ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~ 作:femania
「ふぇ……」
ぱたぱた。ぱたぱた。
その部屋の前を飛びながら心配そうな顔つきで、その伝書フクロウはその部屋を見つめる。
既にアルフォンスと会わなくなって一週間。
話を聞くと、エクラやフィヨルムもアルフォンスと1週間顔を合わせていないようで、部屋に引きこもったままだという。
これまでのアルフォンスのことを考えるとこれは決してあり得ないことだった。
「アルフォンスさん……」
フクロウは今日もその部屋の前で、アルフォンスが出てくるのを待ち続ける。
情けないのは分かっている。
本当はすぐにでも部屋を飛び出し、自分の故郷のために戦わなければならないことは自覚している。
しかし、アルフォンスは動けなかった。
ここを出るのが怖かった。
ここまでの旅路で自分ができたことは何だったか。特務機関として、人々を守るために自分ができたことは何だったか。アルフォンスは思い返す。
アンナ隊長を見殺しにした。
街の人間を避難させるために戦おうとしたものの、終末世界の英雄に歯が立たず、自分が情けなく逃げるしかなかった。
ある少女に言われた。アスク王国は他の国の英雄を頼ることでしか自分の国を守れない無能集団だと。
そもそも、英雄召喚という力に頼り切っていたからこそ、怒ってしまった悲劇なのかもしれない。つながってはいけない異界に接続した結果、あの恐ろしい敵が現れてしまったのではないか。
そして、シャロンとエクラを別行動させた結果、シャロンは敵の手におちた。そして今は敵となってしまった。あの時止めていれば、こんなことにはならなかった。シャロンは無事だったかもしれない。
醜い自分を自覚する。シャロンの件はエクラのせいだと、エクラが憎いと思ってしまった自分が本当に嫌になる。
そして、フリーズ王子に言われた。今の自分にできることは何もないと。
そう、何もない。
無力な自分にできることは何もなかった。
死ぬのを恐れているわけではない。しかし、その死が無為になるのが怖い。さらに、自分が出て死ぬだけならまだしも、自分のせいでむしろ状況を悪化させるのが怖い。
手が震えている。
アルフォンスは、情けない今の自分を、弱気になっている今の自分を誰にも見られたくなかった。
「……く……」
歯を食いしばっても、部屋から出る勇気は湧かなかった。
「まもなく、聖魔の世界につきます」
ナーガの座する飛空城の管理室。そこにエクラは来ていた。他の人間はいない。もうすぐ来る出撃の準備で駆け回っている。
「緊張、しますね」
「アルフォンスは?」
「今回は無理だと思います。毎度持って行っている食事には手をつけているようですけど。話すこともままなりません」
「精神異常を起こす攻撃でも受けてしまったのでしょうか……そろそろ立ち直っていただかないと」
「もう少し様子を見させてください。アルフォンスにとっても故郷を失うのは初めてのことです。きっと私の何十倍もショックを受けている」
「優しいのですね。エクラ」
「いいえ。さすがに不甲斐なかったら言います。けど、今は信じます。アルフォンスは気持ちの整理をつけているだけだって」
「そうですか……」
ナーガは聖魔の世界の大陸地図を出した。
「広い……」
「かつて、聖魔の世界に行ったことは?」
「あります。けど、大陸を旅したことはまだ」
「そうですか」
ナーガはそれを聞くと、聖魔の世界について語り始める。
「古来より、聖魔の世界には魔物が存在します」
「魔物?」
エクラが思い浮かべるのは、昔、ファンタジー系のゲームで敵ユニットとして出て来た異形の存在。
そしてその想像は、あながち間違いではなかった。
「ええ。この地には魔王という悪が存在し、勇王エフラムが率いた連合軍がそれを討伐した。それが正史世界に伝わる、聖魔の光石の伝説」
エクラもそれは断片的に聞いている。エフラムやエイリーク、ターナ、ヒーニアスといった当事者から、当時の話をしてもらったことがあった。全員が過酷な戦いだったと言っていたのも覚えている。
ナーガは大陸の中央から順番に、国々を指さす。
大陸中央に存在する、ルネス王国。地図上ではその左上に存在するフレリア王国。ルネスの右側に広がる砂漠のグラド王国。その上に存在するロストン聖教国。そして大陸の下半分を支配するグラド王国。
「これから向かうのは聖魔の世界ですが、それでも終末世界です。そもそも先ほど挙げた5つの国が存在するかどうかもわかりません」
そこで思い出すのが、終末世界から来たと思われるエフラムのことを思い出す。
正史世界の彼とは全く違う、残虐が形になったような男だった。アンナ隊長の仇でもある。
終末世界では、何もかが未知数だ。
