苦味と甘味の匙加減   作:雪乃シロ

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リアルが死んでます。
ですが色々コツコツ書いています。もう話の路線もグダグダですいません…本編どうぞ。


青春ウェイ・トゥ・ゴー

 

 

 

「…祭り?」

 

 

それは唐突な誘いだった。何の脈絡もなく聞かされたその単語に一瞬戸惑うが、すぐに理解が追いつく。

 

 

「…そういや夏祭りの時期か。早いな」

 

 

夏休みも後半へ差し掛かり、祭りのひとつにも出ないというのは(いささ)かもったいないのかもしれないが、どうにも人混みが苦手だと前向きにはなれない催し物ではある。

そんなイベントへの誘いだ、断りを入れたいのも事実なのだが、久しくあの雰囲気を味わいたいという気持ちもあった。

 

 

『やっぱりダメ…ですかね』

 

「考えさせてくれ…明明後日(しあさって)だったよな」

 

『はい。無理なら無理で大丈夫ですから…』

 

「ああ…相変わらず青春してるんだな」

 

 

まあ俺が行かなくたって幼馴染共と楽しめるだろ、と誘ってきた張本人、羽沢に思う。奴らの中では俺関連のことは大抵羽沢任せなのが気の毒だ。

 

 

「…できるだけ早めに連絡する」

 

 

それだけ伝えて電話を切る。

ベッドに転がり時計を見ると、既に日付が変わろうとしていた。最近は電話やらメッセージやらが毎日のように飛び交っている。店で顔を合わせているのだからそれでいいだろう、とも思うが…羽沢にとってはそうではないらしい。

 

 

「夜更かしは天敵じゃねえのか…」

 

 

あいつも女子だと思うとむしろその辺りが心配になるな、等と考えながらその日は寝落ちをする羽目になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

バイトもない今日は、学生の宿命とも言える夏課題の消化日である。サボりたいのは山々だが、ただでさえ優秀ってわけでもないのに、その上無駄に成績を下げるわけにもいかない。

 

そして自宅で黙々と進めるのではなく、自分一人じゃ進められないアホこと凛の家に赴かねばならなかった。もちろんこれはこいつの世話をしながら進めるという、俺にしてみれば苦行であり非効率的な作業でもある。

 

 

「…思い出したらムカついてきたな」

 

「なんで俺を睨む!?」

 

 

そりゃ迎えと称してテメェが朝から人の家に押しかけてきやがるからだろ。世が世なら打首だぞ。

 

 

「凛テメェまさか他の宿題もノータッチじゃねえだろうな」

 

「…な、何のことやら」

 

 

俺よりは暇してたはずなのに手をつけていないとはどういうつもりなんだコイツ…さすがに本日同席する今井も苦笑いである。

 

 

「お前も進んでなさそうだけどな」

 

「アタシは凛よりはマシだから平気だよ」

 

 

と言いながら存外速めのペースで課題を消化していく今井。人は見た目に()らないとは言い得て妙だな、と思う。

 

 

「ノルマくらい終わらせろよ。テメェ後で泣きついて来たら屠殺(とさつ)するからな」

 

「スパルタ辞めろよ!今やってるから!」

 

「そうでもしないと甘えるだろうがよ」

 

 

余裕も余裕、三周はできるかというペースの俺は何も焦ることはない。いや三周は盛ったが、バイトやら何やらがあれば少なくとも計画的にならざるを得ないと言ったところだ。

 

 

「日菜はパスパレの仕事で来れないみたいでね」

 

「残念だよな〜。結羽もそう思うでしょ?」

 

「…いやスイッチ入ると面倒だから来なくていいだろ。虫、お前はそんなことより手を動かせ」

 

「結羽は相変わらず辛辣だね…」

 

 

そういう星の元に生まれてきたのがこいつだ。運命は時に非情だとも言う。

 

氷川はパスパレ、今井も夕方からRoseliaの練習、そういえば羽沢も今日はAfterglowのバンド練習、瀬田のことは知らんが…俺の周りはバンドガールばかりだな。

そこまでガチ勢ではないが、俺自身音楽には多少の心得はある。楽器や声楽に特に触れてこなかったのは凛くらいか。

 

 

「ま…青春の形ってか」

 

 

そもそも青くも何ともない『春』を生きる俺が感慨深く感じるところは少ないが、やはり同年代の人間が駆け抜けるそれを意識しないことはない。

 

 

「…青春って何か知ってるか、今井」

 

 

だからだろうか、唐突に巫山戯(ふざけ)た質問をしてしまう。ただし頭がおかしいとか、中二病だとか、そういう微細な問題は考えないこととする。

 

 

「えっ?急にどうしたの結羽?」

 

「ただの質問だ。なんで青春、っていうも思う?」

 

 

暫く考える素振りを見せた後、漸く今井が答えを出す。時間にしておよそ三分くらいだろうか。

 

 

「ん〜…春って出会いの季節だから、色んな人と出会ったりする時期を表してる、とか?恋愛とか友情とか、そういう意味も含めて。青い理由は人として未熟だからかな?」

 

 

