地球連邦政府備忘録   作:神山甚六

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 突然の実施に、流通や市場への混乱は避けられません。12日の正午に連邦宇宙軍省のグッゲンハイム報道官は衛星通信による緊急記者会見を行い、連邦宇宙軍省と北米航空宇宙防衛司令部による緊急通告を宣言しました。北米州・南米州の航空管制局が管轄する大気圏外連絡航路の使用を、13日正午まで禁止するとしています。またこの決定に先立ち、大気圏内の民間航空便に関しても同様の運行規制が発表されています。期間中は作戦中の連邦軍を除き、飛行が大幅に制限されます。

 グッゲンハイム報道官は同決定の理由として「衛星軌道上を監視する衛星からの情報を分析した結果、複数の大規模なデブリ群に落下の恐れがあることが確認された」と述べました。地上への落下の可能性は低いものの、大気圏内および大気圏外を航行する航空機の安全に重大な障害が出る可能性があるとしています。連邦宇宙軍の地球衛星軌道艦隊は、先の大戦中に発生した衛星軌道上のスペースデブリ除去作戦を定期的に実施しており、この10月にも行ったばかりです。

 同通達に対して国際民間航空機関(ICAO)は緊急理事会を開き、航路の安全確保のための更なる努力を求めるとする連邦軍への事実上の抗議声明を取りまとめるとしています。

 またこの発表を受けて、午前中の北米連邦準備銀行の議長声明により一時的に持ち直していたニューヤーク市場ですが、午後になり再び値を下げ-…

- 極東通信 11月12日 -


宇宙世紀0083年11月12日 AE社宇宙ドック艦『ラビアン・ローズ』周辺宙域・バスク分艦隊旗艦『ツーロン』作戦室~北米大陸 シャイアン空軍基地

 一年戦争直後の連邦軍は、大軍縮を前にした政界や軍首脳の主導権争いにより極度に硬直化した組織であった。大戦の論功行賞こそ行われたものの、本来ならば開戦により先送りになっていた数年に一度の定期人事は、大量の戦死者による人材不足もあって「適格者不在」という理由から幾度となく先送りとなり、代理任命や任期延長が相次いだ。

 

 終戦から2年近く経過したUC0081年。ようやく連邦議会が連邦軍再建計画を可決したことで人事の正常化と世代交代が行われると期待されたのだが、そうはならなかった。

 

 財政委員会と旧アメリカ閥(ジョン・コーウェン)、そしてルナリアン系勢力が手を結んだ再建計画に、終戦間近で膨れ上がった宇宙軍正規艦隊を出来る限り維持したい(自派閥のポストを確保したい)グリーン・ワイアット大将が、大規模な正規軍によるこれまでのドクトリンの堅持を求めて猛反発。欧州閥のジーン・コリニー大将らは表向きはコーウェンの再建計画に賛成していたが、水面下では計画と人事の主導権を奪取しようと策動を続けていた。そしてそれは成功しつつある。

 

 当然ながら人事は最低限のものを除けば滞り続けた。

 

 いくら軍が人材不足とは言え、最終攻勢直前に膨れ上がった部隊規模をそのまま維持出来るほど、連邦政府の財源は豊かではない。新たな辞令と同時に着任した途端、部隊が廃止されて予備役編入ということも十分にあり得た。そのため怪しい動きや辞令には何だかんだで理由をつけて断り、あるいは派閥の領袖を頼って留保を願い出るという悪循環が生れる始末である。

 

 例えばUC0080年代後半に第6艦隊司令長官からルナツー鎮守府司令長官に就任したダグラス・ベーダー宇宙軍大将である。ルナツー鎮守府司令長官は戦前の基準にしたがえば2年が交代の目安だが、すでに3年目に突入している。レビル将軍と士官学校の同期であるという以外に、これという政治的な後ろ盾のない彼が宇宙軍における重要ポストを占めている。軍の過剰人員が問題になりながら、人材不足という相反する事態が続いているのだ。

 

 予算において連邦軍だけが優遇され続けているという批判は大きいが、大戦において最も大きな損害を出した組織は連邦軍である。指揮官とその高級幕僚を選出するはずの将校団にしても、量はともかく質の低下は深刻な状況が続いている。

 

 その原因として指摘されるのは、大戦中に各戦区や部隊ごとに行われた大量の野戦任官による昇進と欠員の穴埋めといった粗雑な人事である。

 

 開戦前まではジャブローにおいて一元的に行われていた人事は、ジオンの電撃作戦により連邦軍が分断されると強制的に遮断されたし、前線では少ない人材をやりくりするために、ジオンの悪弊を真似たかのような戦果主義の横行を招く結果ともなった。

 

 戦後になると連邦軍の人事当局者を悩ませた。彼らの中には明らかに指揮官としての管理能力や組織人としての適性に欠けていた人材が多数含まれており、しかもそうした人材に限って、戦場における功績を立てていたからだ。年金や給金に直結するため、安易に弄ることは難しい。補填の意味合いもあり大量に勲章をばら撒いたものの、軍内部の不平や不満は抑えきれなかった。

 

 こうなると人事の正常化どころではなくなる。必要な人材が欲しければ派閥の後ろ盾がなければどうにもならない状況が生じる事となった。

 

 つまり現在の連邦軍は手堅く仕事をする経験を積んだ中堅幹部-極端な戦果や功績がなくとも平時の組織で出世出来るだけの能力がある人材に乏しく、当たり外れの大きい若い人材ばかりがやたらと多いのが特徴といえる。

 

 戦前に比べて軍紀違反が増加している原因と批判されるが、人事当局者の苦悩を意図的に無視するならば、この大量の-本来の正規人事ではありえない不適格者の存在が、連邦軍の組織としての致命的な硬直化を妨げているのだとする見方も出来る。

 

 バスク分艦隊などは、その良い例であろう。

 