エクラは飛空城やナーガの話を聞きながら、終末世界について、少し予習をしていた。
異界と言うのは数多い。平行世界と言うにはすこし表現が違う。平行世界は自分達のイフが形になった世界のことだが、異界は、イフでできた世界ではない全くの違う世界のことだ。
しかし、似ている世界はある。存在する人間は同じなものの、辿った歴史が異なる世界もある。それはアスク王国でも見受けられた。
例えば、カタリナという英雄を重複召喚して二人呼び出したことがあったが、一人は明るく、マルスやシーダと仲良くしていたのに対し、もう一人は、少し影があり、マルスとは距離を取っていた。
話を聞くと、辿った歴史が違うことが分かる。一人目は、最終的にマルス率いる連合軍の一人である、クリスという英雄に、命を救われたのに対し、もう一人のカタリナは、一度裏切りで分かれた後、二度とその世界のクリスに会うことはなかったという。
正史世界の異界であっても、見た目が同じ人間で辿った歴史が大きく違う。
それが終末世界ともなれば、自分たちが知っている英雄とは全く違うと考えたほうがいい。
そして、ここからはエクラの予想になるが、終末世界とわざわざ断定されたということは、人の違いだけでなく、正史世界との何かさらなる大きな違いがあるのではないかと思っている。ナーガの言うように国が存在するという保証もないのだ。
「今分かっているのは、あのエフラムが敵だと言うこと」
エクラの言葉に、ナーガは頷く。
「そうですね。おそらくあの世界に姿を現したというエフラムが、これから向かう聖魔の終末世界でも敵として立ちはだかるでしょう」
「そういえば、飛空城は聖魔の世界にどのように到着するのでしょう?」
ふとエクラは、そんな問いをナーガに投げかける。
これから聖魔の世界へと向かうという前提で、話をしていたが、そもそも到着の際に何か影響があるのではないかと、ふと心配になったのだ。
それに対してナーガは落ち着いて答えを返す。
「飛空城は、その世界の空に到着可能です。その世界についたら、私の力で、地上まで飛ばします」
「つまり、飛空城が襲われる可能性はないと?」
「相手が対空手段や空を飛ぶ存在がいれば別ですが、あなた方が避難民を心配する必要はありません。あなた方は、ファイアーエムブレムの探索に集中してもらえるよう、私も配慮します」
「なるほど、それはありがたいです」
すると、ナーガはエクラの腰に手を伸ばす。腰につけたブレイザブリクを取り出し、手に持った。
「そうだ、あなたと二人で話をする機会ですから、この神器についても少し注意をしておきましょう」
「注意?」
「アスク王国は特殊な環境なので、同じ英雄が二人いるということがありましたが、これから向かう異界では、召喚に制限があります」
「その……でも、そもそも召喚ができないんですけれど……」
「召喚の是非については私が何とかしてみましょう。アスク王国では、黒幕の影響力が強かったですが、距離的に離れた今なら、私の力も少しは効くかもしれません」
「本当ですか?」
「しかし、これから向かう異界では同じ人間は二人以上その世界に存在できない。これは異界での召喚における絶対のルールです。さらにはしばらくは異界では縁の深い英雄しか召喚できないでしょう」
これから向かう聖魔の世界では、召喚できるのは聖魔の世界の英雄として認識されている英雄のみ。そして、今から向かう世界に例えばエイリークがいる場合、異界のエイリークを神器によって召喚はできないということだ。
ナーガは何か呪文を唱え、神器に魔力を注いでいる。
少し時間がかかるのだろう。しかし、もし召喚ができるとしたら、それはとても心強い味方となるので、ここは心して待つことにした。
「ふぇー」
馴染み深い白いフクロウが飛んできた。
「フェー、アルフォンスは?」
フェーにアルフォンスの様子を見守ってもらえるよう、エクラは先ほど頼んでいたため、その結果を聞き取る。
「どうだった?」
「アルフォンスさん、今日もお元気がないようですぅ……」
「そうか……」
「うう、アルフォンスさん。わたくし、本当に心配です」
「ごめんね、フェー」
「いえいえ、だめですよ。エクラさんは悪くありません。どうか、落ち込まないでください」
今はこんなフェーの言葉でも、エクラはとても元気が出る。
その時、神器が光った。
「……これは?」
「どうしたんですか? ナーガ様」
「ふふ、そこのフェーが来たら急に神器に術の入りが良くなりました。不思議ですね」
そう言いながら、神器をエクラに返す。
「さて、これで召喚も可能になりました。呼び出せるのは聖魔の世界の英雄です」
「これで……」
緊張の面持ちで神器を見るエクラ。
今の気持ちは、初めてアスク王国に導かれ、神器を渡されたときの気持ちに似ているかもしれない。
本当に召喚できるのか?
