(カメラ切り替わる)
おはようございます。ダブリン中央放送第2スタジオから、ワールド・トレンド・ニュースの時間です。
では、本日のラインナップはこちら。
9時半からのストレイト・ニュースでもお伝えしましたが、連邦下院の閉会中審査を巡る与野党会派の対立に新たな展開がありました……ヤシマ・インダストリーの本社移転問題に関して、臨時株主総会での議決を目指す経営陣と、これに反対する筆頭株主のブッホ・フィナンシャル・パートナーズの委任状争奪戦が激化しています。日系金融機関の対応も割れており、予断を許さない情勢です。この他にも連邦軍再建計画に関する新たな汚職疑惑報道など様々な話題が入っていますが…-
やはりトップニュースはこちら。世界的な株安の連鎖が止まりませんね?
はい、一部の市場関係者の間では既に「リーア・ショック」あるいは「ソロモン・ショック」という名前がつけられているようですが、このように経済紙だけではなく、一般紙やタブロイド紙も大きく取り上げています。
10日午後の観艦式中止の報道、及び連邦軍による月方面への通信及び航路封鎖の報道を受けて、リーア・セントラル証券取引所から始まった世界的な株安の流れが止まりません。
リーアセントラルの上場銘柄は月資本との関係が深い企業が多いことから、宙域間運輸や広域通信インフラ関連株を中心に、不動産や観光、金融など幅広く売り展開となりました。
これを受けて営業時間が重なり、またリーア・セントラルと同じ上場銘柄の多いニューヤーク市場では、個人投資家や中小の機関投資家を中心にパニック的な売り注文が殺到。こちらも農業、建設、重工業に軍需など業種を問わず全面安の展開となりました。
グリニッジ標準の深夜01:00に最高行政会議の経済担当総務委員(副首相)が行った緊急会見による効果もむなしく、11日午前のニューホンコン市場の主要平均株価の下落幅は一時400ドルを記録。サーキットブレーカー(取引強制停止)が発動される事態となりました。一年戦争中におけるペキン陥落以来の発動に、市場関係者は動揺を隠しきれません。マドラス、ダカール、ベルファスト、ダブリンも前日来とホンコンの影響を受ける形で、大きく値を下げています。
関係者の注目は、現在開催中の北米連邦準備銀行の緊急会合直後に開かれるニューヤーク市場が、世界的な株安の連鎖を流れを断ち切れるかに集まっています。
震源地のリーア・セントラル、およびフォン・ブラウンの両証券取引所は、市場の安定を図るために時間外も含めて3日間の取引停止を表明しました。ですが月面金融資本が単独でどこまで実効性のある対策を打ち出せるかは、不透明な状況です。
株式市場の混乱について市場関係者は、ジオン残党蜂起による治安悪化への懸念を指摘しています。旧ジオン親衛隊による10月31日の声明文発表以降、その動向は注目されていましたが、幾度かの声明を除けば具体的な行動はありませんでした。多くの投資家は連邦宇宙軍の観艦式中止により、月面方面および暗礁宙域周辺での残党軍の軍事行動が長期化すると受け止めているようです。
金融市場だけではなく実体経済への波及も懸念され、すでに商品先物市場にも影響が出始めています。そのためUC0080年後半から続いた戦後復興特需、いわゆる実感なき景気回復から、本格的な景気後退局面に入ったのではないかとする観測も出ています。
番組後半では予定を変更して当局の論説委員に加え、ゲストに軍事と経済の専門家をお迎えして、今後の景気を左右するジオン残党軍の展望について忌憚なく語って頂きます。なお予定していましたヤシマ・インダストリーに関する特集は、日を改めてお送りしたいと思います。
さて続きましてはシリーズでお送りしています連邦議会総選挙です。
投票日まで2週間を切りましたが、各選挙区で激戦が続いています。本日は欧州の注目選挙区です。今回の選挙戦を象徴するように、既存政党の不振と苦戦が目立ちますね。対照的に過激なエコロジストや環境政党が勢いを維持しており……
- ダブリン中央放送 情報番組の冒頭 -
フォン・ブラウンは喧騒と混乱の最中にあった。
けたたましい警戒音とともに始まった公共放送の緊急番組において「移動中のコロニーが落下する」という放送がなされた。ところが突如として番組が中断。正体不明の情報が怪文書のようにネット空間に飛び交い続け、挙句に深夜に突如として発表された事実上の戒厳令布告である。
これでは情報統制も意味をなさない。少しでも資産のあるものは、より硬い岩盤に守られた深層に潜ろうと伝やコネを頼って奔走し、資産のないものは一刻も早く市外へ逃げ出そうとして港湾警備の機動隊と衝突していた。それすら出来ないものはシャッターを下ろし、家や商店への篭城を決め込んで情勢を伺っていた。
商工会議所ビルは蜂の巣のように幾層にも積み重なったフォン・ブラウン市の最上階、その一等区画に位置する。さすがにこの地区は直接の喧騒と無縁であったが、ビルの外では暴徒に対応するという理由で-実際にはある人物一人の身の安全を確保するためだけに、市の警備局に属する機動隊が一重二重に取り囲み、臨戦態勢を敷いていた。
