苦味と甘味の匙加減   作:雪乃シロ

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お久しぶりです。
夏も最後に差し迫り、ついついサボってました。

それでは本編をどうぞ。


スイーツは止まらない

 

 

 

マナとの偶然に偶然を重ねた遭遇から少しの後、羽沢が戻ってきた。その表情は自分がいない間に何があったかなど素知らぬもののようだ。

 

中学の時に転校したのは知っているがこんなところに足を運ぶ用があるか…?この辺に住んでるとかか。地価高いのに。

 

 

「はぁ…後半戦といくか」

 

「はいっ」

 

 

考えたところで何にもならないという結論に至ったところで、午後をも消費するべく俺と羽沢は席を立つ。羽沢の要望もあって午前に回った店にもう一度行くことになった。

 

 

「何階か忘れたけど取り敢えず上に行けばよさそうか」

 

「う〜ん…たしか四階です、行きましょう」

 

 

…まさかこの歳で物忘れが激しいだなんてことないよな。昼前にいたフロアだぞ。

 

 

「あ…あとでゲーム見に行かせてくれ」

 

「ゲーム、ですか?」

 

「ああ、新作が出たらしい…予約とかしてねえけど」

 

 

ポプラトゥーンはゲーマー界隈でも人気コンテンツで、大乱戦スマッシュファミリーズ、ポチッとモンスターなどに並ぶ普及ぶり。そんな作品をプレイしないわけがないんだよな…

 

 

「そこそこ面白いぞ。オンライン対戦もできるしランクシステムもあってな」

 

 

つまりランク上げのために廃人と化し、沼にハマって抜けられなくなるということだ。そもそもそんなにゲームをしないらしい羽沢に伝道してもとは思うが。

 

そんな話をしている内に(くだん)の服屋に着き、目当ての服(それが何かは知らない)を手に取り、試着をしてから素早く会計を済ませて終わり。特に問題もなく買い物を終え、じゃあゲーム見に行ってここを出るか、と言い出す前に羽沢が何かを言いかけた。

 

 

「あ、あの結羽先輩…?その、言いにくいことなんですけど…」

 

 

こういう時は大抵の場合、本当に都合の悪いことや乗り気にならないことを言い出されると相場が決まっているんだ。中身を聞く前から嫌な気しかしないが、何処ぞのバカと違って程度は控えめの案件であるだろう。そう、こいつはポンコツかもしれないがまともなのだ…

 

 

「え〜っと…み、水着を見に行ってもいいですか?」

 

 

こいつは何を言っているんだ?

 

 

「…すまん。よく聞こえなかった」

 

「だ、だから水着を…」

 

 

水着。海やプールといった場所で下着の代わりに身につけて水に浸かる。俺がそこについて行く意味はあるのか?本当に警察呼ばれそうなんだが?

 

 

「…あのな、お前が無知なのか無垢なのか無頓着なのかは分からねえ。だから聞くが、何故俺を連れていく」

 

 

一人じゃダメなのか…別の日に幼馴染と行くんじゃダメなのか…

 

 

「新調したいから、ですかね?」

 

「…いいか、お前が何を選ぶのか目の前で見せられるとする。そうしたら普通はお前がそれを身につけている姿を想像するわけだ。恥ずかしくないのか?」

 

 

そう言われて少し思考を巡らせた羽沢は、赤く染まり上がりつつある顔で、こう言った。

 

 

「ややや、やっぱりやめときましょう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、本当に関係ない、どうでもいい話として、大枚を叩きポプラトゥーンを購入した俺は羽沢にプレイさせてやることを約束した。いやまあ敢えて言うならセクハラ地味た発言の詫びとでも言うか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わってパンケーキ屋。

外観は非常にかわいらしい造りをしている。オシャレなカフェの大きい版だと思うとそれらしい。中を覗くと、ライトは白ではなくオレンジらしい。

 

 

「…結構人いるんだな」

 

「テレビでやってた影響もあるのかなぁ」

 

 

そして店の外に並ぶ人、人、人の列。ペース次第だが何時間も待たされるわけではなさそうである。

そりゃ地上波で流れてしまえば多くの人が目にし、それがネットで評判となり、近場の人間が多く押し寄せるのはごく自然な流れではある。値段も手ごろと言える程度のもので、おやつにもなる。そりゃすぐに案内してもらえると思ったのが甘かったな。

 

 

「仕方ねえな…待つか」

 

「だ、大丈夫ですか?無理はしなくても…」

 

「これが元々の目的だっただろ。そのくらい平気だ」

 

 

時間さえ潰せればな、と思いつつ前に連なる客達を見て小さくため息をつく。一人だったら絶対並ばないし、そもそもここに来ようとも思わなかっただろう。だからと言って羽沢のせいで並ぶ羽目になった、等と文句を垂れるつもりもないが。

 

 

「ま、適当にしゃべってれば列も短くなるだろ」

 

「そうですね、私も色々お話したいですっ」

 

 

とは言ったものの、俺には話題を出す能力が皆無だ。羽沢が振ってくれないと最悪置物と化す…はずだが、気になってたことは聞いておくことにする。

 

