ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~   作:femania

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序章 16節 選択の結末(6)

歩いて戻ってきた戦士3人。

 

その中で1人の男は、合流して早々に

「まったく、やけに強いな。あれで雑魚ではこの先は思いやられる」

としかめっ面になりながら、つぶやく。

 

「そんなことを言いながら、ずいぶん軽々と倒してたではないですか」

 

「そりゃ俺とてナーガとは長い付き合いだし、その程度はやってのける腕はついたさ。しかし……契約が終わってようやく解放されるかと思ったが、一方的な再契約でまだ働かされるとは、誰かあの神竜に人の心を分からせてやってほしいものだ」

 

「それは、ナーガ様の気持ちもわかります。あなた、優秀ですから」

 

「やめてくれ。君には遠く及ばない」

 

長い付き合いであることを他社でも感じられる内容の数々。

 

疲れた顔をしてルキナと話していたその男は、見た目こそかなり若い。

 

「お前がアルフォンスか?」

 

「そうだ」

 

「……今にも泣きだして死にそうな顔だ。俺でよければ引導を渡してやるが?」

 

「な……?」

 

ルキナが急な殺害宣言をした彼を慌てて止めようとする。アルフォンスは当然反論を述べた。

 

「僕が死にそうな顔など、失礼だが間違いだ」

 

「ほう? そうか。その程度の生意気な口が利けるなら、まだしばらくは問題なさそうだな。だが勝手な行動は控えておけ。お前が名乗り出ても、何もできないのだからな。命は大切にすることだ」

 

その男はその場を後にする。

 

侮辱を受けたことに若干の怒りを覚えるものの、アルフォンスはそれを事実であると受け止めるしかない。

 

「エクラ」

 

「何?」

 

「無様だね。僕らは」

 

自身を卑下する言葉などこれまで一度も使ったことのないアルフォンスが、その言葉を選んだことに、エクラは驚きを隠せない。

 

「アルフォンス」

 

「……行こう」

 

アルフォンスの表情はいつも通りだったが、エクラは通常との様子の違いを感じ取っている。必死に冷静を保っているだけ、いわゆる外側だけを綺麗に見せている状態だ。

 

しかし、エクラには今のアルフォンスにかける的確な言葉を持たない。

 

「うん」

 

ただ、アルフォンスの言うことに賛同することしかできなかった。

 

2人の様子をみていたフィヨルムはある恐怖を覚える。

 

いつか、あの2人の関係が破綻するときが来てしまうのではないかと。

 

そしてもしその時が来たら――

 

それ以上をフィヨルムは考えられなかった。

 

「フィヨルム?」

 

「姉様……」

 

「……大丈夫。私たちがついているわ。この世界の姉でないとしても、私はあなたの味方です。あの2人もきっと大丈夫」

 

「でも……」

 

「大丈夫です。あの2人は。それは、貴方がよくわかっているはずです」

 

異界の姉の言葉であっても、自分のよく知る声に、フィヨルムは焦り始めていた心を、落ち着かせることができた。

 

 

 

 

 

民の移動の準備は完了した。一応、襲撃してきたすべての敵を撃退したものの、すでに村の市がばれてしまった以上、長居はしていられない。

 

ここから、ナーガが待つとされる飛空場まではノンストップで行くことになっている。ルキナとレーヴァテイン、そしてフィヨルムが先行し、前方を確認する。

 

一方で、エクラとアルフォンスは、フリーズ皇子と共に、後ろで敵の警戒に当たっていた。

 

「アルフォンス王子」

 

「アルフォンスでいいですよ」

 

フリースの呼びかけに応えるアルフォンス。

 

「大丈夫か?」

 

「当然です。まだ、倒れている場合ではないので」

 

「……無理はしない方がいい。飛空城についたら、一度体を休めるべきだ」

 

「お心遣い感謝致します」

 

サバンナ地帯を歩く避難中の大集団。当然目立つ。それをたった10人程度で守ろうというのだから大変なことである。可能な限り密集しながら、目的地である城へ住民たちは足を進める。

 

その間、アルフォンスとエクラに聞こえてくる言葉の中には、当然心を抉るようなものもあった。

 

「アスク騎士団は何をしてるのかしら」

「あーあ。何が英雄だよ。他の世界を当てにしているから、こうなるんだ」

「今までアスクに不信感抱かないようにして暮らしてきたけど。戦いが終わったら移住しようかな」

「そうだな。それが懸命だろう」

 

アルフォンスに聞こえるように言っているのか、もしくは聞こえているとは思っていないのか。

 

気丈であることを見せているつもりのアルフォンスに対して、エクラは既に我慢の限界だった。

 

誰のおかげで助かったと思っているのだと。当然、自分のおかげなどと欠片も思っていない。

 

アルフォンス、シャロン、アンナ隊長、そしてアスク王国の騎士たちが命を賭けて戦った結果が、絶望的な状況の中で2000人を生存させるという結果につながった。

 

無知であるが故にそのようなことが言える。戦いに勝たなければ完全な敗北、そのような常識ではない常識が、彼らには根付いているのだ。

 

「く……」

 

反論しようとしたエクラをフリーズは止める。

 

「やめろ」

 

らしくない命令口調。

 

「なんで……」

 

「我々がいくら弁をたてたところで、彼らは常に悪いものばかりを見るものだ。民を統べる王とその臣下は、民の言葉を聞きこそすれ、自分たちの意志を彼らに強要することは許されない」

 

「でも、それじゃ……」

 

「ああ、分かっている。アルフォンスには酷な話だ。だけど、アスク王国が民たちを守れなかったのは事実だ。こうして逃げ回っているのだから」

 

「……でも」

 

「アルフォンス達が頑張ったのは君が、そしてフィヨルムがよく知っている。だから気を落とす必要はない」

 

フリーズはエクラに、そしてアルフォンスにも聞こえるように言う。

 

「民を守るという役目を負った以上、敗北で民の心が離れるのは当たり前だ。だが、それはそもそも人の範疇を超えた仕事でもある。だから失敗することを奨励はできないが、たとえ今の状況でも決して君たちは間違っていない」

 

フリーズ皇子もまた一国の皇子だった存在。彼なりに理解の及ぶ範囲で、アルフォンスを弁護したのだ。

 

それを聞いた住民には、ただの言い訳に聞こえることだろう。

 

しかし、これは言い訳をしたのではなく、アルフォンスやエクラを理解している人間が確かに存在することを、フリーズは明言したのだ。

 

一瞬だけ、ほんの少し唇の端を吊り上げたアルフォンス。

 

「さあ、もうすぐ、ナーガ様が待つ飛空城に到着するぞ」

 

既にアルフォンスと、エクラの目の先には城の姿が映り始める。

 




次回 17節 選択の結末(7)

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