命の値段と個人資産が比例するとされるこの街らしく、彼らは事あらばあらゆる事を犠牲にしてでも、護衛対象を救出することを任務としていた。
アナハイム・エレクトロニクス(AE)のフォン・ブラウン支局長のオサリバン常務取締役は、警護の警官に護衛されながら市商工会議所ビルに入ると、いくつかのチェックを通過すると、そのまま直通エレベーターで最上階へと上がった。
エレベーターの一時的な重力に耐え終わると、無機質な電子音と共に両開きの戸が左右に開く。
オサリバンの目の前に、最上階のフロアを丸々使用した広々とした応接待合室が広がる。待合室というよりもパーティー会場のような雰囲気すらあるが、この場所は商工会のメンバーでも限られた者しか使用が許されない場所である。極限にまで実用性と装飾を追求した部屋は、オサリバンにとっては見慣れたものであった。
このアイルランド系ルナリアンが部屋に入ると、すでにそこにいたメンバーの何人かが待ちかねていたように立ち上がり、彼に話しかけようとした。しかしオサリバンはいつもの愛想のよさを意図的に忘却することで、彼らを言下に拒絶した。
ここは商工会の応接待合室という名目だが、実際にはフォン・ブラウン市の政財界有力者による専用のサロンである。故にオサリバンに話しかけようとして拒否された彼らも市の有力者なのだが、当の本人は歯牙にもかけない。オサリバンは自分の強面の顔が他人にどのような印象を与えるかを、よく理解していた。
悠然とした足取りで、オサリバンは自らの個人デスクに歩み寄る。この部屋に会社ではなく個人のデスクを設けているのは、彼を含めて片手で数えるほどだ。
オサリバンは手荷物を机の上に置くと、キャスター付の椅子を引いて腰掛けた。マガボニー材を使用した特注のデスク発注する際、職人はキャスター付きのゲーミングチェアタイプの椅子とセットという内容に、露骨に嫌な顔をしたが、オサリバンは発注者として自らの注文を押し切った。
アースノイドである家具職人は「モノの良し悪しのわからぬ痘痕面(ルナリアンの蔑称)」とでも言いたげな表情をしていたが、実用性を重視する彼は、全く気にもしていない。オリジナルブランドを製造するだけの財力もないのに、注文の内容に文句をつけるなど、お門違いも甚だしい……とまあ、こんな具合にオサリバンは常日頃から自身の考え方を隠そうともしない。
そのためオサリバンは自由主義経済の総本山とも揶揄される、この月面最大の都市の中でも「通帳の0の数で人のプライドを殴りつける男」という拝金主義者とみなされていた。実際に彼はその評価を裏付けるかのように、月面都市経済界における批判と称賛を集めている。曰く「ルナリアンの能力至上主義を体現した成功者」として、あるいは「既存の秩序を破壊する成り上がりの野蛮人」として。
しかし彼に言わせれば、金を道具とした事はあっても、金そのものを目的として行動した事などない。より正確に言えば、オサリバンは自身の成果と能力が正当に反映されるという意味で、誰の目にも明らかな平等な統計上の物差しとしての金に絶対の信頼を置いていた。
フォン・ブラウンの-今は再開発で消えてしまった地区の出身であるオサリバンは、いついかなる環境であっても自分には金を稼ぎ出す能力があると信じて生きてきたし、実際にこの男は自身の仕事でそれを証明することで、今のポストまで上り詰めたのだ。その点で言えば自分は確かに拝金主義者かもしれないと、彼自身も認めてすらいる。
自分は金そのものには執着しないし、必要と判断すれば相手が誰であろうと、金額の多寡に関わらず撒いてきたのだから。
椅子の背もたれに体重を預けると、オサリバンは椅子を半回転させた。
彼の個人デスクの背後にある北向きの壁一面は、巨大な窓となっている。限られた有力者しか使用出来ないこの部屋の窓は、銃弾はおろか小型の隕石の衝突にすら耐えうるという特注品が使われている。強度と透明度という相反するものを極限まで突き詰めた結果、何層にも強化ガラスが重ねられているにもかかわらず、まるで1枚もののガラスのように筋ひとつ見つけることが出来ない。
眼下には5000万の市民の行政を担当する市役所の各庁舎、そして良選たる議員の集まる市議会議事堂がある。これらを見下ろすように最上部の中央に位置する商工会議所ビルは、この市における真の支配者が一体誰なのかを如実に物語っていた。
しかしオサリバンの意識は庁舎街や議事堂にはない。それよりも遥か遠く、コロニーの外壁地区周辺へと向けられていた。
思えば自分は、あのクレーターの外壁近くの低所得者地域の窓から腹を空かせながら、このビルを見上げていた。それが今や、連邦政府の官僚や官憲ですら立ち入りを制限されるというフォン・ブラウン商工会議所のサロンであるこの部屋に、個人のネームプレート入りの机を置くことを許される地位に上り詰めたのだ。
自由競争を掲げるこの月面都市でも、階層ごとの年収格差や資産相続における差は確実に広がりつつある。そんな中でのオサリバンの立身出世の物語は、まさにこの市の価値観を体現したものと言えるだろう。