これは面白い答えを聞いた。現代で青春という言葉が用いられる状況に当て嵌めると一理あるように思う。

 

 

「そんな見た目で本当に考えてるんだな。お前のことを見くびってたようだ」

 

「アタシ、そんなイメージあるの?」

 

「かなりな」

 

 

俺が昨年からそう思っていたのは事実だ。残念ながら今の今までその印象を払拭できずにいたのもまた事実。

それを聞いた今井は困った顔で静かにショックを受けているようだ。

 

 

「答えってわけじゃあないがな。春夏秋冬の内、春は比較的若い世代を指すから、それっぽく使ってるってことだろう」

 

「青い理由は…今井が言った通りかもしれないし、生い茂り始める緑を思いながら成長を重ねたのかもしれん」

 

「はたまた青龍から意味をとったのかもしれん。朱夏は朱雀、白秋は白虎って具合にな」

 

「まあ俺は正しい答えを知らないからな。想像には任せるが…面白いとは思わないか?年齢的に春とはいえ、俺がそんな『春』を歩んでるかと言われると甚だ怪しいんだが」

 

 

自嘲するように語ってしまったが、少なくとも本心ではある。どこで道を間違えたかは分からない。ただ自分の人生は普通と言われるそれとは異なっている気がしなくもない

俺は日も当たらず、陰にも隠れずにある意味で無難に生きていて、他の同年代の人間は日に当たりながら、もしくは陰に隠れながら生きている。自分が特別なのではなくて、自分が普通にはなれなかったのではないか、と考えてしまう。

 

それはきっと今井や氷川と関わるようになってから何となく感じてきたことだし、羽沢達と馴れ合うようになってからはさらに強く思われるようになった。氷川はまた別物かもしれないが、それでも普通の輪に馴染むようになっているのは確かだ。

 

 

「…ま、独り言だとでも思えよ。普通にすらなれない身では普通に憧れることもある」

 

 

今こうして三人でいることも青春なのだとすれば、青春なんて面倒なものだと言ってしまえるが、そう言い切るにはこの時間を嫌いにはなれない自分がどこかにいた。

 

 

「あ。そういえば結羽さ。明後日空いてる?」

 

「…ッ」

 

 

話を区切り、紅茶を飲んでいた俺は凛の問いかけに喉を詰まらせる。

 

 

「ケホッ…何でだ」

 

「隣の市で祭りがあるじゃん?行かないかな〜って」

 

 

揃いも揃って俺を誘いやがって、何が楽しいんだか分かったもんじゃない。そもそも人が多すぎる、それだけで俺には辛いものがある。

 

 

「今井でも誘え」

 

「私はRoseliaのみんなと行くからさ」

 

「いつからお前らは仲良しごっこの集まりになったんだ」

 

 

あの湊が浴衣なんぞ着て来た暁にはさすがの俺も笑いを堪えることはできないんだろうな…

 

 

「…氷川はどうだ。愉快だぞ。たぶん」

 

「ヒナも行くならパスパレで行くと思うし」

 

 

結局いつものメンツだと空いてるのは俺だけらしい。だとしても今の俺には断る理由がある。隠し球と言うやつだ。

 

 

「そんなボッチのお前には悪いが、俺も先約があるんでな。断る」

 

「さすが結羽!…って、え?マジで?」

 

「大マジだ」

 

「あ、あれ?俺もしかして本当のボッチなの?」

 

 

ようやく気づいたらしい。

 

 

「そんなに行きたきゃ氷川にダメ元で頼んでみるべきだろ。俺は無理だ」

 

「は〜、結羽はなんか知らない内にリア充キメちゃってるし、十分青春でしょ」

 

「うるせえな。わかったから手を動かせ。あといくつ課題残ってると思ってんだ」

 

 

ペンで指すように凛に続きを促す。何度も言うが赤点野郎と長いこと一緒にいると思うと恥だ。汚点なのだ。

リア充、という言葉にはある種の皮肉でも込められているのかとも思うがこいつにはそれを可能にする能力がないことを思い出して苦笑する。

何はともあれ、ここで大見栄を切ったからには後で羽沢へメッセージを送らねばならない。いや、むしろその口実がやってきてくれたことに感謝さえしているのだろうか。その答えが出る前に俺はその思考を閉ざす。

 

 

散々舐めプをかましてやがった凛もヤバさに気づいていたからか滅多に見られない集中力で課題を消化しているのを適当に眺めつつ、俺はスマホを弄る。…不本意ながらも付き合いの長い俺ですらこいつは本当に凛なのか、と疑うレベルである。

人とは侮れないものだなと雑な感想を抱きつつ俺はポテチの袋を開封する。あの食指が落ち着かなくなるような匂いが袋から拡散していく。

 

 

「…結羽。のりしお味なかったの?」

 

「ポテチはうすしおに限る。異論は認めねえ」

 

「アタシはコンソメ派なんだけどな」

 

 

ポテチはうすしおが至高。それが理解できないとはとんだイロモノだな。

 

 

「戦争だ!!うすしお派は許さん!!」

 

「言ってろ」

 

「ポテチで戦争ってどうなの…」

 

 

