笑顔にするアイドル、笑顔を取り戻すヒーロー 作:banjo-da
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『ねぇ、プロデューサーさん。それに──先生。私決めたよ。
────ファンのみんなにも教えるんだ…夢は叶うってこと。本当だから…。』
【Game Start】
ある日の午後。空は晴れ渡り、熱すぎも寒すぎもしない過ごしやすい日。絶好のお出掛け日和だからか、道行く人々の表情は笑顔で溢れている。
そんな気持ちの良い日だからこそ。偶には店の中じゃなくて、通りに面して設置されたテラス席へと自然と足を運んでしまう───そんな経験が有るのは、きっと僕だけじゃ無い筈。事実、周りを見渡せば、テラス席はほぼ満席だ。所謂チェーン展開のハンバーガーショップで、近くには会社や学校もあるから、店内は何時も満席なんだけど…屋外の席まで埋まってるのは珍しい。
なんて事を考えながら、先に店内で買っておいたハンバーガーをテーブルに置き、席に着く。
ここは、僕のお気に入りのハンバーガーショップ。研修医時代は勿論、もっとずっと昔、小学生の頃からよく来てる。研修医の頃といえば、バガモンと出会ったのもこの店だったなぁ。(しかも、あの時もテラス席だった!)
僕は宝条永夢。小児科のドクターと、電脳救命センターのドクターを掛け持ちしてる。といっても、小児科医としてはまだまだ駆け出しの身だけどね。
ちなみに、電脳救命センターって言うのは…
「あれ?永夢先生じゃん。」
────っと。不意に名前を呼ばれ、振り返る。声の主は、フライドポテトの載ったトレーを手にした、高校生くらいの女の子。
正直女の子の事はあまりよく分からない僕でも、可愛らしい子だって分かる。
「加蓮ちゃん!あれ、今日平日だよね?何でここに?学校のハズじゃ…」
「あー、今日まで中間試験だったんだ。───で、
そう言いながら振り返る彼女につられて、僕も加蓮ちゃんの後方へ視線を向ける。そこには、彼女にも負けず劣らずの可愛い女の子が二人、トレーを抱えていた。(あくまで僕の感想で、やましい感情や変な意味は無いよ!)
「お友達?…あれ、凛ちゃんと奈緒ちゃんって名前、どこかで…」
「もー、先生ほんッッッと流行に疎いんだから!私達、これでも結構有名なユニットだよ?前先生には言ったじゃん!」
むすっ、と頬を膨らませる加蓮ちゃん。彼女の言葉で、漸く僕も思い出した。
─────トライアドプリムス。今、世間で大注目の女子高生アイドルユニットだ。
渋谷凛ちゃん、神谷奈緒ちゃん、そして北条加蓮ちゃん。この三人で構成されたこのユニットは、可愛らしい見た目や高校生という年齢からは想像出来ない程、抜群の歌唱力を武器に格好良いパフォーマンスをする…らしい。正直僕はまだ見れたことが無いんだけどね。
けど、あの大我さんすら名前は知ってた。凄く大人気なんだろう。(飛彩さんは当然の如く知らなかったけど。)
そんな事を考えていると、不意に背後から軽く肩を叩かれながら「あの」と声を掛けられる。不思議に思って振り返ると、そこには───スーツを着た、強面のお兄さん。
「は、は、は、はい!?ぼ、僕に何か用ですか!?」
見知らぬ、そして堅気には見えない男性に、思わず身構え後ずさる僕。しかしそんな僕の様子を見て、お兄さんは困った様に頭を掻き、何故か加蓮ちゃん達は大笑いし始めた。
「プロデューサー…完全にヤバい人と勘違いされてるじゃん」
「はぁ…すみません」
呆れた様に苦笑する凛ちゃんと、何処か申し訳無さそうなお兄さん。
「───って、え?プロデューサー…?」
凛ちゃんの言葉に引っ掛りを覚えた僕は、恐る恐る問い掛ける。
すると目の前のお兄さんは、「こういう者です」と名刺を差し出してきた。
「美城プロダクション…アイドル部門、プロデューサー…って事はもしかして?」
「フフッ…そうだよ先生。その人が、私達のプロデューサーさん。あー、笑い過ぎてお腹痛い…。」
「驚かせてしまって申し訳ありません。今、北条さんが仰有った通り、私が彼女達のプロデュースを担当させてもらっています。────ところで、失礼ですが貴方は…?『先生』と呼ばれていましたが…。」
「あ、アタシも気になってた!加蓮、この人誰なんだ?」
厳つい見ためとは裏腹に、凄く丁寧なお兄さん───もとい、プロデューサーさん。そして彼の言葉に食い付き、凄く興味津々な様子の奈緒ちゃん。
「え?私の彼氏だよ?ねー、先生♪」
「ブフッ!?ゲッホ、ゴホ…か、加蓮ちゃん…心臓に悪い冗談は止めてよ…!」
思わぬ爆弾発言に、飲んでいたコーラを盛大に吹き出し噎せてしまった。
見れば、奈緒ちゃんは一瞬で顔を真っ赤に染め上げ、口をパクパクさせてる。
