苦味と甘味の匙加減   作:雪乃シロ

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亀なので約五ヶ月ぶりです。
リサと凛くんと結羽くんのちょっとした日曜日のお話になります。
ゆるゆるサンデーなのでストーリーの進展的なものはあまりないかも…


青薔薇の花弁、一枚

「結羽、お願いがあるんだけど」

 

 

 

日曜日の朝、母親がノックもなしに部屋を訪れてきて頼みがあるのだと言う。せめてノック。ノックをしようか、母よ。

 

 

「…はぁ」

 

 

対する俺は未だベッド。時計を見遣れば時刻は8時半。あと1時間半は寝ないとマズいと思うが…強制的に起床させられるのにはどうしようもない。眠過ぎて無気力無抵抗なすがままの俺は上半身を起こす。

 

 

「何すか」

 

「黒川さんの家のご両親が出かけてるんだけど、今夜帰ってこないみたいなの。それで凛くんが鍵を持たないで朝から家を出たみたいで。戸締りしてしまったから凛くんが帰れないのね、かわいそうだから一晩預かりたくて」

 

「ええ…いやいいよアレは…俺が困る」

 

「幸い制服を着て学校に行ったみたいだから、明日の学校は行けると思うの」

 

「話を聞いてくれよ…」

 

 

つまるところ凛が帰れないから泊まりに来るということだ。

別に家主は俺ではないんだが…あいつが来ると俺が無駄に絡まれるしうるさいんだよな…

 

 

「うるさくしたら追い出してもよければ」

 

「いいわよ、その辺りは凛くんの常識にかかってるから」

 

「それならいいか…連絡しておく」

 

 

母から許可をもらったところで仕方がないという体で納得をした俺は忘れない内に凛に電話をかける。

メッセージじゃああのアホが見もしない可能性があるからだ。

 

そして程なくして電話が繋がった。

 

 

『どうした結羽、もしかしなくても俺の声が聞きたかった?』

 

「………チッ」

 

『舌打ちだけ!?朝から酷いな!?』

 

「黙れ。朝からお前の声を聞かされる身にもなれ。湧いてくるのは殺意だぞ殺意」

 

 

本当に朝からこいつの声を聞かされるだけでなくクソウザイ絡みをされなくてはいけないのかと思うとすぐにでも電話を切りたい衝動に駆られる。

しかしここで切ってしまっては母に何をされるかわからない。俺はぐっと堪えた。存外権力のある母親である。

 

 

「…というわけだ。今日は1日ウチに世話になるんだな」

 

 

事情を説明すればさすがのアホでも理解はしてくれたようである。高校に着いて何かと思えば今井の声も聞こえたし、まあつまりはあいつらで集まっているか何かってところだろう。仲のよろしいことで。

 

さて、今から寝るのもアリだな、とは思うが身体も脳も起こされてしまったためにその選択肢はとれない。今週はテストがあるから勉強を、と思っても既にやるべきことは終わっている。コツコツ進めていたら知らぬ間に進めすぎていたのだ。

 

 

「暇だな…ゲームでもするか…」

 

 

凛から『リサとの勉強会に付き合ってくれ@学校』などというメッセージが送られてきたが華麗にスルーをキメて、Pray Straight 4(通称PS4)の電源を入れる。今日やるソフトは『深夜遊(しん・よあそび)』。昼間からホラーゲームとは変な感じがするのは否めないが、カーテンを閉め電気を消せばそこそこの臨場感は出る。

 

テスト前という背徳感(?)も相俟(あいま)ってか、いつもより楽しめそうな気がしている。初見殺しは嫌いだがゲームの醍醐味として受け入れられるような。こうして結局のところ俺はテスト直前の日曜日をゲームで消化することになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて…どうしたもんか」

 

 

下水道エリアでネズミを追いかけながら、バケモノから逃げ続けて蟹を避けながら地上に辿り着いた頃にはもう夕方。時が経つのは早いものだ、ってのはこういう場合にはご都合主義的展開になるのだろうか。

 

ともあれ、時刻は既に6時を回っている。そろそろ凛が来てもおかしくない頃だ。俺はゲームを片付けて階下へと降りていったのであるが…

 

 

「結羽。ちょっと来てくれる?」

 

 

リビングから鶴もとい母上の一声がかかる。何か悪いことでもしたか?それともまた頼み事か…果たして。

 

 

「結羽、どうして女の子の、それもこんなにとびきり美人の子と仲がいいのかしら?説明してもらえる?」

 

 

これは予想外。イマジネーションに富んだ夢の国の方々でもこれは想像出来まい。リビングにいたのは凛ともう一人。クラスメイトにしてクラスで随一のギャル、今井リサである。

 

 

「なんでオマエがいるんだよ…」

 

「他人に当たらないの。結羽に女の子の友達がいるなんてまさかそんなことないと思っていたから驚きなの。目つき悪いから近づきづらいかもだし」

 

 

平然と人のコンプレックスを婉曲的に殴ってくる母親、無慈悲すぎるんだがなぁ。俺が恐らく唯一コンプレックスを抱くとしたらこの顔つきになるのだろう。

 

 

「…アンタの早とちりだな。俺はこいつとよろしくした覚えはない」

 

「凛くんも言ってたのよ、リサと結羽は仲いいんだよなーって」

 

「オマエ風呂入る時ガス切るからな」

 

「地味に効くからやめてくれ!!!」

 

 

親っていうのはこうも子の交友に口出しをするものなのか、他の家庭に割りいって覗いてみたいものである。

 

