ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~ 作:femania
相対する2人。かつては永遠の友情を誓い合ったはずだが、今はもう殺し合うしかない敵同士。
しかしその会話は意外にも、まるで再会を喜び合う形で始まった。
「久しぶりだな、リオン」
「ああ」
「会えてうれしいぞ」
「僕もだ。君が元気なようで安心したよ」
「随分と皇帝らしいことをしているじゃないか。帝国を率いて俺の邪魔をするとは、俺の知るお前はそんなやつじゃなかったんだがな」
「それはこちらの台詞だ。君が魔法で攻撃をしているところを見て驚いた。その体に黒い影を宿らせてからは、貫禄が出たような、横暴が過ぎるような」
しかし、この2人は決してこのままでは終わらない。
エフラムは槍を構え、リオンはその手に双聖器のガルムを持ち、左手には魔導書を持つ。
「ははは! やる気じゃないか! リオン!」
「今の君が見るに堪えない。魔法、虐殺など、君らしくない」
「俺は変わった。俺は理想の王になる。この力でな」
セライナが援護をしようと動くがエフラムがそれを止める。どうやらリオンは1対1でエフラムと決着をつけるつもりらしい。
無茶だという者はいなかった。それを言っても現状その戦いに加勢できるほどに実力とコンディションが整った戦士はもういないからだ。
「さて、始めるか!」
エフラムが黒い炎弾を放つ。
リオンは闇魔法と使いその火炎弾を阻んだ。
「リオン様! お1人では!」
「自分の心配をしていろ! フィヨルム!」
心配をしたフィヨルムを一喝しリオンは戦いに臨む。
エフラムが帝国の兵たちを一掃した火炎弾の数々をリオンに向ける。リオンはそれを多数展開した魔法で次々と撃ち落としていく。
数発、凌ぎきれなかった火炎弾を躱し、リオンは反撃に出た。
迫りくるエフラムに向けて、闇魔法による高威力の魔道砲が放たれる。
エフラムは急停止。そして黒炎の壁を作りリオンの反撃を迎えた。
激突。
あたりに、使われている魔力の高さをうかがわせる余波が伝播する。
「やるな……!」
再びエフラムが、フィヨルムに向かった時と同じ速度でリオンへと差し迫った。そしてジークムントに黒い炎を纏わせ、目の前にいる敵を貫こうとしている。
リオンは逃げようとはしなかった。
「随分とご機嫌なようだ。喜びに飢えていたのか?」
右手に持った斧を振りあげ、その槍を迎え撃つ。
「そうだとも!」
双聖器と魔装がぶつかり合う。両者力負けすることなく、槍と斧は刃の部分で競り合いながら、互いに未だ向かおうとしている。
「ぐ……ああ、これだ。これが戦いだ。リオン!」
「その目、まるで獣だな」
「蹂躙をして、塵どもの絶望を味わうのも楽しいがな」
押し込むことを諦め、一度槍を引いてすぐ、リオンに向けて猛攻を仕掛ける。リオンは斧と魔法を使い槍の攻撃を弾くものの、さすがに槍の方が、攻撃速度が速く分が悪い。
「これは戦争だ。自分の力を発揮できなければ不完全燃焼になるだろう!」
エフラムの攻撃を受け続けるのは厳しいと判断して、リオンは一度距離をとった。
そして目の前にいる、本当に楽しそうに笑っている友の姿を見る。リオンのその顔は、いつもの王としての堂々たる表情ではなく、どこか、悲しそうだった。
「いいぞリオン……。お前は、いい。今までは少し力を使うだけでくたばる雑魚どもだったが、お前はとてもいい。戦いになっている」
そしてエフラムは槍の刃の先を天に向けたかと思ったら、その場で上へと浮き始めた。
「お前なら、応えてくれるか。俺の、力に」
魔装ジークムントにこれまでにないほどの黒い炎が宿り、凝縮され、禍々しい魔力を放ちながら黒く染まっていく。
その威力は魔導師ならば一番よく感じられるだろう。空気がエフラムの槍に集まったその魔力によって震えている。それはすなわち、エフラムが次に放とうとしている攻撃が凄まじい威力を持っていることに他ならない。
