苦味と甘味の匙加減   作:雪乃シロ

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割と更新できている自身に感動しています。
がんばるんだ、私よ…!!


エモーショナル・ノート

 

 

「わ、わあああああ!どうしようどうしよう…!!!」

 

 

私、羽沢つぐみはとても焦っています。理由は先程までしていたLlNE。スマホの画面には結羽先輩とのやりとりが映し出されている。

 

 

 

『あ、でも全部私が言いました』

 

 

 

冗談でお母さんが言ったんじゃなくて、私が言ったんだよって伝えたくてそう送ったんだけど、お母さんが言うには伝えたのは三つ。

家庭教師してほしい、かっこいい、バイトにほしい、だったはず。うん、一つ目は何も問題ないね。三つ目も急な話だけど話題としてはうん、あるよね。

 

問題は二つ目だよねお母さん。

 

 

「ご、誤解をさせちゃいそうだなぁ…」

 

 

接しづらいと思わせて、変に避けられたらどうしよう。挨拶してくれなかったり、無視されたり…なんてないよね。大丈夫だよね?

かっこいいって言ったのは事実だし、先輩はかっこいいの部類に入ると今も私は思うけど、何も言う必要はなかったんじゃないかな!?

 

 

「うう…しかもなんで見返してる時に来ちゃったんだろ…」

 

 

そう、私はもう一つ後悔をしています。

それは結羽先輩とのメッセージを読み返していたことです。たまたま今までのやりとりを遡って見ている最中に先輩から数時間前に送ったメッセージへの返信が来てしまい、即既読がついてしまうという事態に。

私のイメージがスマホ依存症とかそういう方向に少し動いた気がしてちょっとショックです。ううん、それよりも見返していたのがバレたら恥ずかしい…

 

 

「はぁ…でもライブには来てもらえるし、落ち込むことでもないよね」

 

 

そう、結羽先輩は週末のライブに来てくれるのです。乗り気じゃないのかな?なんて思ったけどOKサインをもらえてとても嬉しいな。テスト明けっていうちょっと大変な日取りで申し訳ないけど。

ちゃんとチケットも取り置きしてあるから大丈夫。

 

 

「あ、そうだ。チケットのこととか結羽先輩に伝えないと」

 

 

危なかった、忘れていたら結羽先輩が困っちゃうところだった。困るどころか連絡がないからって来なくなっちゃってたかもだから、思い出してよかった。

 

それからはライブのことばかり考えてたら時間が経っちゃって、欠伸が出るくらい眠くなってて、鍵盤のクッションを抱きしめながら、がんばるぞって意気込んだのを最後に記憶が途切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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月日は流れ…という程は流れておらず、今日は金曜日。時は放課後。つまりどういうことかというと…

 

 

「終わったァーーーーーーーッ!!!!」

 

「殺すぞテメェ」

 

 

虫の鳴き声からも分かるように、テストが終わったということだ。

本当に信じられないことに、ホームルームが終わるや否や俺の席まで来て騒音を撒き散らすゴミが一つある。

わざわざ俺の席に来る意味あるのか?どう考えてもあるわけねえだろ。

 

 

「で?俺の人生終わりましたって言ってたが赤点なんだな。ご苦労」

 

「それはまだ分からない!けどテスト自体は終了だろ!やっと解放された…!」

 

「そうか」

 

 

凛には悪いが微塵も興味がない。ついでに言うと凛には悪いが、と述べたがそれは嘘。全く罪悪感とか持ってはいない。

というか泊まりがけで人のことをこき使っておいて赤点だったら許さんからな。将来的には子孫共々苦しんでもらう。

 

 

「ねえねえユウくん、テストの結果で何か賭けない?」

 

「んな負け戦やるバカがいるかよ…」

 

「えーそんなの何が起こるかわかんないじゃん〜けち〜」

 

 

要は全科目満点取らないと負けが回避できないかもしれないんだろ。無理に決まってんだろうが。

 

 

「凛くんは〜?もし凛くんが勝ったら何でもしてあげるよ?」

 

「よし!乗った!!」

 

 

バカがいた。自分の能力値を理解していないのか?