 この艦隊司令部の平均年齢は30代後半と、現在の同規模の連邦軍正規部隊と比べても非常に低い。大きく年齢を引き下げている要因としては、開戦初頭に人材を多く失った衛星軌道艦隊出身の旧エイノー艦隊出身者の存在があげられるが、それだけが原因ではない。

 

 まもなく定年を迎える法務部長を除けば、最年長は艦隊副指令のオットー・ペデルセン大佐で40歳であり、総務部長のマニティ・マンデナ中佐は(ひっつめた金髪のせいで随分と老けて見えるが)34歳。艦隊司令のバスク・オムに至っては、なんと33歳だ(とてもそうは見えないが)。

 

 そして艦隊参謀長のジャマイカン・ダニンガンはバスクより3歳年下の、なんと30歳である。

 

 作戦参謀のマオ・リャン少佐(29歳)とは士官学校の1期違いの先輩と後輩になる。人間関係以前にバスクの年齢以上に信じがたいものがあるが、事実なのだから仕方がない。

 

 この准将閣下の風貌を実年齢以上に老けさせている、あるいは年齢不詳とさせているの理由は何か。やたらと額の目立つ特徴的な頭部か、それとも神経質さと高慢さの報いのような吊り上がった小さな目か、あるいは人を無用に苛立たせることに関しては右に出るものがないという妙に甲高い声なのか。髪色と同じく焦げ茶色の口ひげで威厳を醸し出そうとしてるらしいのだが、全く効果がないし、そもそも似合っていない。

 

 本人にその理由を聞けば、間違いなくある一人の男の存在を挙げるであろうが、そんなことは他人には関係のない話である。

 

 とにかくジャマイカン・ダニンガンという軍人は、平時において戦時の思考を行い、戦時において平時の行動を、個人的な悪意をもって実行する人間であると評される。それも無意識ではなく意図的に行うのだから質が悪い。

 

 だからオットー・ペデルセン副指令ら能力のある良識派軍人は無論、戦争と闘争を意図的に混同させるのが大好きな「戦争中毒」の旧エイノー艦隊派とも関係が良くない。人の欠点を指摘することに関しては右に出るものがない男と個人的な関係の良い人間などいるのかと思うが、艦隊司令がとかく螺旋の外れたような性格の人物であるが故に、様々な派閥の寄り合い所帯である幕僚のトップでありながら嫌われ者としてふるまう参謀長の存在は、艦隊の幕僚らに良くも悪くも緊張感をもたらしていた。

 

 この人の場合は無意識なのだろうけど-作戦部長代理のマオ・リャン少佐は『ツーロン』の作戦室で、ジャマイカン・ダニンガン参謀長の特徴的な張りでた額を見ながら、そのようなことを考えていた。

 

 彼女の横には艦隊の後方参謀代理や航海参謀が控えている。補給作業の進捗状況や今後の作戦行動を検討するためだ。さらにその背後では、各部局の参謀らが情報を整理するために駆けずり回っている。

 

 11日の午前07:00までコロニー『アイランド・イーズ』空域で続いた戦闘により、艦艇やMS部隊だけではなく、バスク分艦隊の幕僚らにも多数の被害が出た。

 

 『ツーロン』の副艦橋には敵の砲撃が直撃。副参謀長とリャンと同期の作戦部長が重傷を負い、共に退艦した。旧エイノー派であり作戦部に強い影響力を持っていた副参謀長が退艦したことで、派閥との関係が乏しい彼女が繰り上がる形で作戦部長代理に昇格することとなった。

 

 外様組でありながら自分が肩身の狭い思いをせずに済んでいるのも、この「コック帽ヘッド」(ジャマイカンの綽名)が出身に関係なく全て平等に部下を見下しており、ヘイトを一身に集めているからだということを、リャン少佐はよく理解していた。無論、その点に感謝などしてはいないが。

 

「手酷くやられたものだな」

 

 口調だけはいつもの冷徹さを保とうとしていたが、手にした情報端末でリャン少佐がまとめた報告を確認するジャマイカンの顔色は良いものではない。

 

 幸いにして撤退後にアナハイム・エレクトロニクスの協力を得られたため、残存艦隊は『ラビアン・ローズ』に寄港する事が出来た。AEは連邦系艦船の製造や整備も手がけているため、補給作業や負傷者の搬送は順調に推移しているのも嬉しい誤算であった。

 

 とはいえ状況は楽観視出来るものではない。敵艦隊の戦力を削りつつ情報収集活動を行うはずが、最終的には撤退の時期を見誤ったために、こちらの戦力が削り取られてしまった。サラミス級2隻が轟沈。マゼラン級1隻とサラミス級4隻が大破。MS部隊も半壊に近い損害を受けた。

 

 今や『ラビアン・ローズ』は民間企業でありながら、バスク分艦隊の母港と化している。周辺宙域にはマゼラン改級『ブル・ラン』を始め、損傷艦艇が繋がれた筏のように犇めき合っており、薔薇の花のようなドック内部のMSデッキでは、巨人のようなMSが治療を待つ患者のように整然と並んでいた。その間を整備用のプチ・モビルスーツがしきりに飛び交う様は、蜜に集まる羽虫を思わせた。

 

「現在のペースで補給作業が進むと仮定しますと、艦隊は03:00には出航可能です」

「AE側からの協力申し入れがなけば、我らも月の衛星軌道で身動きの取れなくなった追撃艦隊同様に推進剤切れで立ち往生をするところでした」

 

 後方参謀代理が胸を撫で下ろしながら報告を終えると、旧エイノー派の航海参謀が安堵した声で続ける。そしてジャマイカンは彼らの言を「はっ!」と文字通り一笑に付すと、その楽観的な見解の根底にある警戒心の乏しさを嘲笑した。

 

