ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~ 作:femania
・連載小説初心者です。至らない部分はご容赦ください。
・話によって、一人称だったり、三人称だったりと変わります。
・クロスオーバー作品です。元と性格や行動が違うことがあります。
・この作品はシリーズのキャラに優劣をつけるものではありません。勝敗についてはストーリーの構成上、容認していただけると幸いです。
・この話はフィクションです。
・この作品オリジナルキャラも人物描写はスキップしている場合があります。言動を参考に想像しながらお楽しみください。
・作品はほぼオリジナル展開であり、オリジナル設定も盛り込んでいます。
・原作のキャラやストーリーに愛がある方は、もしかすると受け入れ難い内容になっているかもしれないので閲覧注意です
これでOKという人はお楽しみください!
空中に発生させた氷シールドを足場として蹴る。向かう方向はマルテの使い手。神器ギョッルが力を発露させ、フリーズの跳躍を援護する。神器の魔力は彼の進む道を作り、その速度を落とさないどころか、加速させていく。
1つの砲弾となったニフルの王子の渾身の一撃を前に、マルテの使い手は逃げることなく迎え撃つために槍を構える。その表情に決して揺らぎはなく、自身の無事を確信している。
激突。風が相克を起こしたのはその余波と言うべきか。
結果、フリーズが押し負けた。
槍の単なる横薙ぎと激突しただけであるはずなのに、フリーズの渾身の攻撃はその威力を打ち消され、あろうことか逆にはじき返されて、ぶっ飛ばされた。
信じられない、と言うフリーズの一瞬の驚愕を、マルテの使い手は逃さない。
凍り付いた地面から、氷でできた鎖が数十本も打ち出される。その光景は地面から人食い大蛇が何匹も襲い掛かっている様子を想像させる。
ギョッルを空中で器用に振り回し、鎖を斬っていくものの、数が多い。逃れられない。
脚に鎖が巻き付き、腕に鎖が巻き付き、フリーズは身動きが取れなくなった。鎖は神将のもとへとフリーズを連行する。
フリーズは鎖を斬ろうとするが、多くの鎖が巻き付いてしまっているため、動きは著しく制限され、鎖から解放されることはない。
マルテの使い手は空中でもがくフリーズに向けて再び槍の矛先を向ける。
そして。先ほど飛空城を破壊すべく襲い掛かった氷雪の魔力を宿す激流が、今度はフリーズ個人に向けられ、フリーズは飲み込まれる。
「兄様!」
フィヨルムが兄の無事を祈りながらその名を叫ぶ。
魔力の暴発。爆風が再び巻き起こった。そしてその中からその中から墜落するのは攻撃に身を晒すことになったフリーズ。
何かしらの方法で防いだようだが、すでに鎧の至る所が損傷を受け、生身の体が出ているところもある。
「がは……」
しかし、むしろ吐血で済んでいる事を賞賛すべきである。エクラはフリーズのHPが、今の一撃だけで残り6割を下回っていることが分かる。
「ダメだ……助けないと!」
アルフォンスは戦場へ身を投げ出そうとしている。自分には何もできないことは分かっているのに、ただ死ぬのみであることは明らかなのに、このままではフリーズが死んでしまうからと、アルフォンスは駆け出した。
完全に冷静さを欠いている。
「アルフォンス、行ったらだめ!」
エクラはアルフォンスを引っ張り、止めようとするが、
「離してくれ、このままじゃ! このままじゃ王子が死んでしまう!」
アルフォンスはエクラを振り切って向かおうとする。
いつものアルフォンスらしくはない。王族のとしての義務感を持ち得ているからこそ、己を律し、全体の幸福のための冷静な決断ができる聡明な男のはずだと、エクラは思っている。
しかし、今はどうだ。
戦いは始まったばかりであるが、すでに父も母も生死が分からず、妹は命を落とし、恩人は自分のために、命をなげうった。
それがアルフォンスの感情を昂らせ、理性的な判断力を鈍らせている。
大丈夫だ、先ほどエクラにそう言ったが、もはやそれは嘘だと分かる。今のアルフォンスはフィヨルムに同じ思いをさせたくないという優しさから行動しているのかもしれない。
しかし、自分の命を、この状況で、あまりに軽く見すぎている。あるいは、蛮勇でも理想を求めすぎている。
「アルフォンス!」
「離してくれ! エクラ! 僕はこれ以上は」
その不甲斐ないアルフォンスを諫めたのは、親友ではない。
「アスク王国王子! 喚きたてるな!」
フリーズが、ふらつきながらも地面に剣を刺し、それを軸に立ち上がろうとしている。
「フリーズ王子、時間は僕が稼ぐ! それくらいなら」
「思い上がるな!」
厳しい言葉だった。フリーズ王子に対して抱いていた印象からはとても想像できない怒声だった。
「お前に助けられることなど何もない! 己の弱さを噛みしめろ! 国を守れなかった今のお前のことなど、誰も頼りにしていない!」
「そんな……でも、だから行動を」
「思い上がるな。今は弱さに耐えろ。アスクを救う義務があるからこそ、たとえに何を失っても、何に裏切られようとも、今は生きろ!」
フィヨルムも今にも兄に加勢したいだろう。しかし、アルフォンスのために歯を食いしばって耐えている。
しかし、その声は届いていない。アルフォンスは既に狂い始めている。
「違う。特務機関の一員として、命を賭けても誰かを守るのが使命だ! エンブラの時のように、これ以上死人を増やさないために最善を尽くす。それが僕らの使命だ」
目をそむけたくなる悪あがき。誰もが今のアルフォンスに感じてしまう後ろ向きな感情。
その瞬間、城から駆けてきたのは、先ほどルキナの隣にいた謎の男だった。一瞬で城とアルフォンスとの距離を詰めると、アルフォンスを殴った。
意識を奪う寸前の打撃。かなり素早く、フィヨルムもただ見ることしかできない。
その男はエクラに、
「すまないな。うるさいガキを黙らせた。連れていくのはお前に頼む、俺はナーガに話があるのでね」
ナーガはその謎の男を、
「ネームレス、どうしたのです」
と呼ぶ。エクラは初めてその男の名を知ることになる。
「なんで……」
アルフォンスの疑問に答えることなく、ネームレスと呼ばれる男は、ナーガの元に駆け寄った。
「エンブラの軍勢が後少しで到着する、俺が時間を稼ごう。転移の準備をしておけ」
「分かりました」
ネームレスは姿を消した。ナーガはそれを聞くと、
「エクラ、アルフォンス、フィヨルム。魔法であなた達を城の中へ飛ばします。転移の間、ひどい酩酊感が発生するかもしれませんが気を確かにしてください」
ナーガは魔法の準備を始める。
アルフォンスはそれを拒み、体全身が痛みで麻痺している中で、未だ動こうとするが、それをフィヨルムとエクラが2人で抱え上げ、
「アルフォンス様、行きましょう」
アルフォンスにとって非情ともとれる宣言をする。
そして心配そうに、否、もはや今生の別れを覚悟した目で、今にも倒れそうになりながらもマルテの使い手を睨む兄を見た。
「フリーズ兄様! どうか」
負けないで。それが言葉になることはない。
次回 22節 選択の結末(12)