えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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 翌日。本部にて真面目に荒ぶる鷹のポーズについて議論していた戦線メンバーの所にアコースティックギターを抱えた岩沢さんがのっそりやってきて、できた、新曲、聞いて、と何故か片言で言ってきた。わくわくすっぞ! が、しかし。

 

「……なぜ新曲がバラードなのかしら?」

 

「ん? いけない?」

 

 仲村さんは気にいらなかったご様子。言葉と雰囲気でそれを物語ってます。なんでだろう。バラード良かったのに。

 

「陽動にはね。向いていない曲よ」

 

「だがそれがいい!」

 

「ナツメくん黙りなさい。岩沢さんもドヤ顔止めなさい」

 

 岩沢さんがローテーブルに腰掛けた。行儀悪いけど生憎ソファーは男子メンバーが占領しておりますので仕方のないことかと思われます、はい。

 

「で、どうなの? ダメ?」

 

 とりあえず結論を言えとばかりに岩沢さんが仲村さんを急かした。まぁ、さっきの仲村さんの物言いから察するに結果は見えている気もするのだけども。

 

「さっきも言ったけど、陽動には向いていないわ」

 

「ん、ボツね」

 

 そう言うことだよね。個人的には好きな感じの曲だったからとても残念です。

 

「そうなるわね。申し訳ないけど、その曲では私たちが派手に立ち振る舞えないと思うのよ」

 

「まぁ、ゆりがそう思うんならそうなんだろう。ゆりの中ではな」

 

「なんで私ケンカ売られてるのかしら」

 

 自信作だったのかと。

 

「まぁ、いいわ。えー、総員に通達する。今回のオペレーションはトルネード、それから天使エリア侵入作戦のリゾンべを並行して行う」

 

「春原乙」

 

「アナタなら気付いてくれると思ったわ。決行は二日後」

 

 おお……。その作戦ですか……! なんか男子メンバー達がざわついている。リゾンべ、もといリベンジってことはすでに一度行われているオペレーションらしい。少なくとも俺と音無くんは知らないけど。

 

「前回は失敗に終わったけど、今回は彼が同行するわ」

 

 彼って誰さ。なんて思った矢先。

 

「よろしっ」

 

 ローテーブルの下から這って出て来たのは竹山くんだった。岩沢さんにおもいっきり頭踏まれたけども。意外性を狙ったのかはわかんないけど、そんなとこから出てきたらそりゃ踏まれるわ。ドンマイ。

 

「今回の作戦はそこの天才、改め変態ハッカーの名をほしいままにした彼、ハンドルネーム:竹山くんを作戦チームに加え、エリアの調査を綿密に行う」

 

 竹山くんが立ち上がった。眼鏡にヒビ入ってらー。

 

「僕のことはクライストと」

 

「アイタタタ」

 

「なぁ、ゆり。納得いかないんだけど。もう一回聞いてくれないか?」

 

「日向くん、音無くん。このアホ二人を摘み出しておしまい」

 

 アラホラサッサー。岩沢さんと二人して廊下にペイッとされた。

 

 

 

 

「新曲残念だったねー」

 

「また作るさ」

 

 行くとこないから岩沢さんと二人でガルデモの練習スペースに向かう。まぁ、岩沢さんも俺も天使エリア侵入作戦の方には参加しないみたいだから別にいいんじゃね的な流れです。

 

「アレ、もう歌わないの?」

 

「ライブじゃ歌えないな。……聞きたいの?」

 

「ん、聞きたいかも」

 

「じゃあ、オペレーションが終わったら、うん、屋上でどう?」

 

「二人が初めて出会った思い出の場所ですね。イベントフラグだ。困る。超困る」

 

「あの時着てたアンタの制服やたら白かったな」

 

「あの時ガン無視してたクセして何を今更」

 

 とかなんとか昔話(?)に華を咲かせながら通りかかった廊下で見知った姿を発見。何かチラシみたいなのを壁に張り付けてました。珍しくお仕事中のようです。精が出ますな。

 

「ユイにゃん発見」

 

「お! せんぱくぁwせdrftgyふじこlp」

 

「日本語でおk」

 

 会うなりショートしやがった。何だってんだいこの子は。面白い子だねまったく。

 

「い、い、いいわ、わわわさわさささっさん」

 

「ん? あたし?」

 

 ああ、そっか。大ファンだったっけね。そんなことを前に聞いたような気がしないでもない。それにしても、よくわかったね岩沢さん。俺何言ってるか全然わかんなかった。

 

「あ、あのあのあたし、ユイって言います! えと」

 

「知ってるよ」

 

「はい! 大ファンで――え?」

 

「コイツから聞いてる。いつもサポート助かるよ。サンキュ」

 

 岩沢さんはユイにゃんの肩をポンっと軽く叩いて歩き去っていく。今度練習見に来なよとかなんとか言い残して。ついでに俺も残して。

 

「じゃあ、引き続きお仕事頑張ってねー」

 

「せんぱいだいすきだーっ!」

 

 ユイにゃんには特別用事も無いので岩沢さんの後を追おうと歩を進めた時、すれ違いざまにユイにゃんが後ろから腰にドーンってきて前のめりにズシャーってなった。普通に痛い。

 

「ユイにゃん痛い」

 

「だいすきだーっ!」

 

「ユイにゃんめんどい」

 

「だ、だいすきだー」

 

「ユイにゃんうるさい、ウザい、ちっこい、ペッタンコ、ゲラウトヒア」

 

「さっきから黙って聞いてりゃ言いすぎなんだよテメェーッ! ペッタンコじゃねんだよオラー! どうだあるだろー! このたわわに実った甘美な果実がよー!」

 

 とりあえずさば折り痛いれす。でも黙ってなかったじゃない。喋ってたじゃない。

 

「とりあえず離れて」

 

「はっ! これは失礼しました! 興奮のあまりつい!」

 

 うん、気を付けようね。

 

「でもでも、まさか先輩が岩沢さんと会わせてくれるどころか、あたしのこと紹介しておいてくれるなんてカンゲキです! 雨あられです!」

 

「そういう機会があったからね。たまたまです」

 

「でもあられです!」

 

 もはや単なる天候になってしまった。一体どういうことなのだろうか。

 

「それにしても先輩はなんだかんだでユイにゃんのこと大好きですね!」

 

「わりとどうでもいい」

 

「いや照れなくていいんですよ! 隠さなくていいんですよ! だってしょうがないもん! ユイにゃんかわいいし! かわいいしー! あ、大事なことなので二回言いました!」

 

「ハハッワロス」

 

「たまに最後まで聞いてくれたと思ったらこのザマだよ!」

 

「ユイにゃんうっさい。ほらほら、さっさとチラシを貼る作業に戻りなよ」

 

 なんのチラシかは知らないけども。

 

「これはガルデモのライブ告知用のチラシですね!」

 

「へー、よくできてるね」

 

「あ、ちなみに結構な枚数あるんですよ先輩!」

 

「うん、それで?」

 

「手伝ってくれるという選択肢は……?」

 

「ないんだな、それが」

 

 適当に手を振って逃げました。世の中そんなに甘くありません。ユイにゃんふぁいとー。

 

 


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