ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~ 作:femania
アルフォンスはかろうじて立ち上がり、すでに刃こぼれの激しいフォルクヴァングを構える。
「無様……いい気味だわ」
「ヴェロニカ皇女。いったい君は……何をした!」
この襲撃の核心に触れる問いを投げたアルフォンスの叫びに、ヴェロニカは寸分迷わず答える。
「決まっているわ……アスクを滅ぼすの」
「それだけじゃないはずだ。英雄の召喚ができないのも君の仕業だろう?」
「正しくは私たちの協力者の仕業だけれど……まあ、いいわ。そうよ、私たちの仕業」
そして、ヴェロニカは語る。このアスク崩壊を呼び起こした元凶と名乗る名を。
「麗しきエンブラの召喚師様。アスクじゃなくてエンブラを選んでくれた人」
(あのヴェロニカ皇女が、『様』をつけて人の名前を……)
違和感しかない言葉遣い。これもヴェロニカ皇女の異変の原因か、とエクラは予想した。
そして、いまだ謎に包まれる、気になる単語について、この場にワープで現れたもう一人が語りだす。
「ザガリア……!」
「アルフォンス。すまないな。これが……結末だ」
いつものように仮面で目を隠して、ただ冷酷に事実を述べる。しかし、その声は少し震えていた。
「お前達に力を貸す正史世界の英雄は我らの召喚師の力で世界留まれなくなった。それ故にお前たちは英雄を呼べなくなった。エンブラだけが使役できる英雄がいる禁断の扉を開けたのだ」
「扉……?」
「今この世界にやってこれるのは、終末世界、いずれ滅びを迎える世界における英雄たち。姿形は同じでも、正史世界よりも厳しい世界で戦い、それ故に凄まじい力を持った、本来伝承で語られることのない影の英雄たちだ」
「ザガリア、本気なのか……!」
ザガリアは俯き、そしてそのまま黙った。それ以上、何も語ることはないと言わんばかりに。
「エクラ……どう……すごいでしょ」
エクラは、短時間でまるでまた別世界に来たかのような感覚に陥った。ようやく慣れてきたこの世界で戦うのに慣れたばかりなのに。このような
「でも安心して、あなたたちはすぐには殺さない」
アルフォンスがふらつき、倒れそうになったのを、エクラは肩で支える。そのアルフォンスは決して意識を失ったわけではなく、その話に真っ向から向かい合う。
しかし、アルフォンスもまた、今の話を十分に飲み込めていない。
「君たちの言う終末世界……まさか、アスクで暴れているのは」
それにザガリアは答える。
「そうだ。本来とは違う道を辿った結果、この世界に語られる伝承とは違う結末に至った異界。その英雄たちが、今城下で暴れている英雄たちだ」
「その英雄と君たちは契約したと?」
「そうだ。そして、我々は前の君たちのように、すべてを打倒する可能性を手に入れた」
そこから先の言葉は言わずもがなだろう。
対して今のヴァイスブレイヴは味方となる英雄は1人もいない。この状況を打破する力を持っている戦士もいない。
ヴァイスブレイヴは既に敗北が決定的なのだ。
「……いいのか?」
「ええ……このままおわりはつまらないもの」
ヴェロニカはなにもしようとしなかった。
その代わり口を開いた。
「これは宣戦布告……」
アルフォンスは、その言葉の意味をしっかりとかみしめる。それは今まで戦闘状態だったエンブラからの改めての宣戦布告、つまり、この戦いですべての決着をつけるつもりだという意思表示である。
「戦線……布告……!」
「そうよ。アスクの王子。今は無様に逃げるのをゆるすの。その代わり、ちゃんと……私と戦うの。でも、英雄のいない今のままの貴方たちを相手にしてもつまらない。だから猶予をあげる。アスクは今終末世界に包囲されている。そんな世界の中でも、ブレイザブリクの召喚に応じる英雄はいるかもしれないから……」
「慈悲深いんだね」
アルフォンスの疑いを、次の一言が晴らす。
「にいさまのおねがいだから」
アルフォンスはザガリアを見る。しかし、ザガリアは、アルフォンスを見ることなく後ろを向き魔導書を上に掲げた。
「ザガリア……!」
