というか全バンド出してくださいお願いします()
終業式も目前に迫る日々、今日も太陽が殺意をもって空に姿を見せる。マジで暑いから太陽滅びてくれねえか…
窓から外を眺めながら、俺は思う。何事も程々が大切だって誰かが言っていた。そんなものはがんばりすぎるとこじゃねえ、程々に収めるとこだろ。
「ねみィ……」
「寝不足?結羽いつも眠そうだけど今日はすごいね」
「アホの世話をしてたらな…自分のことが夜中までできなくてな…」
所謂小さな自己犠牲である。
授業は午前で終わり、ひたすらに暑いだけの昼間に校外へ解放される俺達だが、さすがに自殺志願者じゃないからエアコンの効いた教室に居座っているのである。
俺がこんな状態にならざるを得なくなった元凶は追試中、今井とよくいるセットの氷川はパスパレの用事で速攻で下校した。あんな奴でもまさかまさかの新人芸能人である。アイドルとしてやっちゃいけないレベルの放送禁止カット多そうだが大丈夫か…
「つーか暑すぎんじゃねェか…
エアコンが効いているといっても汗は止まることを知らない。ゆっくりと身体の中の水分を奪われていくのを体外に出たそれと共に感じる。
「物騒なこと言わないでよー。何か飲む?」
「いや…アイスがいいな…お前も行くか」
「せっかくだしね。じゃあ暑いのは少しだけ我慢して」
財布とスマホだけ持って俺と今井は下駄箱へ向かう。最寄りのコンビニにさっさと寄って買い物を済ませようとする俺達だったが…
「…これはマズいな」
財布の中身に不安を覚え、ATMで少し下ろそうとしたところ、そこに表示された残額は想像以上に少なかった。そんなハイペースで金を使った覚えがないんだが…
「ハァ…バイトか…」
結局羽沢珈琲店でのバイトの返事はまだしていないまま時間が経っている。話があるのは好都合だが、愛想もなければコミュニケーションにも疎い、コーヒーや紅茶の知識も浅薄な俺が果たしてやれるのかという話だ。
「結羽バイト始めるの?また本屋さん?」
「いやそういうわけじゃねえよ」
アイスを眺めながらどれにするか決めあぐねながらバイトの話を突っ込まれる。そういやこいつと青葉は同じところでバイトしてるんだっけな。
「…そのうち終わるだろうし凛にも買っていくか。分ける相手もいない奴にパピコでも」
「結羽って優しいのか性格悪いのかわからないよねー…」
間を取った辺りだと思う。
あまりコンビニに長居すると今度は戻るために外に出るのが億劫になってくるから、急いで教室に戻る俺達。
ちなみに俺はパピコとクーリッシュを、今井はシロクマを購入した。クーリッシュとかいう奴は溶かして食べる(吸う、飲む)からな、手に持ってその温度差を感じつつ早く食べる準備を並行して進められる。その点はなかなか素晴らしい、二つセットでないこともパピコに勝る。
「…アイスより俺の方が先に溶けるが?」
「こんなところで液体にならないでよ?グロテスクだよ」
靴を履き替えた辺りで俺はもう限界だった。猛暑だろ。
殺人光線を空から降り注いでは愉快そうに光ってるのがマジでムカつく。滅べ太陽。
「夏も冬も要らねえよクソ…」
ブツブツと解答のない文句を垂らしながらノロノロと教室へと歩く。コンビニを出た時の早足はどこへ消えた。
「あ、結羽先輩にリサ先輩。こんにちは」
「…あぁ」
「おっ、つぐみ、お疲れ様。生徒会?」
廊下に差し掛かったところで羽沢に
「はい、ちょっとやることがあって…でももう終わりました」
「こんな日まで労働か…熱中症にかかるんじゃ飽き足らず、過労死するぞ」
「あはは…気をつけます。私より結羽先輩の方が心配ですけどね?」
暑いのダメなんだよ。寒いのもダメだが暑いのは無限に体力と精神力を奪われる、ゲームの火山エリアで体力が減るのに物凄く共感できる俺である。
「…仕事終わったんだろ。ちょっと付き合え」
「えっ?私ですか?」
「他に誰がいるんだ」
「で、ですよね。わかりましたっ」
今井の不思議そうな視線を浴びても俺は動じない。死にかけでそれどころではないからな。
「さて」
俺の席と周りの二席に勝手に三人で腰を下ろす。
こんなこともあろうかとパピコを買っておいてよかったな。…冗談、ただの嫌がらせのつもりだった。
「お前にはこいつを半分やる」
