ユーリが受けたデバイスマイスターの試験、その合否通知が来る日。その日、エルトリアの面々はどうしようもなくそわそわしていた。
「緊張します……」
「なんでまだ来ないのー!」
「落ち着かんかレヴィ」
「そんなこと言っているディアーチェもそわそわしていますよ」
「シュテルもそわそわしてるけど……」
五人揃ってそわそわしながら、女子の部屋に入るのもということで、なぜか共同スペースではなくウェルの部屋で待っていた。
「あ、来ました!」
十分ほど経った頃、ユーリの持つ、こちらにいる間連絡を取るために支給された携帯端末の元にメールが届く。ユーリがそれに声をあげて、緊張しますなんて言いながらメールを開いた。そこに書かれているユーリの名前などは流して、合否の部分にのみ全員の意識が集中する。
「結果はどうなの?」
「ちょっと待ってくださいね……えっと」
レヴィに急かされるようにして合否が書かれた場所までウィンドウをスクロールしていく様を全員が緊張しながら見ている。そうして一番下までスクロールし終えたところに、合格の二文字が発見された。
「よかったです……」
「ユーリ、合格したんだ!」
「ふむ、今日は祝いだな」
「ええ、ユーリの合格祝いです」
三人寄れば姦しいとまで言われる女子が四人で会話する中に、この部屋にいる唯一の男子たるウェルは加わらずに、その様子を少し離れて見ていた。別に大した理由があるわけではなく、ユーリと近づきすぎてディアーチェに怒られた経験があるからである。
「これでウェルにデバイスを作ってあげられます! 最高のデバイスを作りますからね!」
「その辺りは心配してないよ。ユーリの腕は知らないけど、真面目なことは知ってるから」
ちゃんとしたものを完成させないと渡すことはしないだろうとウェルは確信していた。その信頼を受けてユーリは恥ずかしくなるが、それと同時に信頼に応えたいと奮起もしていた。
数日後、訓練室にウェルの姿はあった。
『それじゃ二人とも、お願いします』
「ええ、任せてくださいユーリ。彼の魔導師としての戦闘の初めての相手はしっかりと勤め上げてみせます」
ウェルの眼前には、この世界に来る前の模擬戦の時のようにシュテルが浮かんでいる。
今回も行うことは模擬戦に変わりないが、以前のそれとは違い今回はウェルも魔導師として戦うことになる。
本来ならフォーミュラに魔導を組み合わせる形で使うことになるのだが、まずはデバイスとしてまともに運用することができるかどうかの確認になる。それが終われば次はフォーミュラ……というかヴァリアントアームズと組み合わせてということになり、難易度はおそらく急激に高まる。
「どう考えても負ける気しかしない……」
「デバイスがしっかりと動くかどうかを確かめるのが目的ですから、勝ち負けは気にしなくてもいいでしょう。……まあ、負けるつもりはないですが」
が、それもまずはデバイスがちゃんと動くことが確認できなければ実行することなど不可能。
その確認のためにも、どうぞ、と促すシュテルに従い、ウェルは普段つけていない、手の甲に宝玉のついた手袋に向けて呼びかける。
「ガーディアン、セットアップ」
その言葉とともに私服からウェルが最も戦いに適していると考える格好、彼が普段から使用するフォーミュラスーツがそのままバリアジャケットとして生成された。
「お、おお?」
さらに、バリアジャケットを纏ったウェルの周囲にユーリが使う武装、魄翼によく似た武装が四つ浮かんでいる。さらにそれにヴァリアントアームズを合わせて戦うのが基本となるが、今はまだ魄翼に似たユニット、”リュストゥング”の扱いに慣れることから始めないといけない。
「えっと、こんな感じ、か?」
ふよふよと浮かぶリュストゥングを左右に動かしてみて通常の操作に難がないことを確認し終えたところで、ユーリから声がかかる。
『準備はいいですね』
「はい、もちろんですよユーリ」
「こっちもなんとか」
『では、試合──』
シュテルはルシフェリオンを両手で持ち、先端をウェルに向けて構える。
ウェルはリュストゥングを左右の斜め前方に二つずつ移動させて前傾姿勢になる。
『──開始!』
「先手必勝!」
シュテルはバックステップしながら空へ飛び上がり、ルシフェリオンを突き出すようにしながら
それらが様々な方向から己に向かってくるのを確認して、ウェルはリュストゥングにガーディアンを通じて命令を送り、四つある魄翼のうち最も外側の二つが羽を開くようにして変形したことを視界の端に捉えた。
(なるほど。防御魔法が使えないぶん、これが盾の代わりにもなるってことか)
リュストゥングに流し込んだ魔力が変形した外側の二つに集中し、その二つを起点として魔力の壁のようなものを生み出す。感覚的にはパイロシューターなら三十程度は余裕で受け切れるだろうが、収束砲撃クラスだと一瞬で割られると判断して、砲撃が飛んでくるよりも先に距離を詰めることにした。
