──『惑星再生委員会』
それはその名の通り、かつてとある星を再生しようと奮起していた集団の名称。今はもう、滅んでしまった過去の名残。
星の滅びを食い止め、再生しようとするその委員会が消滅したことで、その星の滅びは確定した。『死蝕』を食い止めるものはおらず、運命のママに滅ぶことが決まっていた星を、『それでも』と救おうとした者たちがいた。
そして今──
「この土地ももう、私たちが手を加えなくても問題なさそうです」
緑に包まれた丘に一組の男女がいた。そのうちの片方──金の髪の少女、ユーリ・エーベルヴァインはふわりとした笑みを浮かべてこの場にいるもう一人──色素の薄い髪色の少年、ウェル・ハーベストに話しかける。
「うん、そうだな。他のところも確認に行ってみるか?」
ウェルもユーリに笑顔を向ける。彼が視線を向けたところは全て緑に覆われているが、それらがもう自立して手を加えなくても問題ないレベルなのかどうかは行ってみなければわからない。そう思っての発言だったのだが──
「ダメですよ、ウェル。この間もこうして働きすぎて倒れちゃったじゃないですか」
ユーリはむっとした表情でウェルを諌める。ウェルは彼女に弱いのだが、これに関しては譲れない理由がある。
「そうは言われても。俺の両親は──俺はこの星から生まれる前に逃げ出したんだ。そんな俺がおめおめと戻って来たんだから、そのぶん働かないとダメだろ?」
そう、ウェルはこの星から逃げ出した。正確には彼の両親が、彼が生まれる前の母体を気遣って別の星に移ったのだが、それでも本来なら自分が生まれるはずだった星ということで、かねてから興味を持っていたのだ。
そこにちょうどよく舞い込んで来たエルトリアの再生の兆しの報。今行くしかないと思い、それと同時に『今更何の面下げて戻って来た』と罵られる覚悟があった。何を言おうとも、彼がこの星から逃げ出し、戻る機会は幾度もあったにもかかわらず、『星が再生する兆しが見えて来た』とわかるまで戻ってこなかったことは事実なのだ。
だが、待っていたのはそんな罵倒ではなく、たった一人ではあったが『人が戻って来た』という事実に喜ぶフローリアン一家。それを見たことで、ウェルはこの星の再生を心から願っている、自分みたいな裏切り者の帰還を喜んでくれるその一家の力になりたいと思った。
それが大体二年ほど前の話になる。
「ダメです。そんなことして倒れたら、ウェルの看病もする必要が出て来ますからそっちの方が惑星再生の作業に取りかかれる人員が減って遅くなっちゃいますよ」
「そう言われると……」
頬を掻きながらウェルは困った顔をする。二年もあれば、出会った頃よりも気安い関係性になる。そして、それだけの時間があれば関係性も固定されて、彼自身、彼がどう足掻いても勝ち目のない相手、というものも存在することを理解していた。
例えば、エレノア・フローリアン。ウェルがこの星に戻ってくる前、未だグランツ・フローリアンが病床に臥している時から、フローリアン一家を守り抜いて来た女性。
例えば、
例えば、今ウェルの目の前にいるユーリ・エーベルヴァイン。彼女に逆らえない理由は至極単純で、ユーリが悲しそうな表情になるのはフローリアン一家もウェルも苦手だからである。だから、できる限り彼女を悲しませないようにしようとする。あとはユーリがウェルの扱い方をよく理解しているということもあるが。
「さ、一緒に戻りましょう?」
「そこまで言われたらしょうがない、か」
だから、彼女に言われるとその通りに行動してしまう。とはいえ、その行動はウェルのことを思っての発言なので、頭ごなしに否定するわけにもいかない。ウェルは苦笑しながらもユーリの言葉に従い、二人揃ってフローリアン農場に戻って行く。
「あ、二人ともおかえり〜」
農場に戻ってくると、畑を耕していた青い髪をツインテールにした少女──レヴィがすぐに気がついて声をかけてくる。
