ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~ 作:femania
個と個の戦いではなく多くの人間を巻き込む戦争においてヒーニアスの戦略眼は真価を発揮する。
優秀な指揮官に指揮される兵士は士気も高く動きも洗練されている。
ゲブ将軍の臣下たちも死にたくないという一心で戦うがやはりそれだけでは埋められない練度の差が、要塞内部の戦いが劣性にならなかった理由だろう。
とはいえ、兵数の差は圧倒的で、フレリアの兵たちも凌ぎきれない攻撃を受けてどんどん兵が減っていく。
「酷いものだ。勝ちが残っているだけ悪くはないが」
自分の兵の死体の数を見て、眉間にシワを寄せる。
このままいけばフレリアの勝利は揺るがない。しかしそれは数多くの犠牲を払えばの話だ。
何かもう一手、戦況を一気に変えるような転機があれば、そう思わずにはいられない。
そのとき。
「酷い顔だな」
「傭兵か。子どもを追っていたと言ったが?」
「悪いな。だが終わった。ここからは加勢しよう」
ネームレスの後ろには、確かに何人かの見知らぬ若者がいた。ヒーニアスから見て、皆顔色があまりよくないが、目に光が宿っている。死にかけではないことが分かる。
「牢屋に囚われていた」
「保護せよと?」
「私は何も言っていない。だが、処遇は相談した方がいいと思ってね。将軍が判断をしている間、私がその分働こう。要塞の奥の敵は片付ける」
ヒーニアスが許可の頷きをしたのを見てネームレスは最前線へと走り出す。
戦場は残酷だ。武器を持ち、肉を抉る感覚が手に伝わってくるたび腹を痛める感覚が襲い掛かってくる。血を流す他人を見るたびに、心に刃が刺さるかのような痛みを伴う。それは今でも本当に嫌なことだった。
初めて命がけの戦いをしたのは、遠い世界、故郷の異界で聖炎の杯《ファイアーエムブレム》を巡る王位継承戦争で戦った時だったか。
今のネームレスにはその頃の細かな記憶はほとんど残っていないが、あの世界を救う為、炎の儀をおこない聖炎を身に宿す代わりに、己の死後は数々の世界を救う為に戦うことを誓った。
それ以来、今走っているような死体の山の横を駆けるのにようやく慣れた。
敵がいる。味方もいる。殺し合いを続ける人間たちを前に、己のやることはいつも世界を救う為の掃除だ。
「万能の使い手、起動」
ネームレスがもっとも扱いを得意とする武器は槍。銀の槍をどこからともなく取り出したネームレスは、一騎当千の殺戮を始めた。
ネームレスが最前線に戻って数刻、敵は全滅した。
降伏宣言を将軍に届かせることを許さなかった神速にて暴虐な戦いを行った傭兵に、フレリアの兵はドン引きしていたが、ヒーニアスは彼をいつも通り迎えた。
「よくやった。傭兵」
「悪いが、戦いが長引けば味方の数が必要以上に減るんでな。それは俺が望むことではない」
「私はもとより必要以上の殺戮を行うな、という命令はお前に出していない。この場においては勝利と味方が1人でも多く生存することが至上命題だった。責は、私が負う」
「そうか。将軍、ガキどもは?」
「保護した。どのみちこのご時世だ。外を勝手に歩かれて死なれては目覚めが悪い」
「それもそうか。戦いは終わった。要塞はこのまま拠点として使うのか?」
「一泊したらすぐに発つ。好機は逃さない、グラドへと進むぞ」
「今の兵力でお前のいうレンバールが攻略できるとは思えんが……」
「だとしても、もう退く道はない」
そこに駆け込んできたのはフレリアの外を守っていた兵だった。
「どうした!」
「魔物の軍の襲撃です! 現在天馬騎士兵団長が指揮を執っておられます! 援軍は」
「ち……」
「私が行こう。将軍、お前は」
「お前でだけでいかせるものか……! 外にはターナがいる! 動けるものは至急外の迎撃に加わる! 気張れ!、ここで包囲殲滅を受ければ我々はもたない。何とか乗り切るぞ! 外で怪我を負ったものは中へと連れてこい! 杖使いは回復に専念だ」
ヒーニアスは部下に指示を出して、要塞に突入した軍に指示を行き届かせる。
(……ルフィア、無事でいろよ!)