「半分こ?結羽も結構青春してるじゃん」
「窓から放り投げてやろうか不良女め」
まあ溶けたクーリッシュを奴に渡すのも一興だろう、と俺は羽沢とパピコを分け合うことに。
「それで、どうしたんですか?」
「…普通に過労死しそうだったからだが」
社畜の末路を見収める前に手を打っただけだ。
「ちょっと暑かったから、助かりました」
「今井からはシロクマがもらえるらしいぞ」
「え、え〜?一口だけだよ?」
何だかんだあげるのかよ、お前。
割と美味そうなのがちょっと羨ましい。金欠に目を瞑ってハーゲンダッツでも買ってくればよかったか。
「金欠…」
憂鬱だ。
金と愛があれば物理的にも心理的にも満たされると個人的には考えている。つまり俺はこれから少なくとも物理的には欲望を満たすことができなくなる…欲しいものが買えないのはキツい。
夏休みなんて時間を持て余すわけだから、必然的に出費は増える。新作、見送った準新作、音楽、本、食費、等々…さすがに母に融資を求めるにしても限度がある。
バイトから逃げるのは無理だ。前のところか羽沢んとこか、くらいしか候補も今はないし、さっさと決めないと稼ぐ間もない。
「お前、この後帰るのか?」
「あ、はい。今日は生徒会があったので、練習もないです。早く終わりすぎましたけど」
「…マスターに話があるからな、店までついていっていいか」
「お父さんに?私は大丈夫ですよ」
腹を括れ、似合わないとか無理かもとかそんなことを気にしている場合ではない。どうせ来年は受験で忙しいんだ、今年はちょっとくらいやってみてもいいだろう。
「あ、そういえばリサ先輩。この前もらったクッキー美味しかったです!ありがとうございました」
「あー、あれね。いいっていいって、その感想が嬉しいよ」
「ホントに餌付け好きだな」
クッキーで人を釣ることに定評のある今井リサ。
この不良臭い見た目でRoseliaとかいう実力派(?)ガールズバンドのベースでオマケに料理はできるときた。どこに向かってるんだお前は。
アイスを食べ終わり、三人で(決して俺だけではない)クーラーの軟弱さ加減を嘆くこと暫し、我々2-A担任の
「あれ?みんなまだ帰ってなかったの?」
「暑いからアイスでも食べようってなりまして」
最大の特徴がメガネ、という何とも言えないルックスではあるが、敢えて言うなら髪の毛はそこそこ長く、色は黒。背はそんなに高くない、恐らく160cm弱。
一年次からの持ち上がりで、クラス編成は少し変わったもののら俺を含めそこそこの数の生徒にとっては担任を持たれるのが二年目になる。
「あ、凛じゃん、お疲れ様ー」
「そうそう、凛くんの追試が終わったところなの」
「…爆死か?」
「ところが残念なことに、合格ね」
曲がりなりにも教師なんだろアンタ、生徒の追試合格に対して残念ってどういうことだよ。
「いやマジで落とすかと思った、よかった…あれ?その子、1年生の子だよね?」
疲れ果てた凛が羽沢に気づく。そういえば顔合わせたくらいで知らねえのかこいつ。
「あ、私羽沢つぐみといいます。1-Bで生徒会に入ってます」
「生徒会!?結羽、お前まさか何かやらかして目をつけられたんじゃ…」
「…そりゃ結構な誤解だな」
俺よりお前の方が問題児だろ。
「そんなお前に朗報だ。ドロッドロに溶けたこのクーリッシュをくれてやる、ありがたく受け取れ」
「ホントか!?ありがとうさすが親友…ってぬるっ!!柔らかっ!!!」
「凛くんってほんとにお馬鹿さんだよね」
リアクション芸人かお前は…
「さて…羽沢、行けるか」
「あ、はい!」
ゴミを捨て、今井に凛を押し付けて俺と羽沢は教室を出る。クソ暑い…溶ける。それこそ本当にアイスの成れの果てのようになってしまいそうだ。
「大丈夫ですか?」
「…返事はない。ただの屍だからな」
ちょっと歩いただけで満身創痍、この国で生きるの向いていなさすぎるのではないか。羽沢の家に着くや否や、涼し気な店内に急ぐ。
「おや木崎くん、いらっしゃい。つぐみもおかえり」
「ども…」
「ただいま、お父さん」
コーヒーをいつものように注文し、テーブルに倒れ込む。結構なヒヤリとしていて、テーブル如きに気持ちよさを覚えてしまう。変態か。
「テーブルとかフローリングが冷たいと…気持ちよくねえか」