 

「そういやお前、水着買うとか言ってたが…予定でもあるのか」

 

「それがこれから誘おうかなって思ってたんですけど、やっぱりやめることにしたんです。だから今は、今年はいいかなって思ってます」

 

 

羞恥心か、それとも癖か、羽沢が頬を掻きながらそうぼやく。出費がかさむことがなくて済む一方、遊びに行けないのは残念だ、と思っていそうな顔のようにも見える。

 

 

「そりゃ残念だったな」

 

「でも他にもいっぱい楽しいことありますから。今日ここに来るのだって私楽しみにしてたんですよ?」

 

「…そうか」

 

 

純粋な瞳でそんなことを言われても反応に困る。喜べばいいのか、軽くあしらえばいいのか分からない。今日を楽しみにしていたかなど俺には自身のことでさえ理解が及ばないのだから。

 

 

「まあ…悪くはねえんじゃねえのか」

 

 

今の気持ちを吐露するならば、それが適切な言葉になるのだろう。この気持ちは俺が量るには難しいが、悪い気はしていないように思う。羽丘に入ってからというもの、こういう奴らに絡まれることが多すぎて気がおかしくなっただけなのかもしれないが。

 

 

「趣味じゃあないが、お前とでもなければここに来ることもなかったってだけだ」

 

 

甘いものは結構好きではあるが、と心の中で注釈する。

 

 

「…なんか照れちゃいますね」

 

「そんな要素はどこにもねえよ」

 

 

凛の奴は腐れ縁として、他の奴らが何を理由に俺と関わっていたいと思えるのかは疑問だ。俺ならば俺と関わりたいとは微塵も思えないはずなのだが…

 

それは結局俺が、他人にとっての俺の存在意義を理解していないということになる。奴らにとって俺がどういう存在なのかを奴らの視点で見ることが出来ていないことの証明に他ならない。自分のことを自分の目線でしか眺められない。鏡に映った自分を自分の目で調べるように評価することしかできないということだ。

 

できることならその意味を問うてみたい。お前にとって俺とはどういう存在なのか。言葉にしてしまえばきっと俗に言うところのメンヘラという烙印を押されるだろうから言えない。その問いに求めるものは小さな好奇心の満足だけではなく、恐らくは──

 

 

「…はぁ」

 

 

醜いな、と思う。つい溜め息も出てしまう。

普段は独りで平和に生きることを求めていながら、その深奥にあるのは孤独になることへの恐怖なのだとすると目も当てられない。そんな脆弱な、板挟みの感情論をひた隠しにして、俺は話を逸らす。

 

 

「…暑いな。当然といえば当然だが」

 

「夏って感じですよね」

 

「倒れてくれるなよ」

 

 

水着の話にここで戻るのは如何なものかとも思うが、たしかにここ最近の陽気じゃ水で戯れたいと思うのも分かる。雨や海に濡れるのはまた好きではないが、炎天下を闊歩し続けるよりは魅力を感じる。

 

 

「結羽先輩もしっかり水分摂ってくださいね」

 

「適度にな」

 

 

その辺のケアはたぶん羽沢より俺の方がしっかりしてるはずなので気に留めないでおく。そんなことよりも話の続きが全く思い浮かばないことに焦りを感じる。対人コミュニケーション評価は余裕で平均未満だろうな、と自嘲してしまう。

 

 

「夏といえば海とお祭りですよね」

 

「…前触れもクソもねえな」

 

「結羽先輩は夏といえば何だと思いますか?」

 

「アイス、エアコン、扇風機」

 

「あ、あんまり風物詩らしくないですね…」

 

 

風情もクソもなくて悪かったな。外に出たら暑いから引きこもって冷房に当たりながらアイス食べるのが至高だろ、そんな生活しか送ってこなかったぞ俺は。

 

 

「今年はお祭りの予定がまだなくて、ちょっと寂しいです」

 

「そこはアイツらをお前から誘ってやれ」

 

「うーん…みんな忙しくないかなぁ」

 

「言うだけ言わねえと可能性すらなくなるぞ」

 

 

祭りなぁ…凛に引っ張り出されない限り行くことがない催し物だが、花火とチョコバナナとりんご飴の印象が強い。主にガキの頃の記憶によると、ではあるが。

例外はあるにしろ最後に行ったのは中二の夏か…いかん、思い出していたらチョコバナナを食べたくなってしまった。訴訟案件である。

 

 

「うーん…あ!結羽先輩も来ませんか?」

 

「はいはい気が向いたらな」

 

 

何も「あ!」じゃあないんだよ、全然閃いてねえじゃねえか…

 

 

「…祭りといえば宇田川って焼きそば好きそうだよな」

 

 

イメージカラーじゃりんご飴なのだが、焼きそばを頬張る姿が妙に似合いすぎる。たこ焼きは…どちらかというと青葉か。青海苔と鰹節を口の周りにつけていそうだ。

 

 

「あ、想像できちゃいますか?ふふ、結構好きみたいですよ」

 

「イメージに過ぎないけどな」

 

「結羽先輩はお祭り行ったら何を食べますか?」

 

