誰かのヒーロー 作:誰かのための
生まれた意味をずっと考えていた。
親に捨てられ、孤児院に拾われ、愛を知らぬまま生きてきた。
ゆえに、そこには理由などなく、ただ、ただ生きてきた。
特に何かを思うわけでもなく、何かを感じることもない。
華やかな思いではなく、鮮やかな記憶はない。
心に燻る正義はなく、心を蝕む悪もない。
だから、なにもないまま生きてきた。
幼い頃、この体に宿った個性は、全てを操るものだった。
世界を見つめれば、全てが動いた。
声を張り上げれば、世界は僕の思いのまま。
大地は隆起し、海は裂け、空は金切り声をあげ、世界はさざめく。
だから、もう、使わないと決めていた。
なのに。
だというのに。
今、目の前でおこる悲劇を止めたくて、仕方がない。
知っていた。ずっと知っていた。
誰かの悲劇を、誰かの呼び声を。
その度に知らないふりをしてきた。その度に聞こえないふりをしてきた。
そんな、無責任で、自分勝手な外道だというのに。
今、目の前でおこる、この惨劇を止めたくて仕方がない。
その日は、買い出しにきていた。
近くのショッピングモールにあるスーパーで特売がやっているらしく、珍しく鼻息を荒げた院長に頼まれ、やってきたのだ。
メモに書かれた物を買い、帰路につこうとした最中。
それは起こった。
突如として響く、張り裂けるような爆発音。
あっという間もなくショッピングモールは炎に包まれた。
中からはまだ、誰かの声が聞こえる。
まだ、誰かの声が。助けを求める声が、聞こえた。
あぁ、そうだ。
助けてと、幼い頃の自分のように、誰かが叫んでいたんだ。
今まで、それを見捨ててきた自分に、誰かを救いたいなんて、思う資格があるのかと、逡巡する。
でも、すぐ後ろで、声が聞こえた。
「あの中にまだ、子供がいるんです!!誰か!お願いします!助けてください!!あの子を!助けて!!」
迷っている暇なんてなかった。
ヒーローなんて柄じゃないけど。
助けなきゃって、思ったんだ。確かに、そこには、自分の確かな意思があった。生まれて初めて、誰かを、救いたいって思った。
「━━━━━━━━━━━━━━━!!!!!!!!!!!」
叫んだ、叫んだ、叫んだ。
世界を動かすため、声を、響かせるため。
それは人の声ではない。
なんの声かと言われると、ちょっと困る。
「━━━━!!!!!━━━━━━━━━!!!!!」
でも、これは、祈りの歌、懇願の声、悲痛な叫び。
大地が蠢いた。海が嘶いた、空が応えた。
ほら、ね。いつだって、世界は僕の味方だ。
煌々と燃え盛っていた火は、突如として吹いた突風と、突然のゲリラ豪雨によって、綺麗さっぱり消えたらしい。
誰のせいか、なんてものは、愚問だろうか。
でも、あれは僕の個性じゃない。
僕の個性は、あくまでも世界に声を響かせるだけ。
その声に応えてくれるかは、世界の機嫌次第なのだから。
だから、今回は運が良かっただけ。
僕は、ヒーローなんて柄じゃない。
目の前の、大切なものを守ることだけで。精一杯なんだから、ね。