ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~   作:femania

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1章 10節 『魔導研究室での思い出』ー4

「来たか。エクラとフィヨルムだけか。まあ、大勢で来られても困るしこの程度でいいか」

 

 リオンがほんの少しリラックスした様子で座っているこの部屋は多くの書物がある部屋だった。そこにいたのはリオンだけではなくヒーニアスもリオンの近くの椅子に腰を下ろしている。

 

「わざわざ来てもらうとは苦労を掛けた。私はフレリア王代理のヒーニアスだ。かしこまる必要はない。お前は私をただの同胞だと思えばいい。共に魔王と戦う同士なのだから」

 

 ヒーニアスが座りながらエクラへと挨拶をする。

 

「堅苦しい会談も終わり、今は普通の歓談をしていたところだ。エクラ、フィヨルム、お前達も座り遠慮なく混ざるがいい。そこにお前達の席も用意している」

 

 リオンの勧めの通りに用意された席に腰を下ろす。

 

 エクラは部屋にある書物の多くを見渡す。

 

「すごいですね、これほどの書物をリオン様は読んでいたのですね……」

 

 フィヨルムは見るだけで圧巻の本の並びに素直な感想を送る。

 

「王には学がいる。だが半分は僕の生きる糧でもある闇魔導の本だ。ここ最近でようやく帝王学の本やすべての国の歴史書や伝統の記などの仕事の本で半分埋まってきたところだ」

 

「私も驚いた。私も平和だったころは本を読むようにしていたが此処までではない。グラドの新たな皇帝。この努力を見るだけで手腕の信用に値する」

 

「そんなことはない。僕は、もとより半人前だった。いつも、この目は友人の勇姿を追いかけていたよ」

 

「エフラムのことか。さっきも言っていたな。お前とエフラムは旧知の仲だと。まさかお前もエフラムとただならぬ縁があるとはな」

 

「親友だった。少なくとも僕はそう思っていた」

 

 昔のことを語り始めるリオン。

 

 エクラは同じような話を正史世界のエフラムやエイリークから聞いたことがある。

 

 グラドに滞在した王子と王女は次期皇帝たるリオンと共に学び、共に鍛え、共に語らった。彼らは魔王と討伐した後であっても、リオンのことを親友だと語っていた。

 

 ただいくつか聞いたことのない点もあった。

 

「その2人との思い出で特に思い出深いことがあったのはこの部屋だ。エフラムとはここで一度だけ、王位後継者としての弱音を語り合ったことがある」

 

「その時にはなんと?」

 

「今でも覚えているとも。『俺は完璧な王になるほど強くなれるのだろうか』と奴は言ったよ。当時からすれば実に互いに父親の気苦労が分かっていない馬鹿な文句だったがな」

 

 エクラが何故『馬鹿』なのか理解できず口を開けたままになる。

 

「エクラ、そんな阿呆な顔を晒すな。要は怖かっただけだ。受け継ぎ、国についての責任を背負うということへの重圧が恐ろしくて仕方がなかった」

 

「私も兄が悩んで涙を流しているのを見たことがあります。一度だけ」

 

「フィヨルムは確か国の王女かだったか。そうだな。国を背負うというのはとんでもない重圧だ。今も気を抜けばすぐに圧し潰されそうになるほどに」

 

 リオンは目を閉じる。その中で想うのは既に失ったものか。

 

「僕もエフラムもあの時から変わった。奴は力を追い求め狂った。僕は、過去の己をもう思い出せない。まずは態度から、次に武力、次に知識、後から相応しい己になるたびに、穏やかに話していた自分は失われていった」

 

 すこし寂しげに己のことを顧みる。納得の頷きを見せていたのはヒーニアス王子だった。

 

「私も、昔はこれほど何もかも計算づくで動き人を駒として見る視点は持ち合わせていなかった。思えばこれも変わったということなのだろうな。私は後悔はしていないが」

 

「僕もだ。こうならなければ僕は心が壊れていただろう。己が変わらなければこの重圧に耐えられなかった。きっと近くで善からぬ誘惑を受ければすぐに心を譲り渡してしまうくらいに弱かっただろう」

 

 リオンは静かに微笑みエクラを睨む。その顔はしてやったりという顔だ。

 