しかし彼はまだ今の地位に満足していなかった。
思考と選択の積み重ねであるはずの人生経験は、いつしかその人間の生き方を縛り始める。オサリバンのそれは、このアイルランド系ルナリアンに更なる名誉と地位を渇望させる原動力として、あの再開発地区で商工会ビルを見上げていた当時と同じように燃え続けていた。
一年戦争勃発における混乱の中、AEは連邦とジオンの間を巧みに遊弋して企業生命を保った。その中で軍需部門の一中堅幹部でしかなかったオサリバンは水を得た魚のごとく活躍した。当主であるメラニーを除く創業家一族や一流大学出身のエリート幹部が右往左往し、あるいは躊躇するリスクの高い案件にも、利があるとみれば果敢に飛び込み、あるいは自分で契約を取り付けた。なりふり構わぬ働きにより、オサリバンは巨大企業連合たるAEにおいて、他の追随を許さない成績を叩き出してみせた。
また戦後においても連邦軍の中枢に食い込み、連邦軍再建計画の中心プロジェクトたる新型ガンダム開発計画を受注することに成功した。同時にジオン残党軍ともパイプを維持することで「保険」をかけることも忘れない。
そしてその保険は今、自身がAEにおける権力の階段。その最後の頂きに上り詰めるための貴重なカードとして、効果を発揮しようとしている。
ビストの女狐が横槍を入れようとしたが、すでにカーバイン家の総帥と取締役会は、フォン・ブラウン5000万人、引いては月面経済をジオンの脅威から退けるためには、自分しかいないと判断している。
ついにここまで来たというべきか、それともようやく、あのクレーターの外壁からここへとたどり着いたというべきか。自身の長い道のりを噛締めるように、一度、二度と彼は頷いた。
しかしまだだ-まだ自分の足で立ったわけではない。ここでしくじってはすべてを失う。
緩みそうになる顔の表情筋に意図的に力を入れながら、オサリバンは自分の机に3人の人間を呼び寄せた。
フォン・ブラウンの副市長、月商工会議所の事務局長、そしてAEの経理担当常務が、足早に自分の元へと歩み寄ってくる。
頭の先から靴の先まで一流品で揃えた彼らが、まるで小間使いのように振る舞うのは奇異な印象を与えるが、この部屋にいる他のメンバーを含めて、誰もオサリバンが主然として振る舞うのを疑問には持たなかった。
政界と財界、そしてAEのお目付け役である彼らは、同時にオサリバンの働きを見届けるという歴史の証人でもある。
前者の2人が暗い表情をしているのは、連邦艦隊の苦戦を聞き及んでいるからであろう。口髭を生やした副市長と事務局長はAEの社章を左胸につけて身分を偽装していたが、明らかに挙動不審であった。冷静さを保とうとしてはいたが、時折オサリバンを催促するように、縋るような視線を幾度となく向けてくる。
この2人とは対照的に、AEの金庫番と呼ばれるコウエル・J・ガバナンは、生真面目な、そして冷徹さというよりも政治的な鈍感さからくると思われる生気の乏しい表情を浮かべていた。
官僚以上に官僚らしいとされるこの男を、オサリバンはその必要性は認めていても、全く評価していない。せいぜいが忠実な秘書といったところだ。しかし見届け人としては、ちょうど良いかもしれない。
オサリバンは椅子に座ったままの姿勢で、もったいぶった様に咳払いをしてから、口を開いた。
「皆様すでに御承知のように、ソロモン、いやコンペイトウからの連邦の追撃艦隊は、デラーズ・フリートの護衛艦隊を前に、苦戦を強いられております」
月商工会議所は北米に起源をもつAEを前面に立てながら、独自に連邦軍とジオン残党に対する諜報活動と通信傍受活動を秘密裏に行っている。形式上は連邦政府の傘下にあるとはいえ、連邦軍が絶対的な強者でない事は先の大戦で証明された。有事の際には最も危険にさらされる可能性が高い。まして4つのサイドが消滅した後の宇宙において、生き残るためには手段を選んではいられないのだ。
彼らは既にバスク分艦隊が6時間近い激戦の後に撤退した事、その指揮官のバスク少将がMIAになった事、またコンペイトウからの追撃艦隊の先遣部隊がコロニー「アイランド・イーズ」とその護衛艦隊に接触したのはAM09:00前後である事……そして先遣部隊が謎のMA相手に全滅し続けている事。これら全ての情報を、両陣営からほぼリアルタイムで入手していた。
連邦軍人に痘痕面の守銭奴と蔑まれようとも、そうせざるを得ない月面都市の苦渋がここにあった。
不正規戦闘ではジオン残党が連邦の正規艦隊に所属する部隊に勝利することは、まま起こりうる(実際に発生している)。しかしすべてのジオン残党の勢力を集めても、最終的には連邦軍には敵わない。反政府勢力の象徴としてジオン残党が利用されている側面があったとしても、その勢力は限られている。
