ファイアーエムブレム ヒーローズ ~異聞の『炎の紋章』~ 作:femania
マリカは親しくしていたわけではないがその2人を知っている。
見た目があまりにも印象が違いすぎて、さすがに動揺を隠せなかった。
一方で、彼らののことを深くは知らない2人は警戒と解かなかった。武器を構えてその敵の次の出方を見定める。
「なぜ……ルネスの魔騎士がここに……」
女王の質問に答えたのはカイルと呼ばれた方の男。
「それはあなたが一番理解しているはず。その双聖器を奪う、あるいは破壊することが目的だ」
「マギ・ヴァルの礎を守った双聖器を破壊など、知性のない魔物ならまだしも、理性ある人間の行いとは思えないものです」
「われらが王の理想を脅かすものは破壊する。それが騎士の仕事だ」
「愚かな……魔王になり果てたあの男に、忠義を尽くすというのですか」
「正気の沙汰を問われる覚えはないな。どのみち双聖器もろとも生きては返さない」
フォルデが相棒に釘をさす。
「しゃべりすぎじゃないか?」
「……そうか」
「なに。誠実に対応するのはお前のいいところだよ。ここから切り替えればいいさ。仕事だ」
カイルは黒い槍を、フォルデは黒い剣を構える。
ルキナは、戦いにおいてウィークポイントとなっている女王についての対応を考え、この状況を打破するための提案を手短に行った。
「敵の狙いは女王です。彼女を逃がしましょう。私が剣の方の騎士を止めます。敵は女王を優先して狙ってくるはず。レーヴァテイン、マリカ、女王の護衛を」
「それは私で十分だ」
「カーライルさん。あなたは手負いです。女王を逃がすことを考えて。それが確実です。ここで彼女を殺さないためにも」
それ以上彼は反論できなかった。
ルキナはそれを了承とみなし弓矢を構える。
聖なる炎を鏃に宿す神器『ゾグン』による威力射撃。狙い祖定めて放つ。
それが戦いの火ぶたを切ることになった。
女王はカーライルに引っ張られながら暗黒騎士と距離を取るべく走り出す。その速さに合わせるようにマリカとレーヴァテインがついていく。
神器の射撃を、多少のタイムロスを覚悟で回避したのはその威力を見越してのことだった。その屋は、要塞に穴を開けることなど容易い竜の火炎のごとき威力。
しかし弓である以上連射はできない。フォルデとカイルはルキナへと闇魔法による魔弾を放ちけん制を試みる。
ルキナはそのすべてをもう1つの神器、剣に竜炎を宿す『ファルシオン』で破壊したのち、宣言通り魔の騎士1人に狙いを定め突っ込んだ。
斬りこみの一撃は黒剣で防がれるものの、フォルデを驚く。
「マジか、ここでやろうってわけ。後ろの連中、カイルに殺されるぞ」
「そんなに軟ではありませんよ」
「試してみるかい?」
刹那、五つの剣戟が起こる。4つが相殺して音となり消え、1撃、ルキナが得意とする刺突が、追撃の速さとしてやや勝りフォルデは回避するしかない。
「なるほど……!」
闇魔道による爆発が起こる。
1つの戦いの場は、視認で小さく見えるほどに遠くなった。
フォルデが上空に忍ばせていた闇魔道の攻撃により足止めを受ける女王。そしてその前にカイルが立ちはだかる。
槍による突き上げ。魔槍による一撃は並みの武器を貫きそのまま相手の肉をえぐる必殺の一撃。
レーヴァテインがカバーに入った。自らの名を関する剣に、祖国の煉獄の如き炎を宿し、迫る悪意に負けず受け流す。
「く……」
しかし、少女と大男の力比べはさすがに男に軍配が上がる。押し込まれバランスを崩した彼女へ、強烈な蹴りが入った。
「ぐぁ……」
その場で倒れる彼女に目もくれず魔法で女王を狙う騎士。しかし発動はさせない。神速の剣戟を幾度も自らに迫ればそれに対処せざるを得ない。
「逃げて」
「感謝する」
レーヴァテインも起き上がり、ヴァイスブレイヴの面々と魔騎士との闘いが始まった。
女王には近づかせない。そう相手にまとわりつきながら着実に削っていく。
魔法で騎士は女王を狙うという片手間もあり、撃ち落とし漏らす魔法が女王に襲い、簡単に逃がしはしないが、その手間が自身たちを不利にした。
(行けるか……?)