フォーミュラシステムが起動して、飛行魔法を使えないウェルが空中でも戦えるようにしてくれる。空に向けて踏み込むために一度魔力壁は解いて、リュストゥングを物理攻撃用の武器へと戻す。本当ならフォーミュラはデバイスの確認の後なのだが、そもそもフォーミュラを使用しないことにはウェルに勝ち目はないのでヴァリアントアームズのみ使用を禁じられている。
「せいっ!」
腕の動きと連動して魄翼が動く。シュテルに向けて襲いかかる翼はプロテクションにて防がれ、そのままプロテクションの内側からリュストゥングをシュテルがブラストクロウにて殴ったことで、一度打ち落とされた。
「ブラストファイアー!」
シュテルから放たれる炎熱砲撃を見るよりも先に、叩き落とされたリュストゥングへ干渉し己の元へと戻したウェルは、それらを重ねて砲撃を防ぐ。
「アクセラレイターッ!」
リュストゥングが押し切られそうなことを確認して呪言を紡ぐ。その文言が紡がれるとともに、体内のナノマシンが励起し髪が発光する。そしてウェルが砲撃の射線状から逃れようとした瞬間、異変に気がついた。
「あれ? アクセラレイターってあんなに遅かったっけ?」
そしてその異変は、観客席で見ていた面々の中ではアクセラレイターを使用したことのあるなのはが最初に気がついた。その疑問が言葉として外界に出ると、他のアクセラレイターを見たことある面々も気がついて、答えを知っているであろうエルトリアの面々を見る。
だが、エルトリアの面々も一人を除いては訝しげな顔をしている。故に、その中で唯一平然としているユーリに皆が顔を向けるのは当然といえた。
「ガーディアンには、ウェルの無茶を防ぐためのお目付役としての役割もありますから。基本的に体に負担のかかる技は使わせません。アクセラレイターは、ナノマシンを最大稼働させるせいで体に負担がかかりますから、負担がかからないギリギリのラインまでしか加速できないようになってます」
「それは……」
むしろ全力を出さないと勝てない相手の場合は危険なのではないかと、今この場にいる面々の意見は一致していた。そのことも理解しているのか、ユーリは言葉を続ける。
「もちろん、彼が無茶をしないと勝てないと思った場合には自分の意思でその制限を解除することは可能です。私が止めたいのは、しなくてもいい無茶だけですから」
全力のアクセラレイターよりも遅くとも、リュストゥングが抜かれるよりも先に脱出することは可能であり、ウェルは抜け出た直後にリュストゥングを回収してその速度を維持したままシュテルに特攻する。
「バスター」
ブラストファイアーを放つことをやめて迎撃に入ろうとするシュテルにほとんど威力のない砲撃を放つことで一瞬だけ時間を作る。
「貫け!」
普段のアクセラレイターならその時間だけで距離を詰めることに成功していたのだろうが、今の速度ではどうしても一手足りない。故にその一手分の時間を作るために変形したリュストゥングに魔力刃を展開しそれを飛ばす。
「遅いっ! ディザスターヒートッ!」
しかし、その魔力刃が届く頃にはシュテルはすでにチャージを終えて三連撃の砲撃を放つ。連撃にするために一発あたりの威力は低くなっているが、それでもウェルにとって脅威であることには代わりない。
一発目。魔力刃を消しとばし、向かっていたリュストゥングを撃ち落とす。
二発目。防御に回された残りのリュストゥングに阻まれる。
三発目。リュストゥングを抜いて、防ぎきれると踏んでいたウェルに直撃。
「しまっ!」
動きの止まったタイミングでシュテルの必勝コンボの始まり、ルベライトでの拘束が決まってしまう。
「真・ルシフェリオン──」
(あ、これ負けだな)
「──ブレイカーッ!!」
迫り来る砲撃を受け入れるようにして、ウェルは目を閉じるのだった。
「あっ、目が覚めましたか?」
「ユー、リ?」
目を覚ましたウェルが最初に見たのは、なぜか自分を見下ろすようにしているユーリの姿だった。
「シュテルのブレイカーで気絶しちゃったんですよ」
覚えてないですかと心配そうにするユーリだが、そこでようやく今の体勢に気がついたウェルとしてはそちらにまで気が回らない。
(え、これってまさか膝枕!?)
「どうかしたんですか?」
しかし、ユーリは調子がおかしいことには気がついても、その理由にまでは思い至らない。結果として、さらにウェルをドギマギさせていることなど知らないままだった。
「ユーリの羞恥の基準はどこにあるのだ……」
「膝枕はセーフで、抱きついたりするのはアウトで、お風呂上がりに部屋に行くのはセーフって、状況だもんねー」
そしてそれを、少し離れたところでディアーチェたちは確認していた。今はユーリによってウェルにリミッターのことが教えられていた。
「全く、あの二人の関係性はいつになったら進むことやら……」
「色々やってるのにねー」
「まあ、二人には二人の進め方があるのでしょう」
「そうはいっても、ああまで全く進まんと心配になってくるぞ」
意識しているウェルと、そのことに気がついていないユーリ。二人の様子を見てディアーチェはため息をつくのだった。