「あれ、レヴィだけですか? この時間ならシュテルもいそうなものですけど……」
「シュテるんは『何か大事な話がある』って、王様と話し込んでたよ。それより、二人はどうしたの? 今日は一日、この星の再生っぷりを確かめてくるって言ってたよね?」
「一旦休憩です」
レヴィとユーリは仲良く話をしているが、そこに加わるのはウェルとしては遠慮したい。彼女たちの仲にはどれだけ経っても敵いそうにないとすら思ってしまっていた。
「それにしても、牧場の方からも声がしないな」
「あー、うん。アミタとキリエも大事な話があるらしいし、それなら僕がーって一人で」
「ユーリ」
「はい」
「え、え? 二人とも、ちょっと顔が怖いよ?」
レヴィが一人でこの広大な農場の農作業をしているという事実に怒りを見せる二人。しかも周囲を見ると、朝からやっていたとしても普通一人ではできない量の農作業が行われていた。それはつまり、レヴィが全力でやっていたことを示していて、自分の疲労を考えずに作業していたレヴィへの怒りは強くなる。
「いくらレヴィが強いからって無茶はしちゃダメだろ」
「風邪引いたり怪我したりする方がダメなんですよ」
「はーい……」
そんな話をしていた三人の元に、家の方から一人の少女がやってくる。
「おや、ユーリ、ウェル。今日は随分早かったですね」
「シュテル。はい、ウェルが自分の体調を省みずに働こうとしていたので、無理矢理連れ帰って来ました」
茶髪の少女、シュテルとユーリの会話を聞いていたレヴィは不服そうな顔をしてウェルに詰め寄る。
「ちょっとウェルー? 僕にあんなこと言っといて自分は無茶しようとしたわけ?」
「そんな事実はございません」
実際、ウェルはまだまだいけると考えていたからの発言だったが、それを聞いてシュテルと話していたユーリは振り向く。
「何言ってるんですか。あそこまで行くときも、ここに戻ってくるときもふらついてましたよ」
めっというようにユーリは指を向けて怒る。ウェルの後ろではレヴィがやーい怒られたーと揶揄って、レヴィも同じですと流れ弾を食らう。そんな彼らの様子にクスリと笑いながら、シュテルはウェルに近づいてくる。
「ウェル。お疲れのところ申し訳ないのですが、あとで少々時間をいただけませんか?」
「ああ、別にいいけど」
何かあったのかと問えば、予想外の答えがやって来た。
「模擬戦です」
「はい?」
あの後ウェルがシュテルから詳しい話を聞くと、以前に今現在フローリアン一家で過ごしている二人の少女が事件を起こした世界である地球への渡航許可が出るそうで、再戦の約束をした少女と会う前に調整をしたいという話だった。他の人との模擬戦は幾度となく繰り返していたが、ウェルとの模擬戦は数える程度だからちょうどいい機会だからということなのだろう。
「二人とも準備はいいー!?」
そして今、シュテルとウェルは空中で向かい合っていた。
審判は地上にいる橙色の髪の少女、イリス。シュテルはデバイス──ルシフェリオンを構え、ウェルも逆刃刀状態のヴァリアントザッパーを構える。
「じゃ、始め!」
その声が響き、最初に動いたのはシュテルだった。
「パイロシューター」
炎熱属性を持った十二の魔力弾を生み出し、それらが360°あらゆる方向からウェルに襲いかかる。ウェルは所詮、フォーミュラシステムを運用しているだけの人間であり、魔導師ではない以上、それらすべてを対処しきれるほどの演算能力はない。
「アクセラレイター!」
だから、逃げきれなくなる前に脱出する。その言葉とともに一瞬だけウェルの全身が発光し、次の瞬間にはシューターの檻を抜け出すだけではなくシュテルの背後を取っていた。逆刃刀を振り下ろし、シュテルの意識を狩りにいくが、それは二人の間に展開された魔法陣……プロテクションによって防がれ、ウェルも強引に破ろうとはせずに魔法陣を蹴って降下する。
