めた祐一。数歩先を行くパルヴェーズを見て、ニヤリと笑う。

 手にはいつの間にか拾った棒を、引っ提げている。

 どうやら彼は昨日勝負した雪辱を果たそうとして居る様だ。辞めておけばいいのに……。

 

 抜き足……差し足……忍び足……。そろりそろりと、パルヴェーズの背後に回る祐一。今の彼の表情は、ここが街中であったならば確実に職質されるくらい嫌らしい顔だ。

 

 ゲッヘッへ。これは、貰ったなぁ! パルヴェーズ敗れたりぃー! そうニヤニヤとパルヴェーズの後ろをとり、獲物であるパルヴェーズを凝視する。その動きをつぶさに見ながらも勝った後の未来を夢想する祐一。己の勝利を全く疑わない一応は戦士の姿があった。

 腕を振り上げる。同時に、雄叫びを上げる。

 

「隙ありいいいいぃぃぃ!!!」

「───そんな物ないわ阿呆」

 

 振りかぶった棒を、大上段に叩き込む祐一。

 しかし後ろに目が付いてるのか? と疑いたくなる程の察しの良さでパルヴェーズは応じた。

 パルヴェーズの冷たい声が、祐一の鼓膜を叩く。

 ───あれェ!? 夢想していた薔薇色の未来と、残酷な現実との違いに驚愕し困惑する祐一。

 

 祐一が放つ渾身の一刀を察知し、パルヴェーズは振り向きざまに左へするりと避けて見せた。次いで、振り下ろされた彼の手をパルヴェーズは右手で掴みグイッと引く。

 

「おわわっ!」

 

 棒を振り降ろし、もともと重心が前に動いたのだ。そこをパルヴェーズが引っ張る事により、バランスを崩して前のめりに倒れ込む祐一。

 咄嗟に足でなんとか踏ん張ろうとするが、出来なかった。

 ───グイッ! 

 パルヴェーズの左足が、踏ん張ろうとした足を一息に掬い上げたのだ。

 

「ぬおっ!」

 

 前に移動した重心を片足で踏ん張ることも出来ず、顔から地面にダイブする祐一。勢いそのままに倒れて行き、そして彼は倒れる瞬間に見た。

 眼の前に掬い上げる様に迫るパルヴェーズの左拳を。幻視した未来に思わず表情が凍る。

 ゴチンッ! 現実は非常である。未来は変わらず鼻っ面に強かな一撃が見舞われた───! 

 

「のぉおおぉおお……!」

 

 倒れ伏した祐一。彼は鼻を抑えながらそのまま地面で悶絶した。絶対零度の冷たい目でその様子を見下ろすパルヴェーズ。

 今回も勝負。勝敗は明らかであった。

 くそぉ……! ……また黒星が、一つ増えちまった……! 何故だぁあああ! 

 のたうち回りながら嘆く。昨日今日ですでに二十を超える黒星を上げている祐一君。彼が旅の相棒に勝つ時は、来るのだろうか? 

 だが彼は勝敗を気にするより先に、相棒からのこっ酷い説教と扱きが待っている。

 頑張れ、祐一。負けるな、祐一。多分、来るだろう、勝利の時まで、君は戦い続けるのだッ! 

 

 ○◎● 

 

 打たれた鼻をさすり凸凹した地面に正座する祐一と、半眼でこちらを見下ろし説教するパルヴェーズ。

 もうかなりの時間、説教されている気がする……。祐一は痺れて感覚が無くなり始めた足を擦る。

 

「はい。はい。すんません」「さーせんっした」「いえ、違わないです……」

 

 そんな陳謝の声が無人の荒野に響く。

 祐一はパルヴェーズの説教を聞きつつ、長時間正座して痛む膝を擦りながらひどく反省していた。

 何故もっと上手くやれなかったのか、と。

 後悔は全くしていないどころか次の算段を付けている阿呆の姿があった。彼は負けず嫌いの前に、諦め悪い馬鹿だった。

 ほど程なくして説教も終わり、少し弛緩した空気の中。そんな折にふとパルヴェーズが、

 

「ふむ、そう言えば小僧。何故おぬしはそれほど、勝利に……強さに拘るのじゃ? 確かに、勝ちたいと思う心は判るが、おぬしは些か、度が過ぎている様にも思えるのでな」

 

