えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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「岩沢さん岩沢さん。なんで岩沢さんは岩沢さんなの? 岩沢さん」

 

「アンタって何か楽器できる?」

 

「話聞いてよ」

 

 岩沢さんと屋上を後にしてから少し経って、場所は天上学園の学習棟内。こんな感じで適当な会話(?)をしながらズンズン進む。ズンズンズズン、ガンコちゃん。ここはザワザワ森ではないけども。

 

「夜の学校って初めて入ったかも。幽霊とか出るのかな? ん? 死んでるなら俺が幽霊?」

 

 どうなんだろう。そこんとこどうなんすかね? 隣を歩いてる岩沢さんに視線を投げてみた。

 

「ん、あたし? 見ての通りギター弾けるよ」

 

「話聞いてよ」

 

「アンタはリコーダーとか似合いそうだ」

 

「知らんがな」

 

 リコーダーて。

 

「……あたし達にはちゃんと身体があるし、触れる。半透明でもないし、話もできる。オマケに腹も減れば、眠くもなるよ。トイレだって行く。少なくともあたしはそんな風に過ごす幽霊なんて聞いたことないね」

 

 もう一回言ったら答えてくれた。一回目のは本当に聞いてなかったらしい。おそろしい子。

 

「じゃあ、普通の幽霊はいるのかな? いるのかな?」

 

「見たことないからわからない」

 

 ですよねー。そもそも俺自身が霊感ないし、知り合いにも霊感ある人がいなかったから幽霊見たんだせ的な話は生前でも皆無だった。

 

「いたらどうするのさ?」

 

「破ぁ!! ってやってみたい」

 

 この世界なら手からなんか出せるんじゃね? 的な期待が僅かながらにあったりなかったり。求む青い光弾。

 

「何それ?」

 

「寺生まれのすごい人が使う技。相手は死ぬ」

 

 あれ、なんか違う気が。まぁ、いいか。

 

「へぇ、寺生まれだったのか」

 

「いや、違うけどね」

 

 じゃあ使えないじゃないか、とグーで肩を小突かれた。なんだよぅ。見たかったのかよぅ。

 

 昇降口に着いた。自分の下駄箱を探してみると、岩沢さんの話通りに当たり前の様にそれはあった。

 

「きみどりいろのくろっくすをてにいれた!」

 

「それワニじゃなくてトカゲだと思う」

 

「パチモンだった! ただでさえガッカリしたのに! パチモンだった!」

 

「大事なことだから二回言ったのか?」

 

「岩沢さんうっさい」

 

 無言でグーが飛んで来た。右肩に被弾。照れ隠しですね、わかります。でもさっきよりちょっと力が篭ってて痛かったです。

 

 閑話休題。

 

「寮ってあっちだよね。なんかどんどん遠ざかってる気がする件」

 

 昇降口を出た後、こっちだよと言った岩沢さんを追って歩き出したのだけど、校舎内から指差して教えてくれた学生寮が気のせいってレベルを通り越して現在進行形で遠ざかっている。口に出したのは建前だ。

 

「そうだよ。寮には向かってない」

 

「できれば早く言って頂きたかった……!」

 

 そんな気はしてたけどな!

 

「気が変わったんだ。早めに皆に紹介しておきたい」

 

「ん? 皆って?」

 

「んー、友達、仲間、親友、戦友。表現の仕方は人によって変わるけど一言で簡潔に言えば……」

 

「言えば?」

 

「アホの集団」

 

「実家に帰らせていただきます」

 

 誰が好き好んでそんなヤツらに会いに行くかってんだとばかりに踵を返し、寮の方向へ向かう。べべべべ別に興味なんてないんだからねっ! とか返した方が良かったのだろうか? とか余計なことを考えだしてすぐに右手首を掴まれた。

 

「やだー。離してー。やだー」

 

「――アンタ、消えたいの?」

 

「え?」

 

 随分と真剣な声色。さっきまでのぼーっとしたというかゴーイングマイウェイ的な雰囲気がいつの間にやらなくなってた。

 

「さっき屋上で説明しただろ? この世界で何も知らずに規則的な生活を送ると天使にその存在を消される」

 

「岩沢さん、それ本気で言ってるの?」

 

 真剣な眼差しで彼女は頷いた。俺はそれに応える様に真剣な声色をどうにか絞り出した。

 

「――消えるとか天使とか初耳なんだけど」

 

 岩沢、沈黙しました! 反応ありません! ちなみに本当に消えるとか天使とか聞き覚えありません!

 

「規則的な生活云々もむしろ学校のルール覚えろぐらいに生徒手帳読めって言われた気がする」

 

 あ、目が泳ぎ出してる。

 

「……ルールを覚えてそれを守らないように日々の生活をだな」

 

「言い訳乙」

 

 良い感じで肩にグー入ったった。理不尽だと思うんだ。

 

 

 

「ここが食堂。食事は大抵ここで済ます」

 

 それから結局、半ば引きずられる形で食堂まで連行された訳だけど、お金かかるんじゃないの? 俺持ってないよ。無一文でござる。

 

「ん、コレ使って」

 

 なんか差し出された。『素うどん』という文字が印刷されているちっさい券。何これ食券?

 

「そう、食券。オペレーションの後だから大分余裕あるし、遠慮なく使って」

 

 オペレーションはなんだかわかんないけど。

 

「そっちの肉うどんが良いなー」

 

「いらないなら……」

 

「岩沢さん。俺、さっき消えてたかもしんない」

 

「…………」

 

 無言で券を差し出してきた。冗談だったのに。

 

「実は素うどんは好物なのでありがたくコレをいただきます。からかってごめんね」

 

 だからコレどうやって使うのかおせーて下さいなと言えば、まだ今いち納得のいってなさそうな表情を顔に張り付けたままカウンターまで案内してくれた。そこにいたお残しをけして許さないタイプではない食堂のおばちゃんに食券を渡す。ややあって、トレーに乗ったそれを受け取った。まごうことなきスープ・ウィズ・ウ・ダンヌ。要するにただの素うどん。要さなくてもただの素うどん。

 

 ワタルくん俺言えたよ、なんてちょっとした感動を噛み締めていたところ視線を感じれば待っていてくれたらしい岩沢さんが前にいた。自由席? と尋ねれば、自由席。でもちょっと着いて来てと返された。何事でしょうか。

 

 少し歩いて岩沢さんが立ち止まる。そこから不意に前方を見せる様に半身をこちらに向けたら、あらびっくり。

 

「……食堂に入ってからのやり取りが長いのよ、アナタ達」

 

 視線の先にはセーラー服に身を包んだ少女が頬杖をつきながら呆れたような視線でこちらを窺っていた。なんかデジャヴ。頭のリボンはチャームポイントなのだろうか。まぁ、それはどうでもいいか。でも、聞いておきたいことはある。

 

「……その髪って地毛? 何色って言うの?」

 

 肉うどんの乗ったトレーをそっとテーブルに置いた岩沢さんに今日一番のグーをいただきました。すーぷがゆびにかかってとてもあつかったです。

 

 

 


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