しかも明らかに怪しい誘いの言葉に乗りやがったが果たして頭の容態は大丈夫なのか…

 

 

「その代わり凛くんも同じ条件ね!」

 

「望むところだヒナ!!」

 

 

「二人とも元気だねえ〜」

 

「バカも天才も頭がおかしいんだ、気づかないフリすんな今井」

 

 

本当に救えねえなこいつら。助け舟なんて出すわけがない、奢りでも何でも命じられればいいと思う。

明日の午後、厳密には夕方から、羽沢たちAfterglowの出演が決まっているライブがあるわけだが、今この時よりそれまでは暇を持て余すことになる。故にこいつらは放っておいてさっさと帰って適当に過ごすことになる。少なくともゲームやら何やらと向き合っている方が有意義になるから。…そうする、はずだった。

 

 

「日菜ちゃんダイブ!」

 

「……痛ッ、テメェ氷川ァ…!」

 

「わっ、ユウくんごめん!!はしゃぎすぎた…」

 

 

バカヒナダイブ、もとい突撃行為により俺は教室の床に尻餅をつく形に。ガン、と机を若干蹴散らしながら。

氷川も若干バランスを崩したようだが、転んだりはしていないらしい。…幸い?それならよかった?いや、そこはお前が倒れろって話だ。

 

 

「おい、結羽大丈夫か?」

 

「ヒナも大丈夫?も〜、気をつけないとダメでしょ」

 

「うう…ユウくんほんとにごめんなさい…」

 

「チッ…こういうところで頭を使うんだろうがクソ」

 

 

周りのクラスメイトもこっちを見ているが、やや心配そうな顔をしているのみ。まあ無視してくれるよりもその視線の方がしんどいんだがな。

 

 

「…取り敢えずもういい。俺は帰るぞ」

 

 

そもそも氷川の行動原理が意味不明すぎて困る。

何故か?と問うてもその回答が解せないことも多くて尋ねることもあまりしなくなった。奴が悪いとは言わんがなぁ…

 

 

「うん…またねユウくん」

 

「ああ」

 

 

バカヒナダイブもどうせ突けば面白いモノが見れるとでも思ったんだろう、ということにしてそれ以上は考えないことにする。そんな露骨に落ち込まれると俺が悪いみたいになるからやめてほしいんだが言葉にしないが故、氷川にはこの思いは届かない。

 

 

「アタシ今日練習あるから帰れないよ」

 

「普段から一人で帰ってたし呼んでねえよ」

 

 

まさにその通りで、普段一人で帰っているのだから今井のその発言の必要性はなかったように思う。まあ俺と氷川のことを考えての発言だろうと今井の性格からは推測されるのだが。

 

 

「俺が一緒に」

 

「もっと呼んでねえ」

 

 

というか要らない。切実に欲しくない。

 

 

とは言ったものの結局ストーキング紛いの下校をやりすごす羽目になり、そこそこのストレスと疲労感を身体に溜め込んで帰宅をした。

凛の奴、マジで要らない時に居るのが死ぬほど腹立つな…一回シバいておくか。今日だって一人で帰りたかったわけだし。

 

 

「…ただいま」

 

「おかえりなさい。結羽、ちょっといいかしら?」

 

「…何すか」

 

 

玄関で靴を脱ぐと、母から呼び出しを食らう。…何かマズいことでもしたか?呼び出しがあると毎回そう思うのだが心当たりがないこともしばしばである。

 

 

「テストお疲れ様。明日の夕飯どうしようかと思って。夕方からいないのよね?」

 

「どうも。時間はまあ…そうなるな」

 

 

一応外出することは母にも伝えてある。そうでないと色々不都合だしそれこそ叩き殺されそうだからだ。こう見えて(良くも悪くも)やる時はやる母親である。

 

 

「わかったわ。それだけ確認したかったの」

 

「…ああ」

 

 

夕飯を作る母には権利があるからな…下手に逆らえない。時間を確認したということは俺の外出、帰宅に合わせるということか。とても助かる。

 

 

部屋に戻り、寝転がりながらスマホを弄る。いかにも現代の若者といった風貌を呈しているが、まあ全員が全員こんな人間とは限らないか。

通知欄を見ればお馴染みの名前がそこにはあった。予想はつくであろう羽沢つぐみである。

 

 

「…最終確認か。抜かりないな」

 

 

ともすれば執拗ともとられてしまうのだろうが。

謝辞だけ返信をしてもう一つのポップアップをタッチする。開かれたのは氷川のメッセージ。

 

 

『本当にごめんなさい』

 

 

あいつは気にしすぎてもしすぎることはない、と思っていたがいくら何でも気にしすぎだろ…俺が困るわ。

 

 

『問題ない』

 

 