「大方、ノールもセライナも、僕は無理をしているんじゃないかと心配でたまらないだろうな。アイツらは僕に甘いからな。そしてお前も少し心配になってそのことを探ろうとした」

 

 見事言い当てられエクラは静かに『さすが』とつぶやくしかない。

 

「なら連中には言っておけ。他人の心配をする暇があるのなら、少しでも己と周りの者を顧みる時間に使えと。平気とか言うなよ。それは強がる者の台詞だからな」

 

 リオンはエクラに釘を刺し、エクラはうんうんうんと首を縦にふりまくる。

 

「陛下。私、エイリーク様との思い出も聞いてみたいです」

 

 フィヨルムは申し出たのは、話に混ざれと言う話を真面目に受け取っての行動だったのだろう。事実それは正解だったようでリオンは積極的に話に割り入ることに機嫌よく対応した。

 

「思い出も何も。僕が強くなりたいと無理を通しこうなってしまったのは彼女のおかげだ」

 

「大事な存在なのですね」

 

「ああ。彼女は素晴らしい才能を持っていた。闇魔導の才能を。彼女とここで闇魔導についての研究を行ったものだ」

 

 その思い出を語るリオンはとても楽しそうにしている。エクラはその時確かに、正史世界のリオンと同じ顔を見ることができたのだ。

 

(でも、正史世界のエイリーク王女は魔法なんて使ってなかった。もしかしてこの世界だからこそ。これも終末世界ならではの事項として記憶しておこう)

 

 魔法を使うエイリーク王女を想像すると案外似合うことが判明。

 

「美しく、芯が強く、近くにいた僕に彼女に惹かれるな、というのは無理というもの」

 

「え……それは」

 

「なんだ。言わせるのかエクラ。おまえも罪な男だ。僕とて人間、他者を特別に好きになることくらいあるとも」

 

 しかしここを恥じらいなく言うところはやはりこのリオンでなければできないことだろう。

 

「今はそうは言えない状況になった。翻意がない限り、彼女は王族としてルネスに血の一滴まで捧げ戦うだろう。兄思いの彼女は裏切り等できるはずもない」

 

「そんな顔には見えんぞ。皇帝。まだあきらめきれないという野望に満ちた顔だが」

 

 エクラはじーっとリオンの顔を見る。ヒーニアスは失笑。

 

「フ、異界の軍師と聞いたが、人の感情の機微には疎いか」

 

「うう」

 

「反応が子供みたいだな。だが純粋なことは欠点ではない。お前は、ターナにとって好ましい相手だ。特務機関のことを嬉々として語っていたのを聞き心配していたが、杞憂だったな」

 

 リオンは己の真意を見透かされたことへ反撃。

 

「僕にばかり言わせるのは不平等では。フレリア王代理殿からも1つ語らいの種を提供してほしいな」

 

「ふん。語るべくことはないが……いや、エフラムのことならいいだろう」

 

 ヒーニアスから語られるのは、エフラムとヒーニアスの2名をする者にとっては知れた話だ。

 

 2人はライバルだった。同じ兄という立場で妹もいて、武芸に長けているタイプの王子と似たところが多い2人はどちらがより優れているかを幾度も競走した。

 

 武を、学を、思想をぶつけ合った。

 

「いい思い出だ。平和だったころは心底気に食わなかったが、あれは確かに楽しかったのだろう」

 

 思い出を語るヒーニアスは、どこか楽しそうで、エクラはその思い出がヒーニアス王子にとっても輝かしいものだったことを察する。

 

「俺はあいつを認めていた。誰よりも誇り高く、勇ましい男だった。だからこそ誇りも正義も捨て力に酔ったあいつは許せん。この手で魔王ごとこの世から消したいほどにな」

 

「そうか。ここであなたの覚悟を聞けたことは喜ばしい」

 

「……しかし、完璧な王か。あの男からそのような言葉が出るとはな。少し意外だった。息抜きの歓談というのも悪くなかったようだ」

 

「ああ。意外だったとも。彼は、僕から見ても強い男だった。僕よりもはるかに」

 

 

 

 

 

 

 思い出話に花を咲かせたリオンの目には先ほどとは比べ物にならないほどの活力が戻っていた。少なくともエクラとフィヨルムにはその様に見えたのだ。

 

 ヒーニアスは明日からもまた公務が続く。この後は街を見回った後体を休めるといち早く出ていった。

 

