東方project 〜嫌われ者は幻想郷で報われる〜 作:タルト
前回のあらすじ
ラグナロク
夢を見た。
幼き日の夢だ。夢という自覚はあるのに、思うように体が動かない。
何処だろう・・・見渡す限り一面の木々。でも、動物の気配がない。
どこだろう、不安、恐怖、焦り、様々な負の感情が合わさり、一刻も早く抜け出したい。その一心だった。
しばらく歩いて困り果てていた頃、目の前に、金色の髪の麗しい女性が立っていた。どこかで見た事のある顔なのに思い出せない。金色の髪、大きな紫色の瞳。端正な顔立ち。でも、どこか人を食ったような・・・そんな雰囲気を醸し出していた。
「貴方。迷い込んだの?結界は問題ないはずなのに。」
急に話しかけられた。人に出会えたからか、急に安堵感が押し寄せてくる。何処か聞かねば、出られる場所を聞かねば・・・そう焦っているはずなのに・・・
「お姉ちゃん誰?」
自分の意思とは反対に口が勝手に動く。夢とは記憶そのもの・・・自分の意思ではどうしようもないのか。
幼いころとはいえ、何処かよりも誰かを優先するとは、我ながら阿呆である。
「私はね————よ。よろしくね。」
名前が聞こえなかった。ノイズのようなものが聞こえるだけだった。
「此処どこなの?」
自分の記憶の中だからか、その時の感情や思考が同時に頭に会った。不気味な感覚だ。大人の思考と子供の思考がごっちゃになっている。
「ここはね、全てを受け入れる場所よ。」
「すべてを?素敵だね!」
僕はよく考えずに答えていた。
「全てを受け入れる・・・それはね、素敵に聞こえるかもしれないのだけど、とても残酷なことなのよ。」
彼女は苦笑交じりに、でも、少し悲しそうな顔をして答えた。
「貴方には、特別な力があるわ。」
急に彼女は僕に言う。
「そんなことないよ。友達もいないし、勉強も運動も・・・」
僕には何もない。そう続けようとしたところで、彼女は遮るように言った。
「今は、そうかもしれないわ。でも10年後や20年後もそうとは限らないでしょ?いつか、貴方はこの【幻想郷】を・・・いえ、世界を救うわ。」
「あはは!面白いね!」
「ふふっ。そうね、お姉ちゃん変だったわね。」
そう言って彼女は自嘲気味にほほ笑んだ・・・知り合いもいない、山の中そのお姉ちゃんといるのが何故か落ち着いて、気が付けば腰を下ろして談笑をしていた。
「お別れね。」
彼女は、こちらを向いて、そう告げる。
「もう?」
「えぇ。残念ながらね。」
「また会えるかな?」
「きっと会えるわ。これを・・・」
彼女は綺麗な紫色の石のネックレスを差し出す。
「これは・・・?」
「厄払いの石よ。貴方を不幸や事故から守ってくれるわ。」
その石は、何処か妖しく輝いている・・・
「お母さんやお父さんには内緒よ?誰にも見られてはいけないわ。」
「わかった!」
「貴方が大きくなって、また出会ったときは、その時は————」
その言葉の途中で、落下する感覚に襲われた。
目を覚ました後に、自室の玩具箱を引っ張り出して漁った。その中から中身の見えない、細長い箱があった。その箱には、パスワード式の鍵がかかっていた。その鍵に自身の誕生日を入力し、解錠した。中からは、全く色褪せていない妖しく輝く紫色の石が着いたネックレスが出てきた。
次回へ続く