2話目にして早くもあの方々が登場します。
あと、短めです。話によって長さが変わるのでご容赦ください。
それではどうぞ
今日は晴れ。というか土曜日からずっと晴れている。ピタリと止んだ雨が手痛いしっぺ返しを企んでいそうで怖い月曜日。連休明けから雨が降ったなら鬱になる自信がある。雨音は嫌いではないが雨の中外出をするのは大嫌いなのである。
「結羽。無視するなって」
先週末に天候アンハッピーフライデーを贈呈された身としては嬉しい始まり方ではあるのだが。如何せん晴れると虫が出てくるのが心地悪い。それも間近にだ。耐え難い苦痛、では言い表せない。ついでにデカい。声も身体も態度も。虫けらのクセに。
「おーーーい結羽」
そもそもの話、今井が何も言わなければよかったのだ。
「お前後で恨むからな」
「ゴメン!!悪気はなかったんだよ」
謝られても何も返ってこないのだ。この気持ちは消せないし、元の状態には戻らない。そもそもの話、本当に今井が青葉から傘の件を聞いたなどと
「おーいy」
「今井、殺虫剤寄越せ」
「いやアタシが持ってるわけないからね?」
平日は毎日のようにこんな虫に
「さすがに失礼過ぎじゃないかな」
「悪いな」
あまり感情のこもらない謝罪を吐くやいなや、
「無視するn」
「消えろ
右手に付きまとってくる害虫の臀部に向けて、俺は全力で右脚を振り抜いた。
「いッたぁぁぁぁぁぁァァァァァァァ!?!?!?」
数メートル前に飛び跳ねて悶え苦しむ凛の姿を見てなぜか心が透き通っていく感覚を得る。
「凛…?なるほど虫のフリをして虐げられることを好む人間…変態か」
「凛…そういうのは人それぞれだけど、虫のフリをするのはアタシもちょっと無理かな〜…」
「ちょっとで済むのかお前は。変わり者だな」
「助けて…リサ…痛くて立てない…」
倒れ込んだ男子高校生らしき生き物が何かほざいているが、そんなことよりもこいつ今の記録で行けば幅跳びの日本記録も塗り替えられる事実に気づいてしまった俺は驚きを隠すこともしなかった。
「4mは手堅いな」
そう言い残して俺は高校へと歩を進める。瀕死の凛に構って遅刻などバカバカしすぎると心底思う。俺は今井と連れ立って歩いていたのであるが…
「あれ〜?リサさんじゃないですか〜。おはよ〜ございま〜す」
「おっはよ〜モカ。Afterglowのみんなもおはよ!」
最高にツイてない。今まで登校中に会ったことは(恐らく)ないだろうが。
しかもよりにもよって話題沸騰中のこのタイミングで。
顔見知りの今井がいるタイミングで。
何よりもバンドの面子全揃いのタイミングで。
金曜日に見た顔が鮮明に思い出せるタイミングで。
「ハァ…」
リサ先輩おはようございます、なんて声を流し聞いてイヤホンを装着しようと思い立ったところでその動きが止まる。
「あれあれ〜?リサさんの隣にいるのはもしかしなくても〜、木崎先輩じゃないですか〜?」
「…お前もどこかのセンパイに似て大概空気読めないよな」
木崎、という姓を聞いてAfterglowの面々は騒然である。青葉が例の件を知っているということは羽沢が(押しに負けて)バラしたということ、それはつまりバンドメンバーも知っていると見ても相違ないということを裏付ける。
「あっあの…おはようございます」
「ああ」
挨拶も欠かさないその心掛けは殊勝だが、おずおずと声をかけるお前を見た外野の火の粉に油を撒いてしまうであろうことには気づかないのか。
「…素っ気ないとか思うな。朝が苦手なんだ」
おはようとも返さない俺に対して何かやらかしたのかと焦り始める羽沢。俺にとってはできる限りの返答をしたつもりだったが弁解しないとさすがに悪い気もした。
「私がモカちゃん達に結羽先輩とのことを言っちゃったから怒ってるのかなって」
「まあ確かに軽率ではあったな。先走って色恋沙汰に絡めて思うだけならまだしも当人を揶揄するアホがいる、世の中なんてそんなもんだ」
立ち幅跳びで新記録を樹立した今はここにいないアホを思い浮かべながら、羽沢を取り巻く中で一番頭の中身が植物だらけっぽい女子を眺めながら俺は零す。そいつは今にも質問攻めを始めそうな勢いでこちらを見る目を輝かせている。こいつは絶対にアホだな。
ふとその隣を見やれば、アホと見るからにアツそうな女子の間、黒髪に赤メッシュをキメた女子がこちらを睨むような視線を向けている。その照準は羽沢でも今井でも青葉でもない。目が合った。俺である。
ヤンキー擬きか?喧嘩を売りたい歳頃か?生憎面倒事は嫌いなのでシカトするに限るわけだが…
「あう…すみません、もう少し考えるべきでした」
「謝るのは
「結羽アタシの扱い酷くない?」
因果応報って知ってるか?
