「結局、成功しちゃったな」
「成功したな」
今、地球……というよりもそこに通じる管理局の施設内部にユーリと元猫三匹、そしてウェルの姿はあった。エルトリアでは見たことない光景を見たことで成功したという実感が湧いて、つい漏らした言葉はディアーチェが拾って面白くないというような表情で返事を返した。
「それで、お迎えとやらが来るって聞いたけど」
「まだ来てないみたいですね……」
「まあ、待ち合わせ時間まではもう少しありますし……」
「ねぇ、ユーリぃ、シュテるん、王様ぁ、僕もう待つの飽きたぁ!」
「幾ら何でも早すぎるわ!」
ついてから数分後、早くもレヴィが待つことに飽きて騒ぎ始めたのだが、どうやらここにいるスタッフはあの時の事件に関わった者ばかりのようで、ユーリたちには微笑ましいものを見る目を向け、エルトリアに人が戻ったことも聞いていたのかウェルに視線を向けた後にもう一度四人に目を向けていた。
「あ、王様達もう来てたん?」
それに少々の居心地の悪さを感じていたところに、ディアーチェと髪の色以外は瓜二つの特徴的な喋り方の少女がやって来る。
「はやて、お久しぶりです」
「うん、久しぶりやなユーリ」
その少女、はやてはユーリと会話を始めたが、直後ウェルの姿を認めて話しかけて来た。
「貴方がエルトリアに戻って来たっていう人やな。うちは八神はやて、よろしゅうな」
「俺はウェル・ハーベストって言います。よろしくお願いします」
握手を交わしたところで挨拶は終了。今回は数日の間、地球に滞在している管理局の船に宿泊することになっているが、初日である今日の時点でシュテルの模擬戦が予定に入っていることはウェルも知っている。だから、模擬戦の会場に向かう道すがらはやてに尋ねることにした。
「そういえば、八神さん」
「うん? どうしたん?」
「シュテルの相手をする人ってどんな人なんですか?」
名前を聞いても知らない人物のものである以上は特別意味はない。それなら人柄や戦法などを聞いた方がいいだろうと判断してのことだ。
「シュテルの相手をするんは高町なのはちゃん。どういう人かっていうと明るく優しい子っていうんがあっとるかな。見た目はうちと王様みたいな感じで鏡写しみたいにそっくりなんや」
「そうなんですか……」
「まあ、ウェルくんが会うのは明日以降になるやろうし、その時にでも話をしてみるとええよ」
「はい? 俺、今日は何かあるんですか?」
「うん、アミタさんたちの例があるから、体組織に地球人との差があるのかどうかを確認してから、フォーミュラに合わせた何か特殊な技術が体内で動いてたりせんかの確認。そんでそのあと、ユーリたちから頼まれとることもあるし」
「あ、私も今回はちょっとやることがあるので皆とはそこまで一緒に過ごせないんです」
「……なかなか面倒なことになってるんですね」
ウェルは本日やることを列挙されて、少々顔を引きつらせながらもそんな返事をした。
シュテル達と別れてからすでに数時間が経過していた。別れ際には勝利してきますと不敵な笑みを浮かべていたシュテルだが、実際にどうなったのかは今もなお検査を受けている最中のウェルにはわからず、ただこの検査が終わったら聞きに行こうと思う程度だった。
「はい、それじゃ今日の管理局側からの検査は終了。あとはユーリちゃんから頼まれてることの確認ね」
「ユーリは何を頼んだんですか?」
女性スタッフさんの言葉を受けて、ウェルは先ほどから気になりつつもあとでわかるからとごまかされ続けてきた質問をした。次にその検査をするならもう隠す意味はないだろうと思ってのことで、そして実際、あっさりとスタッフはウェルに答えを教えてくれた。
「あなたに魔力があるのかどうか。ま、実際にはあるってわかってはいたからその魔力ランクの測定ね」
「…………はい?」
ただ、それは少々予想外の答えではあったが。
理解を超えていて呆然とするウェルに、スタッフさんは丁寧にその結果を教えてくれる。
「魔力量はBね。B+にちょっと届かないレベルかしら」
「いやいや、待ってください! なんでそんなことを確認する必要があるんですか!」
「うーん、その辺りはユーリちゃんに聞いてみないとわからないけど。でも、貴方を魔導師にしようとしてるのは確かよね。今、あの子はデバイスマイスターの資格を取るための勉強をしているみたいだし」
そう、今この場にはユーリはいない。スタッフが言った通りデバイスマイスターの資格を取るための勉強用の図書を借りに行っている。以前からユーリは地球に来るたびにデバイスマイスター関係の図書を借りに行っていて、その頃はシュテル達のデバイスが壊れたり機能不全を起こしたりした時に修理をするためかと思っていたが、それ以外の目的もあるようだ。
「まあ、貴方のために用意してくれるらしいから、もらっておけばいいんじゃない? あったらあったで便利なことには間違い無いんだから」
その日の夜、ウェルは一人で割り当てられた部屋にいた。
当然のことながら、ウェルは男で残りの四人は女。だから部屋が別になるのは当たり前で、今のウェルにとってはありがたいことだった。
ちなみにシュテルとなのはの模擬戦の結果はウェルは知らない。今日の疲れもあって、それを聞くことも忘れて部屋に戻っていたのだ。
(それにしても、なんでユーリは俺を魔導師にしようとしてるんだろう?)
