この話の投稿時、頭痛に悩まされていました。
多少の冷やかしくらい大した問題はないと言っておいてこのザマじゃあ流石に凹むな。早くも自身の発言と行動に綻びが露呈してしまった。
まああまり気にしても同伴者に失礼だから切り替えていこうとは思ってはいるが…
「おや結羽、君も来ていたんだね。それに、かわいいお姫様も一緒かい?さしずめ
「ソウデスネ」
Afterglowと道を
「薫先輩、こんばんは」
「…瀬田、悪いがもう行くわ。嫌な予感がする」
「フフ…
やっぱり何言ってんのかわかんねえけどあの金髪に絡まれたら一巻の終わりだと思って瀬田の元から早足で逃げる。そして逃げた先でまたもや誰かに声をかけられる。
「あら、羽沢さんこんばんは」
そう、瀬田の次にやって来たのは…
「あ、友希那先輩。こんばんは」
「…ふっ」
「木崎、何を笑っているの?あなたが笑うなんて世も末ね」
浴衣を纏った湊だ。本人は『興味無いわ』とか言いそうなあたり、どうせ今井のコーディネート魂の標的になっただけなのだろうが…俺からしたらお前が浴衣で祭りに来てる方が世も末なんだよな…
「お前の浴衣なんぞ拝む日が来るなんて思わなかったな。今日がドゥームズデイだとしてもおかしくねえよ」
その後、湊の周りにぞろぞろと集まったRoseliaと羽沢が話すのを眺めていたら、大人しそうな黒髪の女に声をかけられた。
「あの…」
「…あ?俺か?」
「は、はい…」
俺を前にして完全に萎縮しているはずの彼女は羽沢ではなく俺に話しかけてきた。…何故に俺?
「わ、私たち、昔会ったことありませんか…?」
「ええ…」
そういう系かよ。運命とか前世とかそういう
「結羽、それ本当?」
「りんりんこの人の事知ってるの!?」
「いやマジで覚えがねえんだが…」
名前も知らない女との意外な接点があるかもしれない可能性に、今井と小さい奴は驚きを混じえた声で問う。一方の俺は次の発言を聞くまでは困惑に囚われたままであった。
「えっと…勘違いだったらすみません。その、ピアノ、弾いてましたよね…?」
「…ああ。そっちの人間か」
合点がいった。小さい頃からやってりゃ容姿も変わるしそもそも知り合いがそんなにいたわけでもないし。覚えてないのも無理はない。その名前を聞くまでは。
「私はRoseliaのキーボード担当の、白金燐子、といいます…」
「…白金って、お前エリート様じゃねえか。名前は知ってる」
コンクールで金賞を
「そんな奴に目つきで覚えててもらえるとは光栄だ」
皮肉混じりに答えるが、本当に目つきくらいしか名残がないように思う。背も伸びればガタイも変わる、髪だって当時のままなわけがないからな。
「いえ…その、木崎さんのピアノは好きでした。だから、覚えてます」
そう言ってくれる人間がいることに、当時の俺は泣いて感謝するのだろう。今となっては何が良かったのだろうと疑問しか湧き出てこないものだけどな。
「そりゃどうも」
「せっかくですし自己紹介だけでも。氷川紗夜と申します。と言っても木崎くんには何度かお会いしていますね。日菜がお世話になっています」
「本当にな」
相変わらずの今井スキルにより俺の紹介は省略してよろしいレベルには済んでいると思いたいが…取り敢えず、まずは氷川姉からイントロダクションが入る。
「我が名は宇田川あこ。闇に顕現せしRoseliaのドラマー…我がスティック捌きで世界を…えーっと…ババーン!としてみせよう」
「この子は宇田川あこちゃん。巴ちゃんの妹だよ」
「宇田川の…これがねえ」
宇田川妹を見かけたことは何度もあるが、初めて話してみた第一印象はヤベェ奴。羽沢が横からフォローを入れてくれたが、俺にはサシでこいつと会話続ける自信ねえよ。
