ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~ 作:femania
デュッセルが率いるグラド軍の精鋭によってレンバールのほとんどが制圧され、そしていよいよ、デュッセルが敵将であるオルソンとの戦いに挑んでいた。
さすがルネスの将軍ということもあり、普通のグラド兵では倒しきることはできない。今回は特に将軍の士気が高く、並みの兵士では相手にできない。
故にデュッセルが自らの近衛騎士を指揮しながらも、自らも先陣に立ちオルソンの命を狙う。本来将軍という立場は前に出るものではないのだが、並みの兵士が太刀打ちできない以上実力を持っている者が戦うしかない。
「負けるわけにはいかんのだ……お前達に……!」
「それはこちらも同じこと。グラドの勝利のために、討つ」
グラドの猛将と、ルネスの将軍の戦い。
勢いづいたグラド軍、対して死力を尽くすルネス軍。
レンバールの最奥、そこでこの攻城戦における最後の戦いが繰り広げられた。
エクラたちがその戦場にたどり着いたときにはその決着がつこうとしていた。
結果は見ればわかる。
ルネス兵のほとんどが倒れ、あと少しの兵と槍が折れ膝をついているオルソン。そしてそれを厳しい表情で見る。
「く……まだ」
「最後に言い残したことはあるか?」
デュッセルが槍を構えている。今にも止めを刺そうとしているところだが。
(間に合った……!)
エクラはいち早く走り出し、デュッセルを止めようとする。
「待ってください! 将軍!」
「む……?」
シュッセルはエクラたちが来たことに気が付き一度槍を下ろす。しかしなぜエクラが止めるのかが分からず顔をしかめる。
「なんだというのだ」
「お願いです。少し待ってください」
「む……」
ルネス兵も突如、戦いの一時中断を申し出るという前代未聞の事態になり、敵であるはずのエクラを前に動く者もいなければ、怒りを見せる者もいなかった。
エクラはリオンの方を見る。
リオンはエクラの意志をくみ取り、自分の後方に控えさせていた女性を前へ出し、エクラの方へとエスコートする。
「モニカ……!」
オルソンが驚きの声をあげる。
「あなた……!」
モニカは走り出す。それをこの場で止める者は誰もいない。
「モニカ……。ああ、ああああ。無事なのかい?」
「ええ、この方たちに助けていただいたの。魔物を倒して、私を、ここに連れてきてくれたのよ」
再会を果たした2人。オルソンはこれまでの厳しい表情を一変させ喜びに満ちた表情で愛する妻を抱擁した。そしてモニカもまたそれに応える。
しばらく、時を待ち。
オルソンの妻であるモニカを連れてきたリオンが付け加える。
「それは、我らグラド軍の客将たるエクラが提案したことだ。敵でありながらも事情にしっかりと耳を傾け、その願いをかなえた。その度量の広さに感謝せよ」
「……グラド皇帝、リオンか」
「いかにも」
オルソンはモニカを庇うように前に立ち、ルネスの敵である皇帝の前に立つ。しかしすでに敗北寸前の体では睨みを聞かせるのが精いっぱいだった。
その状態の戦士が睨んだところで特に感情が揺れ動くものはこの場にいない。リオンはエクラに言う。
「この男の処遇はお前に任せる」
「いいんですか?」
「願いを叶えたいと言ってあの男の妻を救ったのはお前だ。お前がこの男の生死を決めるがいい。僕は、それを是とすることにしよう」
エクラに託されたオルソンの処遇。
モニカは一縷の望みにかけ、地下の時と同じ言葉をエクラに言う。
「お願いします。どうか夫を助けてください……! 私ならなんでもしまから」
「モニカ、やめるんだ!」
「私は、貴方がここで死んでしまうなんて耐えられない。今までルネスのために必死に戦ってきたあなたが、こんな仕打ちを受けて死ぬのは嫌なの」
地下で聞いたように、オルソンはおそらくここで妻を人質に取られ戦わされていた。
その予想が真実だと信じ、エクラは口を開く。
「オルソン将軍。あなたの愛する人が生きてほしいと言っている。私は、その願いを受け入れたい。だからこそ、甘いと言われようと言います。私たちには争わない道があると思っています」
「何を馬鹿な……。ルネスとグラドは敵同士。将である私に裏切りなど許されない。この身はルネスに忠誠を誓った者だ。それを誇りとして生きてきた」
