ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~ 作:femania
何かの間違いかと、トリガーを再び引いたが、何度やっても、英雄が召喚できない。
「嘘だ……」
こんなことはこれまでなかった。誰か英雄はこの召喚の要請にこたえてくれたはずなのに。
「ふぇー! なぜですか。いったい……」
「フェー、これは?」
「ワタクシにも分かりません……こんなことぉ」
「アルフォンスに訊いてみるしかないか?」
しかし合流はできない。すでに兵士には見つかった。逃げることもエクラの身体技術ではできない。戦うか死ぬか。
「フェー。今までありがとう。逃げるんだ」
覚悟を決めるしかない。
「そんな、そんなことできません」
「いいから。誰かに守ってもらって。フェー」
「ふぇー、でも、今までお世話になった召喚士さんを見捨てることなんてできません!」
「大丈夫だから。行って!」
「ふぇー……」
エンブラの戦士は、剣を振りかぶり、槍を持ち、それぞれがエクラを殺すべく迫る。
エクラも死ぬのは怖い。しかし、幾度とない戦争が一般人である彼を、心意気だけでも立派なアスクの軍人に変えていた。
だからこそ、フェーを、特務機関の重要な情報収集係を死なせないために、犠牲になるしかないと思ったのだ。
「ふぇー! ふぇー! ふぇー!」
飛び立とうとフェーは翼を広げる。
しかし、その必要がなくなったのは、エンブラ兵を止める声が、戦士の後ろから響いたからだ。
「やめなさい……」
その声、エクラには聞き覚えがあった。
「ヴェロニカ皇女……?」
エクラに迫る戦士を止めたのは、エンブラの皇女であるヴェロニカ。今まで何度も激闘を繰り広げてきた、アスクの宿敵だ。
しかし――。
(HP680……? なにそれ!)
自分の目が狂ったかと一瞬思った。今のヴェロニカ皇女はそれほどに強い何かを秘めていたのだ。
そしてそんな数値で見なくても、今のヴェロニカ皇女が今までと違う力を持っているのは明らかだった。彼女の使う魔導書が、いつもにまして怪しく輝いていたのだ。
そして彼女自身も、いつもと同じようで、どこか違う雰囲気だった。
「こっち……来なさい」
ヴェロニカの誘いを受け、エクラは一瞬悩むが、今のエクラに抗うだけの力はない。エクラは素直に、ヴェロニカ皇女の指示に従い、その先にある、ホームへと歩き出した。
ホームは未だ綺麗に保たれている。フェーの止まり木にも、噴水にも、地面や上空にも傷一つついていなかった。
「ここがあなたたちの本拠地なのね。きれいだわ。ここはこのまま残しておきましょう……」
エクラは、ヴェロニカの近くにいる謎の騎士を見る。なぞというのはその騎士はほぼ透明で姿が詳しく見られないのだ。しかし、馬に乗っている事、巨大な剣を持っていることはかろうじて観察できる。
(HP340……。おかしい。何かおかしい……)
ここまでの数値だと、まるで目の前の2人が人間でないようにみえてならない。
そしてホームにはヴェロニカ皇女と、その騎士、そしてエクラとフェーしかいなかった。
「ふふ……怖い?」
「珍しい。笑うんだね」
「ええ。私はとてもきもちいいわ……だってアスクがこんなふうになってるんだもの」
いつものヴェロニカ皇女が言いそうな話だが、エクラは違和感がぬぐい切れない。
「ヴェロニカ皇女。なぜここに招いたの?」
本来であればエクラもアスクの人間、問答無用で殺す相手のはずなのだ。
それに対し、ヴェロニカ皇女は――
(……?)
違う。確かな証拠はないが、目の前にいるのはヴェロニカ皇女ではない。だからと言ってロキの変装かと言われればそうではない。敵を褒めるのもどうかと思うが、ロキの変身は自分が見てすぐに分かるもの程度ではないほど完璧だ。
瞳の奥に怪しい光を宿すヴェロニカはエクラに、底抜けに嬉しそうな笑顔を浮かべながらエクラに言った。
「宣戦布告……必要でしょ……?」
「君は誰だ……?」
「なにが言いたいの……?」
「答えてくれ」
「……物好きね。でも……あなたの予想と少し違うわ……」
ヴェロニカは愛用の魔導書を掲げ、魔力を放出する。
「私は、ヴェロニカ……それであってるわ」
「でも……君は」
「ええ。今はある人と……協力しているの。アスクを滅ぼすために。それだけの違いよ……」
「ある人……?」
エクラはそこから先を訊こうとしたが、それ以上をヴェロニカは許さなかった。
凄まじい魔力放出の影響が暴風となり、エクラに襲い掛かる。
「ふぇー!」
伝書フクロウは吹き飛ばされ、エクラもかろうじて前に体重をかけ続けるのが限界だった。
「あなたにはもっと……聞きたいことがあるはずよ?」