そしてコロニー落し後のアースノイドの主流世論は、ジオン残党に対して極めて厳しい。今回の武力衝突が終了した段階で、仮にジオン残党への協力が発覚すれば、元のニューヤーク市長のように政治的基盤や社会的信用を含めて、全てを失う可能性がある。かといってジオン残党への協力を拒否すれば、即座にテロの対象になる危険性がある。
そう、まさに今の状況だ!ルナリアンにとっての破滅の危機は、オサリバンにとって千載一遇の好機に他ならない。
頼みの連邦艦隊はデラーズ・フリートの護衛艦隊を突破出来ず、月面への落着前にコンペイトウからの本隊到着が間に合うかどうかは不透明。
最終的にデラーズ艦隊は、連邦艦隊に殲滅されることはわかりきっている。しかし今、彼らの要求を拒否すればどうなるか。現にコロニーはこの瞬間も、ここを目指しているのだ。そして彼らの要求に屈することは、地球連邦政府への重大な裏切り行為にほかならない。
戦後を考えれば、そのような政治的博打にはのれない……という具合に、月面都市の2つの広域連合参加都市や経済界も含めて、フォン・ブラウンの中枢部の議論は堂々巡りを続けていた。
そうした空気の中、オサリバンは自ら手を挙げると、誰もがためらう政治決断を代弁すると宣言した。
そして一部の強硬な連邦派の都市を除けば、月面都市の政財界の殆どが彼の決断を讃えた。AEの根回しがあったとはいえ、実際に生命と財産の危機にさらされているのだから当然といえば当然である。
「……よって、このフォン・ブラウンの危急存亡の危機に至り、及ばずながらも、このオサリバン個人の独断と責任により、デラーズ・フリートとの交渉を行うつもりです」
オサリバンの長広舌を聞かされていた副市長と事務局長は、ようやく出た「個人の独断と責任」という単語の組み合わせに、政治的な責任を負わずに済んだという安堵の色を浮かべた。
オサリバンはAEにおける親連邦派の筆頭(少なくとも表向きは)。連邦軍に深く食い込んでいる人物の決断であれば、戦後に連邦軍が厳しく利敵行為についての責任を追及することはあるまい。あるいは切り捨てる時も、この男だけで済む。そう考えたからであろう。
「よろしいのですな、ミスター・オサリバン?」
気が咎めたわけでもないのだろうが、副市長が口髭を撫でつけながら心にもない配慮を、この「愛国者」に示す。
「皆様方は誰一人として、このフォン・ブラウン政財界には欠かしてはならないのです。下賤なテロリストの交渉などで失ってよい人材ではありません」
オサリバンは言葉と態度だけはやたらに丁寧な、通り一辺倒の世辞で応じた。いかにも実力主義のフォン・ブラウンに似つかわしくない形式主義に思えるが、このやりとりを自分達以外の待合応接室にいる連中に見せつける必要があった。故にオサリバンもこの下らない配慮に付き合うのを苦とはしなかった。
2人のやり取りを無言で見守っていたガバナンは、オサリバンの「個人」という単語を自らつぶやくように繰り返すと、念を押すように自社の常務取締役の顔を見返した。
オサリバンはこれにも気分を害した様子もなく「いかにも、私個人による決断によるものであり、AEとは関係ありません」と、この男(AE)が望む答えを返した。
第三者からすればオサリバンばかりがリスクが大きく、スケープ・ゴートを押し付けられたようにも思える。
だがこの強面のルナリアンの手掛けた仕事とは、いつも塀の上を歩くような事業の連続であった。今回はそれが多少規模が大きいだけだ。当然ながらリスクは途方もないものだが、その見返りや栄誉は、自分一人が握ることになる。さすれば時期CEOの座も現実味を帯びてくるというものだ。
そこまで考えが至った瞬間、個人デスクに設置された通信装置のランプが光った。
画面に映し出される番号は、ここ数日来お馴染みとなったもの。緊張感からか見届け人の顔から色が消え失せるのを尻目に、オサリバンはコール音を背にノートパソコンタイプの折りたたまれた画面を広げた。
「よろしいですな?」
そのオサリバンの言葉に含まれた意味をどこまで理解していたのか。副市長と商工会の事務局長は軽々しいまでに首を縦に振り、ガバナンは一瞬だけ躊躇するように額にしわを寄せたが、間もなくそれを緩めると躊躇いがちながらも同意を示した。
「さて、それでは……」
オサリバンは3人を部下のように背後に立たせると、受信のスイッチを入れた。
そこに映し出されたのは、ホワイトタイガーの毛皮を椅子に敷いたソファーに腰掛けるジオンの女性軍人である。その背後には彼女のお気に入りとされる油絵。厚い雲海の中から一筋の日光が、荒れ狂う洋上を照らしている構図だ。その隣にはカウントを続ける電波式の時計。それが何の時間を示しているかは、言うまでもない。
フォン・ブラウンとて必ずしも一枚岩ではない。オサリバンというよりもフォン・ブラウン市の反ジオン派の当局者を恐喝するためのものだ。
アクシズ合流を拒否されたといういわく付きの部隊を率いる女傑は、緑掛かった長い黒髪を流し、赤を基調とした突撃機動軍所属の佐官の軍服とコートを身に着けていた。
そして左頬に大きな青痣があり、右の頬と首筋に大きな湿布がベタベタと貼られてあり、頭には血の滲んだ包帯を巻いて……
………あん?