うすしお派が最多に決まってんだろ。数の暴力で皆殺しにできる自信がある。

適当に受け流しながらポテチをつまんでいると、どうしようもなくゴロゴロしたくなる。寝転がってゲームしながらポテチ、安いが贅沢な時間が恋しい。塩や油がつかないように気をつけないといけないが。

 

 

「あ〜、じゃあさ、トビQでも行こうよ。前に凛行きたいって言ってたし。改装に行っておきたくない?」

 

「いいじゃん!ヒナも誘って四人で行くのはアリだよね」

 

「俺の意向はお構いなしか?」

 

 

ポテチの消費に勤しんでいると勝手に話を進めていく二人。どうせ俺の意見がまともに反映されることが稀なのだから期待はしていないが、ツッコミの一つは入れさせてもらう。金がかかるし1日2日普通に消えるんだ、せめてもの反逆の権利は与えてほしい。

 

 

「結羽都合悪い?」

 

「都合も分からんし出費がキツいが」

 

「でも結羽は何だかんだ来てくれるよね。まあアタシも人のこと言えないけど」

 

「本当にな」

 

「予定合わせて行こう、俺たちのせっかくの夏休みだからな!」

 

「夏休みを謳歌したいなら後で泣かねえだけの準備をしろ」

 

 

自分の無計画さに最後の2日程度で騒ぎ出すのが毎年のことだが、こいつは学ばない生き物らしい、とは何年も前から抱いている評価である。

 

その後はダラダラと話しながら課題を進め、漸くのことで俺と今井は黒川家から解放される。拉致癖もここまで来ると犯罪臭がしてくるものだ。

 

 

「…あァ、死ぬ」

 

 

外に出て伸びをすれば、バキボキと身体が悲鳴とも歓喜の声とも言える音を上げる。この関節がなる感じ、俺は割と好きなんだが、指が太くなるとか噂を耳にしていたから故意に指を鳴らすことは昔はあまりしなかった。

 

 

「結羽はさ。最近つぐみとどうなの?バイト先もつぐみの家のカフェだし」

 

「…お前、お節介の度が過ぎるぞ。それともアレか?お前も男女関係にうるさいクチか?」

 

「ん〜そうじゃなくてさ。つぐみには結構心開いてるような気がして」

 

「そりゃお前常識人の方が好感度は高いだろ」

 

 

帰る道すがら、今井に突如吹っかけられた羽沢ネタ。こういうのがあるから関係を絶つのも(やぶさ)かではないと思えてしまうのだろうが、今は別にそこまで考えていない。

そして凛、今井、氷川といった面子に比べれば羽沢など良心の塊でしかない。そんな奴を無碍に扱うわけにもいくまい。

 

 

「…祭りもつぐみのお誘いでしょ?」

 

「わかってんなら余計な詮索するんじゃねぇよ」

 

「正直なところ、色々考えて素直になれないんだろうなって。特につぐみのことになると」

 

 

それを聞いた俺は憤慨するわけでもなく、何か返事をするわけでもなく、ただ黙っていた。だがそれは今井の言葉を肯定することに他ならなかった。

 

 

「私はAfterglowのみんなと違うから偉そうにはつぐみのこと語れないけどさ。結羽見てると何となくわかるし、言いたくなるよ。凛も心配してた」

 

 

心臓にナイフを当てられたような気持ちになる。

凛は俺の事をそこそこわかっているからそうなるのだろうが、今井でも何かあるのだと気づいてしまうのだ。俺がそれだけわかりやすいということなのか、それとも今井がそれだけ周りをよく見ているということなのか。

 

 

「…ま、時期が来たら話してやらんでもない。今は放っておけ」

 

 

だからといって自分でも整理出来ていないことを無闇に話すような能無しではない。お気持ちを表明してくれるのは大いに結構だが、まずは自分で自分のことを理解しようとするところから始めたい。

 

 

「悪いな。夜道に気をつけろよ」

 

「それ脅しだよ?」

 

 

減らず口は止まることを知らず、そのまま俺と今井は道を異にする。今井が傍に居なくなったことを再確認して、俺はスマホに映し出されたトークルームを見ながら考える。

 

 

「…俺は」

 

 

羽沢のことをどう思っている?

羽沢といることをどう思っている?

 

交互に思い出されるのは羽沢の顔と、マナの顔。

二人が重なる、というわけではないが…マナとのことが俺を縛り付けているのはわかる。そうでなければ羽沢とアイツが同じタイミングで頭に浮かぶわけがない。

 

 

「…わからねぇ」

 

 

過去に対して、そして今に対して何を思っているのかを探るしかない。急ぐことではなくとも、この心にかかった靄を払うに越したことはないだろう。

 

 

「まぁ気にしてもコレは変わらんな」

 

 

俺宛のメッセージを見ながら一人呟いた。

蒸すような空気に加え、まだ明るさを残した道が夏らしさを一層彩っているような気がした。…俺は夏嫌いだけどな。

 

 

 

 

 

 

木崎結羽:祭り、行くか 17:42

 

羽沢つぐみ:ありがとうございます!楽しみにしてますね! 18:28




読了ありがとうございます。
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