 そんな質問を祐一に訊ねた。

 

「え? ……なんでって……そりゃあ……」

 

 突然の質問に驚き、そして言葉に詰まる祐一。勝負に拘る理由なんて、簡単なものだ。

 お前に名前を呼んでもらいたいから。

 それが第一の理由だった。だけど小っ恥ずかしくて言えるわけがない……。頰をかいて仕方無く第二の理由を語る。

 

「あー、俺の故郷にさ……強い奴らが居るんだ」

「ほう? おぬしをして、強い者が居ると言うのか」

「おう。全員同い年で家も近いから、良く遊ぶんだけど……。力が半端なく強かったり、無茶苦茶しぶとかったり、百発百中だったり、追いつけないくらい速かったり……まだ居るぜ? みんな強えし、勝負事になったら全力で勝ちに行く。そんな奴らばっかなんだ」

「ふふ。良き友が多いようじゃのう?」

「ああ、そうさ! 友達どころか、みんな兄弟みたいなもんさ。全員イイ奴ばっかだし、パルヴェーズも気に入ると思う! いつか故郷に行こうぜっ! そんで、故郷に帰ったら紹介する!」

「はは。それは楽しみじゃのう」

「絶対来いよ約束だ! ……ま、そんで、そいつらと勝負するんだけど……。一応、勝ちは拾えるんだ。へへっ、それに、負けた事は数える程しかないんだぜ? ……でも、いっつも紙一重でさ、いつ負けるかヒヤヒヤもんなんだ」

「ほう。おぬしに土を付ける程、強い者たちか。それも同じ年齢の……。ふふ。おぬしは良き環境に居るようじゃのう?」

「そうさ! ……で、やっぱ勝負するからには、勝ちたいだろ? 勝ち続けたい。それに、一番勝ってる俺が、どっかで負けちまったら、あいつらまで”弱い”って事になる。それだけは、絶対に、嫌だ。……だから、立ち止まってられない。俺だって、旅に出て強くなってるつもりだけど、強い奴はごまんといる。故郷のあいつらだって、強くなってる。間違いねえ。だから今度あった時、強くなって、また勝負する時に、絶対勝てる様になりたいんだ!」

 

 祐一はいつの間にか握っていた拳を見つめ、自分に言い聞かせる様にも聞こえる声音で語る。

 

「……そうだ。いつか、故郷に帰ったら……。俺はこんなにも強くなったぞって、みんなに見せてやるんだ」

「ふむ。おぬしは友に……いや、好敵手たる者達と競い合う為に強く成りたい、と言う事かの? そして、その好敵手達と雌雄を決し、勝ちを収めたいと……。なるほどのう……」

 

 そこで納得した様にパルヴェーズは頷き、今度は莞爾と笑って、

 

「ふふふ。おぬしはどうも、勝利の化身たる我の心を……常勝の戦士たる我の心を()()()()……。初めて会った時から、思っておった。おぬしの、その強き瞳に見据えられると奮い立ちたくなる者は多いじゃろうな。……面白い人の子よ。その純粋な心も、勝利への渇望も、我の心を捉えて離さぬ」

「な、なんだよ。いきなり……?」

「ふっ。まあ、どの様な者であれ、おぬしの為に何かをしてやりたい……。そう思ってしまうという事じゃ。そう……この我であってもな」

「?」

「分からぬか? 要するに、おぬしに強く成れる指南をしようと言う事じゃ。力を欲し、勝利を望むおぬしに僅かばかりの助言と力添えをな」

「マジ!? やったぜっ!」

 

 祐一の顔が綻ぶ。この比類なき強さを持つ相棒から強さの秘訣を聞ける! と言う事を素直に喜んだ。一度も勝った事が無いこの友人から少しでも強さを盗み、勝利へ繋げようと思案する貪欲な祐一の姿があった。

 まあ、何だかゲームの攻略本を見ている気分になり、ちょっと引っ掛かりを覚えはしたが……。貰えるもんは貰っとけ。祐一は、素直に思う事にした。

 

「──『気』?」

「うむ。人によってマナだとか魔力だとか呪力などと呼び方は数多と形を変えるがその源は同じものじゃ。身体の臍下丹田から生み出した力のことじゃな。まあ気の説明などいまは良い」

 

 パルヴェーズは手招き一つし、祐一を促す。

 