オサリバンの躊躇を見透かしたように、ジオンの海兵隊の指揮官は、オサリバンと目を合わせている今この瞬間も衛生兵の治療を受けながら、ありったけの悪意と皮肉を煮詰めたかのような、低い声を発した。
『……ひっさしいねぇ、オサリバン。天下のAEの常務様に、このお尋ね者の海兵隊相手に時間を割いていただいて、恐縮するよ』
シーマ・ガラハウからの身に覚えのない殺気に、オサリバンは思わず画面から距離をとるように、身を仰け反らせた。
*
「フォン・ブラウンが寝返ったか…」
宇宙軍総参謀長兼統合参謀本部副議長付きの副官からの報告に、地球連邦宇宙軍の制服組トップであるジーン・コリニー大将は、机の上で白い手袋をした手を組みながら、一見すると鷹揚な態度で応じた。
現在は11日の時刻はAM11:00。宇宙の事態は急を告げ、ここを目標にしたコロニー落しが行われるかもしれないという状況に、ジャブローは蜂の巣をつついたような騒ぎである。
そんな中でもコリニーは、繁るような白い眉毛と鷲鼻が特徴的な年配の将官を背後に控えさせ、泰然自若とした振る舞いを崩さない。報告に訪れた副官は「さすがは連邦宇宙軍の長に選ばれるだけはある」と感服していた。
「推進剤の再点火による重力ターンの可能性は低い。確かにヘボン君はそう報告していたな?」
「その通りです閣下。追撃艦隊司令部では軌道間レーザーについての検討は行っていなかった模様です。もっともそれは宇宙艦隊作戦部や作戦部、あるいは地球へのコロニー落としの可能性をいち早く指摘していた旧観艦式事務局、バスク分艦隊司令部においても同様ですが」
「ヘボン君はワイアット君の尻拭いであるコンペイトウ領海の救援活動を指揮しながら、同時並行で艦隊の再編に着手。それから追撃艦隊を指揮していたのだ。軌道間レーザーの存在に気が付かなくても無理もあるまい」
「むしろここはデラーズめの戦術家としての才を評価するべきだろう」とする上官の発言に、素直な副官は素直な額面通りに受け取った。この状況においてもオン残党軍の戦術面での卓越さを指摘する余裕があることに、むしろ感服していた。
しかし実際のジーン・コリ二ーは報告書の軌道間輸送レーザーの文言を手袋越しに指でなぞりながら、内心ではジオン残党に出し抜かれたことへの怒りと、ステファン・ヘボンへの苛立ちという激情を持て余していた。
そのため彼の愛猫たるヒマラヤンは主人の怒りを察してか、部屋の隅にある丸籠の中で丸まっている。
ワイアットと観艦式事務局を更迭することでワイアット派の手足を事実上縛ったとは言え、ここで自分が指名した追撃艦隊の指揮官、それも自派閥の幹部への不満を口にすれば任命責任が問われかねない。そのためにコリニーはジオン残党の手腕を讃えて見せることで「敵が予想外の対応をした」という既成事実を作ろうとしていた。
政治的センスに欠ける佐官を我慢して副官として使いつづけた甲斐があるというものだと、コリニーは自分自身を慰めた。
コリニーがその名前を挙げた軌道間レーザーは、宇宙開発初期の遺物である。
宇宙世紀初頭、地球連邦政府の宇宙開発の拠点となった月では、採掘した資源や月面工場で建設した資材の打ち上げが課題となった。
地球の6分の1と引力の弱い衛星の月では、月面のクレーターあるいは低軌道上から、静止軌道や惑星間軌道といった高い軌道に衛星や輸送船を打ち上げるコストは小さく済むと考えられていたため、さしたる問題と考えられていなかったのだ。
ところが実際に輸送船や衛星をクレーター内の基地から打ち上げるようになると、当時の技術的な制約もあり予想以上に打ち上げのコストが膨れ上がった。これでは月面の資源を使うよりも地球から打ち上げたほうが安くなりかねない。
HLVを使用することも検討されたが、大気圏突入と突破が可能なHLVでは同様にコスト面で釣り合わない。軌道エレベーターの建設も検討されたが、これも同じ理由で立ち消えとなった。
そこで開発されたのが軌道間輸送レーザー、通称イグニッション・レーザーである。無人打ち上げ用の強力なレーザー発射基地の開発により、月面開発とコロニー建造は急ピッチで進めることが可能となった。
UC:0050年代のコロニーの建造(宇宙移民計画の休止)停滞や、ルナツーやペズンで蓄積された資源用小惑星の移動と開発のノウハウが一般化すると、月からの物資の打ち上げは相対的に減少。イグニッション・レーザーも以前ほど使用されなくはなったが、月面都市においてはその後も重要な輸送インフラの手段であり続けた。
