小説書くの楽しいですね!下手の横好き!
というわけで、俺達は屋台回りを始めた。何が『というわけで』なのか分からなければ今日俺が何をしに来ているかを思い出してほしい。
「結羽先輩、チョコバナナありますよ!」
「ああ…」
「私このピンクのがいいです」
「俺はこの水色で」
まずは俺の本懐でもあるチョコバナナを購入。
チョコレートソースをバナナにかければそれも同じようなもの、というかむしろそっちのが味は良質なのだけど、これ自体が好きなので多少は値段にも妥協している。本音を隠さず言わせてもらえば少々高額だな。
なお、これに関しては俺の奢りなんてことはない。何でもかんでも奢ってたら財布の紐の緩いやつだと思われるからな。男は女に奢るべきみたいな風潮も強制されるものじゃねえし滅べばいい。
「久しぶりに食べたけど美味しいですね」
「雰囲気補正含めても概ね同意だ」
さっき歩いていた道よりは密度の下がった空間だから食事をとるのに苦労はしない。
バナナが一本と考えるととてつもなく儚く思える。この味も長くは続かないのだと…瀬田の真似じゃないぞ。
「呆気ないもんだ」
チョコレートと果実の欠片のこびり付いた割り箸の片割れに視線をやりながら呟いた。連番で買った俺達の割り箸は元々一膳だったものなのだろうかと気になるが、そんな確率論的な話はやめよう。難しく考えたら負けだ。
「…ん。たこ焼き欲しいな」
これまた鉄板とも言えるたこ焼き屋に躊躇いなく並ぶ。大人気であろう商品のため人が多く押し寄せるとはいえ、そんなに時間もかからず列が捌かれているのはせめてもの救いか。
「付き合わせて悪い」
「大丈夫ですよ」
別にたこ焼きを買うわけでもない羽沢を列に連れてきたのは申し訳なく思う。まあ別々にいても簡単に合流できるような環境じゃない上、万が一何かあった時に俺の管理が行き届いていないせいになるしこの方が都合がいい。…誘われた身としては一緒にいる意味が薄れてしまう気がしたしな。
「たこ焼き一つ。マヨネーズなしで」
マヨネーズはない方がオーソドックスだよな…?
俺の中でのたこ焼きはソースに青海苔、鰹節と紅生姜で完結するのだが、某黒川凛はマヨネーズをふんだんにかけるものだから昔は困惑したものだった。決して不味いのではなく、マヨネーズがない方が普通で馴染み深いのである。
俺は500円硬貨と引き換えに商品の入った袋を受け取り、今度は羽沢についていくことにする。列を外れてからよく見ると、じゃがバターにヨーヨー(水風船)、わたあめにお面等々定番はもちろん、見たこともない新種の屋台もある。『くらげアイス』って何だよ…
「…お前は何か要らないのか」
熱々のたこ焼きを吐息で冷まし、口に放り込んでから問う。我ながら行儀が悪い。
「私は後で焼きそば食べたいです」
「なら花火の前にでも買うか」
「はい!でも、あの…」
何かを言い淀む羽沢。口には出さないがトイレか何かか?
「…何だ」
「できればですけど、たこ焼き分けてもらえたらなぁ〜…なんて」
俺の予想を大きく逸れた答えを、彼女は照れ臭そうに眉を寄せてそう口にした。
…なるほど。
「構わん」
ほらよ、と使いかけの楊枝をたこ焼きに突き刺して容器ごと渡そうとすれば受け取る様子がない。何が起きたのかと羽沢の方を向けば目を瞑り口を開ける彼女の姿が。
これはつまり…食わせろと?
