ダンガンロンパAS   作:依典

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勢いで書き進めていますが、皆さんお付き合い頂ければ嬉しいです。


Chapter3【絶望的級友】

 翌朝、私は寄宿舎から本科の校舎へと、軽い運動も兼ねて駆け足ぎみに向かう。普段から早く部屋を出るので、教室へとたどり着いた時点で、ホームルームまで一時間ほどの余裕があった。その為か、いつも早朝登校をしている三人の他にクラスメイトの姿は見受けられない。

 そんな疎らな教室の中央で、朝から大声を張り上げているのが〈超高校級のスイマー〉、朝日奈葵だった。

 

 「あ、おはよー、戦刃ちゃん!」

 

 私を察知すると、彼女は挨拶と共に大きく腕を振る。そこで初めて、朝日奈と会話をしていた〈超高校級の格闘家〉、大神さくらは私を認知したようだった。

 

 「ふむ、今日も早いな戦刃よ」

 

 「二人こそ……今日も早朝からトレーニング?」

 

 足音を殺して席まで歩み、椅子を引く。傭兵時代に染み付いたこの癖は、どれだけ私が平温な環境の中にあっても抜け切ることはない。戦場では、こうした危機回避の慣習のみが己の命を守るのだ。

 

 「うん、そうだよ! その時も、さくらちゃんと学園祭での出店の話してたんだ!」

 

 「朝日奈さん、学園祭で出店を出すの?」

 

 私の質問に朝日奈は大きく頷き、それから何かを呟いている。彼女のその様子に、激しい既視感を私は覚えた。少しばかりの潜考の末に私は思い出す。

 昨晩の江ノ島盾子……絶望を空想する彼女と、今の朝日奈葵――この二つの光景が、確かに私の中でシンクした。彼女の様子を察したのだろう、大神が代わって説明を始める。

 

 「ああ、朝日奈がドーナツを作ると言って聞かなくてな。我も手伝うことになった」

 

 「ドーナツ最高っ! うぅ~待ちきれないよ!」

 

 江ノ島盾子が絶望に恋い焦がれるのと同じように、驚くべきことに朝日奈葵は、ドーナツを空想していたのだった。彼女の口からは唾液が溢れ出し、朝の日差しに煌めくそれは今にも制服に滴ろうとしている。

 

 「朝日奈さん……売るん、だよね……?」

 

 当たり前だよ! で、でも味見とか、しとかないと……ほ、ほら、美味しくないものは提供できないでしょ?、とようやく空想から覚めた朝日奈は、大神に借りたハンカチで唾液を拭いながら答える。

 

 「ま、まあ頑張ってね……二人共」

 

 二人との会話を切り上げ、席に座ろうと私は椅子の背から手を離す。その時、先ほどの朝日奈葵のものよりも、更に一段と大きな声が教室内に木霊する。

 

 「ハッハッハ! おはよう、戦刃君! 今日も素晴らしい天気、まさに学習日和だな!」

 

 先ほどまで自席で読書をしていた〈超高校級の風紀委員〉石丸清多夏はわざわざ私の元まで出向き、そしてどこまでも律儀に挨拶をする。朝から彼との会話に付き合いきれる人間は、一体この世界に何人ほどいるのだろう。

 

 「お、おはよう石丸君」

 

 「戦刃君も学園祭については当然知っているだろう? その件なのだが、昨日大和田君と話し合った結果、僕と彼で〈ワタヤキソバ〉の出店を出すことになったのだ。しかし、目標売上額を二人で目指すのはどうも難しくてだな。そこでなのだが、良ければ君も一緒にどうだ?」

 

 彼の発した〈ワタヤキソバ〉という未知の単語が、私の脳内を駆け巡る。私の中での意識の鋒は石丸清多夏から離れ、既に〈ワタヤキソバ〉なるものへと移っていた。

 それは一体何なのか? 綿のような食感の焼きそば? いやあり得ない。だとすれば、それがそもそも食べ物なのかすらも怪しい。更に二人では営業が間に合わないというのだから、いよいよ私は〈ワタヤキソバ〉の正体に心惹かれてしまっていた。意を決して、私は訊ねる。

 

 「その前に石丸君、〈ワタヤキソバ〉って何なのかな……?」

 

 「〈ワタヤキソバ〉とはだな、その名の通り焼きそばと綿飴をドッキングさせた新たな料理のことなのだ!」

 

 私は言葉を失った。喩えでは無く、本当に私は忠実に言葉を失ったのだった。発想の転換と言うべきか、希望への冒涜と言うべきか――とにかく私は、彼の言葉を素直に理解できなかった。そして私は心から感謝する。今、私が武器を携帯していないことに。

 

 「そ、そう……私は遠慮しておくよ」

 

 そうか、残念だ……、と言って石丸清多夏は寂しげに席へ戻る。彼の背中にナイフを投擲できないのを悔やみつつ、やっと席に腰を降ろした私の心には、深い絶望だけが渦巻いていた。非売品のドーナツとワタヤキソバ。江ノ島盾子が手を下すまでもなく、自ずと学園祭は絶望的な展開へ向かう気がしてならなかった。

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