この連邦では忘れ去られた宇宙開拓時代の遺物にデラーズ・フリートは目をつけた。命令に従わねばコロニーを落とすとフォン・ブラウン市を「脅迫」。協力を取り付け、再点火の計算を行わせた。
AM10:40、イグニッション・レーザー3基は突如として稼働し、コロニー「アイランド・イーズ」の移動用推進剤に点火。月面軌道上をほぼ一周する形で重力ターンを行ったという。
そしてコロニーは、新たな終着駅を求めて宇宙空間を進み始めた。
目的地は当然、この地球だ。彼らが再度のブリテイッシュ作戦を試みようとしているのは、もはや疑う余地もない。
「ヘボン少将の艦隊の現状はどうか?」
「推進剤切れが相次いでおり、艦隊の規模を維持しての追撃の続行は困難との報告です。コンペイトウ鎮守府で補給艦隊を再編している段階ですので、艦隊全体の補給完了については未定であります」
副官に尋ねたものの、コリニーは同じ報告を作戦部から受けたばかりだ。故にコリニーは短く命令を下した。
「それではヘボン少将の司令部との連絡が取れ次第、私のところに通信を回すように」
副官は飛び上がるような仕草で敬礼をして「了解しました!」と返答すると、衛兵のような足取りで部屋を退出した。
この若い佐官が部屋から出ると同時に、コリニーは深々と溜息を吐いた。
そして彼の背後に控えていた将官が彫像のような表情を動かすと、しゃがれた声で発言した。
「これでコーウェン閥追い落としの材料が、またひとつ増えましたな」
「うむ」
出し抜かれたとはいえ、未だ切り札を確保してるという安心からか。コリニーの関心はすでに目の前のデラーズ・フリートの軍事行動にはなく、戦後と選挙後に向けられていた。
月面都市は地球連邦政府の下で経済的な特権を認められている。にも拘らず今回のフォン・ブラウン市の行為は明らかな利敵行為に他ならない。ジオン残党に通じるとは言語道断-たとえ月面都市とジオン残党の繋がりが周知の事実であっても、実際の行動で明示された以上は看過出来るものではない。連邦市民であれば、この大義名分には誰であろうとも反対不可能である。
こうなってくると空振りとなったとはいえ、追撃艦隊の派遣決定についての判断が重みを増す。連邦市民の生命と財産を守るという義務を果たそうとした連邦政府と、自己保身のために敵と通じた月面都市。アースノイド世論は先の大戦の戦禍から逃れたルナリアンに厳しい。どちらに説得力があるかは言うまでもない。
連邦政府のなかで連邦軍を基盤に勢力を拡大していこうというコリニーにとって、先の大戦で戦禍を免れ、豊富な資金力を背景に政治的影響力を強めるルナリアンは頭の上のたん瘤だ。協調するにしろ敵対するにしろ、何らかの形で締め付けることは必要不可欠。
次の連邦最高行政会議の与党の構成がどうなろうと、このカードを自分の自派で確保できたことは重要である。多少強引ではあったが、ワイアット派を解体して自派主導にした甲斐があるというものだと、コリニーはほくそ笑んだ。
しかしこのカードを自家薬籠中の物とするには、まだ課題が残されていた。
コリニー自身と、彼の腹心たる将官の間でのルナリアンをめぐる見解の相違-より正確に言えばAEの政治責任の追求に関しての認識の差を埋めることだ。
有り体に言えばコリニーは融和派であり、その部下である老人は厳罰派である。
コリニーは机の上で組んだ手を解くと、右の人差し指で机を叩きながら口を開いた。
「貴官の持論は正しい。本来であれば痘痕面共々、経済的にも政治的にも締め上げるべきだ。連邦の秩序を乱すものがいかなる末路をたどるか、スペースノイドは無論、アースノイドにも見せつけてやる必要がある……だが」
コリニーは感情を態度で顕すというよりも、自分自身の考えをまとめようとするかのように慎重に言葉を選ぶ。
「……貴官と腹の探り合いをしても仕方がない。なので端的に言おう。景気に悪影響が出るのは困るのだ」
コリニーの発言を、厳罰派の将官は背後から見下ろすような恰好で黙って聞いていた。
「巨大化したAEとコーウェンの北米閥との関係性を断つのは良い。ガンダム開発計画、あるいは連邦軍再建計画に関する不透明な金の流れを追求するのも良いだろう」
連邦軍とは、その発足からして極めて政治的な軍隊組織である。故に交際費を含めて様々な名目で確保されている政治資金の使用基準を厳格に摘発すれば、たちまち軍は機能不全に陥ってしまう。