ルキナはこの戦いに勝利を見出し、女王を逃がすために次にやるべきことを考える。
「強いな」
相手の戯言を無視し、常に頭を働かせて――。
「だが、惜しいな。この戦い、はなからお前らは不利だ」
「何……?」
最悪な出来事が起こった。
城になだれ込み、そこの命を刈ることを優先していた魔物たちが次々と城から離れていく。そして一斉に女王のいる方向へと進路を取り始めた。
「しまった……!」
ルキナは対応しようとするが、ここでフォルデは魔法と剣技を絡め、一気に攻勢に転じた。
ルキナはプレッシャーが強まった騎士の魔法と剣による複合的な攻撃に翻弄され、女王を気に掛ける余裕がなくなっていく。
「もう少し付き合えよ」
「邪魔をするな……!」
「そういうなって!」
それはマリカやレーヴァテインの方も同じ。
カイルは一流の腕を持っている剣士2人を、魔力のこもった槍による力押しで圧倒し始め、余裕を奪っていく。
「はぁ!」
カイルの気合の乗った一撃をレーヴァテインが攻撃を受け止め、隙をたどり斬撃を入れるマリカ。
届かない。やりに阻まれる。
言葉にはしないが、こちらもすでに女王をフォローができる余裕がなくなった。
統率が取れている魔物は、そんな戦いに一目もくれず女王を猛追する。
迫ってきた魔物は低級なのが救いに見えるが、明らかに数が多く、カーライル1人では、生き残れても女王を守り切れない。
「私が殿を。お走りください!」
素直に言うことを聞きイシュメアは走り出したもののさすがにガーゴイルの追跡の方が速い。
さらには魔物の軍勢に殿の意味をなくしたカーライルが飲み込まれる。必死に抵抗し剣を振るうものの、彼を気にも留めず突進する魔物は止められない。
「ここまでか」
走りながらも観念するイシュメア。
それを離れてみるしかなかったルキナ達も、彼女と、希望たる双聖器の死を予感させる。
「残念だな!」
魔騎士の追撃を防ぎながらもあわや威勢を失いかけさらなる不利を招ねこうとしたとき――。
矢の射撃と、手斧の投擲、いくらかの魔法がどこからか飛んできた。
逃げることで精いっぱいだったイシュメア、戦闘中のルキナ達は、この場に迫っていたもう1つの軍勢に気が付いていなかった。
女王にまとわりつこうとした魔物は大斧に振り払われ、女王の前に巨漢が現れる。
「お前は……?」
「おい。俺の女になるか?」
「な、いきなり何を……」
「女王だろう。知ってるぜ。お前が俺に泣きすがる女になるなら命をたすけてやるって言ってんだ」
魔物の軍勢に、山賊の男たちが軍を成して襲い掛かりこの場は戦争状態へと変貌する。
そして女王の前に立つ男に、魔導書を持った少女が呆れた表情で寄る。
「ケセルダ。また女を囲うの?」
「文句か? 殴るぞユアン」
ユアンは女の子(錯乱)
冗談はさておき。
せっかく元の世界と違うという前提で書いているので、もともとと違う歪みをそこかしこに潜ませてみたいなと思います。少年ユアンにも今後のある場所で活躍してほしいなと思っているので、同じキャラクターが二度スポットライトを浴びるなら終末世界ではちょっと変えてみようという試みを行うことにしました。