苦味と甘味の匙加減   作:雪乃シロ

7 / 27
今回もちょっぴり早い更新です。
実は先程誤爆しましたすみません。

タイトル通り、屋上でのガールズロックバンドとの一幕です。

私も読者様も共に楽しめる、そんな作品を目指しています。


屋上ロックと探し物

 

 

 

「…例えばの話だ。男が五人の仲のいいグループに、大した付き合いのない自分一人だけが放り込まれたとする。その時の自分の心情はどうだ?」

 

 

「仲良くなればいいんじゃないですか?」

 

 

 

こいつはダメだ。救いようがない。

 

 

 

「おいひまり…お前どうかしてるんじゃないのか、普通嫌だろ。肩身狭くなるのが当たり前だろうが」

 

 

「でもそこはモカちゃんパワーで何とかしますから〜」

 

 

 

青葉も味方にはなってくれない。

 

 

 

「…まあ何とかなるでしょ。モカだし」

 

 

「…なぁ根拠ってあるか?」

 

 

 

モカを援護するのは美竹。人付き合いにおいては理解されるかなどと思ったが幼馴染補正はとんでもない様子。

 

 

 

「大丈夫ですって、仲良くしてくださいよ木崎先輩。ああ、手始めに今度ラーメン食べに行きましょうか!」

 

 

「いや、あのなぁ…」

 

 

 

自信満々にそういうのは先程自己紹介をされたアツそうな女子こと宇田川。まあ誰とでも仲良くできそうだなぁと思えるさっぱり感のある人柄だから実際に拗れた関係とかは持っていなさそうである。

となれば頼みの綱はあと一人なのだが…

 

 

 

「な、仲良くなれるようにがんばります!」

 

 

「そりゃそうだよな」

 

 

 

そういうわけで、この屋上で開かれた所謂(いわゆる)女子会のようなものから抜け出すことは叶わなかった。

いや結局は俺が簡単に折れたのが悪かったのだ、仕方ないと受け入れざるを得ない。

 

 

「細かいことは気にしないでよ。で、あんた今日来るんでしょ?勉強会」

 

「全然細かくないが…一応行くとは返信をしたな」

 

 

まだ時間とかの指定は受けていないから、恐らくここで話してしまおうという魂胆か。だから俺はこいつ(ひまり)にバカデカい声で呼ばれたわけだな。ただ昼食を一緒にとるだけよりはマシだが。

 

 

「今日の放課後教室まで行くから。合流してからつぐの家。知ってるでしょ、羽沢珈琲店」

 

「なるほど一度帰宅はしないのか」

 

「時間勿体ないし。そんなに気にしないでしょ」

 

「まあな…」

 

 

…そうするとアレか。例によって一年の女子が教室に突撃してくるわけだ。そしてその目的はまたも俺ときた、風評被害が熱くなりそうでさすがに看過できないように思う。

 

 

「いや、やっぱり玄関でいいだろ。教室に来られて俺が一年の女を誑かしてると思われるのも心外だからな」

 

「あんた逃げるでしょ」

 

「今更逃げねえよ…」

 

 

そして美竹は俺を信用していないらしい。

まあ対面からのことを考えれば当たり前と言われたら頷く他ない。

 

 

「…というかそれしか話さないならLlNEすれば済むだろ。俺がここに来た意味が薄すぎるな」

 

「あたし達は先輩の連絡先知りませんよ〜?」

 

 

…不本意ながら地雷を踏み抜いた気がする。

 

 

「あれれ〜?木崎先輩、誰に連絡先教えたんですか〜?」

 

「あたし知らないよ」

 

「アタシもだな、初対面みたいなもんだし」

 

「私も知らないよー」

 

 

逆に知ってたら怖いわ。

不正に連絡先を取得する女子高生がいたら怖すぎだろ日本。

 

 

「あ、はは…私だね。でもモカちゃんそんな意地悪な聞き方しないで、モカちゃんには伝えてあったよね?」

 

「おい青葉お前」

 

 

知ってたんなら流せよ、イヤらしい奴だな…

 

 

「…別にいいだろ、そのおかげで朝から連絡もらえたんだからな」

 

 

惜しむらくは羽沢が青葉以外にはLlNEで聞いたという、手段を伝えていなかったことか。大方バイトだと言われた時に『じゃあ結羽先輩に聞いてみるね』くらい青葉に零したんだろ。

 

 

「つぐやるじゃ〜ん!どんな話するの?」

 