故にコリニーと年配の将官は、当然のようにコーウェン派のみを対象に摘発することで彼を失脚させた。同じやり方でワイアット派も徹底的に粛清し、月面都市も締め上げるべきだとする将官に、派閥の領袖であるコリニーは改めてAEの責任を必要以上に追求するのには消極的な姿勢を示した。
「あまりAEを追い詰めるつもりはない。あれだけの巨大企業のイメージ低下は、それだけで景気に直結しかねない。それは連邦軍としても望ましくはない」
「完璧な囲みは、敵に死力を尽くさせますからな」
「敵ではない。護るべき連邦市民だよ」
これに鷲鼻の将校は眉を微かに動かすと、低い声ながらも理路整然と融和策の危険性を指摘した。
「閣下、既に悪影響は出ております。AEはあくまで民間、それも月面資本を代表する上場企業です。それも民間企業でありながら、極めて政治的に振舞っていることが問題なのです」
彼に指摘されるまでもなく、現に情報部からは試作2号機奪取に関してAE社内の協力者の存在が指摘されている。開発コストを抑えるためとはいえ、そのために連邦軍の中枢に関わる軍機を民間企業にアウトソーシングする。結果としてジオン残党の跳梁を招いた。まさに本末転倒だ。
「原理原則を曖昧にしたがゆえに、今回の事態が発生したのではありませんかな?」
その点に関してはコリニーも異存はない。
なるほど、その通りである。この男の意見は正しい。
だが正しいだけだ。
その程度のことがわからぬ男ではないはずだが、今更生き方を変えるわけにもいかないのだろう。頭ごなしの指示では得心せぬだろうと、コリニーは考えながら続けた。
「貴官の懸念と憂慮は概ね正しいだろう。だが現状の地球圏、なかんづく欧州の現状はそれを許す状況にない」
コリニーは机を人差し指で叩きながら続けた。
すでに地球圏統一政府とは名ばかりの形骸化しつつある存在と言われて久しい。昨日からの株式市場の混乱に見られるように、サイド6と月面資本は地球経済との関係が深いが、実際には関係がなくとも十分な市場を持つまでに成長した。そしてサイド3はグラナダ条約において、連邦の体制内ではあるが事実上の独立国としての政治・経済的な特権を認められていた。
宇宙だけならまだしも、足元の地球ですら連邦政府は揺らぎつつある。
11行政州の各地の経済は民族資本と結びついた現地の国家、あるいは行政府に壟断され続けており、中央の統制から離れつつある。
統一通貨であるはずの連邦ドルも、一年戦争のドサクサに紛れたオンライン通貨と電子マネーの大量喪失、その反動として流通紙幣が急増したことや、地域ごとの経済格差が極端なまでに拡大したことから、地域通貨の乱立を黙認しつつあるのが現状だ。
「この状況を看過すれば統一国家たる連邦の存続に関わる」とコリニーが言うと「だからこそ、ここで甘い顔を見せてはなりますまい」と将官も再び原則論で応じた。
「提督。我らはようやくルナリアンの尻尾をようやく掴んだのです。例外を認めてはなりません」
長く連邦宇宙軍の主計官として勤務した老将官は、連邦政府の財務委員会との関係が深い。現状の課題を踏まえたうえでも原理原則を妥協してはならないと臆することなくコリニーに主張した。
「連邦憲章と法の下での平等とは、単なる基本的人権の尊重に留まりません。経済的な地域格差、逆説的に言えば特権的な地位などスペースノイドやアースノイドは無論、いかなる人種や宗教、国家は無論のこと、企業や団体にも認めてはならないのです」
「ただし連邦軍を除いては」という部分を、年配の将官は意図的に語らなかった。
終戦後も政争と政権争いを続けることで弱体化した連邦政府と議会は、今や連邦軍という存在なしには成り立たなくなっている。治安の悪い地域において税務署職員に陸戦隊が同行する現状は、どう理屈を取り繕ってもまともな行政とはいえない。それどころか誰も疑問に思わなくなっているのが現状だ。
「貴様のそれは正論だ。だが私は現実に対応せねばならない」
コリニーは再び机の上で手を組んだ。コリニーはこの将官の緻密な頭脳と剛毅果断な決断力を評価していたが、同時に今はその正しさに辟易とさせられているのも事実である。
一年戦争は戦場の光景だけではなく、既存の経済秩序を一変させた。旧G20のようにあらゆる分野でAI化や電子化が進んでいた先進国ほど、ジオンの地上侵攻とミノフスキー粒子により、壊滅的な被害を受けた。政治経済、金融資産や個人情報などあらゆるものが消失し、官僚機構の人海戦術で対応しようにも長年の電子化によってノウハウはとうの昔に失われており、ジオンの軍事侵攻もあって殆んどが徒労と化した。