「そのAEが裏切ったために連邦軍はガンダム2号機を奪われ、コロニーは月から地球へと軌道を変えたのだがね。どうやら貴官らは早くも忘れてしまったらしいがな……むしろ最初からフォン・ブラウンとジオン残党は内通しており、月に連邦艦隊を誘引する作戦ではなかったかと考えるのは、私の思い過ごしかね?」

 

 これに後方参謀代理と航海参謀が、困惑と上官に対する嫌悪感の入り混じったかのような強ばった表情を浮かべるが、事実であるだけに反論せずに口を紡いだ。

 

 マオ・リャン作戦部長代理は「どうしてこの人は、こういう言い方しか出来ないのか」と辟易しながら意見具申という形で反論する。

 

「AE側から積極的に申し入れて来ているのです。そしてこちらとしては損傷艦艇や怪我人を抱えたままでは身動きが取れず、補給がなければ戦えない。追撃作戦の再実施、およびバスク少将の捜索活動も不可能となりかねません。AEの企業としての下心やフォン・ブラウン側の利敵行為への是非は別として、素直に受け取っておけばよろしいではありませんか」

「信用に能う相手ならば喜んで受け取るがね。情報端末にウィルスを送り込まれたり、補給品に不発弾を仕込まれないという保証があるのか?」

「我が方のメカニックや後方参謀の目は節穴ではありません。AE側が戦後の責任追及が予想される現状において、あちらがリスクを冒してまで連邦軍の足を引っ張るだけの作戦を展開するとも、また自身に不利となりかねない証拠を残す可能性も考えにくいかと」

「こちらが追撃作戦中に全滅してしまえば、証拠も残らないと思うがね」

 

 他人の気持ちを慮る、あるいは愛想というものを母親の胎内に置き忘れてきたかのような憎たらしい表情でジャマイカンは吐き捨てた。

 

 毒も適量なら薬となるというが、これでは薬になるはずもない。マオ・リャンも口をへの字に結んだが、実に腹立たしいことにジャマイカンの悪意ある悲観主義が想定した可能性については耳を傾けざるを得ない点が多々存在していた。

 

 後方参謀代理が「確認を徹底させます」と応じるのを待ってから、ジャマイカンが首を動かして作戦室をこれ見よがしに睥睨した。

 

「ペデルセン大佐は?」

「艦隊司令代理はコロニーからの情報を分析し、具体的な破壊作戦を立案するため、情報参謀と共に『アルビオン』に赴かれています」

 

 ペガサス級は強襲揚陸艦-つまり最前線に兵力を揚陸する艦艇でありながら、過剰なまでの重武装であった。メガ粒子砲2基に580ミリ実弾主砲、ミサイル発射管に対空機銃の数は数知れずというハリネズミだ。コロンブス級を改修した空母とは比べ物にもならない。

 

 これには連邦のRX計画責任者である故テム・レイ技術大尉の設計思想に寄るところが大きい。連邦軍高官への開発プレゼンで「MSは歩兵にも戦車にも航空機にも、そしてミサイルにもなれる」とその重要性を説いたレイ大尉は、自身の設計したMSも単独であらゆる状況に対応出来るように設計していた。

 

 それが試作MSのガンダムであり、その成果が量産機でありながら改装や現地改修によって砲戦特化にも格闘戦特化にも機動戦特化にも、あるいは寒冷地や砂漠、果ては水中にも対応できるジムである。

 

 ジムは個々の戦場や環境に対応して特化したジオンのMSやMAに遅れをとることも多かったが、その汎用性の高さは量産機としては異例のものであり、今現在も連邦の主力MSであり続けている。

 

 量産機ですらそうなのだから初代のガンダムに関してはもう、非現実的なまでの性能を誇っていたことは今では広く知られている。重力に逆らって大気圏内を飛んでみせ、改修工事もなしに海中を泳ぐことが出来たほどだ。

 

 母艦であるペガサス級には、これを援護する高い砲戦能力と装甲を求めたレイ大尉は、自ら艦政本部に乗り込んでまで持論を繰り広げ、従来の強襲揚陸艦ではありえない重武装を実現させた。この過剰なまでの装甲と重武装の追求が、結果的に素人集団であったホワイトベース隊を救い、英雄に押し上げたとする軍事評論家も多い。

 

 『アルビオン』にもペガサス級の伝統は受け継がれており、単純な砲戦能力だけならマゼラン改級を容易に上回る能力を持っている。故にコロニー破壊作戦の立案に関して、その艦長であるシナプス大佐と意見のすり合わせをするペデルセン大佐の考えは、何ら不思議なものではなかった。

 

 しかしそうは考えないのが、この「コック帽ヘッド」である。

 

「艦隊参謀長かつ、この合同艦隊において最も階級の高い私に、一言の断りもなくかね」

 

 このような一刻を争う状況においても他者に対する悪意を決して忘れないのは大したものだと、マオ・リャンなどは呆れを通り越して逆に感心してしまった。

 

 士官学校において彼女は後輩として散々に嫌な思いをさせられたものだが、悪意という点では、あの個人的な感情ばかりを優先させた『サラブレッド』の禿げた中佐の命令に比べるべくもない。

 

 ともあれ彼女は意識しながら、事務的な口調で応じた。

 

「バスク艦隊司令より艦隊司令代理を命じられたのはペデルセン大佐でありますし、事前に定められた艦隊指揮権の継承順位も同様です」

「何ら瑕疵はないか……わかっていたとしても、気に食わんな」

「失礼ながら参謀長。何がお気に召さないのでしょうか?」

「貴官の言動も含めた、現状を取り巻くあらゆる環境が、だ!」

 

 ジャマイカンは机の上を握った拳で擦るように殴りつけた。参謀長の癇癪に情報収集活動に従事していた参謀らの視線が集まるが、すぐに彼らは自分の職務に戻った。

 

 ジャマイカン個人の胸中はともかく、確かに状況としては最悪に近いだろう。

 