「小僧。少し、こちらに来い」

「ん? おお、わかった」

 

 正座から胡座に変えて座っていた祐一は立ち上がりひょこひょこと近づく。長時間正座していて足が痺れていたのだ。

 パルヴェーズの前に立つ祐一。不思議そうな顔を隠しきれていない、そんな祐一を認めたパルヴェーズは祐一の腹部に拳をトンっ、と当てた。

 全く気付く事が出来なかった。祐一はパルヴェーズとのどこまでも広がる武への差に背筋に冷や汗が流れていくのをしっかり感じた。

 そしてパルヴェーズが突然……

 

「耐えよ」

「───え?」

 

 ───ボゴンッ! 当てられた掌から凄まじい衝撃が伝わった。まるで大砲をゼロ距離で放たれた様な衝撃。

 余りの衝撃に意識が吹き飛びそうになる。必死に堪えるが衝撃は顔にまで伝わって来て、首が後ろへ跳ね上がり、身体も後ろへと大きく仰け反る。

 完全に腹部に当たっていたのだ。殴る時の振りかぶる動作すらなかった。それなのにこの威力。

 激しく揺さぶられる思考の中、祐一は驚愕の渦にいた。微かに、足を動かした所だけは見えたが、それ以外は何も判らなかった。

 吹き飛んで行く、祐一。 

 ───ゴン、ゴン、ゴンッ! 地面に何度も、頭、足、頭、足と交互にバウンドしていき、10mほど進んだ地点でやっと止まった。

 

「───死ぬわっ!」

 

 思わず立ち上がり叫ぶ祐一。思ったより元気そうだ。

 

「ふふ。そう怒るな怒るな」

「ざっけんな! 誰でもキレるわ!」

 

 パルヴェーズに詰め寄ってふざけんな! と抗議する。だというのにパルヴェーズはと言うと飄々としていて笑っていた。

 こ、こいつ! 

 目にもの見せるは、最終秘伝……! とばかり心に身を任せ、少林寺の奥義をパルヴェーズに掛けようとしてそこで待ったが掛かった。

 

「はは。ほれ、小僧。いま、身体に痛む所があるかの?」

「そんなのあるに決まって……っ! ───あれ?」

 

 身体が、痛くない。身体がバラバラになりそうな衝撃と、身体が舞って地面に打ち付けられたと言うのに身体は全く痛くなかった。

 えぇ……なにコレェ……? 

 ドン引きする祐一の頭の中に、疑問が津波の様に溢れた。

 

「おぬしを吹き飛ばす瞬間に気を込め、おぬしの身体を一時の間頑強にしたのじゃ。それ故、常であれば負傷が免れぬ事であっても耐える事ができたのじゃな。

 おぬしを吹き飛ばした技も、また気を使ったもの。確かに足を捻り、内功の動きを促しはしたが、大部分は気によるものじゃ」

「うん。まったく判らん」

 

 祐一は、ばっさりと斬り捨てた。と言うかそれを俺に打つ必要はあったのか? そうありありと祐一の顔に書いてあった。

 パルヴェーズは、そんな祐一の返答にクツクツ笑い、

 

「おぬしは”習うより、慣れよ”を地で行っておるからのう。ならば身体に教えた方が早そうじゃと思ったまで。……そおら小僧、身体を空っぽにし澄んだ状態にせよ。目を瞑り、何も考えず、何も感じるな。ただ、静かに佇む山の如く構え、己の息遣い、心の臓の音を聞き、己の中で世界を完結させるのじゃ」

「……そんなんで、今のが使えるのか?」

「よいから、やってみよ。案ずるより産むが易し、と言うじゃろう。疑わず、先ずはやってみる事こそ肝要じゃぞ?」

「……そっか! やってみるよ」

 

 開き直る祐一、彼はきっと騙されやすい性質だ。取り敢えずパルヴェーズに言われた通り、目を瞑り、何も考えず、空っぽの状態に持ち込む。

 視界を遮られるがそれに呼応する様に、他の五感が鋭くなる。

 そうしてどれほど経っただろうか。異常な集中力を持って隣に居るパルヴェーズの存在さえも判らなくなるほど、埋没していった祐一はふと気付く事があった。

 

