ダンガンロンパAS   作:依典

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今になって読み返すと、Chapter3の適当さが気になって仕方がない依典です。
近いうちに修正すると思いますが、今はChapter4をお楽しみください。


Chapter4【絶望的混迷】

 石丸清多夏との会話から半時間ほど、私は何をする訳でもなく、ただ暇を持て余していた。窓の外に柔らかな陽光を見て、超高校級のスイマーと格闘家による健気な会話を聞かされ、果ては本を読み終え感動に浸る石丸の号泣を片目に、私は教室内で武器として使えそうなものの目星をつけていた。そんな時だった、彼がやってきたのは。

 

 「あ、おはよう、戦刃さん」

 

 苗木誠、〈超高校級の幸運〉。この希望ヶ峰学園へは、学園側に十分に資格があると判断された者のみが入学を許される。その一つに、〈幸運枠〉なるものが存在する。毎年、全国から抽選で選ばれた一人が〈超高校級の幸運〉として希望ヶ峰学園への入学が許可されるのだ。言わずもがな、彼もその才能の持ち主だった。

 

 「……お、おはよう、苗木君」

 

 私が挨拶を返すと、彼は寒くなってきたねと微笑む。そんな何気無い会話に、なぜ私の鼓動は早く大きくなっていくのだろう。そんな意思とは剥離した場所で、刻むように深く、心臓は高鳴り続ける。

 

 「聞いたよー! 苗木、学園祭のステージで歌うんだって!」

 

 朝日奈が彼に手を振りながら、衝撃的な内容を訊ねる。苗木誠という少年の精神は、自己主張とは対極の場所に存在するのだ。そんな彼がステージで歌うなど、どういう事情を思慮しても考えられない。

 

 「いやボクは歌わないよ! 一体どこからそんな噂が……」

 

 「えー!? 昨日、腐川ちゃんが『苗木が……ステージ……』って呟いてたの私知ってるよ!?」

 

 やはり彼は歌わない。朝日奈がそうするように、私も肩を落とす。この展開は容易く予想できていたのに、どこかで期待していた自分がいた。なぜ私は期待などしたのだろう。なぜ私は肩を落としているのだろう。どれほど惟みても、答えは出なかった。

 

 「いや、違うんだ。学園祭のステージイベントに、コンサートとか良いんじゃないかなって舞園さんと話してたんだよ。ただそれだけの話で……。確かその時教室で話してたんだけど、腐川さんもいたような」

 

 「なるほどねぇ……なーんだ勘違いか! でも苗木のコンサートとか、面白そうじゃん! ねえねえ、さくらちゃんもそう思うよね!」

 

 相変わらずの声量で、朝日奈が大神に話を振る。大神は〈超高校級の幸運〉であるはずの少年と朝日奈の表情を交互に何度か窺い、慎重に言葉を絞り出す。

 

 「苗木がやるというのならば、我は止めはせぬ」

 

 全方位に気を用いた大神の答えに、苗木誠は胸を撫で下ろす。心技体の全てを極めてこその人類最強……〈超高校級の軍人〉である私が相手ですら、素手での戦闘では結果が見え透いている。大神さくらという人物は、どこまでも侮れない。

 そんな彼女の気遣いをどう解釈したのか、朝日奈は笑顔で頷いている。

 

 「ほらほら、さくらちゃんもそう言ってるしさ! 戦刃ちゃんも見たいでしょ? 苗木のコンサート!」

 

 そう言って朝日奈は、眩いばかりの笑顔を私に向けるのだった。私もあんな風にうまく笑えたら、などと無意味な空想がふと頭をよぎる。私の妹が江ノ島盾子である限り、そんなイフはあり得ないのだ。

 ともあれ、私は質問の答を考える必要があった。苗木誠のコンサートの是非……私にとって、江ノ島盾子以外の存在は言わば無だった。有ろうが無かろうが無関係、必要か不要かと問われれば後者なのだ。こんなコンサートの是非などどうでもいい筈なのに、口からは対照的な言葉が漏れ出していた。

 

 「わ、私は……ちょっと見たい、かな。苗木君の、コンサート……」

 

 「戦刃さんまで!? みんなして変な冗談言うのやめてよ……」

 

 困惑する彼の顔を、私はただじっと眺めていた。分からない。なぜ自分があんなことを口走ったのか。なにゆえに、私の喉は私の心を裏切ったのか。脈打つ私の心臓は、一体何を抱いているのか。絶望か、切望か、果ては希望か……。

 そんなことを考える内に時間は過ぎ去り、教室にはクラスメイトが出揃っていた。江ノ島盾子は〈超高校級のギャル〉として、級友との退屈な会話に勤しんでいる。彼女には……言える訳がない。目が合ったが最後、全てを見透かされるような気がして、私は妹の姿を視界から外す。

 

 結局、苗木誠のコンサートは本人と男子の猛烈な反対によって却下された。江ノ島盾子はもちろん、彼のコンサート案に賛成していた。彼女は理解していた。案が成立すれば苗木誠に、案が却下されれば自身に絶望をもたらすことが出来ると。そして不可思議なことに、今の私は、江ノ島盾子と絶望を共有していたのだった。

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