 『アルビオン』の直掩MSを除けば、バスク分艦隊には32機のMSがいた。それがあの巨大MAによる攻撃の巻き添えを食う形で、未帰還10機に大破5機という大損害である。6時間近く断続的に戦闘が続いたこともあり、小破した7機以外のMSについても、どこかにダメージを受けている。

 

 AEの技術者の助けがなければ、まともに戦えるのは『ボスニア』のライラ中隊ぐらいしかなかっただろう。

 

 そして現状で『アルビオン』と共同作戦行動が可能なのは、このマゼラン改級『ツーロン』と、サラミス改級の2隻しかない。「これでは分艦隊ではなく戦隊であるな」とジャマイカンが苦々しさを隠せない口調で告げると、リャン少佐は同意するように首を縦に動かした。

 

「少佐、現状の見通しでかまわぬ。最終的にMSは何機動かせるようになる?」

「『アルビオン』の4機とMAである試作3号機を除きますと、現段階ではライラ隊を含めて12機。これは確実です。整備状況の進捗次第では15か16機。ですが問題なのは積載する艦船がないことです」

「……アレキサンドリア級が就航してさえいればな」

 

 リャン作戦部長代理の語る内容に、ジャマイカンはルナツー内部の宇宙船ドックにおいて最終的な艤装作業を行っているであろう最新鋭の重巡洋艦の名前を口にしたが、直ぐに眉を神経質そうに顰めた。

 

 MSが航空兵力として優れているのは事実だが、戦艦と同じ速度で加速し続けることなど出来ない。そのようなことをすれば推進材を使いきり、減速することも出来ずに宇宙空間のデブリとなってしまうだけだ。

 

 そのため当初からMS積載能力を前提に、居住性など宇宙船としての機能を大幅に犠牲にして建艦されたジオンの艦艇とは異なり、基本的に長距離の警戒任務行動と航路の保全活動を主軸としていた連邦艦艇は、航空兵力を直接積載することを念頭に設計されていなかった。

 

 ゆえに一年戦争において連邦宇宙艦隊がMS部隊と共同での作戦行動を展開するようになると、ペガサス級やコロンブス級輸送艦を改造した空母を除けば、マゼランの側面やサラミスの甲板に直接積載したり、コウモリのごとく船底にぶら下げたりして最前線まで移送するしかなかった。

 

 大戦後半にはサラミスにMS格納庫を後付けしたフジ級や、マゼラン級を改造したMS積載型も建艦されて前線に投入されたのだが、これらは見た目こそ改装だったとはいえ内実は新型戦艦の扱いであった。艦政本部における戦艦とMSの統合運用構想の混乱や建造コストの是非、宇宙艦隊においても艦船の速度低下による艦隊の統一行動の困難さが不評であったことから、戦争の終結もあって少量の生産にとどまった。

 

 そのため戦後になると、艦艇として最も使用されているサラミス級巡洋艦を改造して後付けのカタパルトを甲板に取り付ける形式が主流となった。

 

 ジャマイカンが名前を挙げたアレキサンドリア級は、連邦軍艦政本部が独自に建造している重巡洋艦である。コーウェン中将が中心となった連邦軍再建計画において、旧第13独立戦隊の活躍を念頭においた少数精鋭の即応部隊創設が検討されているが、この新型重巡洋艦はその中核を担うべく設計された新型戦艦だ。

 

 特徴としては当初から旧ジオン系の艦船思想を大胆に取り入れ、MS積載能力を前提に設計されている。この新造重巡洋艦1隻でサラミス4隻に匹敵する積載能力と、ペガサス級において大きな問題とされた砲戦能力の強化を目指しているという。

 

 しかし所詮はないものねだりだ。この場にいないどころか進宙すらしていない戦艦の名前を挙げたところで、現状が打開されるわけではない。運ぶだけならリャン少佐が述べたように、その方法がないわけではないが、機体が損傷なりパイロットが負傷した段階で帰る母艦がない状況は深刻という他はない。

 

「『アルビオン』にMS積載を打診してはおりますが……」

「何か問題があるのかね?」

「ガンダム試作3号機の補給物資が、艦内の格納庫のキャパを圧迫しているようです」

「ガンダム、ガンダム、またガンダムか!」

 

 リアリストを自称しニュータイプ論争を「ビデオ屋の創作物」として蛇蝎のごとく忌み嫌うジャマイカンは、忌々しそうにその名前を叫んだ。その姿がキャプテンシートにふんぞり返っていたあの禿と重なり、リャン少佐は内心、むっとしながら続けた。

 

「試作3号機は事前の想定を遥かに上回るパフォーマンスを発揮しました。現状において例のMAと対抗するためには、あの戦力は艦隊に必要不可欠です」

「……拠点防衛用のMAを攻勢用兵器に転用する意図は理解出来なくもないが、それを実際に具現化するとは。やはりアナハイムの連中はどこか頭のネジが外れているというしかないな」

「参謀長。試作3号機の機体分類はMAではなく、MSだそうです」

「あれでかね?」

 

 これにはリャン少佐も、その鉄面皮を崩して苦笑するしかない。

 

 連邦軍初のMAであるガンダム試作3号機は、機体の分類上はあくまでもMSである(誰もそうとは認識していないが)。武器コンテナにエンジンを括りつけたと揶揄される巨大なアームド・ベース『オーキス』に、RXシリーズのMS『ステイメン』が腹ばいのような格好でドッキングしたその姿は、異様という他はない。

 

 パイロットはステイメンの全天周囲モニターが採用されたコクピットから、オーキスのコンテナに積み込んだ武器の火器管制や、大型スラスターを操作した機体制御など、あらゆる操作を行う。当初はRXシリーズの他の機体同様、コア・ブロックシステムの採用が前提に進められていたのだが、それを開発責任者である女性技官の決定により取り止めた。

 