凛ちゃんとプロデューサーさんは、奈緒ちゃん程じゃないけどやっぱり動揺してるらしい。困惑気味に僕と加蓮ちゃんを何度も見比べていた。
そして加蓮ちゃんはというと、そんな僕らを見て心底楽しそうだ。相手を乗せた時の貴利矢さんみたいな、物凄く良い笑顔だなぁ…。
「プロデューサーさん。それに神谷奈緒さん、渋谷凛さん。安心して下さい、さっきの加蓮ちゃんの言った事は冗談ですから。
───僕は聖都大学附属病院、小児科医の宝条永夢です。加蓮ちゃんは、以前僕が研修医として色々な科を回っていた頃、内科で担当させてもらった事があったんです。」
自己紹介を済ませれば、漸くプロデューサーさんも凛ちゃんも奈緒ちゃんも安心してくれたらしい。「なんだ」と揃って安堵の息を漏らしていた。
そこからは凄く楽しい時間だった。何時の間にか同じ席に着いていた加蓮ちゃん。凛ちゃん奈緒ちゃん、プロデューサーさんも隣の席に集まって、トライアドプリムスの活動について色々聞かせてもらった。
『患者には関わらない』が信条の飛彩さんとは対照的に(今では飛彩さんが何でそういうスタンスなのか知ったから、お互いに争う事は無くなったけどね)、僕は結構患者さんの話を聞きに行く。けど───退院した後、加蓮ちゃんがこんなにも凄いアイドルになってるなんて知らなかったな。
「なぁなぁ永夢先生!昔の加蓮の事も教えてくれよ!」
不意に奈緒ちゃんが、期待の籠った眼差しでそう問い掛けてきた。見れば、凛ちゃんも「興味が有る」って感じだ。
「もー!奈緒ってば、そういう事聞いちゃう!?先生、恥ずかしいから言っちゃ駄目だよ!」
加蓮ちゃんはちょっと顔を赤くして、慌てた様に首をぶんぶん横に振ってる。…さて、僕はどうしようかな…?
少し迷っていたけれど
───結局、僕はその質問に答える事は出来なかった。
次の瞬間、突然加蓮ちゃんが苦しみ出したからだ。
「「加蓮!?」」
「北条さん!宝条先生、これは…!」
心配そうに彼女の傍に駆け寄る凛ちゃんと奈緒ちゃん。
プロデューサーさんは、彼女達をいたずらに不安がらせ無いよう冷静に振る舞おうとしてたけど…流石に動揺を隠せてない。
けど、今は何より加蓮ちゃんの容態を把握しないといけない。
さっき、彼女の身体にノイズの様なものが表れたのを僕は見逃さなかった。もし僕の予想が正しければ…そう思い、聴診器型デバイス『ゲームスコープ』を取り出し彼女に向けてかざす。
結果は半分僕の予想通り。だけど、半分想定外…。
「新種の…ゲーム病…ッ!」
バグスターウィルス感染症───通称ゲーム病。実体化したコンピューターウィルス『バグスターウィルス』に感染し、最悪の場合文字通り消滅してしまう危険な病。
けど、医療は日々進歩している。オペでしか治せなかったこの病気も、貴利矢さんの開発したワクチンのお陰で早期かつ手軽な治療が行える様になった。
─────ハズなのに。ゲームスコープには該当無しと表示されてしまう。つまり、加蓮ちゃんに感染しているのは既存のウィルスではなく…まだデータの無い新型のバグスター。
これじゃあ、オペでしか対処出来ない。
そう思った僕は、懐から1本の
────加蓮ちゃんの身体から、
一言で言えば、二足歩行する人型のライオン。前足…というか両手には鋭い鉤爪を備え、頭部の黄金のたてがみが目を引く。
バグスターなのは間違いないけど、こんな敵キャラは見たことない。それにバグスターを患者から分離して無いのに、もう怪人態へ進化しているのも妙だ。
けど、やることは変わらない。どんなゲームだろうとクリアして、加蓮ちゃんを助ける。
「──────良いぜ。やってやろうじゃねぇか!」
『マイティアクションX!』
別に二重人格とか、そんなんじゃない。ただちょっと、ゲームをする時は性格が強気になる。ゲームに挑む時は燃える…まっ、ゲーマーとしての性みたいなもんだ。
ゲーム機の様なバックルを腰に当てれば、そこから伸びたベルトが腰に巻き付く。俺達がオペをする時に必要な装備、『ゲーマドライバー』の準備が整った!
「大変身!」
俺はガシャットをゲーマドライバーに挿入し、そのままレバーを開いてレベルアップする。
『Level Up !マイティジャンプ!マイティキック!マイティ・マイティ・アクションX!』
バグスターウィルスから人々を守る、電脳救命センターのドクターライダー─────仮面ライダーエグゼイド。
それが俺のもう一つの顔だ。
「宝条先生が…変身した…?」
「プロデューサー!悪いが3人を頼むぜ?ちょっと猛獣退治に行ってくるからさ!」
人気ゲームキャラ『マイティ』を模した、尖った髪が特徴のエグゼイド・レベル2。
通常バグスターは、患者を取り込んでバグスターユニオンって化物になるんだが…今回はいきなり加蓮と分離した。だから最初からレベルアップしたってワケ。
『stage select』
さあ、ゲームスタートだ!
