誰かのヒーロー   作:誰かのための

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誰かのヒーロー━case2 君のヒーロー━

ほう、と寒空のもと、ため息をつく。

ようやく、見つけられた。ようやく。

 

大切な物の仇を取れる。

 

 

 

生まれたときから、俺は何不自由なく生きてきた。

 

親に愛され、友にも恵まれ、そして、心の底から好きになれた人もできた。

 

そんな幸福と平穏は、簡単に壊れてしまうもので。だから、守らなければならなかったはずなのに。

 

手を、伸ばしても、届かなかった。

 

この超常の溢れた社会で、国家権力なんて、あてにならない世界で。弱いものは大切なものすら守れない。そんな、当たり前のことを、思い知らされた。

 

目の前で、家族を、大切な人を殺された。大切な人を、辱められた彼女を、助けることもできず。

 

その時の俺は、弱かった。甘い世界に、骨の髄まで堕とされていた。ようやく世界の真理に気づいた時にはもう、取り返しのつかないところまで来てしまった。

 

今だって、強くなれたわけじゃない。

プロヒーローたちのように、卓越した技術もない。見上げるような自己犠牲の精神も、正義もない。強い個性、なんてものもない。

 

ただ、復讐のため、身も心も、魂さえも、悪魔に売り渡した。

 

 

右の掌に握る、注射器を見つめる。

 

個性強化薬。

名前の通り、個性の力を限界まで引き上げる代わりに、一度使えば、依存性が残り、最悪、中毒で死ぬ。いわば麻薬のようなもの。

 

それを、強く握りしめた。

 

目の前にそびえるビルを睨む。

 

 

ようやく見つけた仇。

 

そいつは、ただのヴィランではない。ヤクザの幹部だった。クスリに溺れ、何かを壊すことで快楽を得る、畜生以下のゴミ屑であった。

 

許すわけがない。許せるわけがない。

 

注射器を腕に突き刺し、個性を発揮する。

 

周囲の世界が灼け爛れ、体からは噴煙のごとく、焔がほとばしる。

 

いつもより、数千倍の熱量。

 

本物に比べれば随分と小さいが、その温度、圧倒的エネルギーは太陽に匹敵する。

 

本来は、自らを燃やし尽くすほどであった。

 

今は、そんなものに気を向けている暇はない。

 

『殺す。』

 

その意思だけで、その殺意だけで、身を焦がし、身を融かす熱は、一切気にならなくなる。

 

一歩、一歩踏み出すたびに、アスファルトは溶け、ドロドロの黒い沼になる。

 

「!!んだテメェ━━━

 

お前じゃない。

 

腕を軽く払えば、灼熱が溢れ出す。

 

そこに立っていた人影は、跡形もなく消えた。

 

たった一薙ぎ、それだけで、人の形をしていた何かは、地を覆う真っ黒な重油の沼に消えていく。

 

「……」

 

どこだ。

 

「あ、兄貴!テメェ!!死n━━━

 

ジュッと音を立ててまた消える。

 

邪魔だ。

 

「ヒッァァ!!しねぇぇええええッッ!!ひ、あ、ぎ━━━

 

飛びかかってきた坊主頭を太陽が掴む。

 

苦痛の表情を浮かべる間も無く、白目をむいた頭ごと解けた。

 

どこだ。

 

意味のない殺戮を繰り返す姿は、ヴィランと何の変わりもしない、彼が最も嫌う、それ以下のゴミ屑と同じ、理不尽な暴虐を振りまく害意そのものであった。

 

「どこだァァァア!!!!!!!」

 

激昂。

その心を表すかのように爆ぜた焔が、嵐を起こす。

彼の体表を、プロミネンスが迸る。

 

そのときだった。

揺らめく陽炎を搔き消し、男が姿を現したのは。

 

「…手前、人の家荒らしてなに吠えてんだパンピーがァ…!」

そいつこそが、彼が追い求め、悪魔に、悪に魂を売ってでも殺したかった相手。

 

あぁ、やっと見つけた、この目で、やっと、確かめられた。

 

「ぁぁ……はは……ひひひ…はっはっは…ハッハハハハハハハ!!!!」

「ぁ?」

 

「死ね……ぇえぇえええええええ!!!!!!!」

 

真紅の殺意が溢れ出す。

隠す気なんてない、ここで殺す、なんとしてでも。

 

 

そうさ、今、ここで殺す。

 

引き絞った拳に太陽が篭る。

炉心のように灯る心臓が、暴れまわる。

 

「ッァァア"!!」

 

憎しみが、雄叫びをあげながら燃え盛る。

放たれた拳が、箒星のように軌跡を残す。

 

「フン!!ッォォ!!!??!?」

 

男が、同じように拳を振るう。

 

拳頭が触れる瞬間。

 

街が爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当はわかっていた。

君が、こんな醜い復讐なんて望んでいないこと。

 

わかっていたんだ。

でも、頭ではわかっていても、心では、許すことができなかった。

大切な人を、君を、目の前で辱められて、殺された。

それを、どうして抑えることができようか。

 

心に灯った昏い焔に、気づいた時には、もう遅かった。

 

抑えられなかったんだ。

 

俺は、いつも君のヒーローでいたかったから。

その為に、誰かのヴィランになろうと構わない。

 

僕の正義は、貴方のために。

 

そう、誓ったんだ。

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