『コストの問題もあるんだけど、有り体に言えばガンダムそのものを、MAのコア・ブロックシステムにしてしまえということね。飛行機よりもMSの方が生き延びる可能性は高いでしょ?』

 

 試作3号機のパイロットに選ばれた中尉と、1号機と2号機の開発責任者があっけにとられたのは言うまでもない。

 

 MSの汎用性とMAの攻撃力を兼ね備えた機体により、まずは戦艦を上回るスピードにより敵陣地に単独で突入。その後は圧倒的な火力により目標となる敵艦隊の戦力を殲滅。後続の部隊到着まで武器をバラ撒きながら戦域を確保するという開発コンセプトをAEの開発責任者である女性技官が艦隊司令部の前で説明したところ、あのバスク・オムが「君は正気かね」と問い返したというのだからよほどである。

 

 実戦において、その能力と性能は見事に証明された。他人の仕事に対する評価が必要以上に厳しいジャマイカンといえども、単独でムサイ級を5隻撃沈し、殿として敵MAを食い止めた試作3号機の功績を認めないわけには行かない。そうでなければバスク分艦隊は今以上に更なる被害を被っていたことだろう。

 

 しかし運用する側としては非常に問題の多い機体であるという点は、ジャマイカンには見逃せなかった。

 

「敵に回すとあれほど厄介なものはないが、味方にするとこれほど扱いにくい代物もない。大戦末期の敗色濃厚な段階にカンブリア爆発のように次から次へとMSなりMAを前線に投入し続けたジオンが負けた理由がわかるというものだ」

 

 ジャマイカンは端末の画面を指でスライドさせながら唇を歪めた。

 

 6基ある大型スラスターの動作確認や、ステイメンの管制システムとオーキスとの接続確認等々。MSは最先端の工業製品が集合した動く精密機器の塊であるが、ワンオフの試作3号機に至っては通常のMSのそれとは比べ物にならない。

 

 当然ながらメカニックやエンジニアも頭数がなければ話にならない。「貴方は趣味に走りすぎなのよ!整備のことを考えなかったの!?」「MSに戦術核弾頭をのっけた貴方にだけは言われたくないわ!」とAEの開発責任者は同僚達と小突きあいをしながら、自らも油まみれになって整備班の間を走り回っていた。

 

「色々と言いたい点はあるが試作3号機のことはわかった。それで肝心のMSの輸送に関してはどうか」

「サラミス級の甲板の改装や、アルビオン格納庫の外壁に仮設のカタパルト装置を設置するなどして、どうにか」

「結構。最終的には前線に運べれば、それでよい」

 

 ジャマイカンは再度、手にした携帯端末の画面をスライドさせながら、リャンの後方に控える航海参謀に尋ねた。

 

「予定時刻通りに出航出来たとして、敵艦隊との予想会敵時刻は?」

「敵部隊が阻止限界点前にコロニーの再加速をかけないと仮定するならば、予定では出航から8時間後、グリニッジ標準で12日の11:00頃になるかと。コロニーの阻止限界点突破は19:30前後、プラスマイナス15分程度です」

「単純に計算すれば8時間あるわけだが、そう甘くはないか」

 

 これまでの行動から計算して、敵の戦力は連邦正規軍の1個艦隊に及ばない。にもかかわらず相手は戦力を集中的かつ効果的に運用し、こちらはやみくもに分散させるばかり。守るものが多い連邦軍が後手に回るのは仕方がないにしても、これでは一年戦争の出来の悪い繰り返しではないか。

 

 ジャマイカンは内心の苛立ちを、そのまま声に滲ませて続けた。

 

「敵はコロニーの護衛に戦力を集中させつつあり、ヘボン艦隊は補給再開まで身動きが取れない。戦力はあるが、必要な場所にはないと来ている」

「ジャブローおよびコンペイトウ鎮守府からのレーザー通信によりますと、ヘボン艦隊は14時前には追撃を再開する予定です」

「遅い!」

 

 ジャマイカンが再び机を拳で殴った。それでは地球衛星軌道への到着は、早くても12日未明になる。見方によってはコロニー落着後に敵艦隊を殲滅する手柄だけ取りに来るようなものだ。

 

 ある意味、ジーン・コリニーの手下らしい考えだと、ジャマイカンは自分のことを棚に上げて、さらに怒りの矛先を自分が評価していたはずのコンペイトウ鎮守府の前観閲官にへと向けた。

 

「あの紅茶フリークのイギリスかぶれ、大艦隊で敵を誘引するどころか体よくあしらわれただけではないか。策士気取りの2流提督の分際で、つまらぬ政治ゲームに勤しんでいるから、狂信者に出し抜かれる。挙句、各地の艦隊戦力や警戒網は手薄となり、コロニーの行く手を阻むものはいなくなった!」

 

 些か感情が入りすぎている気はするが、結果だけ見ればその通りであるのでリャンも否定はしない。しかし生産性のない責任追及を続けるつもりは彼女にはなかった。

 

「閣下。ここにいない戦力をあてにしても仕方ありません。問題は次の作戦です」

「……こちらは手負いの1個戦隊と化物MA、いやMSか」

 

 ジャマイカンもその点は認識していたらしく、腕を組むと「デラーズ艦隊本隊と戦うには単純に戦力不足だな」と続けた。

 

 リャンは戦力としては疑問ながらも、作戦参謀としての職責を全うするために考えられる選択肢について具申した。

 

「参謀長。ここは地球衛星軌道艦隊に援軍を要請されては如何でしょうか。衛星軌道上は彼らの管轄ですし、出動要請を出す事に関して問題があるとは思えません」

「貴官に言われずとも、すでに打診している。だが応答がない」

 

 作戦部長代理の意見に、ジャマイカンは即座に切り返した。

 

 地球衛星艦隊司令代理のコーウェン中将が更迭されたからといって、こちらからの正式な要請に答えすらよこさないとは、新しい司令官代理は何を考えているのか。額に青筋を浮かび上がらせながら、ジャマイカンは吐き捨てた。

