ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~   作:femania

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次回から本編やります。


支援会話 レーギャルン×ヴァルター

 夜に剣戟の音が聞こえればただ事ではないと思うだろう。

 

 実際それはただ事ではなかった。

 

 きっかけはあまりにも簡単なことで、わざわざ夜にヴァイスブレイヴの拠点を訪れて、現在はその仲間であるレーギャルンに戦いを挑んだ男がいただけのことだ。

 

 しかし街の中でというのはよくないだろう。武力を象徴する音とは、すなわち戦いと死の象徴の音でもある。今の情勢を考えれば人々が不安になるのは目に見えている。

 

 幸いにも苦情は寄せられず、その点、剣を交え終えたレーギャルンが一番安心したことだった。

 

「苦労を掛けたな」

 

「いいえ。警戒していたよりはひどい殺し合いにならないで済んだのはよかった」

 

 レーギャルンが見つめる先には、槍を構えたヴぁルターの姿があった。そして、いま彼女にねぎらいの言葉をかけているのは三石の1人であるグレンだ。

 

「戦いに酔うのは久しぶりだ……」

 

 ご満悦のヴァルターに突き合わされたグレンはいやそうに苦言を呈する。

 

「それにしても律儀に襲い掛かってくるとは驚いたわね。前に言ったことを覚えてるなんて」

 

「当たり前だろう。俺にとっては戦いこそが生きる糧だ」

 

「生きる糧?」

 

「……理解できんだろうが付き合ってくれた礼はせねばな?」

 

 レーギャルンから見て妙に似合わないと思ってしまう、グラドの鎧をきちっと着こなしたヴァルターが彼女のもとへと近づく。

 

 もう戦闘ではないということを示すためなのか、槍は捨ててきた。

 

「俺にとって喜びとは敵の悲鳴であり、肉を切り裂く瞬間だった。ある日人を殺した瞬間、胸の内から湧き上がってきた喜びを時間したとき、俺はそれに気が付いた」

 

「物騒なのね」

 

「ああ。生物として俺は悪だった。昔はそれを正そうと努力したこともある。これは騎士としてあってはならない思想だと」

 

 

 

 

 

 騎士の道を志したのも壊れている己を直すためだった。

 

 騎士とは、国に尽くし、誠を誇る、正義の象徴。もちろん綺麗ごとだけで回っているとは思わなかったが、その道の高潔な思想を学べばマシにはなるかもしれない。

 

 そう思い、まい進した。

 

 その道程でグラドの騎士として人を殺した。

 

 その時は、ああ、楽しかったものだ。

 

 酒に酔うことも好きだったが、それ以上に人々が屍を晒し、地に伏せる光景を見て、私はその感覚にますます嵌っていく。

 

 この身に騎士の心が育つ一方で、それ以上に鮮やかに開花する狂気。

 

 この矛盾があまりに苦しかった。きっと俺は生きてはいけない存在なのだろうと。

 

 そんなある日、師に言われたことがある。

 

『お前の実力派誰もが認めるもの。人を殺すのに苦心しない性格は裏を返せば罪の意識に苦しむ必要がないということではないか? 大きな長所になりえるやもしれんぞ』

 

 私の上司のその言葉はこれまでこの狂気を直そうと努力した私にはひどい侮辱に聞こえたが、天啓でもあった。

 

 正しいのだ。この思考は正しく、喜びも正しいのだ。

 

 その日から私は己の狂気を否定するのをやめた。

 

 私は、戦いを喜ぶもの、人の死を喜ぶもの、そういう存在であり、あの人に肯定されたのなら否定は誰にもさせない。

 

 さあ、始めよう。

 

 これからは楽しいことばかりだ。

 

 戦いを死ぬまで心ゆくまで楽しみ、血と屍を愛し、私らしく生きていこう。

 

 

 

 

 

 

「どうして私にそんな話をしたの?」

 

「戦う姿を見て驚いたんだよ。どこか狂気を感じた」

 

「私に?」

 

「ああ。お前は生粋のお姫様だ。立ち振る舞いの端端から伝わってくる。戦いも、本当は得意ではないのだろう?」

 

「そんなことはないのだけれど……」

 

「お前は性格が殺し合い向きじゃない。なのに人殺しを普段と同じ顔でやっている。そんなの、よほどの頭がおかしくないとな」

 

「それは、私の周りはそういう環境だっただけ。もう、慣れただけよ」

 

「そうだな。同類だと思ったことは謝ることにしよう。先ほどの手合わせは実に心地よかったが、やはりお前は私とは違うとわかった」

 

 ヴァルターは不意に話題を変えた。

 

「お前の知る私はどんな男だ」

 

「それを聞いてどうなるの?」

 

「どうなるというほどでもないが、私はいずれ私を救った上司を殺しに行きたいと思うような狂人だ。それがもともとから壊れていたこの世界の私。だが、別の世界の私がまっとうな人間だったら、少し物悲しいと思ってな」

 

「どうして?」

 

「かつて目指した更生の機会があったのかどうか知りたい。それだけは心残りだった」

 

「さあ、私が知っていることは少ないけれど、召喚士がいうには、戦いを楽しむって点は一緒みたいよ。横暴で、あまり上品だったとは言えない振る舞いをする男」

 

「そうか、それを聞いて安心した。私という男はやはり、そういう運命なのだとな」

 

 一度捨てた槍を再び手に持ち、ヴァルターは夜の闇へと消えようと歩き出す。

 

「私はお前と違う。その言葉は、侮っているの?」

 

「まさか。いいことじゃないか? まともに生きる奴はまともに死ねる。少なくとも狂人より最期は美しいものだ」

 

「どうかしら。私は、もうその資格はないかもしれない。この手はあまりに多くを焼きすぎた」

 

「ふ、私にとって、その悩みは本当の意味で理解できないものだ。やはり違うな、お前はまともなお嬢様だよ。俺にとってお前はうらやましい。もうそうなりたいとは思わないがな。ではまた、今度のルネスとの闘いのときか。ともに殺そうじゃないか」

 

 夜の闇に、深い笑みとともに消えていくヴァルターをレーギャルンは最後まで見守る。

 

「あんな男だが、リオン様は頼りにしてらっしゃる。気味が悪いだろうが、付き合ってくれると嬉しい」

 

 まだこの場に残っていたグレンがフォローする。

 

「今グラドには、腕のいい戦士がいる。あれは危険な諸刃の剣みたいな男だが、あんな者でも使わないと」

 

「わかっているわ。それに、あれは大丈夫よ。少なくとも私たちの知るヴァルターより」

 

「というと?」

 

「私は、父上という本物の終末装置を見たことがある。あれは自分が人と異なりそれを害だと理解している分、そんな自分との付き合い方もわかってるわ。本当の害は、あんな止まれない者より、思いとどまるという判断すらない者。私はそう思うの」

 

 レーギャルンはまだ盛り上がっている夜ご飯の席へと戻っていった。

 

 グレンは思ったよりも高く返ってきたヴァルターの評価に、立ち止まって己の彼を見る目を顧みる。




この世界のヴァルターにはだいぶオリジナル設定入ってます。

終末世界と静止世界との違いを出す1つに、同一人物の境遇の違いはやりたかったので今回は彼でやることにしました。

次回 1章 11節 『野望抱く男と魔騎士の戦』ー1
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