「…木崎結羽。羽丘2年」
今井、後で最低限の補足を頼んだぞ。報酬は凛に請求しておけ。
「あ〜、結羽はいつもこんな感じだから気にしないでね。さ、私達も行こっか〜。つぐみ、結羽、またね」
Roseliaも挨拶と軽口程度に俺達から離れていく。やっと、やっと解放された。人に絡まれるのって存外疲れるもんだな…
「怒涛の知人ラッシュだな」
「賑やかなのもお祭りの醍醐味ですし」
羽沢の意見にも一理ある。
一息ついて広場の時計を見ると午後六時四十五分前を指していた。
「思ってたより時間経つの早いな」
「本当ですね」
「…そろそろ最後の買い物して定位置につくか。いい場所があればだが」
「どうしましょうか…」
この祭り、というかここの地理には明るくないがために、俺の案はほぼゼロだった。唯一目に入った小川に架かる橋が良いかとも思うが、立ちっぱなしは俺も羽沢もしんどそうなのでパスしておいた。
「…そういやレジャーシート持ってきてたな。平らなところなら座れるが」
「すみません、私何も用意してなくて…」
「二つも要らんだろうし構わん」
スマホを取り出そうとするが、ネットで調べたところで知名度が高いに穴場的なところ(最早穴場ではない)には既に人が押しかけているだろう。
「…お」
俺が見ていた橋の脇、川原に降りる部分に、花火の見える方向へと下る階段を見つける。
幅も充分広く、既にスペースを確保した人も通行の妨げにはなっていなさそうだ。そしてまだ俺たちが入る余地はあるように見える。
「あそこでどうだ。方角的には見やすそうだが」
「確かによさそうですね。早速あっちに向かいましょう」
橋から俺へと視線を移す羽沢の頭部で、スカイブルーの髪飾りが屋台から放たれる光を反射する。俺はまるで宵闇の中でそこだけが青空を映し出したような、そんな錯覚に一瞬陥った。
「決まりだな。行こう」
俺は少しだけ目を細めて彼女に着いていく。どこかくすんでいる視界に一つだけ煌めいた、その髪飾りを追って歩き出した。そして俺は、今日初めて彼女の後ろを歩いたように思った。
二人で焼きそばを食べ終え、(主に羽沢が)話しながらシートを敷いた段差に座る。浴衣が汚れるかと心配したが、今のところは杞憂な様子。
「…災難だな。お互い自己管理はしっかりすべきか」
今は羽沢の昔話…ではなく、色々頑張りすぎてぶっ倒れたという話の詳細を聞いたところだ。
「でも今は皆で一緒にいられるから、それでよかったんです」
「そりゃよかったな」
まだ数ヶ月前の出来事なのに懐かしむように言う。大切な思い出の一欠片、と言うわけか。
「私ばかり話してすみません。私は結羽先輩のことも聞きたいです」
「…いや、差し当たり話すことねえんだが」
そう言ったものの、再度思案してから、ゆっくり言葉を紡ぐ。
「…休み前は二日に一回は凛を蹴り飛ばしたりしてる気がするな。代表的なものだとゴミ箱に叩き込んだり…廊下で脛を蹴りつけたり…自分で言っといてだが、ろくでもねえ話だなおい」
「あはは…仲良いんですね」
「どう考えても険悪だろ」
「思い出として出てくるってことは、結羽先輩も凛先輩のこと友達だと思ってるんですよきっと」
「昔からの腐れ縁って奴だ」
幼馴染というと親密な感じがするから敢えて違う言い方をする。そういうのはAfterglowみたいなのに使う言葉だろう。
「何か聞きたいことでもあるか」
「えっと…結羽先輩は、今日楽しんでますか?」
「…まあ悪くねえよ」
少し間を空けてそう答えれば彼女は微笑む。昔話を求められるかと思いきやそういう質問だったか。
「私も、楽しいですよ。結羽先輩と一緒にいられて」
その言葉が、目の前の景色の輪郭を歪ませる。
