ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~ 作:femania
城内の制圧はデュッセルが率いる軍団に任されている。リオンも何か思うところあってか近衛とともにレンバールの中へと向かってしまった。
エクラたちはレンバールの外で待機。敵の援軍を警戒しながらも体を休めている。デュッセルの一団に何かがあればただちに中へと潜入して、戦闘を開始しなければならない。
「エクラさん、大丈夫ですか……?」
呼吸が少し粗いエクラをフィヨルムは心配し、傍へと寄って飲料を差し出した。
エクラはその心遣いに甘えそれを受け取り、のどに流し込む。
「いやあ、子供たちと遊んで少しは体力を鍛えられたんじゃないかって思ったけど、そうでもないみたいだ……」
「すこしお休みください」
「でもフィヨルムたちだって疲れてるでしょ? 戦ってもいない自分がくたびれてられないよ」
元気にふるまって、エクラは腕をぐるぐる回し元気をアピール。フィヨルムもそれを見て必要以上に心配はしなかった。
セライナは自分が最前線で戦っていたにも関わらず元気に部下たちに指示を出している。
それを見てエクラも負けてはいられないと、自分を奮い立たせた。
近くに座っていた借り受けの兵たちを労うため声を掛ける。
「おお、軍師さん。元気ですね。あんな強行軍の前線で指示を飛ばしてたのに」
グラド兵はなかなかに屈強である。さすがあの皇帝や黒曜石の部下である。
「皆さんこそ」
「いやあ、日々の訓練の方が厳しいものです。だからこそ戦場でもこうして気丈に頑張れる。厳しさの分の見返りを感じられますよ。……まだ新入りには厳しいみたいですね」
見るとアメリアが兜を脱いで、座り込んでいた。
かなり強引な戦いになったため、これほど消耗するのも無理はない。ましてアメリアは若い女性だ。いくら兵士としての訓練を受けていても、他の者に比べれば経験値が違う。戦斧を持って、戦場を駆け回れば疲弊するのも当然だった。
「アメリア、大丈夫?」
「はい……問題ありません」
正史世界の彼女と全く変わらない屈託のない笑顔は、エクラをより元気づける。実に彼女らしいと言えるだろう。
セライナがそこへ、エクラを目的として接近してくる。
「エクラ。周囲に敵兵はないようだ。少しこの後の動きを確認したい。今はいいか?」
「ええ。分かりました」
2人で、紙に書かれた文字が見えやすい場所まで移動しようとする。
1つの戦いが終わり次に目標を移そうとした――その時。
魔法兵団に突如、黒い炎の雨が降り注ぐ。
すぐにセライナとエクラは、否、全員が異変に気が付き臨戦態勢をとった。
魔法に高い耐久力を持つ魔道兵団ならば、黒い炎を受けても難とか生き延びる。そう思われたが、敵の魔力が圧倒的だったのか、生き残った者はほとんど存在せず、少しの生き残りも、後から黒い炎を纏って墜落してきた何者かに殺されてしまう。
積み上げられた死骸すら黒く炎上させ、その炎の中から信じられない人物が現れた。
「あれは……」
忘れるはずがない。忘れるわけがない。
目の前でアンナ隊長に圧倒的な力の差を見せ、あまつさえ殺したその男。
「エフラム……だと!」
セライナがその名前を言う。それは魔王に取りつかれているという、敵軍の総大将だ。しかし空から降ってきたということは、飛んできたということ。
(もう、人間ではないということか)
エクラは冷静に敵を分析する。
魔に墜ちた太陽 エフラム
HP120
攻 91 速 39 守 60 魔 42
武器 魔装ジークムント
攻撃+5
この武器は射程に関係なく敵へ攻撃できる。ただし、隣接する敵以外に攻撃を行うときは魔法攻撃として扱われる。
Aスキル 魔王の力 相手に攻撃されたとき距離に関係なく反撃する。相手の守備か魔防のうち低い方でダメージ計算を行う。
Bスキル 見切り・待ち伏せ+追撃+回避不可3
Cスキル 魔の障壁 自分の戦闘時、自分の攻撃、速さ、守備、魔防をそれぞれ+30する。ただし、双聖器をもつ相手と戦うとき、このスキルは無効となる。さらに双聖器からの攻撃、または不利な効果を受けた場合、自身の能力値上昇は-3される。この効果は永続的に発揮され、解除できない。
まずい。
あのエフラムは間違いなく、この場にいる全ての人間を殺しつくすに十分なステータスを持っている。そしてそれをさらに凶悪にしているのが、Cとして見えたエフラムの能力。
「く……ははははははは!」
笑い声をあげるエフラムを相手に、屈強のグラドの軍人が怖気づいた。
今のエフラムは雰囲気だけで、敵を震え上がらせるに十分な覇気を持っているのだ。
「来て正解だったな。貴様らはそろそろ目障りだと思っていた。グラドの塵芥ども」
「何……!」
自分たちが侮辱されセライナは黙ってはいられない。
「この数を倒そうというのか。ルネス王!」
「ふ……久しぶりに槍を振るおうと思ってな。さあ……顔を歪め絶望を見せてくれ!」
目を開き、狂喜の笑みを上げ、エフラムが放ったのは魔法攻撃だった。
すぐさまフィヨルムが氷の聖鏡で受け止めようとする。しかし。
「ぐ……!」
ニフルの神器の氷は見事エフラムの攻撃を受け止めているものの、フィヨルムへのダメージのフィードバックが多すぎて膝をついてしまう。
そして氷は割れた。
「まずはお前だ!」
フィヨルムに向けてエフラムが突撃する。魔力を使ったブーストがかかっているエフラムは、飛竜の全力飛行よりもはるかに速い速度でフィヨルムへと接近した。
(まずい!)
