先日は遊びに行ったにも関わらず、肝心のひさ子ちゃんに会えなかったのでもう一度ガルデモさん達の所に足を運ぶ。もともと練習を見に行くだけのはずだったのが、いつの間にか目的がひさ子ちゃんに会うことにすり替わってることに途中で気がついた。
「ということなんですが、どう思いますか椎名さん」
「浅はかなり」
「ですよね」
道中何故か待ち伏せしていたかのように壁にもたれかかっていた椎名さんをパーティーに加え、一路ガルデモの練習スペースを目指す。
「はっ!? 今気が付いた! まさか、コレが恋ってヤツか!?」
「浅はかなり」
ああん、椎名さん冷たひ。なんかこの戦線ってドライな人多い気がする。岩沢さんしかり、遊佐ちゃんしかり。
「しいなさんしいなさんしいなさん」
「む?」
「吾輩コロ助ナリって言ってみて」
「吾輩ころ助なり」
「案外ノリが良くて驚きです」
「?」
あ、違うわ。普通に復唱してるだけだこの人。むしろ通じない人かもしれぬ。
「じゃあ、次は柔らかいナリ」
「やらわかいなり」
「ん?」
「む?」
あるぇー? 気のせい?
「やわらかい」
「やらわかい」
気のせいじゃなかった!
「とうもろこし」
「とうもころし」
……おお、面白い。ちょっと趣向を変えてみよう。
「すいぞくかん」
「すいぞっかん」
ワロタ。
「ふんいき」
「ふいんき。何故か変換できない」
「!?」
そんな感じで話しながら歩いてたら遊佐ちゃんとばったり遭遇。なんでも、仲村さんが椎名さんに用があるらしく連れてくる様に言われて探していたらしい。てな訳でその場で二人とは別れ一人でガルデモの元へ向かった。
「だと言うのに何このデジャヴ。また入江ちゃん一人しかいない」
「えーっと、なんかゴメン……」
着いたのは良いものの、前回来た時と同じでひさ子ちゃんも岩沢さんも関根ちゃんもいない。いたのはドラムスティックを持ってはいるけど、どうにも手持ち無沙汰の様子で黒板に熊の落書きをしていた入江ちゃんだけ。
「お気になさらず。でもまた入れ違いですか。そうですか」
「ま、まだ来てないから大丈夫だよぅ」
これから来るの? 来るよぅ。待ってていい? いいよぅ。
「ではお話でもして待ってましょう。そうしましょう」
「私同意してないよぅ」
「入江ちゃんが俺と話したくないって言う。傷ついた」
「そ、そんなこと言ってないよぅ」
「傷ついた。あー、傷ついたなー」
「あ、そんなつもりは……えと、あぅ……」
あうあう言ってる入江ちゃんがとても可愛かったです。でも罪悪感が半端じゃなかったので適当なところでゴメンねしておいた。
「……何してんのお前ら」
「あれま、ひさ子ちゃん何時の間に。こんちは」
あれから入江ちゃんと適当に話してたけど、どちらからともなく徐に手がチョークに伸びたため、黒板に落書きを開始していた。しかし、夢中になりすぎた様でひさ子ちゃん達が教室に入ってきていたのに気がつかなかった。
「岩沢さんも、やっほー」
「ん」
軽く手をあげたら向こうもあげてくれた。
「関根はまだ来てないんだな」
岩沢さんの言葉である。どこか確認するようなニュアンスが含まれていた様なので入江ちゃんに対応を任せてひさ子ちゃんとお喋り。
「ようFカうっ」
良いボディブローです。きっと世界狙える。
「二人で落書きして遊んでたのか? お前結構絵上手かったんだな」
「何事も無かったかのように会話をするひさ子ちゃんに脱帽。でも褒めてくれたから許す」
で、ここで何してんの? 見学に来ました。ああ、そんな話したな。
「見学してっていい?」
「いいよ。岩沢ー。ナツメが見学してくってさー」
わかった、と短いお返事が。
「つっても、関根が来ねーと始まらねーけどなー」
言いながら背負ったギターケースを机の上に置き、黒板の方へ向かう。着いて行く。
「よくもまぁこんなに書いたもんだな。お、これあたしらか」
黒板に所狭しと書かれた落書き。半分くらいは入江ちゃんが書きました。
「それ書いたの入江ちゃん。てか女の子の絵は大抵入江ちゃん」
「へぇ、ギターまで書いてあるし。お前は男共を書いたのか?」
「そだね。でも色々書いてたら結局戦線の主要メンバーが勢揃いしてた件」
「これ誰?」
「竹山くん。この間この世界におけるガリガリ君の当たる確率を調べるために手伝ってもらった。もちろん食べる方の手伝い」
「どうだった?」
「五本食べた時点でお腹壊してました。貧弱! 貧弱ゥ!」
「竹山はどうでもいいよ。確立の方だよ確立」
竹山くんに合掌。今度ガリガリ君を差し入れに行こうと思います。
「ひさ子ちゃん常に確変状態じゃん」
藤巻くん曰く、強運を超えた豪運。
「豪……運……。豪……剛? はッ!? つまりアレか! ひさ子ちゃんは剛の者! あれ、ぴったりじゃね?」
ボコボコにされました。
「しおりん遅いなー」
そんでもって岩沢さんと入江ちゃんもこっちに来て四人でお話。話題は黒板の絵から今日はまだ見ぬ関根ちゃんのことにシフト。
「どっかで寄り道でもしてんだろー?」
ひさ子ちゃんはちょっと投げやり。
「そのうち来るだろ。それよりひさ子。ここなんだけどさ……」
岩沢さんはいつもと変わらずマイペース。そして、ふと思う。
「しまった。お菓子とか持ってくればよかった」
「れ、練習見に来たんだよね?」
練習してないじゃん。しおりんが来ないからだよぅ。
なんてことを暫く話してたらガラッと教室のドアが開いた。関根ちゃんでした。
「やっと来やがった」
「よし、始めるか」
岩沢さんとひさ子ちゃんがギターを持つ。実はチューニングはすでに終わってたりします。
「遅かったねー」
ドラムスティックを持った入江ちゃんがトテトテと関根ちゃんに近付く。しかし、関根ちゃんの反応はなかった。さすがにおかしいと思ったのか、岩沢さんとひさ子ちゃんも視線を関根ちゃんに。だが関根ちゃんは俯いてしまった。
全員で顔を見合う。首を傾げた。
「……くも……で……」
聞こえた声に反応すればその華奢な肩をわなわなと震わせる関根ちゃんが。
「あん?」
ひさ子ちゃん、女子としてその聞き返し方はどうなんだろうか。
関根ちゃんが顔をあげた。顔をキッと、こう、キッとした。なんていうか、キッと。そして。
「よくもあたし抜きで楽しそうなことを! あたしもまぜろー!」
関根ちゃんがこの調子なので、結局この日は練習にならず一日中お喋りしてました。またそのうち遊びに来ようかと思います。