 自分の息遣いが、やけに大きく感じる。自分がいつもやっている呼吸。吐いて、吸う。そんな簡単な動作だと言うのに今は酷く億劫だ。

 吸う空気が鉛のように重い。懸命に吸うが、肺に全く貯まらない。無理矢理息を吸っているからか頭痛さえ広がるが、そこでまた気付く事があった。

 パルヴェーズが拳を当てていた場所。腹部……へその下あたりが、なにか温かい。何か形容できない流動的で、或いはマグマの様な固体が融解し、渦を巻いている感覚。

 若干、腹下したかな……? と心配になったが全く別だとすぐに気付く。

 

「それが気じゃ。小僧」

 

 祐一の状況を察した様子のパルヴェーズが声を掛けた。

 

「……これが?」

 

 実感が沸かない。いきなり未知の力を示されても、祐一は全くもってチンプンカンプンだった。

 突然、降って湧いて来た力に戸惑うばかりだ。そもそもなんでこんな力に今まで気付かなかったのかすら、不思議である。祐一は説明を求める様にパルヴェーズを見やった

 視線を受け、パルヴェーズは我が意を得たりと頷き、

 

「ふふ。驚いておるのう小僧。今までまるで知らなかった力に戸惑っておる。無理もない」

「そりゃそうだよ。こんなの初めて気付いたし……」

「気については……まあ、簡単な事じゃ。我が先刻、腹部へ手を当てた時、同時におぬしの経穴を突いたのみ。経穴を突く事によって、気の巡りを容易にしただけじゃ。我は、ほんの少し背中を押しただけ。あとは、おぬしの才で見つけたのじゃ」

「ふーん……。って事は、俺も今さっきパルヴェーズが殴ったみたいな事もできるのか?」

「今は無理じゃのう。しかし、修練を積み、長い年月を掛ければ、或いは……。と言ったところかのう?」

「マジか! なら、早速やろうぜ! これが使える様になったら、故郷のみんなに自慢してやるんだ!」

「ふふ。調子の良いやつじゃ。一朝一夕では、出来ぬと言っておろうに……」

 

 そんなこんなで慌ただしくも愉快な旅は続いて行った。時刻は早くも夕刻に近い時間となっていた。

 少し、修行に夢中になり過ぎたかも知れない……。何度目になるか判らない反省をした。

 

 それに修行に人助けと、祐一達はアスファルトの街道から完全にそれ現在地が何処かすら見失っていた。それでも二人の足取りに迷いは無かった。

 

「ここらで、野営するとしようかのう」

 

 そんな折にパルヴェーズから声が掛かった。どうやらここで一日を終えるみたいだ。りょーかい、祐一は辺りを見渡しながら頷いた。

 とりあえず焚き火をするための薪を揃えよう。

 パルヴェーズと連れ立っては歩いて行った。

 

 ───パルヴェーズは、優しいヤツだが、不思議なヤツだ。

 

 旅を始めて二日。この二日間で祐一がパルヴェーズに出した人評だった。と言うのも前述した通り、町を出てすぐに駆け出したパルヴェーズ。

 

 その先には駱駝が脚を怪我してしまい、立ち往生している旅人が居たのだ。そこへ駆け出したパルヴェーズが現れ、駱駝を介抱するとたちまち元気になったのだ。

 旅人からお礼をと言われたが、パルヴェーズは固辞しそのまま颯爽と去っていった。

 

 そんな様子を最初は祐一も驚いて見ていたが、何度も続くと流石に慣れてしまった。昼にもなれば嬉々としてパルヴェーズの人助けを手伝っていた。

 まあ祐一も、パルヴェーズの不思議な力が気になって、折を見ていつか聞こうと構えていた。

 不思議な力を使って人助けをするパルヴェーズ。そんな光景を手伝いながら傍から見つつなんか都市伝説が生まれそうだなぁ、とそんな事を思っていた。

 

 

 何も無い丘陵地帯で枯れ木を探す祐一達。

 周りを見渡し枯木や、薪代わりになりそうな物を探すがあるのは石と砂ばかりで良さそうな物は見当たらない。

 強いて言えばパルヴェーズに不意打ちしようとした時から持っている木の棒くらいか。

 

 棒をおでこに立たせながら歩く。彼は飽きっぽかった。暇つぶしも兼ねて気になっていた事をパルヴェーズに訪ねてみた。

 

「なあ、パルヴェーズ。昨日からちょいちょい疑問に思ってたんだけど、触れた途端に怪我が癒えるのってどう言う理屈なんだ?」

 

