ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~ 作:femania
「ふぇー、アルフォンスさん!」
吉報は急に訪れた。どこかに飛ばされてしまった伝書フクロウが、自力でアルフォンスを見つけ情報を届けに来てくれたのだ。
「フェー、何か分かったのかい?」
「はいぃ、まず、フィヨルムさんはもうすぐ合流できると思われます。向こう側でも、心強い援軍が来てくれました」
「援軍?」
「フリーズさんとスリーズさんが来てくれたんです!」
「スリーズ……本当に?」
「はい。その……見間違いはないかとぉ」
「そうか……スリーズ王女が……」
スリーズとはムスペルとの戦争の際に命を落としたはずのニフルの王女である。これで死人が2人目登場したことになるのだ。違和感は拭えない。
それについて聞こうとレーギャルンの方を向いたアルフォンスだったが、先にレーギャルンが口を挟んだ。
「その話は後ね。それより、シャロン王女とエクラについては?」
「ふぇー、お2人はまだ城下街に残っているそうです……先ほどの少女を見つけると」
「……そう」
アルフォンスはつい来た道を望む。
本当であればアルフォンスも戻りたかった。この場をレーギャルンとレーヴァテインに任せ加勢したかった。
しかし、それはできない。今後ろについてきている多くの人間はアスク王国の住民。たとえ少ない数でも、守るべき民たちである。そんな彼らを王族として見捨てることはできない。
エクラも、アルフォンスは民たちと行くべきだ、と進言したのだ。あの子は必ず連れていくと。
故にアルフォンスは親友である彼を信じた。必ず帰ってきてくれると。
至天の世界の国と国は門を境に分かれている。門を先に急に天候が変わるのも至天の世界の特徴である。
今アルフォンス達がムスペルの王女たちと共に向かっているのはニフル王国。そこにこの地獄をなんとかするための方法があると聞いて。
「しかし、ナーガ様か」
神竜王ナーガ。数々の世界で最高神と同格の存在として伝承に記されている存在。
アルフォンスが昔見た伝承の1つでは、異界を監視し、滅びそうな世界に手を差し伸べ、人々の良き営みを守る善神であると解釈されている。そこでは、ナーガとはその責務を負うことになった神の称号であるという説もあった。
「……レーギャルン、君はもしかすると」
「ええ、私は異界のレーギャルンと言うべきでしょう。そして妹も。それに、先ほど言ったスリーズや一緒に居るとされるフリーズも、ナーガ様によってこの世界に召喚された異界の存在」
「……そうなのか」
アルフォンスの表情が曇る。
「きっと、君がいれば、たとえ異界の存在だとしても、喜ぶよ。フィヨルムは」
この世界のレーギャルンは死んでいる。最期に妹を助けてほしいという願いをフィヨルムが受けたのだ。フィヨルムは、本当は助けたかったのに、結局は助けることはできなかった。その後悔がどれほど大きいものだったかをアルフォンスは知っている。
彼女にとっては、レーギャルンが助かったという事実がある世界があることが、自身の無力を感じてしまうきっかけになってしまうのだろうとも思った。
「悲しい顔、するな」
アルフォンスの様子を見て、反応を示したのは、妹のレーヴァテインだった。
「私の世界、フィヨルムいない。姉上、ずっと後悔していた」
「え……?」
レーヴァテインは、自身の世界の出来事を語る。
「ナーガ様に聞いた。この世界、姉上いないと。それをフィヨルムずっと後悔してるって。逆だ、私たちの世界と」
アルフォンスの知らない異界の結末。なんとフィヨルムは死んだという。
それを悲しそうに語るレーヴァテイン。
アルフォンスにとって、それは彼女の反応としては新鮮に映った。
アルフォンスは、自分の知るレーヴァテインよりも表情が豊かに思えたのだ。レーヴァテインもまた、この世界の彼女ではなく、異界の彼女であることを自覚する。
彼女を見てアルフォンスはこの世界のレーヴァテインのことも気になった。レーギャルンとは違い、この世界のレーヴァテインはまだ存命している。エンブラがムスペルやニフルに侵攻をしていた場合、無事であるかどうか。
「レーギャルン、君はムスペルが気にならないのか。この世界の」
「そうね……気にならないわけでないけれど、ナーガ様から、故郷に帰る事は堅く禁じられているの」
「どうして、ナーガ様はそのようなことを」
「それは……そうね……」
レーギャルンは妹を見る。その妹は頷くと、
「少し、長い話になるけど、ナーガ様のところへ向かうまでにはちょうどいい時間埋めになるかしらね」
レーギャルンは話を始める。異界の至天の世界において起こった出来事を。
シャロンとエクラは、先ほど逃げていった少女を捜索していた。
しかし、捜索は困難を極める。
「どこへ行ったんでしょうか……?」
「分からない……シャロン、前方に敵、こっち来て。隠れるよ」
「はい」
建物の影に隠れながら街を破壊しながら街中を進んでいる。
少女が死んでいる可能性も考えなくははなかった。
(少なくとも死体を見るまでは――。いけない。それはいけない。彼女は絶対に生きてる)
エクラは後ろ向きになっている自分を奮い立たせる。
美しかったアスクの街は破壊されている。もはや二度と元に戻らないだろうと思わせる参上だった。
それでも、どこかで生きているとエクラもシャロンも信じて、探し続けた。
「あの、ありがとうございます」
「シャロン?」
唐突にお礼を言われては、エクラもさすがに驚く。
「あの子を探しに行こう、なんて、本当はただの我が儘なんだってわかってたんです。でも、エクラさんはそんな私に命懸けで付き合ってくれている。それが私にはとても嬉しいです」
エクラはシャロンの言葉に、今できる限りの笑みで答えを返した。
「当り前だよ。だって、仲間だからね」
「エクラさん……!」
シャロンは嬉しそうに笑うと、
「私、こんなことしたのは、一緒にいた英雄さんじゃないって信じてるんです。だから、この異変と戦いたいです。なのでどうか、この異変が終わるまで、一緒にいてくださいね!」
と、エクラに向けて、短くはあるが、自身の思いを語った。
そしてエクラもそれに、しっかりと頷いて応えた。
そして再び少女を探そうとした、その時、
「うわああああああああああああ!」
悲鳴が聞こえた。それは間違いなく、先ほど逃げた少女の声だった。
「シャロン!」
「はい、行きましょう!」
本来はもう少し終末世界の英雄を警戒しなければならないが、エクラもシャロンも脇目もふらず一気に走り出す。
死体。違う。死体、あれは大人の形。
そしてしばらく走り続け、ようやく見つけた。
まだ生きている。そして、泣いている。
「大丈夫ですか!」
少女が涙ながらに振り返った。
その理由は明白である。少女の目の前には、と終末世界の英雄が卑しい笑みを浮かべながら立っていた。
次回 王女が憧れる英雄(3)