ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~   作:femania

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序章 13節 選択の結末(3)

エクラは真実を継げないまま軍議に参加し、自身の方針を伝えた。エクラは戦力の一極集中に賛成したことが決め手となり方針もそのように確定する。

 

国民への今後の方針の説明はフィヨルムとスリーズが行うことになった。国民にはニフルからの援軍と説明することで一応の納得を促す。

 

本来はアルフォンスの仕事であるそれをスリーズが引き受けたのは、軍議の最後にエクラから伝えられた言葉。

 

シャロンを、終末世界の英雄から逃げるために置いて行った。その一言だった。

 

アルフォンスには気持ちを整理する時間が少しでも必要だろう。その配慮がありアルフォンスは一度休憩ということになった。

 

今はアルフォンスとエクラが2人で軍議の場に残っている。

 

「……ごめん」

 

エクラはただ謝る事しかできない。そして、彼女が最後に託したフェンサリルを差し出すしかない。形見である、その槍を。

 

アルフォンスは、その槍を受け取った後、顔を下に向け、エクラを直視することはなかった。

 

辛すぎることばかりだ。

 

恩人の死、そしてもはや生きていないだろう父母、さらに最愛の妹のあまりにも惨すぎる末路。

 

それでも立ち上がれと、誰が言えようか。

 

アルフォンスは爪で肌を切りそうなほどに握り拳に懸ける握力をさらに強め、歯を食いしばっている。しかし、涙は流さない。気丈な姿を見せ続ける。

 

「助けに行った……女の子は?」

 

「無事に連れ帰れた」

 

「……そうか。なら……よかった」

 

エクラはこの場でアルフォンスに殴られることも、何を言われる覚悟も、もはや殺される覚悟もあった。

 

故に、よかった、という言葉が、逆に怖かった。

 

「良く……ない」

 

「いいや、これでよかった。よかったんだ」

 

「アルフォンス」

 

「君は正しい。一番辛いのは君だ」

 

「違う」

 

頑なに否定するエクラに、アルフォンスはなおも言葉を返す。

 

「ムスペルとの戦いが始まるときに……シャロンは言ってたんだ。自分と君のどちらかしか助からないときは君を……君を、助けるって。有言実行だ。本望だったろう」

 

シャロンが、とんでもない覚悟を持って自分の隣で戦っていたことを、エクラはこの時初めて聞いた。

 

エクラの心にさらに刃が食い込む。胸が苦しくなる。今の自分など生きていても戦力にならないというのに、それでもシャロンは自分を生かすために戦ってくれたことが。

 

しかし、たとえそんな話をしていたとしても、エクラは反論する。

 

「本望なはずはない。死にたくなかったに違いない。手が震えてた! 泣きそうだった。そんな彼女を……死に追いやったのは」

 

「やめてくれ……、非の追及に意味はない。今はそれより」

 

「アルフォンス!」

 

アルフォンスは俯いていた状態からようやく顔を見せる。

 

涙をこらえていた。顔色が悪く、今にも吐きそうな顔だった。

 

辛くないわけがない。そんなこと誰が考えても分かるはずだが、エクラはアルフォンスの強がりとしか見えない言葉に騙されていた。

 

「アルフォンス……」

 

「……う、ああ……あぁぁ……すま、ない。大人げないな……ハハハ……」

 

アルフォンスの目からは、すでに涙がこぼれている。

 

「分かって……んだ……戦い……死ぬ……そんなの……分かってた……はずなんだ……」

 

しかし、アルフォンスは、泣き叫ぶことだけはしなかった。本当は泣きたくて、狂ってしまいたくて、楽になりたくて仕方がない。

 

しかし、現実逃避に意味はない。

 

民を生かし、アスク王国を取り戻すことが自分の使命だと信じているからこそ、アルフォンスは現実を受け止め、飲み込み、ただ今のこの軍をお維持するために、我が儘と思っている自分の意志を封じようと必死にこらえている。

 

その姿は痛々しいことこの上ない。

 

しかし、エクラには、アルフォンスを救う何かを言う資格はなかった。

 

「僕は、平気だ。まだ平気だ。まだ……戦える」

 

アルフォンスは、ふらつきながら立ち上がる。こぼれた涙を拭き、いつものクールな顔を見せようと顔を創る。

 

今のアルフォンスは既にボロボロだ。もう、発狂寸前と言っても過言ではないだろう。

 

「アルフォンス。その……」

 

「さ……行こう、そろそろ……出発、だ」

 

「休んで。罰は後で受ける。休んでくれ。代わりは」

 

「僕は……生きる。生きる。隊長が言っていた通り、血を吐いてでも、泥をすすってでも、屈辱に、試練に、たとえ誰を犠牲にしてでも生きて、いつかアスク王国を取り戻す」

 

アルフォンスは、エクラの方に振り向く。すでにすり減った精神を整え、声を張り上げる。

 

「行こう、エクラ。今は、戦う時だ」

 

「アルフォンス」

 

「僕は、平気だ」

 

そんなはずはない。あと少しでも彼の精神を追い詰める何かがあったら、アルフォンスは今度こそ、狂い始めてしまうだろう。

 

それくらいまで追いつめられている事は見て取れる。

 

しかし、今のエクラにそれを言う資格はない。なぜなら自分は元凶だから。

 

今の自分にできることは、今度こそ失敗はしないこと。軍師として、友として・

 

「ああ行こう。君がそう言うのなら」

 

エクラも立ち上がる。そして軍議のテントから外に出ようとした時、

 

「敵襲! 皆さん逃げてください!」

 

フィヨルムの叫び声が、街に響き渡った。

 




次回 14節 選択の結末(4)
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