ネームレスもまた走り出した。
数が多いことは幸いではないが、幸いにもルネスの将軍か、突出して強い魔物いなかった。魔物の軍団は飛行兵が多く機動力を生かした立ち回りをしてい天馬騎士団を追い詰めるが、グラドの竜騎士団が唯一その実力を警戒するフレリア天馬騎士団は墜ちない。
しかし飛べない兵士は苦戦を強いられる。ガーゴイルはともかく、ピグルは魔法攻撃を行ってくるので、そもそも近接武器を使う兵士が一方的に攻撃され、こちらは手が出せない。
見境なく行われる攻撃に、ルフィアも当然巻き込まれる。
ミルラが龍に変化し、可能な限りの殲滅を行うが、それでも全てを焼き払うことはできず、ルフィアは攻撃に見舞われる。
彼女を庇うもう1人はターナだった。
「させない!」
ウィドフニルを振るい、時には多少刃や魔法が身を掠めてもルフィアを庇い必死に戦う。
奮闘もあったが天馬が撃ち落とされ、ターナも地面にたたきつけられた。
「ターナ様!」
ヴァネッサが急いで向かうが、それよりも早くガーゴイルが数匹、苦しそうな顔をするターナに迫る。
彼女を庇ったのは、ルフィアだった。
血が滴る魔物の武器を、護身用の槍で受け止め、修業で身に着けた返しの一撃で1体を倒す。
「や……た」
本人は成長を感じるその事実が少し嬉しく、続けざまに来る2体目への反応が遅れた。
2人とも死ぬ。
あの時、援軍を送ると強気の決断をしたヒーニアスの判断がなければ。
正確無比な射撃は、最終的に死にかけにとどめを刺そうとルフィアとターナに襲い掛かった20匹以上㋞次々撃ち落とした。
それはヒーニアスとネームレスによる射撃だった。
「師匠……!」
「平気か?」
「はい」
「……良かった。本当に」
ヒーニアスは妹の様子を窺う。
「致命傷ではないな……。まだ耐えられるな?」
「うぐぅ。はいお兄様……」
「我慢だ。今はここを死守する。ネームレス、護衛を頼む」
「分かった」
その後、フレリア軍の続けざまの迎撃戦が幕を開けた。
多くの犠牲を出した。要塞戦だけで半数以上が道半ばで倒れた。
それでも逆を言えば半分は生きている。ヒーニアスはその勝利に意味があると信じている。
そしてこれまで同胞を守るために、生き残るために覚悟を決めた者たちの意味を失わないようにするために、反省をする暇はないと皆に言い聞かせた。
たとえそれは、傷つき、疲弊しきった兵へと向ける冷酷な命令であったとしても。
「夜が明けたらレンバールへと向かう。我々は、必ずグラドにたどり着き、憎き魔王を倒し、フレリアを取り戻すのだ!」
ヒーニアスに異論を立てる者はいない。皆、己たちの王を信じているから。
自分の近くですやすやと眠りにつくルフィアとミルラ、そして護衛を任されたままなので一緒にいるターナ、さらにはターナの看病をしていたヴァネッサも寝息を立てている。
「ふぇぇえええええ」
「……ん。意外な奴が来たな」
空から白いフクロウがふらふらおちてきた。
「ふぇぇ」
「お前、今までどこにいたんだ」
「皆さんの様子を探すために、命からがら飛び回りましたぁ。でも見つからなくてぇ、さらには、それを報告しようと戻ったら、グラドにいるはずの皆様もいなくなってますしぃ」
「なに? 連中はいないのか?」
「はいぃ。街の皆様に話を聞いたところ、レンバールの攻略に同行したと」
「……そうか。それは、悪くない知らせだ。なら次はルキナを探してくれ。俺と召喚師はもうすぐ会える。死んでいなければな」
「ふぇ! 本当ですかぁ?」
「ああ。この世界は思ったより厳しい。一度皆、集まるべきだ。それを、ルキナ達にも教えてやってくれ。転送先を考えればルネスかジャハナあたりにいるはずだ」
「ふぇえ、しばらく飛びっぱなしなので今日だけは御情けを……すやすや。すやすや、すやぁ」
「まあ、無理もないな」
ネームレスは仕方なく己の膝の上で寝息を立てたフクロウをルフィアのそばにおく。ルフィアは愛おしそうにそれを抱きしめて、少し笑った。
こんな子を戦いに巻き込んだ己はきっと救いはないだろう。
そんなことをふとネームレスは想いながら、周りへの警戒を続ける。
次回 第1章 10節『魔導研究室での思い出』―1
舞台は一度グラドに戻ります。
ちなみに、1部は13節くらいでルネス攻略に赴くことになりそうです。なので1章もようやく『折り返し』まできました。
聖炎の杯についてはいずれやる〇.5章の話なので今は気にしないでOKです。
もう少しスピードを上げないとな、と思ってはいます。なんとか書く時間を捻出したいですね。
ちなみに好きな双聖器はどれ?(初見さんは調べるなり名前の響きなりで決めてOK)
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炎槍ジークムント
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雷剣ジークリンデ
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蛇弓ニーズヘッグ
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翼槍ヴィドフニル
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氷剣アウドムラ
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風刃エクスカリバー
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光輝イーヴァルディ
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聖杖ラトナ
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黒斧ガルム
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魔典グレイプニル