「アルフォンス。俺達と戦いたければ終末世界を巡れ。この絶望に、アスクの滅亡という終焉になお、立ち上がり、お前達がヴェロニカを……アスクを救うというのなら」
魔導書は発動され、ヴェロニカとザガリア、そして傍にいた透明な黒の戦士は消えた。
「アルフォンス」
ヴェロニカが消え、地面に崩れ落ちるアルフォンス。
「く……」
エクラはアルフォンスのけがの具合を確認する。ダメージは負っているが、致命傷はないようで一安心する。杖の英雄が――。
「そうか……いないのか」
エクラはこういう時に人任せしかできない自分の無力さを恨むしかなかった。
アルフォンスは、傷口を押さえ、携行していた傷薬に目線を向けた、エクラはそれに気づき、傷薬をアルフォンスに飲ませる。
アルフォンスは一瞬だけ、いつもの凛々しい顔に戻った。
「ありがとう……これで血が足りそうだ」
アルフォンスは立ち上がる。そして、フォルクヴァングを持ち、アンナの救援に向かおうとした。
アンナももう満身創痍だったが、それでも何とか首の皮を繋いでいる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
未だ、傷一つないような顔で立つエフラムを見て、ふざけんじゃないわよ、と文句を放つアンナ。アルフォンスが復活したのを横目で確認すると、
「……アルフォンス、エクラを連れて逃げなさい」
「アンナ隊長、僕はもう大丈夫です」
「大丈夫じゃないわ。こいつ、勝てなさそうよ」
エクラは今のエフラムの残り体力を見る。
HP残り372。対してアンナは残り4。おそらく30秒と時間稼ぎもできないだろう。
そうなれば槍と相性の悪いアルフォンスが、エフラムと戦うことになってしまう。
「ですが! このままではアンナ」
「アルフォンス! ヴァイスブレイブの使命を忘れたの?」
いつもは起こらないアンナの、数少ない激怒の咆哮がアルフォンスを襲った。エクラもアンナの本気の時の声を始めて聞き、体が震えた。仮にも、軍の隊長だと実感した時には、もう時すでに遅すぎるものだったが。
アルフォンスは当然、これまでの恩人を見捨てる真似はできない。しかし、アルフォンスの聡明な戦略眼は、アンナの言うとおりにすべきだと言っている。ジレンマで体が動かなくなってしまっている。
「アルフォンス!」
「く……」
「しっかりしなさい! あなたはアスクの王子よ! あなたが負けたらこの国は終わるの! あなたは血反吐吐いて泥をすすってでも生きなさい! 今、アスクの希望は、あなたとシャロンだけなのよ!」
「ですが……僕には……」
エクラはどうすればいいか、これまでずっと考えていた。召喚すらできなくなった自分にできることは何なのかと。
しかし、無力な自分に選択肢はほとんどない。
唯一できることは――。
「アンナさん、今までありがとうございました!」
と言い捨てて、アルフォンスの手を引き、ホームから逃げることだった。
「エクラ……!」
「行くよ、アルフォンス!」
「ダメだ!」
「わがまま言うな。気に入らなかったら後でいくらでも相手になる!」
「僕は……僕は……」
歯を食いしばり、ようやく走り出すアルフォンス。
それを見て、アンナは言った。二人に聞こえているかどうかも定かではないが。
「これまでごひいきにありがとう……、 どこかで別の私に出会ったら……その時はサービスしちゃうわ!」
と叫ぶ。
「泣かせるな? 実に無様な人間らしい姿だ」
エフラムを名乗る暗黒の槍使いに、アンナは最後に意地を見せる。
斧の5連撃による『流星』。アンナの最大の奥義だ。
「行くわよ!」
――ホームに5回の斧の打撃、そして1回の空を貫く刺突の音が響き、それ以降、ホームからは何も聞こえなくなった。
これまで英雄たちと素晴らしく充実した時間を過ごしたはずのホームは、アスクとエンブラの最終決戦の始まりであり、そして、アスク王国を救うための、ヴァイスブレイブの長い旅の始まりとなったのだ。
ヴァイスブレイヴに過去最高の危機迫る!
これからの特務機関の長い長い旅をお楽しみください!
by トザキ
トザキ君の考えたファイアーエムブレムの世界を楽しみにながら執筆していきたいと思います。この作品もよろしくお願いします!
by femania