「こらひまり、つぐ困るから。それに野暮だぞ」

 

 

そして当然自称乙女チック上原ひまりがやりとりの中身を聞き出そうとする。最初の印象と変わってないな。

 

 

「はぁ…」

 

 

俺はココアを飲みながら嘆息する。

ここまで彼女等と関わるとは思わなかった。別に嫌とか悪いイメージがあるとか、そういうわけじゃないけどな…俺には向いてないと思うだけだ、今井と凛と氷川といるよりは少なくとも場違いだろう。

 

ワイワイと騒ぐ羽沢とひまりと宇田川。

それを眺める青葉と美竹。

さらにそれらを眺める俺。

 

 

「いや保護者か何かかよ…」

 

 

二児の父親の気持ちがほんの少しだけ理解できたかもしれない。子を可愛がる父親と後輩を見る俺では立場が随分異なるのは否めないが。

 

そして今更なことに、母の手製の弁当を食べ終わる頃にはココアを飲み終わってしまったことに気づき、また地味なダメージを受ける。話に疲れたからか、いつもより喉が渇くのが早い。

 

 

「…少し飲み物買いに行ってくる」

 

 

一応一言断りを入れてから俺は立ち上がる。

すると、これは好機と思ったか、ひまりが声を上げる。

 

 

「あ!私コーヒー牛乳で!」

 

「おいコラひまり、そのくらい自分で行け。あと銭湯みたいな謎のチョイスは何なんだ…」

 

 

美味いのは否定しない。実際俺も好んでいるのである。

しかし俺と違ってまだ食事中の彼女には食事にもっと合う飲み物を選ぶのが良いと思う。

 

 

「…まあ延々とブウブウ文句言われても堪らんから買ってきてやる」

 

 

捨て台詞のようなものを吐きながらも、結局折れてしまう俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

「つぐみ、ライブのこと言った?」

 

 

結羽先輩がひまりちゃんと自分の飲み物を買いに屋上を出た後、蘭ちゃんが口を開いた。

 

 

「ううん、まだ…」

 

 

つぐみとは私のこと。羽沢つぐみ。まだライブのことは先輩には言っていない。

 

 

「普通に考えたら早くしないと来れなくなりそうじゃない?まああの人はいつも暇そうなイメージだけど」

 

「まあ最近の先輩は押せば折れるみたいだし〜?ねーひーちゃん」

 

「そんな気がする!今も飲み物買いに行ってくれてるし」

 

 

蘭ちゃん、モカちゃん、ひまりちゃんはちょっと楽観視しているみたい。それを聞けば私も安心なんだけど、必ずしもそうとは限らない。

 

 

「でも早めの方が良くないか?たとえそういう人だとしても万が一ってあるだろ?」

 

 

巴ちゃんが現実的な意見をする。まさにその通りだと私も思ってはいるけど…

 

 

「今日も勉強会に来てもらうし、あまり私に付き合わせるのも申し訳ないなって思っちゃうんだ」

 

 

何を隠そう、事の発端は私だ。

傘を貸してくれた結羽先輩、先輩にお礼はしたけど、勉強も見てもらって、こうしてご飯も一緒に食べている。その上ライブまで誘うとなると時間を奪いすぎているような気がする。

 

でもライブに誘うって意見をしたのは他でもない私で、みんなもそれは快く了承してくれた。

特に巴ちゃんと蘭ちゃんは、聴かせたい人がいるなら誘うべきだって肯定的な意見をくれて、私はそれが嬉しかった。

 

現実はそうはいかなくて、私は結局立ち止まっちゃう。

 

 

「大丈夫だって。本当に嫌だったら今日も断ってるし、ここにも来ないだろ。たぶん」

 

「リサ先輩も言ってたでしょ〜。さすがの木崎先輩でも聞くくらいなら平気なのだよ〜」

 

 

巴ちゃんとモカちゃんがさらに背中を押してくれる。

言い出したのは私だしちゃんとしないとなぁ…

 

 

「ありがとう、みんな。後で聞いてみるね!」

 

 

執拗(しつこ)いと思われたり、嫌われたりするのはちょっと心配だけど。結羽先輩悪い人じゃないし大丈夫だよね。

 

 

「ところでさ。ひまりはなんで名前で呼ばれてるの?」

 

 

話が一段落したところで、蘭ちゃんが疑問を呈した。

た、確かにひまりちゃんだけ名前で呼ばれてる…

 