「…チョコバナナ」

 

 

おい羽沢ァ…ちょっと口角上がってんぞコラ…

 

 

「…チッ」

 

「ち、違うんです!意外でつい…わ、私もチョコバナナ好きですよ!美味しいですよねっ」

 

 

こいつやっぱりフォロー下手くそだな、その気持ちは悪いとは言わんが…

 

 

「似合わねえのは知ってんだ、何も言うな」

 

 

悲しいかな、好きなものに限って自分に似合わないのである。自分には決して相応しいとは言えないものに憧憬を抱くと思えば俺も極めて普通の傾向にあると言えなくもない。

その後も祭りのあれこれを話題として消費していくと、やっとのことで俺達が案内される時がやってきた。ここまで長かった…

 

 

「…(ようや)くか」

 

「でもお話してたおかげで少し短く感じましたよ」

 

 

小洒落たテーブルに案内された俺達はそれぞれメニューを見始める。

 

 

「…俺は無難にオススメのやつで」

 

「私も同じの頼もうかな」

 

 

巨大なホットケーキのようなものにソフトクリームよりも大きなクリームの塊が乗ったパンケーキ。イチゴやらメープルやら味は豊富らしいが、チャレンジ精神を失った俺はバニラアイスと砕かれた少量のナッツがトッピングされただけのものを注文することに。

字面だけだと全然美味しそうに聞こえないのは俺の表現力が乏しいだけで、明らかに盛りに盛られている写真を見る限りは普通に美味しそうなので許していただきたいものだ。

 

 

 

さて、店内も満席のため注文の品が届くのは(いささ)か遅くなったものの、無事二人分のオススメパンケーキが届いた。

 

 

「おお…取り敢えず切ってみるか」

 

「…あ!結羽先輩、ちょっと待ってください!」

 

 

テレビで見たあのふわふわ感を確かめるべくナイフを取ろうとすると羽沢がそれを引き止める。何だ、と顔を上げると羽沢はスマホを構えている。…そういうのはひまりの専売特許じゃねえのか。ちなみに盗撮って意味での撮影は青葉の十八番(おはこ)である。たぶんな。

 

 

「お前そういうキャラだったか」

 

「記念に撮っておきたくて。せっかく来たんですし」

 

 

シルバーに伸ばしかけた手をテーブルの下にしまって写真撮影が終わるのを待つ。納得がいかないのか、それとも調整が下手なのかはさておき、何度目かの試行でそれも終わり、さっさとナイフをとって目の前の食物に向けて下ろす。

 

 

「…これは」

 

「す、すごいですねこのふわふわ感。テレビで見たイメージ以上ですよ」

 

 

普段食べているものよりも柔らかい肉を切った時と同じ、普段食べているホットケーキよりも圧倒的に柔らかいそれに大きな衝撃を受ける。まさか大袈裟ではなかったとは…

 

 

「…フォトスタ映えでも狙ったのか」

 

「いえ、私フォトスタやってないですよ。ただ、ひまりちゃんに見せてあげようかなって」

 

 

理由が完全な飯テロだった。ひまりの体重も現状維持が限界だろうな…羽沢のせいでまたその線が濃厚になったな。

ちなみにフォトスタとはフォトグラフィスター(PhotographyStar)というSNSの一種で、写真を大袈裟に加工して投稿し、それに対するインプレッションで承認欲求を満たしていくアプリケーションである…というのは偏見らしい。今井によれば。

 

 

「そうやってひまりを(ふと)らせて食おうってのか」

 

「もう、そんなことしないですよ!」

 

 

ひまりという扱いやすい奴をダシに話が進んでいき、早くもナイフからあの柔らかさが伝わってくる感覚が得られなくなってしまう。名残惜しいといえば名残惜しいが、クリームが多い故に量を食べることはできない。くどすぎて死ぬ。

 

 

「…結構しんどいな」

 

「生クリームってあまりお腹に入らないですよね」

 

「その割には俺より食えそうな勢いだが」

 

 

甘いものは別腹だってことか。女の考えそうなことではあるが最近じゃそんなことを言う男も増えているとかいないとか。

 

 

「…さて帰るか」

 

「はい。結羽先輩、今日はお付き合いしてくださってありがとうございますっ」

 

「別に」

 

 

暇だったし、と言ってしまえばと何処か悔しく感じられるので、それは言わないでおく。

 

 

「時間はまだ早いけど帰るか。新作初日プレイしてみたいしな」

 

 

今日の予定はこれで完遂したわけだし、特に目当てのものがあるわけでもなく、この街に留まる理由はなくなった。どうせまた何かしらに誘われるんだろう、祭りの(くだり)で察している。

 

この日はその後最寄まで帰ってそのまま解散。道中は特筆すべきことはなかったものの、早起きの弊害によりまさかのポプラトゥーン未プレイのまま就寝してしまうのであった。




今回も読んでいただきありがとうございます。
タイトルの『スイーツは止まらない』ですが、実は曲の題名だったりします。本家は音符マークがつくのでパクリではありません。たぶん。
また次話でお会いしましょう。
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