リオンは斧をその場に置き、使う魔導書を変えた。
懐から、大事にしまわれているそれを取り出し、本を広げ詠唱を行う。
「あれは……」
セライナにはその魔法に心当たりがあるらしい。
「なんなの?」
レーギャルンが尋ねる。
「皇帝陛下の持つ最強の魔法だ。陛下はここで、あのエフラムを本気で殺すらしい」
リオンの後方に巨大な魔法陣が描かれる。
「ナグルファル。あれこそ、巻き込んだもの全てを滅ぼす闇の瘴気の嵐を起こす。おそらくリオン様はさらにそれを凝縮して、エフラムの方に向ける気だ」
誰の目から見ても明らかなほどにリオンは、その敵意に満ちた目を上にいるエフラムに向けていた。
2人の攻撃の準備が整った。
エフラムの持つ炎の槍は黒い隕石のように燃え上がり、破滅を墜落させる。それに対抗するべく、練り上げられた魔力が、魔法陣の炸裂と共に破滅の嵐をとなって迎え撃つ。
皇帝と魔王の激突はその周りにいる者全てを置いて行く、圧倒的な力のぶつかり合いだった。
相克により起こる余波は並みの魔法の威力を遥かに超え、爆心地に近いエクラたちにはレクスカリバーにも負けないほどの衝撃が襲いかかっていた。
「ぐ……!」
リオンの表情が曇る。
当然だろう。全力の魔法にもかからわずエフラムの放った黒い炎槍に徐々に圧され始めている。
「ぐ……ぁああああ!」
今までに見たことない必死な顔で、その炎の槍を押し返そうとしている。
その様子をエフラムは感心しながら見ていた。
「ほう……」
そして――。
2人の攻撃の衝突地点を中心にすさまじい爆発が起こる。
リオンが時間を稼いでいる途中、エクラが使った特効薬の効果を受け、回復していたフィヨルムが再び氷の盾を展開して、その爆発から召喚師や仲間たちを守った。
爆発の後、中から。
火傷を負ったリオンと、余裕の表情でそれを見つめるエフラムが現れた。
「見事だ。リオン。お前はさすがだな」
「……エフラム。まさか、これが全力か?」
「冗談を言うな。未だ真体が蘇っていない今、俺は魔王としての力を半分程度しか引き出せていない。……だとしても、少し本気で撃ったんだが、それを凌ぐかリオン」
エフラムは満足そうに笑うと、リオンに背中を向ける。
「どこへ行く?」
「気が変わった。お前がこれほどにやるとは予想外だった。だが、リオン。お前もまだすべての準備が整ったわけじゃないんだろう? お前と、お前が準備するすべてに興味ができた。メインディッシュは後に取っておくことにしよう」
「何……?」
「お前の駒も住民も今は生かしておく。急げよ、真体の復活まで残り10日くらいだろう。それまでの猶予を許す。リオン、俺を本気で止めに来い。そして、そのお前のすべてを打ち破り、その時のお前の絶望を味わってやる。どんな顔をするか、今から楽しみだ」
それを言うとエフラムは魔法陣を下に展開して魔法による転移を行い、姿を消す。
今まで平気そうな顔をして立っていたリオンはその場で膝をつく。
「リオン様」
エクラが駆け寄り特効薬を使おうとしたが、それをリオンは拒否した。
「不要だ。先ほどの魔法の反動が大きい。傷は大したものじゃない。それはとっておけ」
リオンは去っていったエフラムの幻影を見ながら、
「後、10日か。想像以上に事態が進んでいたな……!」
と独り言を述べたのちに、エクラに指示を出す。
「もう時間がない。今後の方針も話し合わなければならないが、まずはレンバールの攻略が先だ。幸い城に被害は出なかった。中では未だ戦いの最中だろう。手を貸してもらうぞ。もう時間がない、休憩の機会は与えん」
「……分かりました」
「いい返事だ」
リオンは一度深呼吸をした後に立ち上がる。そしてすぐにレンバールへと歩み始めた。その表情は全く晴れやかではなかった。
「エフラム……。変わったな、本当に」
次回 1章 7節 『レンバール攻城戦』-1