「おい…これかなり熱いぞ」
しかし致命的なまでの問題がそれである。そのまま口内に挿入するなど鬼畜の所業…いや凛にはむしろ突っ込んでやりたいくらいだが…まあそんなことは羽沢にはしない。
しかし俺が冷ますのもどうなのかと。こいつは大して潔癖ではなさそうだから使いかけの楊枝くらいはセーフとして、さすがにそこまでするとたこ焼きにマイナスの付加価値を与えてしまいそうな気がした。そして何よりも…
「頼むから冷ますくらいはしてくれ。恥をかくのはお前だけじゃないんだ」
不特定多数に、祭りということもあって普段に比べ違和感はないように思えるが、ある程度の奇異の目を向けられることに変わりはないのである。
誰とは言わないがアホ様が『爆発しろ』とか
「そ、それじゃ…ふーふー…あむっ」
髪を手で避けて食いついた羽沢。まるで小動物が餌を食べるような…齧り付くのではなく、あくまで口に含む動作を指してのことなので悪しからず、だ。
「おいひぃです!」
「喋りづらいなら食い終わってから喋れよ…」
「…んっ、すみません、動揺しちゃって…でも美味しいですね」
こいつこんなキャラじゃなかっただろ。脱法何とかでもやってんのか。まさかとは思うがひまりか?ひまりの変装なのかこれは?髪はカツラ?
「…いや」
頭から徐々に視線を下げて羽沢の身体…まあ主に首から腰にかけての部位を見て、確信する。これは羽沢だ。具体的に言うと浴衣ということを考慮しても線が羽沢とひまりじゃ違いすぎるんだよな…
「???」
当の本人は何を考えているのか分かりません、といった様子だ。知らない方が賢明だろう、全体的な肉付きは知らんが胸部は大きい方に憧れると聞いたことがあるからな…下手にコンプレックスを抱かせたりするのもアレだ。
一応補足しておくがひまりを悪く言っているんじゃなくてだな…羽沢が相対的に細いというだけでひまりに関してはむしろ良好なスタイルなんじゃねえかな…と思う。見た感じでは。そういうのを詳しく知りたい奴は凛の方が博識そうだからアイツに聞いてくれ。
「…ほらもう一つ食え」
心内懺悔をするように追加でたこ焼きを羽沢に突き出す。対価としては安いものだが、
「いいんですか?」
「食いたそうな目で見てたからな」
「そんなことはないですから!…でも、いただきます」
そして彼女も若干遠慮しながらも二つ目のそれを食したのだった。
「…ねえ。さっきから声掛けてるんだけど」
しかしそれで一段落とはいかないのが世の常と言うべきか。聞き覚えのある声に空気が一瞬凍る。夏なのに。
「…誰だオマエ?」
「…アンタは黙って。つぐみ」
「あ、あの…えっと…」
「はぁ…ゴメン、邪魔したね」
振り向いて視認したのは赤が基調の浴衣を着た女性…いや少女か。そいつに誰だ、とは問うたもののすぐに理解をした。見覚えのある赤メッシュ。こいつは…そのトレードマークの通り赤メッシュ。通称美竹蘭。
「邪魔かどうかは知らんが…お前、いつからいたんだ」
「一つ目のたこ焼きをつぐみにあげるくらい」
NGカットをフルで見られるというオマケ付き。形容しがたい程に《自主規制》してェなオイ。
「忘れろ」
「無理。何鼻の下伸ばしてんの変態」
こいつが男なら問答無用で蹴り飛ばしてるところだ。
口の悪さについては人のこと言えないが冤罪もいいところだろ、これは。
「チッ…で、俺達を見つけてわざわざ挨拶か?」
「まさか。つぐみだけにだよ」
「…言葉は性格を映す鏡か」
適当なことを言って流すが、間が悪いったらありゃしねえ。つーか美竹がいるってことは当然…
「やっほ〜つぐ、それから木崎先輩」
「おっすつぐ。先輩もどうもです」
「いえ〜い!お祭り楽しんでる〜?」
そう、当然お前らもいるよな。知ってたわ。
「やっぱりみんなも…!恥ずかしいよ…」
「つぐってば私達と別で行くって言うのに誰と行くのかは秘密にしてたんだよね〜!まあ先輩だろうとは思ってたけど!」