 

「この子のこういうのは照れ隠しよ。リサちゃん、気にしないでね?何だかんだこれでも凛くんとは長い付き合いだし」

 

「あっ、はい…でもいいんですか?晩御飯ご馳走になって」

 

「大丈夫よ、せっかくだしゆっくりおしゃべりでもしてね」

 

 

そして知らない内に今井が夕食を共にすることに決まっていた。何が起こっている。

 

 

「たまたま買い物途中の結依さんに帰り道に会ってさ。流れでリサも来ることに」

 

「俺は聞いてねえ」

 

「まあまあ結羽も落ち着いてってば。あ、そういえばつぐみが結羽の話をしてたなぁ〜」

 

「…オマエほんと口が軽いんだな、よく分かったわ」

 

 

身体と尻が軽いのかどうかは知らんが、ともかく今井のその口の軽さはこの状況においてはディスアドバンテージというもので。

 

 

「つぐみ?誰なのそれは」

 

 

女子中学生のような好奇の目を今井に向けては食いつく我が母。頼むからそっとしておいてほしい。

 

 

「それは〜…斯々然々(かくかくしかじか)で…」

 

 

意地でも聞きたがる母を前に、今井は為す術もなく事のあらましを暴露してしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどね。この前の金曜日のアレはそういうことだったの」

 

「そうなるな」

 

 

普段の俺からは想像つかないのだろう、母は結構感心している様子だ。

 

 

「人並みの良心は持ち合わせているのね」

 

「気まぐれだったとはいえ、アンタは実の息子の評価を人並みに合わせることから始めてみようか」

 

 

想像がつかないどころかこの言い様、息子が冷酷非道で血も涙も情も欠片もないとか思っていそうだな。そしてそう思っていても不自然ではないのが母である。

そんな母はテーブル周りを片付けて夕飯の支度に入っていった。

 

 

「でさ、結羽、つぐみのことなんだけど」

 

「そんな話もしていたっけな」

 

「ライブ見に来てほしいって。バンド組んでるのは知ってるでしょ?」

 

「まあ知ってるけどな…」

 

 

どうして今井から?自分で言えば良くないか?と考えてしまう自分がいる。何のための連絡先なのだろう。

 

 

「あ〜顔でわかるよ。なんで連絡してこないのかって思ったでしょ。今テスト近いから、勉強も教えてほしいのにライブの話まで出したら結羽の負担になるかなって思ったんだよきっと」

 

「そうか。お前お節介って言葉知ってるか?」

 

「それはアタシも思うんだけどさ、日取りくらい知っておいた方がいいでしょ?予定を入れるかは結羽が好きにすればいいし。あ、ちなみにテスト終わった週の土曜日だよ、ライブは」

 

 

予定を尋ねるだけで気苦労を重ねていてストレスが溜まらないのかとさすがに羽沢が心配になる。

人のことをよく考えて行動するのが本質なら負荷にもならないのだろうがこのご時世に善人が善人らしく生きるなんて難しいよな、とディストピア地味た社会を想像してみた。

 

 

「そうか。それで俺の予定を押さえた気になるなよ。敢えて言っておくがRoseliaも参加するとかいう理由でチケット押し付けて来ても行かないからな」

 

「あちゃ〜仕方ないなぁ。つぐみにがんばってもらうしかないね」

 

 

猿でも分かる思考回路分析の初級編にありそうな意図じゃないか、など言ってはいけない。実際に引っかかる人もいるのだ。

 

 

「ん?何?」

 

「いや、猿並みなんだなと」

 

「え、何が!?ついていけないんだけど!?」

 

 

そりゃ猿こと凛はついてこれなくて当然、完全にこっちの話である。

 

 

「まあまあ、アタシもお節介はこの辺にしとくよ。あ、結依さん、手伝いますよ」

 

「あらほんと?リサちゃん手際良さそうだし助かるわ〜。じゃ、ささっと作っちゃいましょ」

 

 

女性陣は料理で意気投合しそうな様子。

対してこちらは凛と俺といういつものと言えばいつもの組み合わせである。何も面白くない。

 

 

「ところでお前テスト勉強は大丈夫か?今井とやってたらしいが」

 

 

そういえば一日学校で勉強してたんだっけ、と思い出して凛に聞いてみた。当然凛の答えは決まっている。

 

 

「ヤバい」

 

「だろうな」

 

 

本当になんで進級できた?なんで入学できた?色々確かめたいことはあるが、赤点取る奴に付きまとわれるってそれは一種のバッドステータスになってしまうのは今までずっと危惧してきたことだ。

早い話が、

 

 

「…後でやるか。居眠り怠けサボり癖はトイレの水飲ませるからな」

 

「罰が気持ち悪すぎるだろ!でも頼むわ!!」

 

 

と、いつものパターンになるのである。

数日前に人頼みをやめさせて自分の力でやることを覚えさせようとしたが最終的にはこうなる。俺はこいつを甘やかしている、のかもしれない。

 

 

結局、今井と遅くまで談笑して予定よりも勉強する時間をとれなかった凛だが、やった分はそこそこがんばってくれると思っておく。あんなふざけた奴でもやる時はやるだろ、とそれ以上考えるのはやめて朝奪われた睡眠を渇望していた俺は早めに眠りに就くのだった。

 

 

 

 

余談だが夕飯は何故か女子の料理の定番中の定番であるハンバーグ。

母が作ったものと今井が作ったものがあったらしいが焼け具合も形もどちらも悪くなく、俺達はまったく判別できなかったという…

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