「では、なぜこの場所に。あなたは将軍だと聞きました。軍の要人なら、少なくともグラドに最も近いこの場所で、人質を取られてまで戦うはずはない。私はそう思います」
「それは……」
言葉に詰まるオルソンに対し、モニカが口を挟む。
「主人は、エフラム様に異を唱えたのです。エイリーク様の顔が暗く沈んでいる状況、魔物との共同戦線、今のルネスはどう考えてもおかしいと……」
「モニカ! やめなさい!」
騎士の身としては、忠誠を誓った王に異を唱えることは死を覚悟して行うほどの大罪にして恥である。オルソンもまた騎士ならば並大抵の覚悟でそのようなことはするはずがない。
それでもした。つまり将軍の地位まで来た忠臣にそこまで言わせるほどの異変を、あのエフラムは起こしたということだ。
「なるほど……」
エクラはそこに光明を見出した。
妻の願いを叶えるためには、オルソンを生かしておく理由が必要になる。さすがにエクラが生かしておきたいから生かすは、わがままが過ぎる。
せめてレンバールで用兵を十分にこなす実力を見せた彼の力を借りるぐらいのリターンがなければ、リオンが許しても他が納得しないだろう。
「私はここで、ルネスの騎士として死ぬ。だが、妻だけは……!」
「あなた、どうして。そんなことを言わないで」
「私は騎士。ならば国のために死ぬ以外の道は……」
エクラは意を決して、彼に手を伸ばす。
「一緒に戦いませんか? 今のルネスはおかしいと、私たちもそう思います。だからこそ、グラドと共に戦っている。その原因に迫るために。きっとその道は、貴方と同じ道だと思う」
「馬鹿な、国を裏切るなど」
「あなたにとって、大切なのは国の存続ですか? それとも、貴方の奥様が健やかに暮らせる未来ですか?」
「騎士は、国のために戦う、主のために死ぬのだ」
「たとえ隣に、貴方の生存を心から望んでいる人がいても? あなたはエイリーク王女の心配し、エフラム王の乱心に疑をもったからこそ意を唱えた。それは、貴方が真にルネスを想っているからです」
「だから何だという」
「どうせ死ぬのなら、未来にかけてください。安易に騎士として死ぬなど、隣であなたを想う奥様への裏切りだ。あなたが真にルネスを想うのなら、ルネスの乱心の真意を糺し、奥様が健やかに暮らすことができる故郷の未来のために、己の命を懸けて戦うべきだと、私は思います。居場所なら、グラドにはなくとも、ヴァイスブレイヴにはある。私が、貴方と奥様の責任を取ります! ルネスに勝ち、悪を滅ぼすその時まで」
言い切った。責任をとると。
「なにを勝手な……」
デュッセルが呆れて陛下にエクラの暴走ともいえる説得を止めるべきだと提言しようとしたが、意外にもリオンはそれを好意的に受け取っていた。
「陛下……」
「まあ、まて」
モニカの表情はより晴れやかになる。
一方オルソンは国を裏切ることへの罪悪感と、差し出された条件が、自分の望み通りになる可能性が高い事実を受け、揺れていた。
「だが……!」
エクラは真っすぐオルソンを見つめる。自分の本気を伝えるために、決して目をそらさない。
モニカもオルソンの横で彼を説得する言葉をかける。
「お願いあなた。私、一生支えるから。たとえあなたが裏切り者とののしられてひどい目にあっても……私がひどい目にあっても耐えるから。どうか、ここで死ぬなんて。もうあなたと離れ離れは嫌。先に死んでしまうのも嫌。お願い……」
普通の騎士なら、ここまで言われてもまだ騎士道を語るところだろう。
しかしオルソンは、ルネスでも一番と言えるほどの愛妻家だった。
それがあったからこそ、エクラの提案、2人がまだ一緒に、無様でも生き延びられる可能性がある選択肢が、彼の心を動かすのに効果的だったのだ。
オルソンは悩んだ末、槍を置いた。
「分かった。その条件を受ける。私は降伏する。そして君のために戦う。だから、私とモニカに。慈悲をくれ」
説得が通じた。
デュッセルも意外な展開に驚いている。
しかしリオンとヴァイスブレイヴの皆は、満足そうな顔でエクラの戦果を受け取っていた。
FE名物の説得って、こう書いてみると難しいんだなって思いました。
何とか形にするまで少し時間がかかってしまった。
次回 1章 7節 『レンバール攻城戦』-4