えんぜるびっつ。   作:ぽらり

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 そしてさらに翌日。なんだかんだで時間は足早に過ぎていき、いつの間にかオペレーション決行まであと十分です。ガルデモの四人はすでにステージ上でスタンバイ済み。入江ちゃんのみ緊張した面持ちだけど、他の三人は中々大物の様です。

 

「わしから教えることはもう何もない」

 

「し、師匠……!」

 

 でも関根ちゃんとは直前までこんなやりとりしてて普通に怒られたけども。主にひさ子ちゃんに。脛が痛いです。で、遊佐ちゃんに引きずられる形でステージから退場させられて、その途中。

 

「そう言えば、今回のトルネードは告知なんだね。てっきりこの間みたいなゲリラ的な感じなのかと」

 

「今回のトルネードは食券の回収よりも天使の陽動の意味の方が強いので告知しました。事前に情報を漏らすことでライブ開始、あるいは開始前に天使が出現する可能性を高め、長時間この場に留まらせることが目的です」

 

「んー、それってつまり囮だったり?」

 

「正直に申し上げまして、はい。しかし、その件に関しては前もってガルデモの皆さんの了承を得ました。実はやり手な遊佐です」

 

 でもたまにシビアな判断するよねあのリーダー。ゆりっぺさんですから。ですよね。

 

「私に与えられた仕事は、ゆりっぺさんへの状況報告のみ。そしてナツメさんはそのサポート」

 

「うん、知ってる」

 

「しかし、私は優秀なのでサポートは必要ありません。どうも、遊佐です」

 

「遊佐ちゃんが唐突に俺の仕事を奪い去っていく。これはもう好き勝手やらざるを得ない」

 

「許可します」

 

「マジか」

 

「ナツメさんがこちらに配属されたのはそのためです。こちらからは指示を出しませんのでご自分の判断で行動して下さい」

 

 なんという無茶振り。

 

「もっとも、やるべきことは決まっているようですが」

 

 遊佐ちゃんがそこまで言った時点で足を止めた。で、誰かがナツメ、と俺を呼ぶ。アレは誰だ。うん、ヴォルヴィック。

 

「岩沢さんだ。何してんの? 早く戻らないともうライブ始まるよ?」

 

「ん。これやるよ」

 

「岩沢さんがくれた初めての天然水。それはヴォルヴィックで私は困りました。でもその味はとてもまろやかで、こんな素晴らしい天然水をもらえる私はきっと特別な存在なのだと感じました。今では私が岩沢さん。遊佐ちゃんにあげるのはもちろんヴォルヴィック。なぜなら彼女もまた特別な存在だからです」

 

「いりません」

 

「ですよね」

 

 わかってました。

 

「アンタはいつでも変わらないね」

 

 いきなり何さ。

 

「褒められてる気がしない件」

 

「褒めてるよ。っと時間だ。ナツメ」

 

 ん?

 

「頼んだ」

 

 何をー? なんて聞く暇もなく岩沢さんはステージに戻った。程なくして遊佐ちゃんとも別れ、ライブが始まる。

 

「この水ユイにゃんに売れるかな……?」

 

 開演である。

 

 

 

 

 気のせいか前のときより観客が少ない。一曲目のユイにゃん的お気に入りランキング第一位のなんとかソングが終わったときにそんなことを思った。場所は放送器具がいっぱい置いてある所。ちょっと二階的な部分にあるため、客席が良く見えます。だから客に交じって騒いでいるユイにゃんを発見することも容易いのです。仕事しろ。そんな折りに、二曲目がスタート。曲名はわかんない。だから仕事しろユイにゃん。

 

「天使、出現しました」

 

 不意に遊佐ちゃんの声が耳に届いた。素晴らしきかなインカム。

 

「お、ホントだ。先生もいるし」

 

 体育の先生だろうか。中々ガタイの良い先生はNPCともめながらも、それをものともせずにどんどん岩沢さんたちの方へ近づいて行ってる。

 

「行けNPC。君に決めた」

 

 サートシくんのごとく華麗にポケモン、もといNPCに指示を出してトレーナーと言う名の先生を撃退だっぜ! 少ないおこずかい巻き上げてやんよ!

 

「陽動班、取り押さえられました」

 

「ですよね」

 

 

 陽動班、つまるところのガルデモの四人が取り押さえられてしまったため、ライブは中止。NPCの生徒からブーイングの嵐である。先生まじアウェーわろた。そしてぼちぼち出番でしょうか。ナツメ、いきまーす。

 

「あえて言おう、カスであると!」

 

 放送機器があったらやることは一つだよね。全体放送って一度やってみたかったんだ。

 

「ガルデモの忠勇なる天上学園の生徒達よ、今や彼女達の全員が融通の利かない大人たちによってその身を拘束された。しかし、この光景こそ本来の学園の正義の証である。ライブを中断され、決定的打撃を受けたガルデモにいかほどの戦力が残っていようと、大人たちにとってそれは既に形骸かもしれない」

 

 何か下がざわついてますね。わっふるわっふる。

 

「だが、あえて言おう、カスであると。もう一度言おうカスであると! さらにもう一度だ! カ ス で あ る と ! たかが数人。軟弱者の大人集団がこの死んだ世界戦線の誇るバンド、ガールズデッドモンスターを縛りきることは出来ないと私は断言する。そう、つまり私が言いたいのは」

 

「話がなげーんだよ! バカナツメ! でもよくやった!」

 

 ひさ子ちゃんが飛び込んで来た。喋ってただけなのですががが。

 

「でもせめてジークまで言わせてほしかったお」

 

 ジークガルデモ!

 

「いいからマイク切れ! でもってステージの音最大で拾え!」

 

「ポチっとな」

 

 スライド式のツマミだけど、つい口が。不思議と言いたくなるよね。で、拾った音が流れ始める。

 

「あれ、新曲だ。岩沢さん、ライブじゃやらないって言ってたのに」

 

「岩沢の判断だ」

 

 固唾を飲んで岩沢さんを見守るひさ子ちゃん。ここまで真剣な表情のひさ子ちゃんは初めて見る。それほどのことが今、ここで、起こっているのだ。俺もさすがに空気読まざるを得ない。

 

「びっくりするほどユートピア! びっくごめんごめんごめん」

 

 だから足グリグリ踏んじゃらめぇぇ!

 

 そこから大人しく聞いてました。怒られるの嫌なので。それからどれくらい経っただろうか。しばらくひさ子ちゃんと一緒に上から見てると、一瞬だけ岩沢さんがこっちを見た気がした。

 

 だから、手を振ってあげた。なぜそうしたかはわからない。強いて言うなら、なんとなくそうした方が良い気がしたからだ。

 

「え……?」

 

 そんな俺の横でひさ子ちゃんが驚いたように呟く。その理由は俺もわかった。つまり。

 

「……なるほど。これが『消える』ってことか。消える要因は正しい学生生活送るだけじゃなかったんだね」

 

 

 音が、止んだ。

 

 


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