苦し紛れに羽沢に同意を求めれば、
「あ、わかります。ピタってしていたくなりますよね!」
こいつも変態だと発覚してしまった。
羽沢のトークと店内のBGMを聞きながら、テーブルの温度を感じていると注文したコーヒーが早くも届く。持ってきてくれたのは以前億単位の請求を寄越した羽沢母だ。そもそもコーヒー一杯に億単位の金を払うほど金持ちっているのか…
ちなみに羽沢が飲むのはカフェオレらしい。どうでもいいことだが俺にはカフェラテとカフェオレの違いがよく分からない。両方メニューにあった時は同じではないのかと思ってしまうくらいだ。
「そういうのも覚えなきゃならんな…」
ストローでグラスの中を掻き混ぜる羽沢を見ながらボヤく。ここでもしバイトをするとなれば知らないなんて恥もいい所だろう。…履歴書買ってねえ。終わったかもしれん。
「ハァ…なあ羽沢、もし仮に万が一、いや億が一、俺がここでバイトするとなったらどう思う」
そんな質問をすれば、羽沢は少し驚いたように目を丸くした後で、少考して答えた。
「私は嬉しいですよ。お父さんとも仲良さそうですし、興味を持ってもらえたなら娘としても誇り高いです。それに、結羽先輩と一緒ならそれだけでも…えへへ」
その回答は予想を遥かに凌駕したものだった。
俺の予想は「どうでもいい、思うところは特にない」というものであって、今も尚まあ羽沢のことだからそんな無難に返せなかったんじゃないか、なんて考えている。
「そうか…それなら、まあいいのかもな」
マスターとの用を済ませてくると告げて俺はカウンターへと向かう。マスターはこちらに気づくと「おや」という表情をした。
「ちょっとお話があるんですが…」
「わかった。場所を変えようか」
察してくれたのか、マスターは羽沢母に比較的忙しくなさそうな店内を任せて奥に入っていく。俺も羽沢母に内心謝りながらその後をついていった。
通されたのは羽沢家のリビング。…え、業務用の部屋じゃないのか。
「本当なら店内のテーブルとか、適切な場所があるんだがね。積もる話ならこっちの方がいいだろう?それに一度上がっているし気兼ねすることもないよ」
「いやまあ…そんな大した話でもないんすけど」
俺は引いてあった椅子に、マスターと向かい合って座る。こういうの無駄に緊張するな…
一つ咳払いをしてから、目を合わせるのは苦手なのだが、マスターの目を見て言葉を紡ぐ。
「先日の話ですけど…返事遅れてすみません、ここで働かせてもらえますか。お願いします」
頭を下げながら、書面ないけどな、なんて考えてしまう。最終決定をしたのは先程なので許されたいところではある。
「いやあ、こちらこそよろしく頼むよ。色々教えてあげたいと思ってたんだ」
時間が経っていたとはいえ、スカウトしておいて無碍にされたら笑えるレベルだ。
斯くして、俺は羽沢珈琲店のウェイターとして働くことになった。接客は苦手だが、困ったら女性陣に丸投げすれば何とかなるだろう。俺はカウンター周りや会計を頑張りたいと思う。
「…待たせたな」
「おかえりなさい。何話してたんですか?」
グラスについた水滴がテーブルへと堕ちていった後で帰ってきたらしい。あの後も契約書とかシフトについて色々話をしたからな…
「まあ何だその…アレだ。ここで世話になるって話だ」
「そ、それってバイトですか…?」
「そういうことだな」
肯定すると羽沢はキラキラした目に変わり、やたら喜んでいるようだ。それはいいとして…絶対に面倒な連中に絡まれることだろう。こればかりは喜んで欲しくないところだ、選択した以上は耐えるしかないけどな…
「…ま、よろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いしますっ」
その後も適当に駄弁っていたが、羽沢は終始上機嫌な様子だった。グラスの水滴はさっきよりも大きな粒となってテーブルへと側面を滑り落ちていく。今日のコーヒーは微かにではあるが、甘い匂いがした…そんな気がしたのである。
現実はタイトルのように甘くはなく、結羽くんはまずは基本ウェイターとして動くことになるでしょう…
さて、またのんびり更新します。許してください。
次回はつぐみと夏休みのお話です。