「そ、それは言わないで!先輩ここにいるから!」
「たこ焼きよりもお二人の方がアツアツでしたね〜。つぐなんてあ〜んってしてもらってムグッ」
「何でもないですからね先輩!モカの奴、すぐ余計なこと言うんで黙らせときます!」
まあ五人が揃うと相変わらず俺は話題には上がるものの話には入ることもなく、蚊帳の外というわけで…
「ハァ…」
何度目かも分からない溜め息に全てを込めて、吐き出した。
「本当に邪魔したとは思ってるよ。あたし達は反対したんだけど、話しかけようってひまりが聞かなくてさ」
「邪魔というよりはタイミングだろ」
「蘭の突然の裏切り!?」
「いや、実際その通りだったろ?」
「でもやっぱり見かけたら気になるよ!二人の知られざるデート事情とか!」
呆れた様子で宇田川がツッコミを入れる。やはり元凶はお前なのか。
「…オイ、別にこっちは見世物のつもりでやってるわけじゃねェんだよ。冷やかしに来たなら失せろ」
自分でも感情が少し高ぶっているのがわかる。身体の一部が震える。そんな俺をいち早く可哀想な目で見たのは青葉だった。だがそれ以外の、事情を知る由もないAfterglowは困惑したようだったが、ひまりが事態を重く見たのか謝罪を始めた。
「ごめんなさい!そんなつもりじゃなかったんですけど、結羽先輩の気持ちのことを考えてなかったです…ごめんなさい」
こうなってしまうと更に居心地が悪くなる。人間の、いや俺の面倒臭い部分だ。ムカついてるのに対して謝罪されてさらにムカついてくるのが、本当に理解に苦しむ自分の性質なのである。
「いや…まあでも羽沢としてはお前らに会えてよかったんじゃねえのか。俺としてもそういう
ゴミの山の中からゴミを手で引っ張り出したような何とも無様な言葉しか出てこない。濁った感情を探ってみても汚れたものしか見つからないのは仕方の無いことだ。
「…ひまり、お前らも、すまない。少し取り乱した」
そういうところがガキなんだと自分に剣先を向けるように言い聞かせる。やっとのことで引っ張り出した謝罪も、ひまりよりも精神が未熟なことの証左にしかならなかった。
「…羽沢も。悪かった」
『これ』にもちゃんと決着をつけないといけない。いずれ終焉を見るのだと、今まで逃げてきたモノに向き合うのだと決めたからな。それについてはまた話すこともあるだろう。
その後は俺に気を遣いながらも(これに関しては本当に申し訳なく思っている)、五人は談笑を暫く続けていた。俺はたこ焼きを食べ尽くして、抜け殻のように五人の方を眺めていただけだったが。
「じゃああたし達もう行くから」
「押しかけてすみませんでした。また会いましょう!」
そして彼女達は羽沢を残して去っていく。美竹と宇田川は別れの言葉、青葉は悲しげな笑みと
「…あいつらも一緒じゃなくていいのか」
「はい。今日は結羽先輩と二人で、って決めてますから」
敵わないな、と思った。俺が台無しにしたと言っても過言ではないこの空気を、元に戻そうと気丈に振る舞う羽沢には
そしてその意識が、俺を縛る過去を断ち切らせしめる鍵になっていることに今気づいた。偶然の出逢いと短い付き合いが、少しずつ俺を変えていたのかもしれない。それが主体でなくとも俺が成長した結果なのかもしれない。
「そうか」
だからこそ、俺は以降に出かけた謝罪の言葉を飲み込み、簡素な返事をする。
幸い羽沢が表情に影を落とすことはなかったが、俺が察してやれていないだけなのかもしれない。たとえそうだとしても、もう少しだけ待っていてほしい。叶うならば、二度と同じようなことで何かを壊してしまうことのないように…そうなりたいという微弱でも確かな意志が心の内に生まれた。
ご読了ありがとうございます。
タイトルのEmbryoは胎児という意味ですが、機能しているかわからない比喩として雑に置きました許してください。
辛辣甘々な感想(どっちやねん)等もお待ちしてます。