エクラはすぐにフィヨルムをなんとかしようとするが、ヨシュアが珍しく厳しい声で叫ぶ。
「お前はとっとと中に行け!」
「でも、フィヨルムが!」
「いざとなれば、竜のお嬢ちゃんやマリカを呼べる。だがな、お前が死んだらそれもできない。今は援護よりも身を守れ」
立ち上がれないフィヨルムの代わりにレーギャルンがエフラムを迎え撃つ。槍の刺突を神器で受けきろうとしたものの、受け止められず、10メートル後方まで勢いで引きずられる。
「させ……ない!」
いつもの余裕のある佇まいはなく、レーギャルンは必死にエフラムの黒い炎槍を炎の剣へ弾く。
そして、反撃を入れるべく、剣で斬り返した。
しかし、エフラムの肌の薄皮一枚に傷をつけるだけで刃は止まってしまった。
「いい武器だ。だが、まだ足りんな」
「な……」
エフラムの手から黒い炎の激流が放たれ、レーギャルンはそれに巻き込まれる。
それでは止まらない。エフラムから放たれた炎は辺りに炎の津波を引き起こし、彼を狙っているグラド兵のほとんどを一掃してしまう。
これはもはや戦いになっていない。蹂躙だ。
セライナも魔法を使い、自身の部下たちを守っていたがそれで精いっぱいだ。反撃の余裕がない。
エフラムが、再び不敵な笑みを浮かべると、次に狙ったのは、エクラだった。
「ああ、お前が!」
心臓がバクバク言ってはいたが、これまでの戦争経験が功を奏し動けないことはなかった。逃げようと足を動かす。しかし、当然エフラムの接近の方が速く、
「させねえよ」
ヨシュアが庇っていなかったら、すでにエクラの命はなかっただろう。
「邪魔だ。雑兵」
「どうかな……?」
これまでの中で一番本気が窺えるヨシュアの剣技は速く、研ぎ澄まされている。
しかしエフラムにそれは通用せず、剣技の間にできた隙をエフラムは予知でもしていたかと疑う正確さで狙った。
「ち……!」
ヨシュアは槍の一撃を足で蹴飛ばして軌道を逸らし、そしてカウンターの一撃を見舞う。
双聖器の一撃。
それは先ほどのレーギャルンの攻撃とは違い、間違いなくエフラムに傷を負わせた。
「……侮ったな。これは反省だ。だが!」
しかし、その反撃もギリギリだったのか次のエフラムの回し蹴りをヨシュアは躱すことができず吹っ飛ばされる。
「ぐ……召喚師!」
これで、もうエクラを庇う者はいない。
エフラムは勝利を確信し、炎を纏った槍を投擲する。
大砲よりも凶悪な魔力を纏った魔王の撃槍。
エクラは死を覚悟する。
(あ……死んだ)
もはやこれまで。あっけない旅の終わりだった。
覚悟を決めた。
――しかし。
救世主は遅れてやってくるという格言は時に正しいこともある。
斧が投擲された槍を狙って投げ飛ばされる。エクラへと向かっていた魔王の槍とぶつかってなお、傷一つつかず、弾き飛ばしエクラを救った。
「え……」
「ほう……これは僕の記憶違いか?」
レンバールの門から、1人の男が姿を現す。その者こそが、双聖器、黒斧を投げた本人。
その男を見たエフラムはこれまでの大暴れを中止、これまでにないほどの笑顔で彼を迎え入れた。
「リオン……!」
1章 6節 『皇帝と魔王――激突』-5