これだけで伝わればいいが。正直こういうコミュニケーションも面倒なので早く終わらせたいのである。

幸いその後に、よかったとだけ返事があったので大丈夫だろう。理解が早くて助かる。その後暫くは特に何もない平凡なプライベートタイムを過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…今日は久しぶりに弾くか。指が感覚を忘れているかもしれないし、と適当な言い訳を添えて、夕飯前、まだ暗くなりきっていない時間に、ピアノを触った。

かなり唐突な衝動だった。いや、今日は凛のせいなのか氷川のせいなのか分からないが、落ち着いていなかったしな…(ちょっかい出すのはあいつらなので実質責任は五分五分であるが)あいつらには一応悪いと思っている。まあとにかくそういうメンタルだったからこの部屋に弾きに来たのかもしれないな、という話である。

 

ひどく懐かしいような気がしたが、前に弾いた時の俺と今の俺とでは変わったからか。そんな気はしないが、ピアノに気づかされたということか。これだから昔からこれが辞められない。

自分が見えていない、というか分かっていない。そりゃ分かるはずもない。少なくとも俺にとっては、ヒトは難しいから。

 

 

「…なんで弾いてんだ」

 

 

指が鍵盤を押し込む度に音が鳴る。当たり前だ。

その音に何が込められているかはまだ分からないが、弾いている以上俺が何かをそれに取り込んだことは分かる。

先の言い訳は効果を発揮しなかった。

感覚がどうだとか、もうそんな御託は忘れていた。

俺がピアノを弾く理由は、『何かを忘れるため』だったり、『何かを思い出すため』だったり、『何かを理解するため』だったりする。いやそんな直接的に成果が出るわけじゃない。

 

ピアノを弾いて『心の色』──これは俺の独特の表現らしい──が変われば、たとえば今まで自分の中にあった先入観とも言える凝り固まった視点が、柔軟で多角的なものに成りうるとか。

 

たとえばいつかの『心の色』と同じ色に染まり上がるのなら、忘れていたことを思い出せる気がするとか。

 

たとえば今の『心の色』を音に投影することで、固執していた何かを音とともに昇華させることができそうな気がするとか。

 

 

大層なことを言っているようにも聞こえるし、意味不明なことを口走っているようにも思えるが、最早俺にとってピアノとはそういう意味を持つものであり、誰が何と言おうとそうであるはずなのだ。実際に今まで弾いてきた時のことを思い出せばそういう結論に至る。そういう意味を以て俺は弾いてきた。

 

 

「…そこまでは分かるが」

 

 

ゆっくりと指を動かして、ありとあらゆる有象無象の影をなぞるように、自分の中を探っていく。

そうしてみても、今の自分が何故ピアノに触れているのか、音を奏でて自己を探る理由が何なのか、分からない。しかし結局そういうものなのだ。答えはいつか知ることになるとしても、探ったところで今の俺が知りうるものではないのかもしれないというだけ。

 

 

「…あいつ、引くだろ」

 

 

こんな風に…名だたる音楽家のように実を結び歴史となるわけでもないのに、その猿真似をするように。ピアノを冒涜したような、と自嘲さえするこの恣意的な演奏を見たら、羽沢はどう思うだろうか。

あの日ピアノをやっていると趣味の話の中で零して食いつかれた、そんな羽沢が想定したようには今の俺はピアノに向き合っていないから。同じピアノをやっていた者として感じた親近感を、しかし何よりも『努力家』と俺の落差が、裏切っていくのだろう。

 

別にピアノに嫌な思い出があるわけじゃないけどな、と無駄にネガティブな自分にポジティブな現実を教えて、結局答えの出ない自分のためのコンサートは終幕した。

 

明日はあいつらのコンサート…ではなくて、ライブ。今日の演奏との違いを刻印されて、俺はまた変わるのかもしれない。無力な俺は逆らうこともできないまま良くも悪くも変わっていくしかないのだろう、とこれはまたカッコつけた言葉を頭の中で繰り返しながら、既に音の止んでいる部屋を出た。

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

サブタイトルの『ノート』は音符、鍵盤という意味合いで使わせていただきました。『感情に触れる音符』くらいのイメージでした(あくまでイメージです)。

ワウリンカさん、評価10ありがとうございました!
昇天するほど嬉しいです。
UA、お気に入りやしおりも増えて、たくさんの方に読んでいただけて本当に嬉しいです。

ぜひこれからも拙作をよろしくお願いします。
そして評価、感想も待ってますよ…プラスでもマイナスでもモチベと参考になるので。

それでは次話でお会いしましょう…フへへ(by本編未登場のフへへさんより)
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