 

「モカでさえ苗字じゃん」

 

「ひーちゃん、裏ワザ…?」

 

「違うよー!名前で呼んでって言ったら呼んでくれたんだよ!」

 

 

そうなんだ…失礼だけど、本当に意外と優しいんだなぁ。ちょっとくらいのお願いなら聞いてくれそう。

 

 

「モカもつぐも苗字だよな」

 

「わ、私はまだ知り合ったばかりだし、名前で呼んでって言ってないからかな」

 

「でもつぐは私と同じで先輩のこと名前で呼んでない?」

 

 

あれ?なんでだろう、言われてみたら初対面から結羽先輩って呼んでた。むしろひまりちゃんに言われるまで気づかなかったな。

 

 

「確かにそうだね。そっちの方が呼びやすいからかな?」

 

「へえ…まあ呼び方なんて人それぞれだよね」

 

「そーそー、あたしなんてモカちゃんって呼んでって言ったのに青葉だからね〜。人それぞれだよ」

 

 

結羽先輩がモカちゃんって呼んでたらちょっと違和感あるし、その呼び方は正解だと私は思うな。

 

 

ひとまず、私は怖気付いてないでちゃんと先輩に言うこと言わないと…!がんばります!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

「ほらよ」

 

 

屋上に戻ってきた俺はひまりに二つの飲み物を渡す。

 

 

「嘘…先輩、私コーヒー牛乳って言いましたよね!?」

 

「そんな気がしなくもないが間違ってはいないだろ」

 

 

俺が渡したのはコーヒーと牛乳。混ぜればコーヒー牛乳みたいなもんだろ。味には目を瞑るとして。

 

 

「なんでですか!甘くないと飲めませんよ!というか先輩いちごオレって何なんですか!?似合わないですよ!」

 

 

「俺の奢りっぽくなってたし癪だからだな…まあそんなキレるな、カルシウム足りてねえだろ」

 

「そう言って牛乳を飲ませようとするのはやめてください!」

 

 

人をパシリにしておいて違うものを買ってくればこの始末。それが嫌なら最初から自分で行けよ。

 

 

「いちいち面倒だな…ほら寄越せよ」

 

 

俺はひまりから牛乳とコーヒーを引ったくって、代わりに俺が飲むはずだったいちごオレを渡す。

 

 

「今回はそれをくれてやる。今後同じことになるのが嫌なら自分で行けよ」

 

 

そう言ってコーヒーのフタを開けて口につけ傾ける。

前から缶コーヒーではこれだというのはあったが、家で淹れるものには敵わない。当然羽沢珈琲店で飲んだものにも。

 

 

「…あんたってツンデレなの?」

 

「…お前が俺の事を勘違いしてるってのはよくわかった」

 

 

美竹にツンデレって言われるのは何か無理だ。気持ち悪いというか、それはお前だろという感じだ。「あたしはそんなんじゃないし」とか「別に」とか言いながらってタイプだろ、喋ってる感じだと。

 

 

「取り敢えずホームルーム終わったら一年のとこ行く。クラスは?」

 

「B。あたしだけAだけどそっちに行くから」

 

 

クラスは美竹だけA、他の四人はBというクラス分けで友人の塊が引き裂かれてしまうというありがちな悲劇に巻き込まれていたようだ。

美竹にとっては特に苦痛だろう、こればかりは同情の余地がある。

 

 

「了解…」

 

「じゃああたしは次の授業の予習が少しあるから。行くね」

 

「アタシらも行くか。木崎先輩、今日はよろしくお願いしますね」

 

 

そう行ってぞろぞろと屋上から出ていく四人。…羽沢は除いた四人だ。

 

 

「はいはい…羽沢、お前は行かないのか」

 

「あ…はい。あの、結羽先輩、少しお話いいですか?」

 

「…何だ」

 

 

見遣れば、青葉が屋上から出る寸前でこちらに目配せをしたように見えた。…何か企んでいるのか?

