ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~   作:femania

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序章 9節 王女が憧れる英雄(3)

「……さて、表が出るか裏が出るか」

 

1枚のコインを取り出すその男は、見間違いではなければ、聖魔の世界のヨシュアという男のはずだった。

 

普段は軽薄な男を気取っている彼だが、その根は善良で誇り高い王族であり、凄腕の傭兵でもある。持つ剣は氷剣アウドムラという、彼の表裏のない生き方を模したような純粋透明な氷剣である。

 

もっとも、目の前のその男は別だということは間違いなかった。

 

持っている剣は血に濡れている。しかしそうとは分からないほどに赤黒く輝く水晶の剣。さらに彼の後ろには、多くの大人が死んでいた。その首を、胴体を綺麗に両断されていた。

 

「あ……お姉ちゃん、なんで……私、勝手に」

 

少女はシャロンを見て、困惑する。しかしその体は助けを乞うように、手を伸ばす。

 

シャロンは少女に寄り添った。

 

「大丈夫ですか」

 

「あの、その……」

 

「もう大丈夫です! 後は私にお任せください!」

 

エクラにはシャロンのその言葉が強がりであることが分かる。戦略眼を使うまでもない。声が震えている。先ほど自分に声を掛けてきた声と違い力強さがない。

 

当然だろう。相対しているヨシュアと思わしきその男から感じられる力。それはおおよそ人間の力とは思えない威圧を漂わせている。

 

「あいつ、あいつが、みんな殺して……」

 

混乱している少女を抱え、シャロンにアイテムを使いシャロンの力を底上げしたものの、その力の差は圧倒的だ。

 

「ぅぁぁ……ああああ……」

 

涙を流す少女をなだめながら、エクラはシャロンを不安そうに見守る。

 

そもそもHPの差がおかしい。向こう側のヨシュアのHPは420もある。一方でシャロンの現在のHPは40。

 

おかしい、とエクラは毎回思うのだ。どうして終末世界の英雄はここまでステータスが化け物レベルになってしまうのか。

 

しかし、謎の追及は今すべきことではない。今行うべきことは、この現状を切り抜け、少女を無事にアルフォンス達に合流させること。

 

「……お嬢さん。なんのつもりだ?」

 

ヨシュアの問いにシャロンは、槍を握る手を震わせながら答えた。

 

「わ……私は、あの子を助けるために、貴女と戦います」

 

「そうか。いい女だ、あんたは。弱くても心は清純で、どうもあのクソ王子よりも友達になれそうなんだが……まあ、これも仕事なんでね。今からあんたを斬るんだが、恨むなよ?」

 

ヨシュアは赤い剣ではなく、手の親指の甲にコインを乗せる。

 

「そんなお嬢さんは俺との力の差を分からない馬鹿じゃないよな? このまま戦っても俺に勝てないのは分かるはずだ」

 

シャロンは、頷きはしなかった。しかし、反論もしなかった。

 

「ぅぅぁぁ……」

 

涙を流す少女。その姿を見てシャロンは弱弱しい姿を見せまいと奮起している。

 

ヨシュアは構える。しかし戦いの構えではない。それはコイントスの構えだ。

 

「どちらを選ぶ? 表か裏か。お前が答えて俺が投げる」

 

「どういうことですか?」

 

「簡単なことさ。お前はコインの表と裏のどちらかを言う。そして俺はコインを投げる。お前らは3人。だから3回だ。お前が当たった分だけここから逃がしてやる」

 

「つまり……3回当てれば3回逃がしてくれるんですか?」

 

「ああ。賭けなよ。それくらいの遊び心は必要さ。この、くだらない殺しをするぐらいならな」

 

「どうして、そんなことをするんですか」

 

シャロンが怒っている。声のトーンでそれが分かる。

 

そして敵の男もそれを感じたのか、その問いに事実を返した。

 

「俺の世界の民たちの命がかかっている。俺とて、関係ない命を奪うのは気が進まんが、他の世界よりも国の民だ。悪く思うなよ。さあ、俺は今からお前を斬らなきゃならん。コインの表と裏を決めろ。3回分、まとめてな」

 

和解の余地はない。これまでの終末世界の英雄と比べ話はまともにできているが、結局意味はない。

 

シャロンは、考えることなく言う。

 

「3回とも、表で」

 

「いいのか。確率は普通に考えて八分の一だ。1枚裏の方が当たる可能性も高い」

 

「構いません。3回裏でなければ、それで十分です」

 

「いい答えだ。なら、祈れよ」

 

ヨシュアはコインを投げた。

 

1回目。表。

 

2回目。表。

 

「運がいいな。誇れよ嬢ちゃん。少なくとも、後ろの2人の無事は決まった」

 

「……」

 

「うーん、緊張するねぇ」

 

3回目。

 

裏。

 

この瞬間、ヨシュアが1人を殺すという事実は決まった。

 

「ああ、残念だな。お嬢さん」

 

「いいえ。これで、あの事エクラさんは逃がしていただけるのですよね」

 

エクラは信じられない言葉を聞いた。

 

まるでシャロンが、自身を犠牲にすることを許容するかのような言葉だった。

 




次回 序章 10節 王女が憧れる英雄(4)
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