ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~ 作:femania
ヨシュアはたった1人、新たに現れたルネス援軍に向かっていく。
「無茶です!」
「まあ、そう言うな。姫さん。お前はエクラと一緒に挟撃した奴を始末しておけ」
フィヨルムの制止も聞かずにヨシュアは剣を構え突撃した。
相手方はたった一人飛び出してくるこの状況に、なんの躊躇もなく向かってくる。本来であれば罠や相手方の作戦を疑ってもいい状況であるはずなのに。
「おおおおおお!」
威勢よく突き出される黒騎馬兵の槍の刺突数十本を軽々躱しながら、卓越した剣技で敵型の息の根を止めていく。
「傭兵時代を思い出すな……」
そんな独り言を言いながら剣を振るうヨシュア。フィヨルムは改めて召喚される英雄の力を思い知る。
召喚された英雄は、全員が人離れした戦闘技術を持っている。その事実は知っているし、エクラと共にスルトと戦っていたことも見ていたはずだ。
しかし、当時は自分にも余裕がなかった。故に視界が広くなかったのかもしれない。フィヨルムは改めてそう思う。
たった1人の剣士に一隊は翻弄され、徐々にその数を減らしていく。
これ以上の混戦は不利と考えたのか、一隊長と思われる一騎の騎馬兵が残りその部下は撤退し始める。
「ヨシュア殿。我が王を裏切るおつもりか」
「俺がいつあいつの手下になったって?」
「何?」
「戦争を起こす側の国に加担する理由はねえな」
「エフラム様に命を見逃された恩を忘れるとは……そうか、ならば」
何の話か首を傾げるヨシュアに、一隊長と思われる男はヨシュアに襲い掛かる。
図らずも決闘の様相を見せる状況。
ヨシュアもそれに乗り、氷の剣を持って向かっていく。
騎兵と歩兵、当然馬に轢かれても、槍に貫かれてもヨシュアはアウトだ。対して、ヨシュアは馬を止めたうえでその一隊長と戦わなければならない。
状況は圧倒的に不利にも関わらず、ヨシュアに恐れている様子はない。
二人は接近し、遂に武器を交え始めた。
繰り出される槍の攻撃をわざわざ紙一重のところで躱すのは、相手の隙を狙ってのことだったが、その程度は相手も見越しているようで、一撃を見舞うとすぐに離脱する。
そして再び反転し、攻撃を再開した。
黒い槍を軽々と振るうその姿は歴戦の騎士であることを否応にも、見る者に思い知らせる。
「……どうも違和感がぬぐえないな」
しかし、ヨシュアもそれを躱し続け、全くの無傷だった。
もはや言葉はいらないと、黙って猛攻を続ける一隊長。その目には明らかな殺意が籠っている。
馬の推進力を利用した強力な攻撃を躱し、ようやく訪れた隙。ヨシュアは神器の剣を容赦なく足に叩き込む。
「……な」
堅い。傷は入れたものの、馬を崩すには至らなかった。
さすがに神器で馬の脚を斬れないのは予想外だったため、仕切り直しを図り距離を取ろうとした。
次の瞬間だった。
騎兵は手に魔導書を持つと、そのまま5つの炎を発生させ、すべてをヨシュアへと放つ。
「な……!」
さすがにこれは予想外だったのか、驚きの声を上げるヨシュア。炎はそのまま直撃したものの、神器の剣によりすべてを斬り裂き、事なきを得る。
「お前、魔法を……!」
「防がれたか……」
今まで余裕の表情を浮かべていたヨシュアの顔は険しく変化する。
「本当に、終末世界ってのは……厄介なところだ」
再びヨシュアは目の前の一隊長に向かい合う。
「カイル、魔法なんて使えたのか」
「……エフラム様に分け賜った力だ」
「ほう? お前に魔法を使わせるエフラムね……想像ができない分。興味深い」
その時、ヨシュアの隣にエクラが立った。
エクラは特効薬をヨシュアに使おうとしたが、
「いいって、それより、後ろの連中は片付いたのか?」
「ああ。レーギャルン王女はさすがだよ」
「そうか。これで心置きなく、神器持ちで畳みかけられるってもんだ」
既に、最初に襲撃をしてきたルネス兵は全滅し、この場の残りはカイルが連れてきた一団だけになった。
「……分が悪いか。一度他の兵団と合流する」
カイルは早々に今の状況を判断すると、引き返す。グラド兵はそれを追おうとしたが、
「だめだ。ここはいったんこちらも休憩と作戦の練り直しをしよう」
エクラの声が響き、グラド兵も立ち止まる。
「お見事でした。エクラ殿。勝手に指揮されたときは驚きましたが、貴方の指示は的確で素早い。この一団を任されているものとして精進せねばと思いましたよ」
エクラに話しかけるのは、グラドのアーマーナイト兵団を指揮していた一団長。
頭の鎧を外し、改めての挨拶をしてくる。
「グラド帝国軍、セレフィユ国境守備隊隊長ザールと申します。この度は帝国のデュッセル将軍の命の元、皆様をお守りするため、宿の前に陣を張らせていただきました」
「どうも……、こちらこそ、その、勝手に指揮をしてすみません。ついいつもの癖で」
「いえ、将軍より、皆様が戦場に立つ場合は、指揮官の力を測っておくようにと言われておりましたので。将軍より帝国の客将と聞いておりましたが、これほどとは。さぞ、リオン様も新たな戦力増強にお喜びになることでしょう」
エクラが手を差し出し、握手を要求した。
「では、その。できればあの将軍とお話がしたいのです。この戦いをお手伝いすればその機会もあるかと思いまして。どうか皆さんの力を貸してはいただけませんか?」
エクラには、なぜ自分たちがそれほど特別扱いされているのか、なぜ勝手に帝国の客将にされているのかなど、いろいろと聞きたいことがあったが、今は何も言わず状況の打破に集中することにする。
この戦いを生き残り、何か知っているだろう口ぶりだったあの老兵、これまでの話から推察するに将軍であるその存在にまた会うために。
「では、そのように。ではどちらに向かいましょう」
「ルネス軍を撤退させるにはどうすれば?」
「デュッセル将軍が敵将と向かい合っているはずです。敵将に痛手を与えればよいかと」
「それを手伝います」
「では、雑兵は我々にお任せください。なんなりと指揮を」
ヨシュアは目の前で強かに話を進めるエクラを見て、さすがだな、と笑みを浮かべていた。
次回 1章 3節 『セレフィユ防衛戦』-4