 

「地球衛星軌道艦隊のサラミスやボールのようなパトロール戦力では、阻止限界点前に集結させたところで案山子にしかならんだろう。それにこちらは独断専行という弱みがある。相方はコーウェン派の残党、我らはワイアット大将の命令を拡大解釈して動いているだけ。ワイアット大将が政治的に窮地にある今、我らに好き好んで協力しようという者はいないのだろうな」

「……参謀長、今はそのようなことを行っている場合ではっ!」

「リャン少佐」

 

 咎めるような口調で自らの発言を遮った作戦部長代理に、ジャマイカンは組んでいた腕を解いて机の上で両手を組むと「このような時だからこそだよ」と、嫌味たらしい口調で続けた。

 

「誰も自分の手が届く以上のところまで責任を取りたくないのだ。阻止出来ればいいが、失敗すれば部隊をジャブローの許可無く動かしたと責任を追及されかねない。あるいは独断専行したくとも、彼らの背後にある派閥が波及を恐れて了としないのだろう。実際に地球衛星軌道艦隊ですら、回答をよこさない」

 

 その瞬間、リャン少佐は全身の血液が沸騰する音を確かに聞いた。

 

 作戦部長代理の豹変を感じ取り右腕を掴んだ後方参謀代理の手を乱暴に振り払うと、彼女はジャマイカンの机を両の掌でバシンと叩きつけ、南インドの破壊の化身である女神もかくやと言わんばかりの形相で、上官の顔を睨みつけた。

 

「閣下は地球にコロニーが落ちても、仕方がないとおっしゃるのですか?!」

 

 臆病者と罵られたと判断した「コック帽ヘッド」の顔面も同じく怒気に染まる。僅かの間も置かずに椅子から立ち上がると「私がいつ、そのようなことを口にした!」と叫んで、士官学校の後輩を掴みかからんばかりに睨みつけた。

 

 しかしリャンは一向に引き下がる気配を見せようとしない。今にも自分の、あるいは相手の参謀肩章を掴んで破り捨てんばかりである。

 

 俄かに生じた参謀長と作戦部長代理との対立に、作戦室にいた参謀達は作業の手を止め、固唾を呑んで推移を見守った。

 

「……ルナツー鎮守府ならば、あるいはと思ったのだがな」

 

 この不毛な睨み合いから先に降りたのは、ジャマイカンであった。力なくというよりも、疲れ切った様子で椅子に座り込む。

 

 ルナツー鎮守府司令長官のダグラス・ベーダー大将は、無派閥ながらもバスク艦隊の後見人とされている。しかしこちらが期待していた回答はなかった。

 

 ジャマイカンは何を考えたか表情と態度をくるりと平静の冷徹なものに切り替える。部下の異様な気迫に押されたわけではないだろう。現に額に浮かんだ青筋はそのままに、彼は自分をにらみ続ける作戦部長代理に向かって、感情を押し殺したような声で告げた。

 

「派閥を持たないということは、こういうことだ。自由に振舞うことが出来る反面、苦境になれば誰も手を差し伸べようとしない。そのリスクを犯す必要性がないからな」

「この期に及んで軍内政治の正当化ですか」

「組織の中で誰も彼もが自由気ままに振舞えば、それは軍隊ではなくなる。佐官の君にはわからないだろうがね…」

 

 参謀長はこの人らしからぬ、諦観とも悲観ともつかぬ声で続けた。

 

「それが許されるのは、閣下ぐらいのものだ」

 

 

02:31 月面自治都市会議が月面衛星軌道上の連邦艦隊に補給物資提供を申し入れ

02:55 最高行政会議連軍事委員会が宇宙軍予備役の動員令に合意

 

03:00 バスク分艦隊残存戦力が『ラビアン・ローズ』出航

03:05 連邦軍補給艦隊が月面衛星軌道に到着

03:10 ジオン共和国のダルシア・バハロ首相が臨時閣議を招集。11バンチの反政府デモ激化に対して、自治警察での対応は不可能と判断し、緊急事態の布告を宣言。オレグ内相(副首相)がこれに反対して辞表を提出

03:45 先行した連邦追撃艦隊の第49戦隊がデラーズ・フリートの護衛艦隊と会敵

03:55 第49戦隊壊滅

 

04:00 デラーズ・フリートの新たな犯行声明文がジオン退役軍人協会のHPにアップされる(10分後に削除される)

04:06 サイド3の11バンチのデモに対して、国防軍が出動

04:15 ジオン共和国護衛艦隊が月面軌道上で軍事演習開始。月面都市広域連合と月面自治都市会議が共同で抗議

 

05:00 リーア自治政府(サイド6)のランク・キプロードン首相が予定していた北米視察を中止

05:12 連邦軍の第111パトロール艦隊がデラーズ・フリート護衛艦隊と会敵との報告

05:14 111パトロール艦隊の通信途絶

 

06:15 地球衛星軌道艦隊が戦力再編を完了。リード艦隊司令代理が第32任務部隊を指揮下におく

06:32 北米航空宇宙司令部とジャブロー防空司令部が警戒態勢に移行

06:45 コロニーの護衛任務についていたシーマ艦隊が戦力再編のため後方に下がる

 

07:12 バスク分艦隊司令部よりジャブローに長距離衛星レーザー通信「デラーズ本隊との会敵予想時刻は10:30」

 

08:45 シーマ・ガラハウ中佐がスペースランチで『グワデン』に乗艦。デラーズ中将が捕虜との面会を望んだため

 

 

11月12日 晴天 最高気温11℃ 最低気温3℃

 

 頭痛により起床。

 

 冷や汗と共に脳が押しつぶされるような、頭脳の奥だけが鉛になったかのような感覚を味わう。風邪とは異なる久しく忘れかけていたそれは、一種の懐かしさすら感じる人の剥き出しの感情から来るプレッシャーだ。

 

 間違いない。宇宙で何かが起きている。

 

 だがそれがわかったところで、今の自分に何が出来るのだ?