「今日という一日も、私の大切な思い出です」
俺が目を細めたからだ。狭まった視界とぼやけた輪郭が、その世界を認識する意思を奪う。形容しがたい気持ちが生まれる。
決して悪くない相手から、純粋な好意を受け取ってしまったから。苦境が待っているとしても、もう後には戻れない。
「…俺も忘れねえだろ」
記憶力がどうとか、そういうことじゃない。
「大切な人間との思い出だからな」
こいつに対する好意はもう拭い去れない。
そんな時でも笑わない俺を驚いた顔で見て、羽沢は取り乱している。お前が言い出したことなのにその慌てようは何なんだ…
「ああ…悪かったな。忘れてくれて結構だ」
よく考えればバンド内であまりネタにされても困る。そういう奴ではないと思うがボロが出そうで怖い。それなら忘れてくれた方がいいだろう。
「…後半、始まるぞ」
思考回路のショートした羽沢を修理して、花火の後半を拝むことにする。
やはり柳が一番花火としての威厳があるな…色とりどり、形も様々な花火を見終わって、最後の柳が消えていくのを名残惜しく見届け、俺たちの祭りは終わりを告げる。
周りの人間が帰り出す中、虚空に煙と化した花火が漂うのを俺たちは暫く見続けていた。
「…帰るか」
「はい」
声をかければ感傷に浸ったような表情でそう返事をする羽沢。祭りの後は少しノスタルジーを感じたり、センチメンタルになったりするものなのだろう。
最大の熱が過ぎ去ったこの場所にはその面影がうっすらと残るのみになってしまった。また一年の時を越えなければ、あの輝かしい景色を取り戻すことは叶わないのだろう。俺達はそんな川原をゆっくりと歩く。隣からは地面を踏みしめる音が、やや小さく聞こえてくる。そしてその音に重なるように、彼女は呟く。
「来年も、また一緒に来たいです」
「…気が向いたらな」
羽沢の願望にいつもの空返事を返す。来年は受験やら何やらで忙しいため、実際本当に気が向かなければ行くことにはならないだろう。
そして妙な空気が俺たちの間に漂う。一言発しては沈黙、という繰り返しが最寄り駅の改札を抜けるまで続いた。羽沢の言葉に対する俺の回答がクソすぎたまである。
「今日はありがとうございました」
「ああ…家まで送ってく」
「…すみません」
「気にしたら負けだ。それに魂が抜けたような歩き方して何かあったら困るだろ」
今のこいつからは俺がいなければ前もろくに見ずに歩きそうな臭いさえする。足取りが覚束無いのではなく、目の前に迫る危険があったとしてもそれを認識することができないという意味で危ぶまれる。
幸い何があるわけでもなく、俺は羽沢を家まで送り届けきることに成功する。帰る道すがら、ふと空を見上げる。そこには先程までの煙は見えない。風向き的にここまでは流れてこないということだろうか。
「…星か」
花火を見ている時にはわからなかったし今の今まで意識しなかったのだが、今日は星が結構見えるようだ。星たちがいつも見えるよりも多めに、そして綺麗に映る空が、少しだけ憎くなる。
「向き合う、ね…」
前と同じような関係性の動きを認識している俺は、もう退くことはできない。凛がいたこと、今井や氷川がいたこと、羽沢と出会ったこと、その他にもいくつものピースが、俺を過去へと志向させる。囚われ続けたその結末がどんなに残酷であろうとも、受け止めないといけないらしい。
「…そういうことか」
昔のことを思い出すと、ふとあの日々に見た空が俺の見ている夜空に重なる。
どこか懐かしいように見ていたのはそういう理由があったのか、と妙に納得してしまった。やはり煙はかかっていない。今となってはそれだけが、唯一違う景色に思えた。
本当に拙い作品ですが読んでくださりありがとうございます。