「付き合ってもらって悪かったな。お前達にはもう1つ、希望という報酬を見せてやろう」

 

 そう言ってリオンはグラドの教会へとエクラたちを連れていく。

 

 そこには、多くの人が黙とうをしていた。その中には先ほど別れたはずのデュッセル将軍と子供たち。そして仕立て屋で働く女性たちもいた。

 

「礼拝ですか?」

 

「いいや。平和への祈りだ。この街の者たちは積極的にここへと通い、グラドに生きる全ての人間が守られるよう、神と我らの同胞に祈りを捧げる。時には、戦死した者への悲しみを抱え、ここで涙を流す者もいる」

 

 リオンはかつて街で死を悼むのをやめてほしいと民に懇願したという。

 

 法ではなくあくまで願いだった。グラドの民たちはその願いを聞き入れ街の中では明るく振る舞った。代わりに教会の者たちに皇帝は命じたのだ。負を受け入れ明日を生きる勇気を与える。救いの場になってほしいと。

 

「司祭やシスターたちには苦労を掛ける。本当に彼らは誰もが聖人だ」

 

 たまたま戻ってきたナターシャがエクラに祈りの意味を伝えた。

 

「魔物の復活のとき、グラドに魔物の大軍団が襲い掛かってきました。人々はその恐ろしさと戦争の始まりという絶望を刻まれました。リオン様が民たちに真摯に向き合い、その民たちはリオン様が戦う背中を見て、平和と団結を持って立ち向かうのだと勇気を出しました」

 

 あの光景こそグラドの民たちの総意だ、とナターシャは語る。リオンは嬉しそうにその光景を見た。

 

「リオン様。貴方はグラドが半壊したところからここまで立て直し、人間はこの絶望に立ち向かえるという希望を示しました。偉大な我らが皇帝」

 

「僕ではない。民たちに共に戦う必要性を説き続け行動で希望を示した仲間の成果だ。皆が皆ではなくとも、多くが賛同してくれた奇跡こそ我らが魔王へと対抗する武器だとも」

 

 ふと、エクラは振り返る。

 

 確かにこの街は異常なほどに1つに団結していた。魔物が、それに結託したルネスがあらゆる国を滅ぼしたことを知ってなお、誰もが腐らず頑張っていた。

 

 巨悪を前にしているという限定的な状況とは言え、人の善性で団結した奇跡の国はこれまでの努力の結晶。

 

(僕らが皇帝に最初に出会った時の傲慢さとデュッセル将軍の助言が、今になって見れば本当に正当なものだと分かるよ)

 

 リオンは懐から宝玉を出す。

 

 その宝玉は白くほのかに光を放っていた。

 

「この光こそ人々の希望と勇気の炎。それを留めるこの証こそ、魔王を滅ぼす炎の紋章だ。あんな魔石に比べれば、僕はそう思う」

 

 エクラには分かる。それの正体が。

 

 正史世界においても対魔王の切り札として機能した聖遺物、グラドの『聖石』。

 

「エクラ。最後まで希望を捨てるなよ。たとえ『厄災のごとき巨悪が現れ』ようと。我らには、輝かしい人間《かれら》の世を護る義務があり、この光は魔王を滅ぼす力になるはずだ」

 

 黙とうを終えた人々はリオンがこの場に現れると笑顔で自分達の皇帝を迎える。恐れを知らない子供たちは頭をたれるデュッセル将軍を置いて皇帝へと突撃してくる。

 

 彼らを迎えるリオンはまさに皇帝だった。

 

 ふと魔導実験室で聞いたことをエクラは思い返していた。アスクに召喚されたリオンがかつての皇帝と同じならば。

 

 確かにその横顔は、彼とは別人だということを示していた。かつての自分を消したからこそ、今その重圧と向き合っているのだと。

ちなみに好きな双聖器はどれ?(初見さんは調べるなり名前の響きなりで決めてOK)

  • 炎槍ジークムント
  • 雷剣ジークリンデ
  • 蛇弓ニーズヘッグ
  • 翼槍ヴィドフニル
  • 氷剣アウドムラ
  • 風刃エクスカリバー
  • 光輝イーヴァルディ
  • 聖杖ラトナ
  • 黒斧ガルム
  • 魔典グレイプニル
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