考えても分からないから、羽沢の言葉を待つしかないのだが。

 

 

「こ、今週の土曜日って空いていたりしませんか…?」

 

 

なるほど。

何故か変に言葉に詰まっているが、そんなに言いづらいことだろうか。緊張とか色々あるとしても、既に話には聞いている体で答えるのも野暮というものだろう。

 

 

「今のところ予定はないな。どうした?」

 

「実はその日、私たちAfterglowも演奏するライブがあって…もしよかったら結羽先輩にも来てほしいんです。どうですか…?」

 

 

今井から話を聞いていたせいで本来よりも感動のようなものが薄れてしまった気がする。これはお節介な今井をシバいておくしかなさそうだ。

 

しかし実際そうやって言われてみれば少しは気になるものである。文化祭での有志バンドを除けばRoseliaの演奏くらいしか見たことがない。今井の誘いで見に行ったのだが、ライブなんてそれだけだ。俺にとっては非日常とも言えるイベントである。言い換えるのなら、新鮮、だ。

 

 

「…まあ知り合ったのが最近だからな、ギリギリになったが誘ってくれてありがとな…せっかくだし行かせてもらおう」

 

 

その瞬間、羽沢の表情が(ゆる)む。

どれだけ張り詰めてたんだお前は…

 

 

「それで?なんで言い(よど)んでいたんだ?緊張でもしたか?」

 

「いえ!勉強とか、傘とか、色々短期間でお世話になってるのにライブまで、と思ったら迷惑かと…」

 

 

さすがに気を遣いすぎじゃないだろうか。

いや、俺のことを誘ったら迷惑そうにする奴だと思っていたら合点がいく。結局不機嫌だとか言われるのは俺の風貌と言動のせいなのか。

 

 

「…別に。やり過ぎなきゃいいんだ、お前は比較的常識的だし、その辺の節度はあると見ているからな。無理な時は無理、嫌な時は嫌だと言うからその辺は遠慮するな。そんなこと言い出したら何も出来なくなるし、ひまりなんて迷惑の一言じゃ片付けられない奴になるだろ」

 

 

実際突飛な行動に出ることはないと思っている故、心底迷惑に感じるようなことをされることはないと踏んでいる。

ひまりを踏み台にしてしまったが、まああいつはあいつでよくわからんが節度はギリギリ、人としてあるべきくらいは持っているだろう。そうであってほしい。

 

 

「まあそういうわけだから。チケット代とか必要事項はLlNEにでも送ってくれ」

 

「わかりました、ありがとうございますっ!結羽先輩に楽しんでもらえるように、私精一杯がんばりますね!」

 

 

羽沢は今にも飛び跳ねそうなくらいのテンションと笑顔でそう言った。

バンドをやっている人間からしたら、聴いてほしい奴や、たくさんの人に聴いてもらえるのは本望なのだろうか。俺はバンドをやっていないからわからない。やっている人間もそれぞれだから一概には言えないだろうが、自分が真剣に取り組んでいるものならきっとバンドに限らず喜ばしいだろう。

芸能人ならプログラムを視聴されること、バンドなら音楽を聴いてもらうこと、芸術家なら作品が評価されること、そして…

 

 

「…俺なら、何なんだ」

 

 

趣味がどうにかなることか?必死に追いかけているものがあるか?今の俺が熱中していることがあるか?

そんなことで、すぐそこで嬉しそうにする羽沢との、そのバンド仲間との違いを意識してしまう。

自分がない、少しのアイデンティティも確立していない、他にも様々な言葉が浮かんでは消えていくが、こんなにも羽沢と温度差ができてしまうのも彼女に悪いので、思考を停止する。見つけるものではなく、『見つかる』ものだと思うことにして。

 

…それに、癪ではあるが凛のおかげで何かが見つかるかもしれないきっかけを得たのも事実だ。もう少し気楽に行こうではないか。

 

 

「…しかし本当に楽しそうだな。そうは聞こえないだろうが、俺も楽しみにしてる。まあまずは目先のテストからやるぞ」

 

「はい!放課後はよろしくお願いしますっ」

 

 

昼休みが終わるよりも少し早めに教室へ帰っていく俺と羽沢。階段を降りる足取りは、来る時よりも重くは感じなくなっていた。

 

 

 

教室に戻れば凛が俺の不在を知って面倒臭かったというのを今井から聞いたのだが、まあ正直どうでもいいので割愛する。

氷川には悪いが、今井のお節介に対するカウンターだと思っておく。今井が悪い奴だとは言わない、というかまあよく周りを見ているし、人が気づかないところに気づくからな。たまたま後手に回っただけで普段はそこそこに感謝している、こんな独白が今井に伝わるわけはないけれども。

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。


風薊様、ご感想ありがとうございます。
正直非常に嬉しいです。
今後の参考とモチベーションにさせていただきます!


感想、評価、メッセージなど心よりお待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。