ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~ 作:femania
リオンの案内に従って、エクラたちは地下へと突撃。地下牢の方へと走る。
上級の魔物の数々に苦戦を強いられそうだったが、魔物が相手ならば、やはり双聖器と司祭が強く出られるようだ。ヨシュアやリオン、そして、意外にも先ほどはサポートに徹していたナターシャが活躍している。
ふとエクラが思い出すのは、アスクで出会ったラーチェルという聖魔の世界の王女様のこと。彼女は双聖器「光輝イーヴァルディ」という武器を持ち、強力な光魔法だった。もしもあの光魔法を司祭が放てば、すごい攻撃力になるのではないか。
(気になる……)
残念なことに軍師としての癖がついてしまっているエクラは抑えようと思っていないと自然と新しい戦術を考えてしまう。
しかしここは戦場。さすがにこれ以上は自制して、目の前の敵に集中することにした。
双聖器を持つリオン、ヨシュアは魔物に対して1人で戦い、他はこれまでのセオリー通り2人で確実に1匹ずつ数を減らす。
以前は相応に苦戦した骸骨兵を前にしても、さすがに慣れてきたのか、フィヨルムとレーギャルンの2人の連携は以前よりも数段洗練されていて、スムーズに敵を駆逐していく。
エクラもそれを呪符により援護することで、魔物相手との戦いは、多少数が劣勢でも盤石に対処できるようになっていた。
「もうすぐ地下牢ね」
「はい、そこを抜ければリオン様のご指示通り、上に行き、敵将であるルネス将軍、オルソンとの戦いになります」
「平気?」
「はい?」
唐突に体の心配をされてフィヨルムは声が裏返る。
「ここまでだいぶ無茶をしているわ。今回は特にひどいダメージを受けたばかりでしょ」
「レーギャルン。それは戦いにおいてはいつものことです」
「そうじゃなくて、その、不安なのよ。氷の儀式の影響はないの? 急に倒れたりとかは」
氷の儀式とは、この戦いの前、エンブラとの戦いに終止符をうつため、フィヨルムが行った代償儀式だ。その代償について、フィヨルムは頑なに語らなかったが、同じような儀式があるエンブラの王女は、察しがついていたのだろう。
フィヨルムは笑みを浮かべ、レーギャルンに返答した。
「大丈夫です。残された時間は短いかもしれまんが、今は私、元気ですから」
「そう」
「大丈夫。何か予兆があれば必ず言います」
「ごめんなさい。急にこんな話を」
「いえ、レーギャルンが私を心配に思ってくれているのは、ここまででよく伝わってきますから。とても嬉しいです」
フィヨルムの純粋な言葉を受け、レーギャルンは顔を少し赤らめる。
その声が聞こえてきたときに、エクラはナーガと交わしたある日の会話を思いだす。
『安心しなさい。彼女は多くの絆に守られています。今を生きる者、そして死した者、彼らの彼女を想う加護が、彼女を呪いの死から遠ざけてくれている。少なくともあなた方が彼女と共にいる限りは、彼女はそれでは死にません』
ナーガはそう言っていた。神竜の力がどれほどかをエクラはまだ具体的に把握しているわけではないが、滅びるばかりの自分達を無理に助けに来てくれた彼女が言うことならば、大丈夫だろうとエクラは信じている。
だからこそ、その話は、彼女から何かがない限りは決してしないと決めていた。
(しかし、仲よさそうでよかった)
再び襲い掛かってきた魔物を前に、2人は勇ましく戦いを挑む。
エクラは戦場全体の様子をうかがう。リオンの魔法と斧の圧倒的な攻撃が見事であるのはいつものことだが、目を引くのは、その近くで戦場を楽しんでいる男。
「んん……なんだこの程度か? つまらん、もっと美味そうな奴はいないのか……?」
呟きながら血濡れの槍を振るう姿を見ると、それこそ、特務機関に居た頃のヴァルターを思い出す。
「ヴァルター、少しいいか」
「なんだ、グレン。俺は今機嫌が悪いんだがなぁ……?」
「敵将クラスの魔物を見つけた。俺が今から仕掛けるが、満足できないというのならお前に譲ろう」
「ふん……なんだ。自分では殺しきれんと言えばよかろうものを……」