ウェルが今考えていることはただそれだけ。気になるなら聴きに行けばいいと言われるかもしれないが、いくら家族のような関係だからと言って、女性の部屋に行けるほど図太くはなかった。なので悶々としながら考えていると、部屋にノックの音が響く。
「? どうぞ」
ウェルが言葉を発すると、扉が開きそこからユーリが入ってくる。その髪の毛が微妙に湿っていて、風呂上がりだと気がつきウェルはギョッとした。
「ウェル、今いいですか?」
「あ、うん、別にいいけど……」
しかしテンパっていても、言葉を発する前にユーリから許可を求められて、よくわからないまま許可を出してしまう。するとユーリはウェルが腰掛けているベッド、それもウェルの真横に座り、距離を取ろうとしても詰めてくるのでウェルも諦めて、そのまま超至近距離で話をすることにした。
(なんかいい匂いするんだけど……!?)
(うう……恥ずかしいですけど、シュテルが男の子には効果抜群だって言ってましたし)
二人とも、頭の中では違うことを考えていたが、それでも話ができないわけではない。なので、ほんの数秒ほどの沈黙を破り、会話が開始された。
「あの、ちょっと聞きたいことがあって……」
口火を切ったのはユーリ。もともと話をしたくてここにきたこともあって、話す内容も決まっている彼女が先に口を開くのはある意味当然と言えた。
「うん、なに?」
「今、ウェルのデバイスを作ってる最中なんですけど、どんな感じの武器がいいのかわからなくて。ウェルが使うなら、ウェルの意見を反映させた方がいいと思って聞きにきたんです」
「デバイス、確か魔導師の使う魔法の杖みたいなもの、なんだよな?」
「はい」
ウェルにはそんなものを使っている自分を想定できなかった。基本フォーミュラシステムでどうにかしてきたし、これからもそうしていくつもりだったから降って湧いた『魔法を手にする機会』というものに頭がついていかない。
「手に持ちたくはないなぁ。フォーミュラ使って戦うわけだし。ヴァリアントシステムを扱えないように手が塞がれるのはごめんかな」
「なるほど……」
ただ、それでも聞かれた質問には答え、ユーリはウェルの言葉を聞いてメモを取る。そのメモを取り終わるのを待ってウェルも質問をする。
「ところで、なんでユーリは俺を魔導師にしようと?」
「別に魔導師にするつもりはないですよ? 合う、合わないもあるでしょうし、ウェルが嫌ならそれに関してはしょうがないとも思います」
「なら……」
「でも、もしもの時に取れる手段を増やしておくのはいいことだと思いますし、そうでなくても普段から無茶をしてばかりのウェルにはお目付役がいると思うんです」
至近距離から琥珀の目を向けてくるユーリ。そこには真面目な話をしているからか先ほどまでの照れの色はない。
「シュテル達は、元は猫なのに人間としての姿の元になったなのはたちの影響か戦うことに支障はないです。アミタ達も戦闘経験は多いから多少力の差がある程度の相手には負けません。でも、ウェルにはそのどちらもないから、手段だけは増やしておきたいって思ったんです」
「ああ……」
ユーリの瞳に魅入られて、その言葉は耳から入っては抜けていく。けれどウェルは、それでもどうにかして返事だけは返して、そこで会話が途切れた。
「そ、そうです! もう一つ話が、というよりもお願いがあるんです」
そして、今度の沈黙には耐えきれずに、ユーリはウェルに話しかける。
「お、おう……」
ウェルはタジタジになりながらもユーリの言葉を待ち
「今日、ここに泊めて欲しいんです!」
「……は?」
その言葉を聞いて目が点になった。
──どうしてこうなった!
今のウェルの心情を言葉にするなら、こういうところだろうか。
「ウェル、あったかいです」
壁と密着したベッドの上で、扉の方に寝ることでユーリが落ちないようにしながら、ウェルは自分の中の獣と戦っていた。背中を向けているので今のユーリの表情はウェルにはわからないが、二人揃って茹で蛸のように赤くなっている。
(ディアーチェたちが教えてくれた方法でやってるのに、全く反応してくれません……)
(ここで反応したらディアーチェに殺される……)
どうでもいいことだが、ウェルはユーリに好意を抱いているし、ユーリもウェルに好意を抱いている。だが二人は恋人というわけではない。理由はいくつかあるが、その一番大きなものはディアーチェだろう。
──もしも貴様がこの家の者に手を出したなら、その時は我が一片の塵も残さずに殺し尽くしてくれる。
出会った当初、エルトリアに人が戻って来たことを喜んでいたフローリアン一家の中で、唯一冷静だったディアーチェがウェルに対して言った言葉である。信頼も何もない状態なので何もおかしな言葉ではないが、その言葉が未だに残っているためにウェルから手を出すことはない。ちなみに今のディアーチェはもう信頼しているので特にそんなつもりはないが、そんなことを長年の付き合いでもないウェルにはわかるわけがない。
なので端から見たら付き合ってるように見えても付き合ってはいない。
(ディアーチェ一体何考えてんだ!)
(ディアーチェがせっかく『明日の朝には良い報告を期待している』なんて言って送り出してくれたのに……)
念話を使っているわけでもないので、ユーリの思いが届くことはないが、まさかのウェルの疑問にユーリが答えているという状況である。
二人は無駄に意識している影響で眠れないかと思われたが、慣れたエルトリアとは全く違う土地であることや、ウェルは大量の検査による疲労、ユーリは多くの勉強をしていたことによる疲労が溜まっていたこともあり、二人してしばらく時間が経った頃には微睡みに落ちていたのだった。
この主人公の基本スペック
魔力:管理局員の平均よりもちょい上程度
戦闘経験:そこらへんの職員程度なら(素手同士、あるいはフォーミュラありなら)倒せる
フォーミュラの扱い:どうあがいてもアミタたちには勝てない
魔法:使ったこともないのにどうやれと?
所長と戦ったら確実にボコられるスペックです。どの分野でも上がいる程度。ただ、まだ戦い始めて二年程度なので、これからの成長に期待することはできる(ちなみになのはたちと同い年)