苦味と甘味の匙加減   作:雪乃シロ

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Youと結羽を無理やり掛けるというファインプレーです。笑
何か2章が終わってつい書きたくなってしまったので書きました。


番外編 -Extra Stories-
The Beginning of YOU


 

 

 

 

 

幾許(いくばく)か目線が低くなった。

気がついたらそんな世界に立っていた。

起きた時にベッドでも机でもなく、俺はただ広い公園のような場所にいた。

歩行も遅くはなっているが、予想に反して足は軽快に動く。

 

 

『…これは?』

 

 

発した声は今よりもやや高め。

その音にまさかと思い、長袖を捲る。そこには産毛さえ視認が難しい、小さな腕がある。

確実な証拠を掴むために、俺は園内を抜け、カーブミラーを見上げる。

 

 

『うそだろ…』

 

 

そこには十年以上昔に置いてきた、木崎結羽の子どもの頃の姿が映っていた。

 

 

「おーいゆう!」

 

 

誰かが園内を飛び出して、俺の元へ走り寄ってくる。

 

 

「…だれ?」

 

 

そして俺の意思とは無関係に言葉を返す俺。この世界では、俺の意思は通用しない、夢の世界を覗いているだけの存在に等しい様子。

 

 

「おれだよ、くろかわりん!おなじあじさいぐみだろ!」

 

「あー、くろかわか。しってたけど。なにしてんの?」

 

「ゆうがようちえんのそとにでたから、おいかけてきた!もどろう!」

 

 

そいつの名前は黒川凛、俺が過去に見たあいつと同じ容姿でそう言った。

これは…俺の記憶?夢なのか?その問いに答えはないまま、俺は凛に手を引かれて園内に戻る。そこにはいつのまにか保育舎が現れていて、それも俺が通っていた幼稚園のそれだった。改装の跡も、劣化も見たところは感じない。実に不思議だ。

室内に入ると、名前も覚えていない男子が声をかけてくる。

 

 

「ゆう、おまえまたまいごになったのか?」

 

「…だれ?」

 

 

『また』の意味を理解しかねるが、こういうのはスルーに限るという経験に基づく回答を行使しようとするが、何故か俺はその少年に問い返していた。

 

 

「なんでなまえもおぼえてねーんだよコイツ!」

 

 

何が面白いのかわからないが笑いながら当時の俺を指差す少年。一方、凛と違って本当に名前がわからないこと以外には全く興味を示さない当時の俺。

 

 

『俺こんな奴だったか…』

 

 

そりゃいじめられても文句は言えないような気がするな。

 

 

「くろかわ、こいつだれ?」

 

「たかはしこうき、ってなふだにかいてある」

 

「ほんとだ。たかはし、おれこいつとあそぶから、ばいばい」

 

 

何やかんやで俺と凛は仲が良かったらしい。まあ恐らくは熱心に話しかけてきたのがアイツくらいしかいなかったというだけだろうが。

 

 

「で、なにする?」

 

「ブロックであそぼう!どっちがかっこいいロボットつくれるかしょうぶな!」

 

「わかった」

 

 

その会話の後、プラスチックか何かでできた柔らかめのブロックの箱の周りに二人で陣取り、ブロックを一心不乱に組み立てていく。見た目的には両方悪くないが、凛の方が豪快でデカいロボットを作っている。性格の表れなのか。

ふと手を止めた俺は集中する凛のロボットを眺めた後…

 

 

「…よいしょ」

 

 

腕を振り下ろし、凛のロボットを半壊させた。

確かに完成させなければ自分の勝利は揺るがないが…悪魔かお前は。いや、俺か。

 

 

「おいゆう!それはずるいぞ!」

 

「ちゃんとみてないからいけないんだよ。くろかわのふちゅういだ」

 

「くそ!もっとすごいのつくってやる!」

 

 

凛が必死に俺に追いつこうとブロックを集めて組み立てる中、俺はどうやら価値を確信したのか慢心したように、それこそ注意散漫になる。

 

 

「おかえしだ!」

 

「あ…」

 

 

油断した隙を突かれ、俺のブロックを大破させる凛。為す術もなく無惨に散る自身の傑作を見ることしか出来ない俺。ルールもクソもない遊びだなおい。

せっかくだしこれを十年後にやると問答無用で蹴りが飛んでくるぞと教えてやりたい。

 

 

「おれのまけだ」

 

「ゆうのまけ!おれのかち!」

 

「くろかわのロボットかっこいいな。なおしかけだけど」

 

 

声高らかに勝利を宣言する凛を見つめて、当時の俺の口元は緩む。当然俺の意思には関係なく。

 

 

「こんなとこでなにしてんだよ、まいご」

 

 

そこに水を差すのは先程のタカハシコウキ。見た感じやんちゃなガキで、身体も一回り大きいように思う。

 

 

「たかはし。なんかよう?」

 

「そとにこいよ」

 

「なんでだよ。おれはくろかわとあそんでるだろ」

 

「うるせー、いいからこい!」

 

 

いじめっ子といじめられっ子、という構図が的確な表現とも言える、定番の奴だ。

外で走り回るよりも本を読んだりブロックで遊んだりする方が好きだったからな…こいつからしたらターゲットにしやすかったんだろう。

 

 

「やだっていってんだろ!はなせよ!」

 

 

