お腹が空いた。そんな不意に沸き起こった至極当然の欲求を満たすため、一路食堂へ向かう。時刻は14時を少し過ぎたくらい。昼休みはとうに終わっている。でも気にしない。
「今日は何を食べようか。悩む」
食堂の入口で手持ちの食券を取り出してうんうん唸る。うんうんうん。
「悩む間もなく素うどん一択じゃねーか」
「ですよね」
後ろからヒョコっと顔を出してきたひさ子ちゃんに言われた。こんにちは。
「ひさ子ちゃんも今からご飯?」
「そうだよ。食券巻き上げてたら一人だけ遅くなっちまった」
その言い方だと単なる恐喝です。本当にやりそうだから恐いけども、きっと麻雀だよね? だよね?
「というか、このトルネードができない状況下で平然と食券巻き上げにかかるひさ子ちゃんに驚愕です」
「あたしだって食券賭けてんだ。条件は同じ。負ける方が悪いんだよ」
「ちなみに相手は?」
「藤巻、TK、松下五段」
「いつメンだね」
「いや、いつカモだな」
いつものカモがネギ背負ってきたですね、カワイソス。
「ひさ子ちゃんの鬼! 悪魔! ひさ子!」
「最後のどういう意味だ? あん?」
アイアンクローらめぇぇぇぇ!
「痛いよぅ。頭がズキズキするよぅ」
「あたしに非はない」
力の限り制裁した人のセリフじゃないね。うっせ。ゴリラみたいな握力。あん? すいませんでした。
「ところでひさ子ちゃん何食べるか決まった?」
「あー、パスタでいいや。松下五段から巻き上げたヤツだけど」
「ん、じゃあご一緒しましょう。そうしましょう」
「お前はどうせ断っても勝手に座るだろーに。好きにしろよ」
「ツンデレFカップとかお呼びじゃごめんごめんごめん」
脇腹を力いっぱい抓るのはマジで勘弁して下さい。
「向かい合って着席します」
「口に出していうことじゃねーな」
「そうだね」
深い意味はなかった。そして互いに料理を自分の口へ運ぶ。うめぇ。
「そういやお前さ」
「ん? なになにー?」
「記憶の方はどうなった? 戻った?」
「いんや、全然まったくこれっぽっちも進展なし」
「まだ思い出せねーのか。しょうがないヤツだな」
「音無くんもまだ思い出せてないお」
「ああ、そう言えばあいつもか。忘れてた」
「あれ、あんまり仲良くない感じ?」
「いや、あんまり話す機会がない感じ。あたしらのとこ全然来ないし」
「むこうが来ないなら、こっちから行けば良いジャマイカ」
「えー。別に用ねーしなー。麻雀やるなら話は別だけど」
新しい麻雀メンツですね。いや、新しいカモ。ひでぇ。
「ひさ子ちゃんの鬼! 悪魔! 岩沢!」
「お前は岩沢を何だと思ってんだよ……」
なんだろね、とか言ってたら。
「呼んだ?」
トレーにラーメン乗っけた岩沢さんが来た。ひさ子ちゃんと二人で驚く。いたのね。
「なんだよ岩沢。いたなら声かけろよ」
「今来たとこ。声かけようと思って近付いたらあたしの名前が聞こえた」
「そっか。岩沢も今から飯?」
「ん、曲作ってたら食べ損ねた」
「またかよ。ほらこっち座って。ちゃんと食わなきゃまた倒れるんだからしっかり食え」
「大丈夫だ。ちゃんと食べてる。ひさ子は心配し過ぎ」
「一回それでぶっ倒れてるヤツを見てるからな。身に染みてわかって」
「ナツメ、コショウとって」
「聞けよ」
岩沢さんはラーメンにコショウを入れる派なのか。ちなみに俺は入れない派。
「ああ、聞いてるよ。確かにラーメン食べてるとギョーザもほしくなるよな」
「聞いてねーよ。ちっとも聞いてねーよ」
「ん? あたしは醤油派、かな」
「あれ、おかしいな。とうとう日本語が通じなくなったぞ。ちなみにあたしも醤油派だ」
俺は塩派。あっさり好きです。
「岩沢節が平常運行すぐる。ひさ子ちゃんガンバ」
「他人事みてーに言いやがって。お前も味わえバカ」
そうは言われても。でもやります。男の見せ所だと判断しました。
「いわさわさんいわさわさんいわさわさん」
「ん? 何?」
「ラーメンにラー油をそぉい!」
岩沢さんの踵が俺のつま先を襲った。あれ、気のせいかつま先の感覚なくなったんだけども。 コレ大丈夫?
「岩沢さん、ブーツは反則だと思います」
「ラーメンにラー油は邪道だ」
「ですよね」
目の前にはラー油のたっぷり入った素うどんが。岩沢さんからのサービスだそうです。とても良い迷惑。
「なんかさぁ」
俺と岩沢さんが麺類inラー油を食していると、ひさ子ちゃんがゆっくりと口を開いた。
「やっぱ似てるわ、お前ら」
「だそうですがどうですか岩沢さん」
「どうでもいい」
ひでぇ。
「ナツメと似てるのは嫌ですか? ラー油の方がお好みですか?」
「どっちも普通」
「岩沢さんが冷たい。ひさ子ちゃんあたたたたたたためて」
「こっちみんな」
俺に対して暖かいのは素うどんだけだと思い知った気がします。
それからお食事は滞りなく済み、普通に帰る。適当なとこで岩沢さんとひさ子ちゃんと別れて普通に帰る。帰るのだ。
「ユイにゃんの戦闘力は53万です!」
しかし残念ながらうっさいのと遭遇してしまった。
「いきなりめんどくさい」
「ふっふっふ。戦闘力……たったの5か……ゴミ痛い痛い痛い! すいません正直調子に乗ってましたー!」
つむじを親指で力の限り押してやった。縮めばいいと思う。縮め。
「うう、乗ってくれてもいいじゃないですかー」
「乗っても即死ぬじゃん。あっという間じゃん」
「いいじゃないですかー。なんだかんだ広い年齢層に愛されるキャラですしおすし」
「ユイにゃんうっさい。ところでどう? 仲良くやってるの?」
「はい! もうバリバリですよ! この間もひさ子先輩と一緒に演奏しました!」
「それは何よりです」
実はユイにゃん、最近ガルデモの所にちょくちょくお邪魔しているらしい。ユイにゃんはなぜかギターも持ってるし、暇を持て余したガルデモさん達には丁度良い遊び相手なのかもね。ってことで話を合わせてます。
「ユイにゃんのガルデモ入りももう秒読みですね!」
「ソウデスネ―」
あながち外れてはなかったり。実際は仲村さん達の楽器奪還オペレーション次第だったりします。
「ふっふっふー。先輩なら特別にサインあげてもいいですよ? 今のうちにあげましょうか? どうします? いりますか? いる? いるの? うん、そうだよね! いるよね! ほしいよね! でもあーげない! っていねーし!」
長そうなのでお先に失礼しました。ユイにゃんふぁいとー。