ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~ 作:femania
「エクラ!」
アルフォンス! と声には出さなかったが、頼もしい声が聞こえ、振り返ろうとする。
「伏せろ!」
しかし、親友から飛んできたのは再会を喜ぶ声ではなく、警告だった。
エクラは体勢が悪ければ吹っ飛ばされるところを耐え、何とか地面に屈む。
その頭上を、黒い炎が飛んで行ったのをエクラは確かに見た。
振り返る。エクラに新たな驚愕が走った。
アルフォンスが、血まみれになりながら、アンナに抱えられていたのだ。
そしてアンナから逃げるように、ふらふらと歩き出した。
「無理しちゃだめよ!」
アンナの叫びに、
「しかし、僕だけが弱気になっているわけにはいかないですよ、隊長」
と、徹底的に強がる姿勢を見せた。
「アルフォンス……」
「エクラ、無事でよかった……! く……」
アンナが警戒している先には、炎槍ジークムントを持ったエフラムが立っていた。
「すまない……英雄を」
アルフォンスが言いたいことはそこまでで伝わったが。
「ごめん。無理」
と、言い返すしかない。
「どうして……?」
「分からない。でも、英雄はどうしても召喚できないんだ……」
弱音を吐くしかないエクラ。申し訳なさで頭がいっぱいになった。その事実を告げた時のアルフォンスの顔は、今まで見たことがないくらいに絶望を感じさせる顔だったからだ。
そしてそんな彼らを守るアンナも限界を迎えている。
「よく耐えるな。正史世界の英雄にしては素晴らしい戦闘力だ。褒めて遣わす」
よく見ると、ジークムントが黒い。そしてエフラムもいつもの様子とは違う。
「く……」
そして、口ぶりから分かることは、アンナとアルフォンスはあのエフラムと戦っていたということ。そして2人がかりで挑んだアルフォンスとアンナに引けを取らないどころか、圧倒したということ。
エクラはそのエフラムのステータスを見た。
(HP450のうち残り412、他は攻撃力85 素早さ60、守備55、魔防50 勝てるわけない……!)
アルフォンスがさらにエフラムの槍を指さす。
「エクラ……武器を見てくれ」
「ああ、黒いね」
「本人はこう言っていた、魔槍ジークムント」
「聞いたことないよ?」
「あの槍、何か良くない力を感じる……恐ろしい槍だ……」
ヴェロニカはそれを聞き、ふふ、と笑い声をあげた。
「まさかあれも君の仕業か?」
尋ねるアルフォンスに、ヴェロニカは答える。
「私じゃない……彼が持っているのは、彼が彼の世界で得た力。終末世界のマギ・ヴァル大陸で人々を破滅へ追いやった魔王」
「馬鹿な……」
そんなことあり得ない。
アルフォンスもエクラもエフラムとともに戦ったことがあるからこそ分かる。エフラムは人々を虐殺するような人間ではないと。
「はぁ!」
凄まじい槍の刺突を、アンナは神器、ノーアトゥーンでかろうじて防ぐ。そして、反撃に転じるも、エフラムから放たれている魔の力が、ノーアトゥーンの斬撃すらも擦り傷程度に抑えてしまう。
「く……、はぁはぁ」
「正史世界を守る特務機関、ヴァイスブレイヴ。愚かな人間の最期のあがきを、俺が直々に見届けてやる。いくらでも足掻け、指一本動かなくなるまで可愛がった後、惨たらしく殺してやる」
「上等……じゃない!」
いつものエフラムが決して見せない笑み。悪の権化であることを示すような表情。アンナは再びそのエフラムに斬りかかった。エクラから見たアンナのHPは残り9.おそらく、次の攻撃が当たれば絶命する。
エクラは絶句するしかない。もはや、何もかもがわからない、そしてどうすればいいのかも。
「かわいいかおね……エクラ」
ヴェロニカが語り掛けてくる。
エフラム? がまさかの敵です。
この時点で何か変であることが分かると思います。
ここからが本番です。
ヴァイスブレイヴの敵はいったい何者なのか。
それが次回で明らかになります!