 そこまで言って祐一はハッと何かに気付いた様子になって、

 

「あっ!? あの気ってやつと言い、まさかパルヴェーズって職業が”パラディン”だったりするのか!? 気の修行すれば俺もなれるかな!?」

 

 祐一は大声で叫んだ。パルヴェーズは「グランドクロス!!」などとほざき、サボる祐一を白い目でで見つつしかし律儀に答えた。

 

「残念じゃが違うのう。そしておぬしにこの術を教授する事も叶わぬ。確かにおぬしの言う通り、神官……マギどもとやっておる事は似ておるが、源となる力はかけ離れたもの故な」

「かけ離れたもの?」

「うむ。マギどもであれば、輝きて光栄ある存在に希う事で奇跡を為す。……が、我は違う。我は最強にして、最も癒しを與える者。千の治療、萬の治療を持って悪神を討ち滅ぼす。故、我の前ではあらゆる障碍は打ち砕かれるのじゃ」

 

 祐一は、なるほど、と一つ頷き、

 

「わからん!」

 

 そう、胸を張って言い放った。

 

「ま、パルヴェーズは不思議パワーがあるって事だな! オッケーオッケー」

 

 パルヴェーズは、はぁ……と、祐一の返答に頭を抱えたが、薪を探しに歩き出した。そうして、少年の少し後ろを歩きつつ、ううむと祐一は唸った。

 

 やはり彼のもつ手品のような異能はおかしい、と祐一の心は警鐘を鳴らしていた。

 

 それに一昨日から今までホイホイとこの少年に着いてきたが、この少年の目的は何なんだろう? 特に急いでいる訳ではないようだが、何か果たさなくちゃならない事があるとは言っていた。

 そもそも記憶喪失なのに、なんでそんな事を憶えているんだ? 今さっきの癒しの話だってそうだ。どこでそんな知識を仕入れて来たんだろう? 

 祐一の心にじわじわと疑問が沸いてきた。

 今までめまぐるしく変化する状況に流されていて疑問に思う余地もなかったが、人里に戻り、一夜明けて少し冷静になった脳がそんな問いを提示した。

 それに、この少年はなかなかに見識高い。

 すぐ解るだけでも二カ国の語学に長じているし、イスラムは敬遠気味の様だが、それでもそのを教義を知り、受け入れる雅量もある。

 

 ──それに昨晩も、己を貶められた、と言っていた。

 それは自分の来歴を知っているのでは……? 

 パルヴェーズが本当に記憶喪失なのか、祐一は分からなくなった。

 この眼の前を歩く浮世離れした少年は、よくよく考えてみなくとも謎でいっぱいだった。

 

 最初に出会った時もどうやって海を漂流していた自分を助けたのだろう? 

 船や泳いで助けたにしても船は見当たらなかったし、パルヴェーズの服は濡れているようにも見えなかった。

 ともすれば祐一が知らないだけで現地の人と協力したのかも知れない。……それなら何で起きた時、二人っきりだったんだ? 

 それに海は見えていたとは言え、それなりに離れていた。海から助けたなら何故そこまで運んでまでして、海から離れたのだろう? 

 

 唸り続けても答えは出ない。祐一の味噌っかすな脳内ではそこが限界の様だった。それに何故か考えるほどに思考が纏まらず、無理やり考えれば激しい頭痛が襲うのだ。それがなんとも腹立たしい。

 珍しく考え込む祐一を、パルヴェーズが不思議そうに覗き込み、

 

「どうかしたのかの、そのような真剣な顔をして? まったく似合ておらぬぞ小僧」

 

 疑心が一瞬で、怒りに変わった。

 

「なんやとぉーっ! 俺だって偶には真剣になる事だってあるんだぞっ!」

 

 そう言って祐一は肩を怒らせ大袈裟な所作で、パルヴェーズを追い抜いて行った。

 待て、待て、とパルヴェーズは愉快そうに笑い、祐一を追いかけた。

 まぁ、いっか。パルヴェーズが、漂流していた自分を助けてくれた事には変わりはないのだ。それにこの太陽のような少年が自分を騙して陥れるような奴には見えなかった。

 

 その時はその時、だな。追いついて来たパルヴェーズと、言葉を交わし合いながら笑い合い、いまは祐一はそれでも良いと思えた。

 

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