そう言いたいところだがエネルギー効率が悪いので言わない。ともすれば燃費のいい俺の身体は外部からの刺激で簡単に低脳スペックに成り下がる。
「ねえ、あんた」
「あ?」
俺の何かがヤンキー擬きの逆鱗に触れたらしく、聞きようによってはキレ気味のコールが静かに頭に鳴り響く。何がムカついた?そんなの俺が知るか、という話だ。
「つぐみに対して何その言い方」
俺の言葉遣いが気に入らないと。
「ら、蘭ちゃん、私大丈夫だから…」
「つぐみは黙ってて」
二言三言でわかるがこいつは人付き合い下手くそすぎるな。いや、正確に言えばテリトリーの外の生き物との付き合い方か。
俺が言えることではないのかもしれないが俺の場合は周りのタチが悪いってのもあるしこの言い方は
取り敢えずは印象として、というよりはほぼ確実に俺との相性は最悪だということが伝わってくる。
「聞いてんのあんた」
「生憎だが敬語もろくに使えない奴に優しく傾ける耳は持ってないな」
こういう人間に噛み付いてもろくな結果にはならないが、俺は噛み付いてるつもりはない。面倒事を切り離す理由を素直に話しているだけだ。納得出来ずに食い下がる奴はさすがに思考がロジカルでない気がする。
食いついてこの会話に、そしてこの俺にぶら下がり続けて何の得がある?さらに言えば俺にとっては不利益被ることこの上ない。
「ッ……先輩だからってあんたは…!!」
「そうかよ」
くだらない会話に飽きた、かもしれない。
ただのガキだ、それもその辺の子供なんかより余程ガキだ。感情的になって何もかもが解決するなら誰だってそうする。
大人になっていくことが受け入れられないだけか?場合によっては受け入れなくても勝手にさせられるものだ。いつまでもガキでいられるのはそれを許す環境が、ガキでいることを許してくれる存在がそこに満ちていないといけない。誰にでも噛み付いた先に残るのは大人に成り損なって、ガキですらいられない生き物でしかない。
そうやって大人に成れない自分を大人びていると、大人を理解していると騙すように思考を巡らす。自分はそれを理解しているからお前よりは大人なんだと、ガキを捨てているから大人なんだと、だからお前は相手をする価値もないのだと定めるように。
こういう思考を持つだけの感情が内側にあることが、まだ子供なんだと俺は思っている。この身体の中では言葉とは裏腹にこのガキに対する「ガキっぽい感情」が
言いたいことは山ほどある。お前は羽沢じゃない。自分の事のように語るが、羽沢自身とお前の違いは羽沢のことを理解できるかどうかだ。どんなに親密な二人でも、すべては理解し合えない。
言いたいこと、その言葉達を飲み込んで俺は生意気なメッシュ女から離れる。
「悪いな羽沢。…と青葉とそこの2人。今くだらないことを話す気にはなれないんでな」
混濁した感情から精一杯の謝罪を取り出し吐き捨てる。いや、吐き捨てたつもりだった。思ったよりも柔らかい言葉が心の成長を匂わせる。
「…待って」
その消え入りそうな声は俺の耳には届かない。イヤホンが声を跳ね返す。物理法則は無慈悲だ。振動を鼓膜へ通すまいとする遮蔽物は思いのほか堅固であった。
「待ってって言ってるのッ!!!!!!!」
「…うるさ」
…わけでもないみたいだ。イヤホンを越えて耳を
「話を…聞いて」
「嫌だね」
そう返事をした瞬間のそいつは今にもブチ切れそうだった。それだけはその後にも記憶として残っている。
「話すならまた頭冷やしてまともに会話できるようになってから来い。今は俺の気分じゃない。こっちの都合も考えてほしいんだがな」
大体通学路でこんなことしてて実りがあるわけがないだろうに、TPOってものを知らない高校生がいてたまるか。Time, Place, 俺の都合。座右の銘にできる素晴らしい言葉だろう。
「名前。美竹蘭。覚えといて」
「気が向いたらな。じゃ、またそのうち。先に行く」
睡眠をとるために高校へとのんびり歩く。登校時点で疲れているわけだし遅刻も居眠りも責めてほしくない。むしろこいつらを呼び出すべきだと思うんだが日本の教育はどこもかしこもこんなものなのか。だとしたら失望しすぎて笑えそうだ。
「…ん、凛忘れてたな。まあいいかしぶといしいつかは来るだろ」
大して重要でもない忘れ物を思い出しては独り言を通学路に捨てていく。誰にも拾われることはない言葉は俺の記憶にだけ残り続ける。そんなことを中二病よろしく考えながら行く気もない2-Aの教室を目指すのであった。
蘭ちゃんの登場のさせ方が酷くてすみません。
これが一番主人公の性格上書きやすかったので…