 

 そして周囲の人間に聞いたところで、真相が自分に伝えられるはずもない。

 

 自分に嘘をつき、自分を誤魔化すことばかりが上手になるのを感じる。

 

 頭を抑えながら使用人と挨拶をする。「二日酔いですか」と尋ねる彼女達に「そうかもね」と、心にもない笑顔で通り一編の言葉を返す。感情を露にして反論するのも馬鹿馬鹿しいし、仮に無視をしても彼女らの対応は変わらないだろう。

 

 いつのまにか理解のある英雄として振舞うようになってしまった。追い返したところで、似たような素性の連中が送り込まれるだけだろう。そして彼女達の対応が変わるわけでもない。

 

 一度ならずとも肌を重ねているのにも関わらず、彼女達にはこちらに対する態度の変化が感じられない。そうした訓練を受けているというのはわかるが、それにしてもまるで何もなかったかのように振舞えるというのは、何度経験しても理解が出来ない。男という生き物の精神的な脆弱さと、女性の生物学的な強さを感じるといえば、女性差別になるのだろうか?

 

 あるいは言葉の定義を弄ぶことで、自分自身の弱さを言い訳しているだけなのかもしれない。

 

 時計を見るといつもと同じ起床時刻であったことに苦笑する。シャワーを浴び、いつもと同じ顔をした使用人といつもと同じ挨拶を交わし、いつもと同じ朝食を1人で取る。

 

 士官学校で叩き込まれた慣習を繰り返しているだけなのに、自分の心がゆっくりと、しかし確実に磨耗していくかのような感覚。何度となく肌を触れ合わせても、相手の心は厚い壁に覆われている。まるでアンドロイドと接しているかのようだ。頭痛とは別の理由で、吐き気が込み上げてくる。ブラックコーヒーで胃液ごとそれを飲み込んだ。

 

 ……気がおかしくなりそうだ。あるいはもうおかしくなっているのか?

 

 日記を書く事で自分を見つめなおす事が出来ると思ったが、寧ろ自縄自縛に陥るばかりである。英雄だ何だと持ち上げられて、中身が追いついていなかった事を思い知らされる。

 

 ラル大尉に指摘されたあの頃から、自分はどれだけ成長出来たのだろうか?

 

 いつもと同じ時間、迎えの車により出勤。士官学校を卒業したばかりの20の尉官で、車の送り迎えがつくのは自分ぐらいのものであろう。警護というよりも監視という側面が強いのだろうが。

 

 自分で言うのも-日記なので書くという表現が正しいのかもしれないが-妙な話なのだが、その資格はあるということになっている。

 

 リビングのショーケースには、大戦中と大戦後に得た勲章の数々がこれ見よがしに飾られている。飾るつもりなどなかったのだが、使用人という名前の監視役に「意図的に喧嘩を売られるおつもりですか」という理由で反対されたからだ。彼女達が勝手にやってくれるというのでまかせていたら、そうなった。連邦政府に各国政府、行政府に軍……送り先も種類もとにかく数が多くて、自分でも正確な数はわからない。そして今も増え続けている。

 

 中でも最も場所をとり、かつ最も存在感を放つのは『連邦軍殊勲五芒星英雄勲章』である。

 

 五芒星は陸・海・空に海兵と宇宙軍を合わせた連邦5軍の象徴。その全てから著しい功績を立てたと評価された者のみに与えられるというものだ。同じ勲章を保有した者以外には、こちらから敬礼をしなくても良い特権が与えられているらしいのだが、生存者の中でこれを保有しているのは自分だけだとか。

 

 ネットやSNSでは「中世期のルーデル、宇宙世紀のアムロ」と揶揄する声もあるらしい。

 

 あんな牛乳好きのバトルジャンキーと一緒にしないでほしいとハヤトに愚痴ったことがあるが「機械オタクなんだから、似たようなものだろう」とからかわれた。

 

 解せない。

 

 フラウがそこにいることも忘れて気色ばみながら「君こそ館長なんぞという管理職は似合わないんじゃないか?」と言い返したら「君より士官学校の成績は良かったんだぜ。それにもしものことを考えて学芸員の資格も取っている」と言い返してきたのには閉口させられた。

 

 ……あの頃のメンバーは元気にしているのだろうか。

 

 元々の筆不精に加え、隠すことなく、寧ろ堂々と見せ付けるように行われる手紙の検閲が嫌になり、いつしか連絡を取らなくなった。その癖、あの頃の苦しい生活が懐かしく感じる。最後に直接会ったのは、そのハヤトの結婚式だったか。

 

 人の悪意というものは、何かに例えることが出来るのだろうか。

 

 地球で生まれ育った自分には、宇宙出身者が地球の重力を忌み嫌うのが、どうにも理解出来なかった。

 

 しかし今ならそれが理解出来る気がする。

 

 近くにいるのに、理解出来ない。理解されない。そして理解しようともしない自分自身に嫌気が差す。故郷であるはずの地球の重力にとらわれていくような感覚。これが重力というものなのか。

 

 士官学校を卒業して以来、勤務先はこの北米のシャイアン空軍基地から変わっていない。自分以外は40代や50代のベテラン尉官や佐官ばかり。毎日数少ない仕事を終わらせると、思い思いに御茶やコーヒーを飲みながら交代までの時間を潰している。そして定年の近づいている将官が数人。自分はその内の基地司令代理の副官だ。

 

 仕事は単調かつ単純作業の繰り返し。通常任務と年に数回の訓練のほかには、何もない。刺激も何もありゃしない。

 

 ただ例外がある。

 

 12月も差し迫った時期になると、この忘れ去られた基地も多少は忙しくなる。この基地はサンタクロースを追いかけるという「重要任務」を連邦政府より任されるからだ。

 

 なんでも中世期に基地の前身であるシャイアン・マウンテン空軍基地時代からの慣習らしい。天文学的な確率により少女から行われた間違い電話から始まったそれは、あの地獄のような大戦中も続いて、世界中の子供に夢を与え続けてきたという。

 

 自分で書くのも気恥ずかしいが、去年は自分も固定電話のオペレーターを担当した。あの一年戦争の英雄がサンタを追跡するとあって、久しぶりにニュースになったらしい。

 

 忘れもしない。ホワイトベースがジャブローから宇宙に戻ったのは12月2日だった。その後3週間近く宇宙において幾多の戦闘を重ね、ソロモン攻略作戦でスレッガー大尉が戦死したのが24日のことだ。

 

 その時にここではサンタを追いかけていたのだ!