ただ一つそれだけが不安だった。
しかし、それは考えても仕方のないことだと自分に言い聞かせる。
自分には戦う術はない。できるのは味方のサポートと英雄の召喚だけ。ならば、せめて自分に与えられた役割から逃げ出してはいけない。
エクラはそう思い、ナーガの部屋を後にする。
召喚は可能な限り広いところで。飛空城で最初に終末世界についての説明を受けた広間へと赴いた。
今は誰もいないその地で、最初の味方を呼び出す。
遅れてフェーとナーガがその地にやってきたものの、エクラは意に介さない。
祈るようにして、神器の引き金を引いた。
何かが違う。今までのように無反応ではなく、これはアスク王国にいた時に英雄を召喚する瞬間に確かに似ている。
神器が、光り輝いた!
――目を開ける。
目の前には3人の英雄が立っていた。召喚は成功したのだ。
「素晴らしいです。エクラ」
神器によって呼び出されるのは、召喚したことのある英雄たち。何らかの影響でアスクから消えていた英雄たち。
「よお、なんか久しぶりだな。召喚士。再会を祝して、どうだ、ここはひとつ賭けでもしないか?」
ジャハナ王国王子、ヨシュア。
「……久しぶり」
女剣士、マリカ。
「お久しぶりです。もう一度あえて嬉しいです」
竜人の少女、ミルラ。
戦力としては申し分ない3人だと言える。
最初にエクラが英雄たちを見た時に、つい涙をこぼしてしまいそうになる。その強さ、頼りになる圧倒的オーラ、やはり英雄は偉大だと感じる瞬間だった。
「おいおい、どうした、そんな辛気臭い顔をして?」
ヨシュアに言われ、無意識にこぼれていた涙をエクラはふき取った。
「皆さん。力を貸してください」
エクラは真摯に、英雄たちにその言葉を言う。そして、英雄たちも何かエクラの危機を察したのか、それを拒んだ者はいなかった。
「またよろしくな」
ヨシュアの言葉を聞きエクラは一安心する。
しかし、一方で、ここでこの3人を呼び出せたと言うことは、終末の聖魔の世界では、この3人は既に死んでいるということになる。何もかもを喜べる状況ではなかった。
それでも、今はこの召喚に、エクラは感謝する。
癖で、英雄たちのステータスを見た。エクラにしか見えない数値化された英雄たちの強さを。
「……すごい」
ナーガの力か。それとも聖魔の世界に近い領域で召喚したからか、その強さは、本来は存在しないレベル50相当と言っていい。
そして、それぞれが見たことのないスキルや奥義を持っているのも、それが影響しているのか。
なんにせよ、これで戦いの準備は整ったと言っていい。
「そろそろ、聖魔の世界につきます。皆さんを集めましょうか」
「はい」
ヨシュア アウドムラの継承者
奥義発動時、自身の魔防の5倍の数値をダメージに加算する。
マリカ シャムシール・レディ
偶数ターン時に相手へ与えるダメージが元々の計算値の3倍になる。
ミルラ 神竜の加護
味方が受ける飛行特攻が無効になる。自身に【遠距離反撃】を付与。
みたいなものを一応考えてはいました。どんなふうに本編に反映させるかは、実際に執筆を始めてみないと分からないです。
今回で幕間は終了です。次回以降の幕間は少し長くなると思いますが、今回は、いち早くストーリーをすすめて、この先この連載がどんな感じで進むのかを把握してもらいたいと考えています。
次回 聖魔反転大陸 マギ・ヴァル 開幕です!