ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~   作:femania

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序章 15節 選択の結末(5)

剣に宿るのは氷の魔力。未だ流動的な魔力の塊が剣に集中し、ギョッルが青く輝く。

 

フリーズは剣を振り下ろす。剣に宿った魔力が共に放たれた。

 

半月状に変形した巨大な斬撃が地面を割りながら、リョウマに向かっていく。

 

「……っ!」

 

斬撃波は通過した場所を一瞬で凍らせていく。

 

雷の刀によって受け止めようとしたリョウマは、その光景を見て込められた魔力量がこれまでと桁違いであることを察する。

 

しかし、斬撃はものすごいスピードで標的に向かっていて、体勢を崩している今のリョウマが躱すことはできない。

 

「ぉお!」

 

受け止めることを選んだリョウマは、今、神器に宿せるだけの雷を宿し、その斬撃に己の刀をぶつける。

 

瞬間に集めたその場凌ぎの魔力に対し、ギョッルから放たれたのは、精神統一の末に寝られ続けた氷の魔力の集約。

 

勝敗は明白だ。

 

たとえ相手が終末世界の英雄だったとしても、それを覆すことなどできるはずはない。

 

ビキ。

 

金属が割れる音が響き渡る。目の前から迫る物質量に耐えられず折れようとしている武器がある。

 

当然ギョッルではない、リョウマが持っているテュールである。

 

神器から放たれる強大なエネルギーの衝突は、激しい音を立てながらせめぎ合っていたが、もうすぐで、紫の雷を、氷の斬撃は飲み込もうとしていた。

 

フリーズはただ目の前の敵の行く末を見守る。

 

「剣技に精細さがなかった。故に生まれた決定的な隙。それを見逃すほどの容赦をかけるつもりはない。凍れ」

 

「ぉぉおおお!」

 

刀が砕け始める、リョウマの体は凍てつきはじめ、霜が体を覆っていく。

 

「ぉ……おお……!」

 

どれほどの気合を入れても、目の前の斬撃を押し返すことはできなかった。

 

刀が折れた。膨大な氷の魔力は目の前の侍を容赦なく飲み込み、そこで凝縮された斬撃は変質し、エネルギーを爆散させた。

 

遠くで見守っていたアルフォンスやエクラまで届く破壊力の残滓。

 

そして、その場にいた侍は、爆発の後の煙から出てくることはなかった。

 

「……さすがだ。間一髪で逃げたか。だが、上半身は両断した。しばらくは出てくることはあるまい」

 

エクラは信じられないものを見た。

 

それはエクラにのみ見ることのできる、戦いを数値化する戦略眼。

 

それで見て今の神器解放と呼ばれるものの攻撃を数値化した結果、135ダメージを与えていることが判明した。3桁という、これまででは考えられない攻撃力数値を見て言葉が出ない。

 

「あれが……」

 

「神器の力を解放する術。これ、あいつらと戦うのに必要。姉様も言っている」

 

「神器解放。エクラが奥義と規定している技を越える技ってことか……?」

 

アルフォンスが興味をもつのも当然である。街の中で圧倒的な差で敗北しかけた相手に圧倒的な力で勝利して見せたこの戦い。

 

その鍵が神器の力を解放することにあると知れば、アルフォンスも神器の使い手として、注目するのは、危機を迎えている身には至極真っ当な反応だ。

 

「使うなら神器はもちろん、きっかけと修業が必要。でも、できないことはない」

 

「なら……」

 

「ナーガ様に聞くと早い。お前そう言うなら、早くいくぞ」

 

「あ。ああ。そうだね」

 

既に話が出発に映っているのは、リョウマが連れてきた500人の兵士がほぼ全滅しているからだ。

 

その戦い方も、並みの人間とは思えないものだった。

 

藍色の剣士は剣から魔力を解き放ち、迫りくる敵を斬りながら、ものすごい勢いで吹っ飛ばしていく。兵士がもはや雑草を雑に引き抜いていくかのよう。

 

たいしてもう1人はそれほどの派手さはないが、敵から剣を奪い敵を斬り、槍を奪っては敵を突き、魔法を奪っては、その魔法で敵を倒していくという、万能な戦いをしながら確実に敵を屠り続ける。

 

兵士と、ナーガの使者である2人の力の差は歴然だった。言うなれば、人と竜巻の戦いと言っても良いほどの力の差であり、兵士に勝ち目はない。

 

エクラは、ナーガの使者の力に唖然とするしかない。

 

その中の1人であり、先ほど逃げているエクラを助けた藍色の剣士は、人柄であればエクラも良く知る人物だった。

 

イーリス聖王国、王女ルキナ。邪竜ギムレーを倒すため、滅びの未来から自身の過去に向かい、父とその仲間と協力することでようやく倒すに行った、英雄王の再来と言うにふさわしい、不屈の英雄として有名である。

 

そんな彼女が何故ナーガの守護者として現れたかは分からない。

 

しかし、自分が召喚したことのあるルキナとは別人であることは明白だった。

 

ステータスは総じて通常のルキナよりも圧倒的に高く、さらに、持っている武器が『天剣ファルシオン』という、見たことのない武器である。スキルにも、フリーズと同じで見たことのないスキルを持っている。

 

ナーガの守護者という話も、終末世界の英雄と戦うという話も、本当なのだと理解できる。そして、勝利を疑うしかなかったこの戦いに、一筋の希望は確かに存在することを実感した。

 

「皆さん、出発の準備ができました!」

 

フィヨルムが報告をしにここまでくる。戦場を見て彼女は驚いたのは、先ほど始まった戦いがもう終わったという事実を見てのことだった。

 




次回 16節 選択の結末(6)

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