服を引っ張って無理やり俺を引きずり出そうとするタカハシ。こいつはうざい。

どうせこの後は園外に出るという奇行を馬鹿にされるんだろう。…というかこれにも見覚えがある。確かこの後は…

 

 

「おいやめろよ!ゆういやがってるだろ!」

 

 

そうだった。凛が出しゃばるんだったな。

 

 

「なんだよりん。つれてくのはおまえじゃねーよ」

 

「ゆうがいやだっていってんだからはなせよ!」

 

「うるせーよ!」

 

 

タカハシなる少年が凛の近くにあった、奴のロボットを蹴り飛ばす。蹴られた部分でロボットは分解され、飛んでいった部分はまた壁や地面にぶつかりバラバラのブロックに戻る。

 

 

「おまえもけるぞ」

 

「う…」

 

 

凛はその気迫と目の前で起こった出来事に今にも泣き出しそうな眼をする。それでもタカハシとやらから眼を逸らしたりはしない。

そして、次に動いたのがそれを見かねた俺だった。

 

 

「くろかわにあやまれよ」

 

「なんだよ」

 

「あれはくろかわががんばってつくったやつなんだぞ。おまえがこわしたんだから、くろかわにあやまれ」

 

 

物怖じしているのかしていないのかわからないトーンでタカハシにそう告げる。…もしかして当時の俺、めちゃくちゃ良い奴なんじゃないのか。俺のことだから壊していいのはそういうルールで遊んでた俺だけだ、とか思っていそうだが。

 

 

「あやまるわけねーだろバカ」

 

「あやまんないならしねよ。ばかはおまえだろ!」

 

 

そしてクソガキ並の罵倒をしてタカハシを殴りつける。…あったなこんなことも。今にして思えば何て短気な奴なんだ。何かを解決するのに暴力はよくねえぞ…と、普段凛に制裁を加えている俺でも思う。

 

 

「はなせよ!」

 

「いてーなこのやろう!」

 

 

服を掴んでいない方の手で叩かれ、蹴られる。そりゃやり返されるし勝てねえだろ。

 

 

「いって…はやくはなせよ!きもちわりーな!」

 

 

俺の口から出てくる言葉に知性の欠片も感じなくてつらい。

ひたすら叩かれ続けるが今の俺は生憎痛みを感じない。当時は痛かったのだろうが。

 

 

「こら!喧嘩はやめなさい!」

 

 

そして凛が連れてきた先生によって喧嘩は仲裁される。凛と俺の説明によってタカハシとやらはどやされ、親にも怒られ、学年の顔みたいな立場ではあり続けたものの、俺たちと喧嘩を起こすことはなかったように思う。

まあ俺も手を出したことについては親にも先生にも怒られたけどな。

 

そして、その日の帰りのこと。

 

 

「…くろかわ」

 

「どうした?ゆう」

 

「…ごめん。おれをまもってあんなことされたから」

 

 

…俺めっちゃ素直でいい子じゃないか?どういう人生歩んだらここから今の俺になるんだ。

 

 

「なんであやまるんだよ、へんなやつ。おこってくれてありがとう」

 

「それはおれがむかついたから」

 

「そういうのはきにしたらまけ、っておかーさんがいってた。だからきにすんな!」

 

 

ああ、気にしたら負けってここから来てたんだな…思い出したらこれから使うのを控えたくなってきたぞ。

 

 

「ほら、手だして」

 

「なんで?」

 

「ゆうとおれの、ゆうじょうのあくしゅ!」

 

「…へんなの。よろしくな、りん」

 

 

そう言って凛の手を握る俺。というかマジでベタな始まり方してたんだな俺達…

最近の凛をゴミのような扱いをしているのに罪悪感さえ覚える。少しは感謝してやるか…でもそうすると調子に乗るからな…昔の方がお互い可愛げがあったな。そう思うと少し笑えてくる。俺は拗らせ、凛は壊れた。そのくせ今でも関係は続いているのだから驚きだ。

 

ふと鐘の音ではなく電子音が響き渡る。それも頭に直接響くように。それは聞き慣れた音で、すぐに思い出した。俺の目覚ましの音だ。

 

…つまり夢から覚める時が来た、ということか。長いようで短い記憶だったが、悪い夢じゃあなかったな。

 

 

『じゃあな』

 

 

俺は二人を見下ろす今の目線を取り戻し、並んで歩く小さな二人に別れを告げる。夢の世界が白い光を放ち始め、そして少しずつ肉体の感触が戻り…

 

 

「…ねみィ。あちィ」

 

 

布団にほぼ(うつぶ)せで横たわるのを認識する。冷房の温度を少し下げ、俺は今度は仰向けになって寝転がる。どうしてあんな夢を見たんだか…

 

 

「くだらねえ」

 

 

考えては馬鹿馬鹿しくなって、俺はそれを忘れないために脳が見せた映像なんだと結論づけて終幕とする。それが潜在的に大切な記憶なのだということに気づかなかったのが意図的なのかどうか、の解釈は個人に任せることとして。

 

結構夢で疲れたからな、俺は二度寝をキメることにした。じゃあそういうわけなんでこの辺で。

 

…おやすみ。

 

 

 

 




随分昔に読んだ小説をリスペクトして書きました。
それにしては雑すぎて怒られそうですが…

というわけで結羽くんと凛くんの過去編でした。
ご読了ありがとうございます。

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