「いやならばいい。俺が陛下の命令を遂行するが?」
「ああ、待て。誰もやらんとは言っていない。そうだな、たまにはお前の気配りに、付き合う酔狂もアリか。ふん、その代わり、腑抜けだったらお前を殺しに行くぞ?」
そう言ってヴァルターがグレンが向かうはず敵将に突撃する。
「いいのか?」
弟のクーガーが兄に問う。
「まあ、言うことを聞こうとしない狂犬というわけではない。奴は優秀だ。ああして暴れさせて輝くのならば、狂犬は狂犬らしい飼い方をするまで。……陛下のアドバイスだ」
「そうか。なら文句はない。しかし、俺はあいつを信用できん。いつ暴走するか」
「まあ、その時はその時だ。……次来るぞ。背中を任せる」
グラドの兵士たちを見てエクラが思うのは、皆とてもリオンを信用していて、彼の収める国のために戦かうという点においては団結しているという印象。
終末世界と聞いて最初はよほど荒んだ世界なのだろうと勝手に想像していたが、それだけではないと今では実感ができる。
地下牢は確かに面妖な光景だった。
檻の中には人間。そしてそれを見張るように魔物が巡回をしている。まるでこの牢を守る魔物には高い知性が身についているかのようだった。
実際には、エクラたちを見た瞬間、他の魔物のように襲い掛かってきたので、それはきっとそういうふうに動けと言う命令だったのだろうと判断できる。
巡回の魔物を倒し、牢の中に居る人間を覗くが、皆エクラたちを見ても恐怖で顔を歪めていた。その顔を見れば『さあ、逃げましょう』と声高らかに言うことはできない。
「なんで」
「この者たちはルネスの者だな」
セライナがエクラに言う。
「おそらくうえで戦っている兵士は、人質に取られているのだろう。思えばレンバールはグラドに一番近い要塞。そこで戦うというのはすなわち死ぬ可能性が高いということだ。故に、信用がないものがここに集められ、人質を取られて戦わされているのだろう」
脅迫。先ほど出会った今のエフラムには実によく似合っている非道な行為だ。
「皆さんは人間ですか……?」
しかし多くが怯える中で1人だけ、声を上げる者がいた。
「どうかお願いします。あの人が無事ならこの命、どうなっても構いません。あの人を解放してあげて!」
フィヨルムが困った顔でこちらを見たため、エクラと、セライナが援護に向かった。
「ああ。お願いします。グラドの皆さんがルネスに恨みを持っているのは知っています。でも、どうか一つ願いを聞き届けてほしいのです」
「落ち着いてください。婦人。私たちはあなたの命を奪く気は在りません」
「私のことはいい!」
どうやら少し混乱状態のようで、怯えた顔をしながら希う。
「あの人を。オルソンを助けてください」
エクラは問う。オルソンと言えばレンバールを率いる敵将のはず。それを助けてほしいと願うこの人は少なくとも関係者のはずだと予想した。
「あなたは……?」
「私はあの人の妻で、モニカ、と申します。夫は、私のために戦わされているだけなのです。どうか、お命だけは」
「落ち着いてください、婦人。要件は分かりました。しかし」
「ああ……どうか。それが叶わぬのなら、せめて、夫にもう一度会わせて……」
必死な申し出だった。セライナも敵国の人間である以上易々と判断はできない。
しかしエクラはその場で、提案する。
先ほど『助ける』と言った通り、正しいと思ったことを選択する。
「連れていきましょう。この人の願いをかなえてあげたいです」
「エクラ。だがな……そう易くは」
その時、後方からリオンの声がした。
「いいんじゃないか」
「陛下! しかしルネスの」
「そんなことはどうでもいい。責任はエクラが持つ。連れていってやれ。ただし婦人。戦いになったら諦めてもらう。オルソン将軍を救うか殺すかは、彼が決めることだ。それが譲歩の条件だ。いいな?」
モニカは、目の前に来た光明に目を輝かせて、
「はい。ありがとうございます」
と礼を述べた。
これを皮切りに、捕らえられていた多くの人々が解放を望む。グラド軍は彼らを解放。そして寄り道を終えて、いよいよ敵将のところへと向かう。
1章 7節 『レンバール攻城戦』-3