「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」
「─────……。」
無言を貫きながらも俺の言葉に反応したのか、バグスターが構えを取る。…と言っても、どうみても真っ当な格闘技の構えの類じゃない。
脱力させた両腕をだらんと垂らし、軽く腰を落とす。
─────と思ってたら、次の瞬間には目の前に奴が迫っていた!あの体勢から一瞬で、助走も無しに飛んで来たのかよ!?
しかも垂らしてた筈の腕は、とうに振り上げられ、俺目掛けて突き出されてる。
紙一重の所で慌てて横へ回避。受け身すら上手く取れずその場に転がるが、何とか直撃は避けられた。
メチャクチャ早い…しかも今は避けられたが、あの爪はヤバい。『ギリギリチャンバラ』のカイデンの太刀筋にも匹敵する鋭さだ。
こいつはちょっと手強いかもな。俺は警戒レベルを引き上げながら、愛用のガシャコンブレイカーを取り出した。
「そおら!はっ!ほっ!よいしょ!!」
奴目掛けてガシャコンブレイカーを何度も叩き付ける。その度に『hit』の判定が表示されるが…正直、あんまり効いてる気がしない。それにコイツ、鎧も何も無いのにスゲー硬い…!
「おりゃぁ!」
アクションゲーマーの身軽さを活かして高く飛び上がり、落下と共にガシャコンブレイカーを叩き付ける。相手の硬さを突破するため、パワー不足を補う為の戦術だった。───が。
「───。」
「なっ!?」
想定外だった。奴は気怠そうに片腕を振り上げ、俺の攻撃を受け止めた。そしてそのまま力を込め、俺を押し返す。
空中に居た俺の身体は、いとも容易く後ろへ吹っ飛ばされちまった。
「いってぇ…強いなコイツ…。」
レベル2じゃ分が悪い。そう判断すると俺はドライバーからガシャットを抜き取り、別のガシャットと差し替える。
「一気に勝負を決める!マックス大変身!」
『マキシマムマイティXガシャット』
他のガシャットとは一線を画すこの巨大なガシャットから飛び出したマイティを押し込むと、俺はマイティの顔を模した巨大な鎧『マキシマムゲーマ』を身に纏う。
マキシマムゲーマー、そのレベルは99だ。
ガシャコンブレイカーをガシャコンキースラッシャーへと持ち替え、再び奴へと降り下ろす。
レベル2から一気に跳ね上がった攻撃力を前に、流石の奴も受け止め切れずその場でよろめく。このまま押し切ってやるぜ!
俺は畳み掛ける様に奴を連続で斬りつけ、ダメ押しとばかりにマキシマムゲーマの巨体で体当たりを仕掛ける。
堪らず奴が吹っ飛ばされたその隙に、俺はドライバーからマキシマムマイティXガシャットを抜き取り、ガシャコンキースラッシャーへと装填。刃の裏に備わった銃口へと、エネルギーが集約されていく。
『マキシマムマイティ・クリティカルフィニッシュ!』
さあ、フィニッシュは必殺技で決まりだ!
─────そう思っていた。
「舐めるな!」
体勢を崩されていたにも関わらず、奴は咄嗟に身を捩り必殺技を回避して見せた。マジかよ!?
それどころか、すぐに体勢を立て直すと、先程同様一気に間合いを詰めて来た。反応の遅れた俺は、今度は攻撃を避けられずマトモに食らってしまう。表示された『perfect』のエフェクトに、思わず仮面の下で顔を歪める…クソ、やっちまった。
けど、次の瞬間にはそれどころじゃ無くなった。ライダーゲージが一気に削り取られ、変身が解除されてしまったのだ。
「───な!?何で…幾らなんでもマキシマムの防御力が、こんな簡単に…!」
確かに通常、あまりに大きなダメージを受ければ変身は強制解除される。ライダーゲージが0になり、消滅してしまう事を防ぐ為だ。
だが、今の俺はピンピンしてる…それに、そんな現状とは裏腹に、一気に減少したライダーゲージ。新種のバグスターとはいえ、こいつ一体何者なんだ!?
「……自然界では、強者と弱者が一瞬の内に入れ替わる等日常茶飯。勝者こそが強者、そして常に弱肉強食。…『狩るか、狩られるか』だ。」
俺の疑問に、奴は淡々とした口調でそう答え、
「…中々楽しませてもらった。
だが、まだ物足りん…この身は、極限の闘争を欲している。───この俺が完全体になる前に、俺を攻略して見せろ。」
これまで何の感情も感じられなかった声音に、僅かな喜色を滲ませてそう呟くと、姿を消したのだった。
【to be continued…】
『ほうじょう』繋がりで書き始めました。3~5話位目安で、ゆっくり書いていきます。
拙い文章ですが、頑張ります。