ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~   作:femania

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序章 20節 選択の結末(10)

エクラは戦慄せざるを得ない。今のロイ、その実力を自身の戦略眼で測ると、信じられない数値をたたき出している。

 

ロイ HP780 攻 150 速 100 守 72 魔 65 

武器 将剣デュランダル

 

またも見たことがない武器を持っているが、それ以上に驚くべきは、そのスキルにあるだろう。

 

スキルA 烈火

自分から攻撃時、自身の攻撃力が2倍になる。

スキルB 超人智の秘儀 

相手の絶対追撃を無効。自身の攻撃は2回攻撃になる。

スキルC 理想郷の領主

将と名のつく武器を使う味方(自身を含む)は戦闘時、HP以外のステータス+20

聖印 八神将の加護

自身以外の八神将が3人以上生きているとき、神竜種以外から受けるあらゆるダメージは0になる。

 

そんなもの人がどうやって倒せばいいというのか。はっきり言って以前戦ったスルトなど話にならない。その雰囲気もあふれ出る魔力も、目の前のロイの方がはるか格上だ。

 

スルトを相手にしてなんとか勝利したエクラたちにとって、目の前の存在が敵となったらいったいどうやって戦えばいいというのか。

 

しかし、それは戦わない者としての話。実際前面で戦う者。

 

フィヨルムは体が震えている。この前、ようやく凄まじい強敵だったスルトを倒したばかりで、それよりもはるか強いものを前にすればその反応もやむを得ない。

 

「フリーズ兄様!」

 

悲鳴のように兄の名を叫ぶフィヨルム。フリーズも目の前の敵の強さが分かっていないはずがない。

 

ロイは呆れた顔を見せ、

 

「ナーガ。君は彼らに僕らと戦う運命を進ませようというんだね」

 

「当然です。それが私の役目。あらゆる異界を守る神の権能を授かったナーガとしての役目なのですから」

 

「だが、たとえ君が戦うとしても、アルフォンスやエクラが戦わなければ意味はない。彼らは戦う意思を持ち続けられるかな? そして僕らを倒せるのかな?」

 

「戦力であればこちらも十分あります」

 

「では、ちょうどいい機会だ。試してみよう。僕らの持つ神将器の本来の力を見せる。ちょうど新しい神将器の使い手が見つかったんだ。ミレディやシャニー、ティトはマルテを使うと自分のドラゴンやペガサスが飛びにくそうだと断られてしまってね」

 

シャニーやティトと言う名前をエクラは聞いたことがある。前は共に戦ったこともある。確かに封印の世界の出身だ。

 

「氷雪の槍マルテ。この場は冬となり、吹雪の舞う極寒の世界へと変貌させる。さあ、その力見せてほしい。僕らの世界を守るために」

 

ロイは剣を構える様子はない。

 

フリーズは剣を構える。透き通った氷と黄金で模られた神器、ギョッルはこれまでにない輝きを見せているように錯覚するのは、ナーガの力が宿っているからだろうか。

 

あの王子であればニフル王国最強と言われても嘘ではないだろう。現に、終末世界のリョウマと思われる男と正面から戦い、敗走させるに至ったところをエクラは既に見ている。彼の力を未だに信じられないと言うことはない。

 

――しかし。しかしだ。

 

エクラはそれでも彼の勝利を信じられなかった。

 

ロイの先ほどの言葉は合図だった。

 

アスク王国の中では比較的暖かい気候であるこのサバンナ地帯。それが、たった一瞬で。

 

本当にたった一瞬で、地面ごとすべてが凍りついたのだ。

 

「これは……!」

 

目を見開くナーガ。その視線はロイではなく、その後ろに現れた1人に向いている。

 

髪が長い。黄金色のしなやかな頭髪。目は保護の為か、氷でできているようなゴーグルで覆われている。

 

エクラは、仮に目が見えなくとも、その体形から、女性であると予想する。鎧のつくりがフィヨルムと同じ女性用のものに近かったからだ。水色と白を基調とする軽鎧を身に纏っている。

 

「……逃げなさい」

 

ナーガの声が震えている。アルフォンスが、なぜ、と問う前に、

 

「アルフォンス、エクラ! 早く飛空城へ逃げなさい!」

 

急に声を荒らげるナーガ。目にしわが寄っているのは怒りからではなく余裕がない証。ナーガから見て、新たに現れたその女性が、自分たちを逃がすほどの脅威であるという事を示している。

 

「早く!」

 

しかし、足を動かすより先に、膨大な力の増幅が感知できる。

 

圧倒。圧殺。

 

アルフォンスや、フィヨルムがいの一番に感じたのは、己の死の予感だった。

 

魔力は白と青が混ざった魔光の濁流となる。地面ごと吹き飛ばすほどの勢いで、たった一瞬で城を流し破壊するたった一撃による、必滅の運命。

 

フリーズは跳躍しその濁流から身を守った。

 

そして城を、フィヨルムやその仲間を守るように、氷の城壁が展開される。濁流は城壁とぶつかり、目の前で街一つを破壊しても不思議ではないほどの爆発を起こす。

 

壊れた城壁の隙間から襲い掛かる暴風。その余波だけで体が持っていかれそうになるエクラ。

 

「エクラさん、捕まって!」

 

レイプトを地面に突き刺し、自分の安定を図っているフィヨルムがエクラの手を掴む。

 

「ありがとう! フィヨルム」

 

「お気になさらず!」

 

ナーガが自身の魔力を使い、破壊された城壁を復元する。

 

フリーズがたった一瞬でそれほどの防御壁を展開できたことにも驚きである。これほどの大規模な魔法を一瞬で展開できる時点で、もはや人間業ではない。

 

しかし、それよりも、その壁をたった一撃で城壁を破壊しかけた今の一撃の威力。人間が吹ければ、命を確実に滅する竜の息吹の如き威力だった。

 

「見たでしょう! 今の貴方では勝ち目はありません! すぐに城の中へ!」

 

ナーガの再びの忠告。

 

それを素直に受け止め、エクラは飛空城へ行こうとする。

 

しかし、アルフォンスは動く様子はない。

 

「アルフォンス!」

 

「待ってくれ、僕らに何かできることはないだろうか」

 

「アルフォンス、ナーガは逃げろって」

 

「でも、でも、このままだと」

 

アルフォンスが恐れる未来。それは、間違いなく、フリーズが死ぬ未来だ。これ以上自分のミスで仲間を失いたくないと考えるアルフォンスは、どうにか加勢する方法を考えようとする。

 

そんなもの、今の自分達にはないというのに。

 

空中で氷のシールドを発生させたフリーズ。敵を見定める。

 

冷気を身の周りに漂わせ、神将器だろう厳かな槍を片手に、ただ城を見つめる女戦士。それを後ろで信頼して見守る獅子王ロイ。

 

狙いは飛空城。アスクを救う現状唯一の希望である飛空城を滅ぼそうとしているのは明らかである。

 

フリーズはそれが分かったからこそ、ゆっくりとこちらに歩いてくるマルテの使い手をそのままにするわけにはいかなかった。

 




次回 21節 選択の結末(11)

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