数少ない連邦政府(軍)の実効支配地域には残存兵力や各州行政府、あるいは各国亡命政府、そして莫大な難民が押し寄せた。それがアイルランドのダブリンやベルファスト、旧仏の植民地である西アフリカはセネガルのダカール、南インドのマドラス、そしてジャブローといった都市である。
こうした状況で治安を維持しつつ戦争を続けるためには、連邦軍と政府が一体化するのは、むしろ必然であった。軍の欠員を官僚が埋め、官僚の欠員を軍が埋める。そうした変則的な状況の中で、この予備役将官だった老人は財政委員会とのパイプを築いたし、それはコリニーにとっても欠かす事の出来ないパイプである。
こうした軍と政府が一体化した都市は一年戦争を通じて各地域の政治経済を統括する臨時の行政都市として整備され、戦後も多くがその機能を維持することに成功した。結果、旧大都市の復興は旧都市と新都市の主導権争いや、政府内部の混乱により大いに遅れることとなった。
上記の例外は月面金融資本と深い関係にある北米の東部地区、連邦軍本部があり地域の治安と経済が軍事力で保証されている南米、そして戦前から経済特区として指定され、月面都市以上に徹底した規制緩和による企業天国となっている華南のニューホンコンぐらいのものだ。民族資本とは名ばかりのマフィアが跋扈している地域すらある。
欧州にフランスの法体系と民主主義の理想を普及せしめたナポレオンの政治的な子孫たらんとするコリニーからすれば、そのような無秩序な地球は断固として受け入れられない。
そのためには軍を動員してでも強制的に統制をかけ、経済的権益を廃さねばならない。コリニーは欧州保守派を代表する派閥の領袖として、民主主義の故郷でありながら荒廃し続ける故郷を再建しなければならないと信じていたし、この男もそれには反対しないだろうと確信していた。
「AEの免罪と引換えに政治的な取引をなさると?」
「北米東部地区で出来たことが、欧州で出来ない理屈はないと思うが?」
コリニーの答えに、彼は沈黙で応じた。
欧州の名門政治家の家系に産まれ、かつ士官学校と大学校を優秀な成績で卒業した切れ者の主計官であったにもかかわらず、この男は理想主義者であったために官僚組織である連邦軍を早期退職に追い込まれた。その彼を大戦中の深刻な将官不足を理由に予備役から召集したのはジーン・コリニーその人である。
大戦中は「徴税しながら戦う軍隊」と揶揄されたコリニー派の旧欧州諸国地上軍は、彼とその一派を加えることで財政委員会とのパイプを形成するのと同時に、飛躍的に能力を向上させた。結果としてコリニー派は大戦末期に地上における大反抗作戦の主流として活躍。レビル派の消失もあり、軍の有力派閥にのぼりつめた。
この間も陸軍将官であった彼の叔父をアフリカ方面軍の司令官に抜擢するなど、コリニーはその貢献に報いてきた。
黙れと命じることは簡単だが、それではこの男は納得しまい。何より派閥の領袖としての自分の沽券に関わる。コリニーは三度、机を指で叩きながら言った。
「今度の選挙において過激な環境主義者の躍進は避けられない。しかし景気を上向かせることさえ出来れば、あの馬鹿共も少しはおとなしくなるはずだ……それに奴らが暴れれば暴れるほど、議会における連邦軍の政治的な重要性は増す。あるいは我らが望む政策を遂行する与党連合を議会において形成することも可能になるかもしれない」
そこでコリニーは初めて背後の将官に視線をやった。
「貴官の貢献と献身については必ず報いる」
確かに切れ者である。切れ者ではあるが、切れすぎるのが難点ともいえる。おおよそ男としての遊びなるものに一切の経験がないという謹厳実直な男であるがゆえに、人脈に欠けている。自分が呼び戻さなければ、今でも予備役准将として不遇を囲っていただろう。
何よりこの男は自分より年齢が上であり、階級も経歴もはるかに劣っている。故に寝首をかかれる心配も、派閥を簒奪される心配もない。その意味においてコリニーは彼に全幅の信頼を置いていた。
「この一件が片付けば、私の権限で貴様を中将に引き上げ宇宙軍省の参事官にねじ込む。そのつもりで用意しておくように」
ジャミトフ・ハイマン准将は一分の隙もない見事な敬礼で、コリニーに応じた。
『さぁ、残された道は2つ。コロニーにつぶされて彼の世行きか、それとも…』
選択肢(はいorYES)
オサリバンは目の前が真っ暗になった!