 

 そしてスレッガー大尉が戦死したその日、自分もサンタというありもしないものを伝える役回りを担わされた。それも固定電話という身元のハッキリとした-有体に言えば連邦軍のチェックを受けた相手に。

 

 ニュータイプが聞いて呆れる。誰もが待ち望んでいた平和な時代が来たはずなのに、自分だけが鬱々として喜べない。戦争で、あるいは戦場でしか自分の存在価値が示せないのかと思うと、自分のような人間が生きていることすら嫌になる。

 

 どうしてあの時、彼女ではなく自分が生きながらえてしまったのか?

 

 幾度となく繰り返した自問自答。それを繰り返しながらいつもの職場に到着する。

 

 それにしても妙に警戒が厳重な気がする。クリスマスの予定に何か変更でもあったのだろうか?それともまた自分を名指ししたテロ予告でもあったのか。そんな事を考えながら中央指令センターに入った。

 

「おう、レイ少尉!」

 

 部屋に入った途端、基地司令代理のエイブルス空軍准将に声を掛けられる。

 

 一瞬、入る部屋を間違えたのかと表に出てから再度確認した。しかし間違いではなかった。

 

 そこは確かに中央司令室である。ただいつもと違うのは、部屋の様子だ。

 

 いつもは茶を飲みながら下らない話に花を咲かせているオペレーターらが、一人残らず通信装置に齧り付いている。そして部屋の中央、茶菓子や雑誌が山と積まれている指揮机の上は綺麗に片付けられ、エイブルズ准将と同じくベテランの司令部要員が参謀然として、机の上に広げられた紙や端末に、情報を次々と書き込んでいた。

 

 いつもは自分に気がつくと真っ先に敬礼する彼らは、まるで部屋に入った自分を認識していないかのように、あるいは関わっている暇などないと言わんばかりに振舞っている。

 

「何をしている、こっちに来たまえ」

 

 気難しい表情で足早に走り回る彼らの中で、唯一、常日頃のように振舞う黒人男性。灰色の髪を撫で付け、同じ色の顎鬚を生やした基地司令代理は気さくに手を上げて自分を呼んでいた。

 

 彼の副官である自分としては、それに従わないという選択は存在しない。

 

 この初老の准将こそが自分の直属の上官である。

 

 シャイアン基地の古株であり、たまにしか顔を出さない基地司令よりも、よほど基地内部の事情に通じている。部下からの信頼も厚く「一定規模を超えた部隊の管理能力に欠ける」と士官学校の講評で酷評されたらしい自分とは正反対の人物だ。

 

 しかし自分はどうにもこの人が苦手だった。副官として1年以上の付き合いになるが、この人は碌な仕事がないこの基地にありながら、決してふてくされる事もなければ、自らの境遇を嘆くでもない。

 

 如何なる時も笑みを絶やさないが、その目は冷徹そのもの。「ジャブローのモグラ」と批判された軍の高官らと同じものだ。

 

 人を人としてではなく、書類上の数字として扱う事に慣れきった目である。

 

 少なくとも左遷先の基地にふさわしい人物ではない。日々精神を腐らせていく自分を監視するためだとは思えない。何より目の前で広がる謎の光景は一体何なのか。

 

 戸惑う自分など目に入らぬかのように、通信員や基地の司令部要員は険しい表情でエイブルス准将に報告を続ける。しかし彼の態度は平素とまるで異ならず、それが却って異様な存在感を発揮していた。

 

 手招かれるままに机に近寄った自分の前で、准将は矢継ぎ早に届けられる情報を滞る事なく処理していた。

 

「ジャブローの回線は絶対に切らすな。衛星軌道艦隊司令部の通信はマウンテン基地からこちらにまわすように伝えろ。北米航空宇宙防衛司令部の全通信隊に連絡。衛星、長距離レーザー、無線に有線。全て傍受だ。あるいは地上観測班がいる可能性もある。ジャブローと参謀本部の許可は取ってある」

「閣下、第32任務部隊からミラー展開に関して報告あり!」

「装置展開の状況のみを伝えるように。後は無用だ……なんだ少尉。雷が鳴っている時のアヒルのような顔をして」

 

 エイブルス准将はその手を止め、笑いながら自分の顔を見る。そんな間抜けな顔をしていたのかと思うよりも前に、自分の口が動いていた。

 

「准将、これは一体……」

「勤務時間中は、給料分の働きを見せてやらねばならんからな。これもその仕事の内というわけだよ」

「……何が始まる、いや、一体、ここで何を始めようというんですか?」

 

 エイブルス准将はどこか楽しげに応じた。

 

「ここは子供達の夢を適えてやる場所だ。ならば流れ星は、出来る限り多い方がいいだろう?」




ルセット「ウラキ中尉、これはスタドリといいまして、我が家に代々伝わる疲労回復ドリンク-」
ニナ・紫「止めなさい!」

・髪型だけで思いついたネタだから声優は違います
・誰とは明言してないし予防線はってたからセーフ…なわけない。すいません(土下座)
・次こそはあの男が帰ってくる!
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