「おっと」
「外しましたか」
直後、先ほどまでウェルがいた場所を誘導魔力弾が一つ通り過ぎる。その間に魔法陣を蹴っての降下も合わせて、アクセラレイターで地面すれすれにまで降りながらヴァリアントザッパーを逆刃刀からボウガンに変化させ、模擬戦のために先端を潰した
直線状にしか飛ばないそれは、何かしらの隙があるわけでもないシュテルには届くこともなく、華麗に空中を舞うシュテルは一撃ももらうことなく対処を終える。
「ルベライト」
「──! アクセラレイター!」
そしてそのまま静かな声でバインドが放たれ、遠くにいたせいでその声が届かなかったウェルは未だ魔力というものを感じることができないことも重なり、ワンテンポ行動が遅れた。
結果としてバインドに捕まり、その一瞬後にはアクセラレイターで向上した身体能力により脱出。ボウガン状のヴァリアントザッパーを今一度逆刃刀に戻しながらもアクセラレイターによる負荷を無視して強引にシュテルに向けて跳び立つ。
「ブラストファイアー!」
ルベライトで動きを止めて放たれる予定だったであろう砲撃が、そのタイミングになってようやく放たれる。確かに砲撃は早いがそんな程度の攻撃は躱すことは不可能ではない。まして、アクセラレイターを使っているならなおさらに。ひょいと避けて最初の焼き直しのようにシュテルへ向かっていくと、すでにシュテルは砲撃を止めて迎撃の態勢を整えていた。
「しまっ──!」
「ふふっ、これで終わりです」
左手の籠手、『ブラストクロウ』から放たれる炎を纏った打撃、ヴォルカニックブローを腹に受け吹き飛ばされたところにルベライトで強制的に動きを止められ、そこに先の
「──っ!!」
まともな戦闘訓練を一切受けていないウェルでは、非殺傷設定の魔法を受ける感覚に慣れず、二度目の砲撃までは腹に叩き込まれた拳の痛みで無理矢理に意識を繋いでいたが、最後の砲撃でついに意識を刈り取られた。
「私の勝ちですね」
最後の砲撃でついに力尽き地面に落ちていくウェルを拾ってのシュテルの宣言で、模擬戦は終了した。
「何……?」
模擬戦の後、家に戻り昼食をとっていたウェルたちだが、そこで銀の髪の毛の先端に黒のメッシュが入った少女、ディアーチェから話を聞き、ウェルはとある頼みをしていた。
「いや、だからその地球って星に行く時、俺もついていってみたいんだ」
「無理に決まっておろう」
しかし、にべもなく断られる。どうしてといった視線を向ければディアーチェはため息をついて、いいかと前置きをしてから口を開く。
「まず、我らがあちらとこちらを行き来できるのは、我らの事情が事情だからだ。裁判などの関係で幾度か向こうに渡ったこと、フォーミュラの技術体系、そして向こうにいる我らの肉体を形作る際のオリジナル……管理局としても無理に抑え付けるよりもある程度意向を組んだ方がいいと判断している存在が強く望んだことがあって、我らは渡航許可を得ている。それを今から貴様の分を手にするとなればどれだけの時間がかかるか」
「うーん、そこまで無茶でもないんじゃない?」
ディアーチェの説明が続く中、桃色の髪の少女、キリエが口を挟む。それにディアーチェがどういう意味かと視線を向ければキリエは口を開いた。
「だって、ウェルはこの世界の出身ではあってもこの星の出身ではないわけだし。そっちの星の独自の進化を遂げた技術との交流って名目と、なのはちゃんたちに『この星に帰ってきてくれた人を紹介したい』って言えばなのはちゃんたちも手助けしてくれそうだけど」
それを聞いてぐぬぬと唸るディアーチェだが、少し唸ったあとに嘆息した。
「一応、尋ねてみるが、そこまで期待はするな」
「了解、王様」
これは、少年の新たな一歩。何も知らぬままこの星へと帰ってきた少年が、かつての事件を知り、自らの道を決めるための物語。